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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第4章 青い竜の村
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94話 攫われたアズ

 顔色を変えたカルロが俺のところに来て、家に連れて行かれたかと思ったら、見たこともない顔をした兄さんと泣いている姉さんだった。

 義兄さんからの言葉を聞いた瞬間は、何を言ったらいいのかわからなかった。

「アズが攫われたって、本当なのか」

「ああ、アズの背後に白の男が現れたかと思ったら、次の瞬間には二人共消えていた。

 俺が一緒にいたのに、アズを……!」

 義兄さんが牙を強く噛み締め、テーブルを両の拳で強く殴りつける。

 おい冗談だろ、何でそんな事になったんだ。

「言葉寄せの魔術か。

 ユリウスの奴、仕込むものは仕込んでたってことだな」

「そうなるとどこへ連れて行かれたかですね」

 ルクレツィアとダネルは何かを話し合っているが、義兄さんと姉さんの顔を見たオレは、それどころじゃなかった。

「そもそもユリウスのヤツ、なんでアズを攫いやがったんだ」

「魂喰らいという魔術で自分の体にするためだ」

「ダネル、なんでオメェがそんなことわかんだ」

「僕が何年ルクレツィア教授の下にいたと思ってるんだ。

 おかげで専攻でもないのに古代魔術に詳しくなった」

 ダネルは言葉を続ける。

「魂喰らい。ユリウスの残した魔術の名前だ。

 手に入る限りの資料を手に入れて調べられる限りを調べた。

 それでわかったことがある」

 ダネルが俺から視線をそらす。

 嫌な予感だけが、最悪の言葉だけが頭の中を通り過ぎる。

「アズ君は殺される。

 魂喰らいの魔術に必要なものは死体だ。それも可能な限り死んだ直後のだ」

 姉さんの鳴き声が大きくなった。

 義兄さんは何か言いたいのだろうけど、ただ魚みたいに口を動かしているだけだ。

「フザケたこと言ってんじゃねえぞ! 殺すために攫っていうのか!」

「冗談でこんな事を言うと思うか?」

 そうだよなダネル。お前、冗談なんていうやつじゃねえよな。

 でもさ、冗談だって言ってくれよ。

 アズはまだ八歳なんだぞ……なんで、殺されなくちゃいけないんだ。

 おかしいだろ、こんな話!

「そこの竜種一家、絶望に打ちひしがられるのはまだだぞ。

 ユリウスの目的がアズ君の殺害なら、その前に助ければいいだけだ」

 ルクレツィアの言葉でオレが、オレだけじゃない義兄さんも姉さんも顔を上げる。

「魂喰らいの魔術っていうのは、あー、詳細は省くが相手を殺してその体を奪う魔術だ。

 そして奪うためには色々と条件があるってことまでわかってる」

「夜であることと特定の星が特定の位置にあることだ。その条件に合う夜で一番近いのは明日の夜だ」

「さらに魔術に用いる死体は可能な限り死んだ直後がいい。

 つまり、私達には明日の日没まで時間があるということだ」

 明日の日か沈むまでって、アズを探して助けるのに短すぎるだろ。

「明日の日没まで、アズは無事なんだな」

 義兄さんの声だった。

 義兄さんが初めて戦士でもない人間を殺させられたときと同じ声、静かだけど、何よりも怒っている声だ。

 いや、違う。あの時なんて比べ物にならないくらい、義兄さんは怒ってる。

「え、ええ、ユリウスがおかしな気を起こさない限りは、ですが……」

 義兄さんを初めて怖いと思った。

 それはダネルも同じなんだろう。最後の方はほとんど聞き取れないくらい小さな声になってた。

「なら話は早い。

 アズを助けに行く」

「義兄さん、なら俺も一緒に」

「おい、待て待て待て。

 ユリウスがどこにいるのかわかってるのか?」

 今の義兄さんを前に、いつもと変わらない調子でルクレツィアが話しかけてくる。

「そういやテメェ、ユリウスのこと調べてたって言ってたな」

「あの白の男がどこにいるのか、知っているのか」

「目星はついてる。

 ただし、何を仕掛けてくるかは全くわからない」

 ワナがあるってことか。

「何があろうと関係ない。

 俺の息子が俺のせいで、命を奪われるかもしれないんだ。

 どこにいるのかわかってるなら、今すぐ行く。それだけだ」

「なら、だ。

 ユリウスに仕掛ける前に確認したいんだが、竜種っていうのはどこまで無茶できるんだ?」

 無茶? どういう意味だそりゃ?

「どの程度の数までを相手にできるかということか?

 それは相手の力量によるとしか言えないな」

「ユリウスのヤツ、そんなにたくさん兵隊でも連れてるのか?」

 ルクレツィアは頭をかいて、何かを考えている。

「んー、そう言うのじゃなくてな。

 竜種って他種に比べて力が強いだろ。例えば私くらいの体型相手に、どのくらいまで傷を負わせられるかってことなんだが」

 義兄さんと顔を見合わせる。

「ルクレツィアくらいの体型じゃ、竜種でもなけりゃ下手すりゃ殴り殺しちまうんじゃねえかな」

「それはゴーヴァンくらい、鍛えた体の持ち主ならかな? シアラ君だとどうなんだ?」

「シアラにそんな事ができるわけ無いだろう」

 義兄さんがまだ涙が止まらないのだろう、姉さんの方を抱き寄せる。

「ごめんなさい、ルクレツィアさん。私は戦士のように鍛えていないから、力がなくて。

 私じゃせいぜい、獣の首を折るくらいの力しかないの」

 姉さん、鍛えてるわけじゃないもんな。

「いや、それ普通じゃないぞ。

 竜種ってのはそんなに力が強いのか!?

 なら十分だ、シアラ君にもやってもらうことが出来た」

「十分って、姉さんは戦士じゃねえんだぞ!」

「まってゴーヴァン。

 私もアズを助けに行けるんでしょ。なら行くわ。

 ここで待っているだけの方が、辛いもの」

「姉さん……」

 姉さんの手を義兄さんが握りしめていた。

 そうだよな、アズは二人の子なんだ。

 アズのところへ今すぐ行きたい気持ちは、二人共同じなんだ。

 ダネルが眉間にシワを寄せて、ルクレツィアを見る。

「何をやらせるつもりなんです教授」

 ルクレツィアが口の端を上げて、俺たちを見回す。

「この後レーテ君とも合流して、アズ君を救出する。

 その際、二手に分かれていく」

 ルクレツィアの言葉に、義兄さんの、姉さんの、ダネルの目つきが変わる。

「いいぜ、誰とどこに行きゃあいいんだ」

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