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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第4章 青い竜の村
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84話 休日の終わり

「よっし、全力で打ち込んでこい!」

「たあああっ!」

 アズが掛け声を上げながら、木剣を振り下ろし、振り上げ、突きつける。

 剣の振り方はかなり様になってきてる。

 まだ子供だから力は弱いが、それはこれから、体がもっと出来てから鍛えてやればいい。

「アズはおっさ……ゴーヴァン、ニイちゃん、より強くなってるんじゃね?」

 カルロの言葉を受け、アズが顔を輝かせてオレを見る。

「オイオイ、オレはそんなに弱かねえぞ。アズがオレに勝ちたいなら、もっと強くならないとな」

 少しガッカリしたのか、尾の先が下に向くのが見える。

「だからアズの父さんが目を覚ます頃にオレより強くなって、ビックリさせてやろうな」

 アズの尾の先が上を向き、笑顔で返事を返す。

 「じゃあ、少し休憩しようか」

 持ってきたカバンの中から、二人の水筒を取り出し渡す。

 オレも自分も水筒を取り出して、水を一口飲む。

「本当にいい天気だな」

 芝とかいう草の上に座って、周りを見回す。

 オレたちみたいに座ってるヤツもいれば、横になってるヤツ、道になってる所を歩いてるヤツ。

 種族も性別も歳もバラバラなヤツらが、思い思いに過ごしている。

 街の雑踏のように騒がしいわけでもなく、かと言って静かすぎるわけでもない。

 太陽の光を浴びるのが、何とも気持ちいい。

「カルロお兄ちゃんは剣の稽古しないの?」

「おれはいいよ。いま始めても、アズにだって勝てそうにないもん。

 それより、アズが強くなってゴーヴァン、ニイちゃんをぶっ倒すトコ、おれに見せてくれよ」

「うん! ぼくゴーヴァンおにいちゃんより強くなる」

 お、なかなか言ってくれるじゃねえか。

 ここに来る前に、アズはお母さんも来ないのかと聞いてきたので、姉さんが義兄さんの所に行くのを教えてやると、えらくガッカリした顔をしていたが、今はこうしていい笑顔でいる。

 カルロはほとんど木剣に触れていないが、こうして誰かと一緒にいられるのがアズは嬉しいんだろう。

 それはオレも同じだ。

 別に一人だと苦痛を感じるってわけじゃないが、オレは誰かと一緒にいる方が落ち着く。

「そういや昼飯どうするか」

「おれが少し金持ってきてるから、どこかで買うなり食べるなりすればいいじゃん。

 今日は、何かしなきゃいけないって訳じゃないんだしさ」

 それもそうだな。

「アズ、お前は何食いたい?」

「おにく、おにく食べたい」

 期待した顔でこちらを見ながら、アズの尾が芝の上で小刻みに揺れている。

 金を持っているのがカルロなので、オレはカルロの顔を見る。

「いいんじゃね、どこか肉食えるとこで飯にすればさ」

「やったー!」

「じゃあ決まりだな。

 その代わりアズ、好き嫌いはするんじゃねえぞ。豆が入ってたら、ちゃんと食え」

 ちょっと不満そうな顔でオレを見るが、食い物の好き嫌いは許さねえからな。

 三人で飯を食いに行った後もアズの剣の稽古の続きをしたり、ほとんどオレが追いかける側の追いかけっこをしたり、子供の頃に友達と遊んだことを二人とやってる間に、気づけば日が傾き始めていた。

 そろそろ帰る頃かと思い、アズとカルロを連れて義兄さんの所へ行くと、姉さんが義兄さんの顔に触れていた。

「良かった、姉さんまだいたんだ」

「ええ、ルクレツィアさんが今日は家のことはいいから、好きにしていいって言ってくれたから」

 どこか穏やかな、どこか寂しそうな顔で義兄さんの頬を撫でる姉さん。

 静かに胸を上下させる義兄さん。

「ありがとう。今日は一日アズといてくれて。カルロもせっかくのお休みなのに、ごめんなさい」

「姉さん気にすんなって、一日遊んでたようなもんだから」

「おれも一人でいたってやることないし、今日は楽しかったし」

 姉さんはありがとうと言うと、カルロの頭を撫で、額と額をこすり合わせる。

 カルロは体を硬直させていたが、尾は小刻みに左右に揺れていた。

「ところでシアラ、ネエちゃん、聞きたいことがあるんだけどさ」

「なに、カルロ?」

「おっさ……ゴーヴァン、ニイちゃんって何歳なの?」

 カルロの言葉に、姉さんは少し驚いた顔をする。

「そう言えばカルロ、ゴーヴァンのことおじさん呼びするから不思議だったんだけど、自分の歳教えてなかったの?」

「そんなこと言われてもオレ、自分の歳わからねえし」

 姉さんが更に驚いた顔をする。

「そうか、そうよね。あなた、何年間行方不明だったか知らなかったのよね」

 攫われてからレーテに買われるまで、正直どのくらいの年がすぎたのかわからない。

「ゴーヴァンは体が大きいから、カルロから見たら結構年上に見えるのかも知れないけど、いま二十歳よ」

 姉さんの言葉を聞いて、カルロが変な声を出す。

「ウソだろ!? 顔の雰囲気とかどう見ても三十すぎっぽいのに!?」

「いやだカルロったら、そうしたらワタシなんて四十過ぎじゃない。ワタシ、まだ三十なのよ」

 オイ、カルロ。オメェなんつう顔してんだ。

「二人ってさ、並んでみると歳、逆に見えるよな」

「あら、ワタシそんなに若く見える?」

「オイ、オレはそんなに老けて見えるってことか?」

 自分の顔を姉さんと見比べたことはないが、姉さんより年上に見えるのか、オレ?

「見える。何も知らないで兄と妹ですって言われたら、おれ信じると思うもん」

 オレの方が年下に見えるんじゃなくてか?

 何か姉さん面白そうに笑ってるし、弟が自分より年上に見えるってそんなに笑うことか?

「ゴーヴァンおにいちゃん、おかあさんのおにいちゃん、だったの?」

「違う、違うぞアズ! オレが、お前の母さんの弟だからな!」

 だー! アズが混乱しちまってるだろうが。

「見ろカルロ、アズが勘違いし始めちまっただろうが。姉さんもそんな面白がるなよ」

「ごめんなさい、こういう風に言われるの初めてで、何だか面白くって」

「やっぱ、オッサンでいい気がする」

「カールーロー!」

 逃げるカルロに追いかけるオレ、笑う姉さんとアズ。

 義兄さん、オレたち笑い合ってる。

 だから義兄さんも、早くここに来てくれ。

「……ァ」

 え? 今の声は……

「……シア……ァ」

「ガーウェイ!?」

「義兄さん!?」

 枯れたような声ではあるが、確かに義兄さんの声だ。

 義兄さんが、目を開けてる。

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