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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第4章 青い竜の村
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72話 魔砲

 レーテに口へ毒を流し込まれた次の日、ダネルに連れられてルクレツィアのところへ来ている。

「で、オレは何をすりゃいいんだ?」

「おお、来たな君ら。ダネル、カルロ君のことは任せたぞ。

 ゴーヴァン君は私と一緒に来てくれ」

「僕は教授の秘書じゃないんですけどね。カルロ君、普段使う物の使い方を教えるからこれを見てくれないかな。あと共通語の読み書きは出来るかな」

「え、こんなに色々使うの? て言うかおれ、読み書きはできないんだけど」

「じゃあ今日は文字の勉強を……」

「おーい、ゴーヴァン君。早く行くぞ」

 二人のやり取りを見ていたら、荷物を肩に背負ったルクレツィアに背中を叩かれた。

 ルクレツィアの部屋を出て通路を進みながら、気になったことがあったので聞いておくことにする。

「なあ、レーテのヤツは今何してんだ?」

「薬理学の連中に毒薬の試飲を、毒を飲むとどうなるかを試す仕事を頼まれてる」

「はあ!?」

 毒を飲むだ?

「私と彼女にはここにいるために、学院側から条件が出されていてね。私は禁忌秘術、吸血鬼化の研究をすること。彼女には学院の研究に全面的に協力すること。それが条件になっている」

「そんなもん無視して逃げちまえばいいだろうが」

「そう言う訳にも行かない。私や彼女の存在は、教導会の教義に大きく反しているんだ。下手をすれば永遠に付きまとわれかねない。

 その面倒を避けるために、ざっくり言ってしまえば、この街全体で私と彼女を匿ってもらうんだ。

 文句を言いたくても言える立場じゃないんだ」

 オレの顔の方を見ながら、ルクレツィアが頭をかく。

「でもな、自由がないってわけじゃないぞ。

 彼女が拘束されるのは日中だけだ。夜間は自由にしていいことになっている」

 夜だけ、か。

 牢の中に入れられていた時の自分を思い出す。連中が必要な時以外は、昼か夜かもわからない場所に入れられたこともある。

 今のレーテは、あの頃のオレと同じじゃないのか?

「彼女のことについては思うこともあるだろうが、今はこっちに集中してくれ」

 扉を開け、中へと入っていく。

 窓一つない部屋の奥には金属製の胸当てを付けた丸太が立っていた。

 なんだ? あの胸当てでも殴りゃいいのか?

「ここで何をすりゃいいんだ?」

「これを使って、胸当てを撃ってくれ」

 ルクレツィアが方に背負っていた荷物をおろし、中身を取り出す。

 中に入っていたのは、昨日オレに見せた持ち手のついた筒だった。

「そうそう、今回は撃てるようにしてあるからな。私は死なないからいいが、間違っても自分の方に筒を向けないでくれ」

「矢も弦もないけど、どうやりゃいいんだ?」

「金属筒の持ち手側、指が掛けられるようになってる部分があるだろう。そこに指を引っ掛けて、握るように引っ張ってみな」

 ああ、確かに指を引っ掛けられそうなところがあるな。

 筒を的に向けて、ここに指を引っ掛けて、握るように引く、と。

「ぅおっ!」

 破裂するような音がし、腕を弾かれる。

 的から大きくハズレた壁で何かが弾ける。

「やっぱり適当に撃つと、反動で腕が弾かれるか。肩とか大丈夫か?」

「適当にって、使い方分かってんなら最初から言え! 下手したら肩ハズレんだろうが!」

「いやぁ、私も自分で撃ったのは夜の時だけでな。

 吸血鬼って、夜だけ馬鹿みたいに力があるだろう。生身の人間でどこまで大丈夫か、全く分からなくてな。

 君みたいに鍛えられてそうな体してて、竜種という身体能力に恵まれた種なら、力尽くどうにか出来るかなと思ってな」

 コイツ人のこと、魔獣か何かだと思ってないか?

 とりあえず持ち方変えて、もう一回撃ってみるか。

「ん? オイ、矢が出ねえぞ」

「ああ、一回撃ったら魔力を装填するのに、ここの起こせる所を起こしてから元に戻してくれ」

 ルクレツィアに言われたとおりに動かせる場所があったから、そこについていた曲がった棒を一度起こしてから元に戻す。

 今度は腕を弾かれないよう、コイツをガッチリ押さえておけば大丈夫だろ。

 指の引っ掛けを握り押す。

 今度は肩には来なかったが、的からは外れた位置で破裂が起こる。

「なあ、本当に当たるのかコレ?」

「当分の間、君にやって欲しいのは撃つための姿勢を考えて欲しい。後は的に当てることだな。

 いくら強力な矢が撃てたって、当たらなくちゃ意味ないだろ」

 そりゃそうだ。

「だからまずは、当てられるようになってくれ。

 使いにくい場所や、この方が使いやすいという意見があったら言って欲しい。良い改良案になるかも知れないからな」

「今のところは腕が弾かれることか。押さえながらだと的が狙いにくいな」

「そこはな、なかなか悩んでるところでな。反動を小さくしようとすると威力が下がるし、威力を上げると反動が強くなるしでな。

 今のそれが威力と反動を双方真ん中にしたくらいなんだ

 まあ、調整をした魔晶石をいくつか用意しよう。私よりも実戦経験のある君の意見の方が、物を作る上では役立ちそうだからな」

 そう言うと、持ってきた荷物の上にかがみ込み、瓶を何本が取り出す。

「魔力回復薬だ、めまいや立ちくらみがしたら飲むといい。飲んだ後は体調が回復するまで座って休んでててくれ。

 そうそう、くれぐれも魔砲をこの部屋の外には持ち出さないでくれ」

 それだけ言うと、ルクレツィアは部屋から出ていこうとする。

「これ、いつまでやってりゃいいんだ?」

「回復薬がなくなるか、ダネルが迎えに来るまで頼む。

 何かあったら壁のここ、透明な結晶が埋まってるだろ。コレに手を当てて話しかけてくれ。私の部屋の直通にしてもらってある」

 じゃあな、と言葉を残してルクレツィアは去って行った。

 その後は手にした筒、魔砲とか言ったか、が出す音以外なんの音もない部屋で、一人で的当てを続けるだけだった。

 しばらくそうやってると頭がクラクラしてきたので、ルクレツィアが飲めと言った薬を飲む。

 にが甘い味が口に広がる気持ち悪さを我慢しながら、部屋の壁に背中を預け、その場に座り込む。

 オレを牢から出してくれたレーテが、今はここに閉じ込められてる。

 正直、あいつが何考えてるかなんざ分からねえ。

 けど、もしだ。もしアイツが本心から閉じ込められるんじゃないなら、オレは、オレはやっぱり無理やり手を引っ張ってでも、ここから連れ出してやるべき、なんだろうな。

 考えてみりゃ、オレとレーテ、いやカルロやダネルだって最初に会った時はロクでもない印象しかなかった。

 それが気付いてみりゃ、アイツらに何かするヤツがいたら、何をしてでも助けてやろうって気持ちになってる。

 義兄さんや姉さん、アズだって同じだ。同じだし好きだが、それとは何か違う。

 好きか嫌いかって言われたら、みんな好きだ。

 でもみんな好きが、それぞれちがう気がする。

 まあ、考えても仕方ねえ。

 また撃って撃って撃ちまくるか!

 撃って撃って撃ちまくって、あれこれ一人で撃ち方を試して的に矢を当てられたのは、半身で構えて持ち手部分を肩で抱くように持つ方法だと分かった時だった。

 中身のあるビンと空のビンの数が半々になった時、腹が減ったと思ってルクレツィアが持って期待もつを漁ったら、薬以外に口に入れられる物は何もなかったんで、大慌てでルクレツィアを呼ぶことにした。

 なんでアイツ、パンの一つも持って来てねえんだ!

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