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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第4章 青い竜の村
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63話 負けられない理由

「なんだよそれ、メチャクチャじゃん」

「メチャクチャ? むしろスゲェ優しいんじゃねえ?」

 カルロが口を開けて、ボケっとした顔でオレを見ている。

「そんな訳ないだろ! だってオッサン、闘って勝たなきゃ死んじゃうじゃん!」

 そりゃそうなんだが、それがオレにくだされた裁定だし、オレとしてはどの結果になっても納得いく。

 明日の昼、村の戦士一人と戦ってオレが勝てば罪はないことに、もし負けたり逃げるようなことがあれば死罪。

 わかりやすくていい。

「義兄さんを殺した時、オレも死ぬべきだったんだ。

 もしオレが死ぬのなら、それはオレが受けるべきバツを受けるだけなんだ」

「止めて。そんなことを言わないで」

 姉さんがオレの腕を掴んでくる。その手は少し、震えていた。

「な、なあ、オッサンが本当に悪いわけじゃないんだろ。だったら、その決定をやり直せないのかよ」

「長が決めたことだから、私たちはそれに従うしかないの。私も変えられるものなら」

 姉さんが言葉をつまらせる。

 どう言葉をかけていいか迷っていると、レーテがオレの手に手を重ねてきた。

「ねえ、ゴーヴァン。死ぬべきとか、罰を受けるとか言うけれど、そんなことは言うものじゃないからね

 少なくともここに三人、生きていて欲しいと思うものがいるのだからね」

 生きていて欲しい、か。

「姉さん、もし義兄さんがいたらオレになんて言ってくれたんだろう」

「あの人は、ガーウェイは人の死や罰を第一に望むような人じゃないことはアナタも知ってるでしょう。

 何より義弟であるアナタを失いたいだなんて、そんなこと思うわけ無いじゃない」

 姉さんがオレの腕に額を当て、体を震わせている。

 カルロはオレに抱きついてくるし、レーテは手を強く握ってくる。

 村のヤツらはこっち見てくるし、オレはどうすりゃいいんだ。

「おかあさん」

 カルロよりも小さな子供がこちらへかけてくる。

 姉さんは慌てて袖で顔を拭うと、膝を折り、かけてくる子供を抱きしめる。

「どうしたの、おかあさん? ないてるの?」

「ううん、なんでもないのアズ。

 ゴーヴァン、この子が私の息子。ガーウェイの子アズよ。戦士だったお祖母さんから名前を頂いたの」

 義兄さんと姉さんの子、か。確かに目元は姉さんによく似てるし、角や顔立ちは義兄さんによく似てる。

 アズがオレを、と言うよりオレたちを首を傾げて見上げてくる。

 ああ、カルロはしがみついてるし、レーテは手を離そうとしねえし、そりゃ何してるのかと思うよな。

「アズ、お母さん話したことがあるでしょ。この人がお母さんの弟、アナタの叔父さんよ」

「ようアズ、始めましてだな。ゴーヴァンだ」

 アズが目を大きく開く。まあ、オレみたいなデカいのに上から声かけられりゃ怖くも思うか。

「おじさん、つよいの?」

 なんだいきなり?

「おかあさんね、おじさんはおとうさんに小さいときから剣の使いかた教えてもらってたって、いってたの。

 おとうさん強かったんでしょ? おじさんも強いの?」

 思わず姉さんを見る。

「ごめんなさい、アナタやガーウェイのことをよく話して聞かせてたから」

 確かに義兄さんは村一番の戦士だったから強いってのは間違っちゃいないが、オレがどうかって言われるとな。弱いとは思わねえけど、こういう時はどう答えりゃいいんだ?

「アズはゴーヴァンが強いか知りたいのかい?」

 オレがどう答えたらいいか困っていると、レーテがオレの手から離れ、膝をついてアズの方を向く。

 子供相手に目なんか合わせんじゃねえぞ。

「それはね、明日になれば分かるよ。明日、ゴーヴァンは村の皆に自分は強いんだって、見せてくれるのだからね」

 アズの顔が一気に明るくなる。

 そんな顔で見るなよ、明日、絶対に勝たなきゃいけなくなる。

「オッサン、明日は絶対に負けんなよな」

「わかった。勝つさ、絶対にな」

 カルロの頭を撫でてやる。カルロが目の周りを濡らしながらオレを見上げ、笑っていた。

 いやカルロだけじゃない。姉さんもレーテも、アズも笑っていた。

 嬉しいな、オレがいてもいいって言ってくれる人がこんなにいるのは。



 その後、レーテとカルロは村の寄合所へ連れて行かれた。

 土産を持参してくれたことへの礼ってことで、歓迎を受けることになっている。

 オレは八年ぶりに自分の家に帰ってきた。

「おかえりなさい、ゴーヴァン」

 そういう姉さんの顔と家の匂いに懐かしさがこみ上げてくる。

「オレ、本当に帰って来れたんだな」

「そうアナタの家に帰ってきたの。いつかはガーウェイも帰って来れるのよね」

「ああ、きっと帰って来れるさ」

 いつか義兄さんも帰ってきて、家族みんなで暮らす、か。

 なんだろうな、それってスゲェ嬉しいな。

 そのためにも明日は、絶対に負けるわけには行かないんだ。

 戸を叩く音が聞こえた

「少しいいか?」

 ダネルの声だ。

「ダネル君、どうしたの?」

 姉さんが戸を開け、ダネルを家に招き入れる。

「お久しぶりですシアラさん。ゴーヴァン今日の決定のことだが」

「オレは納得してる。オメェが気にすることじゃねえ」

「そうか青が決めた青のことだ。黒の氏族の僕が口を出さないほうがいいだろうと思っていたが……お前が納得しているならそれでいい」

 シアラさんに取り次ぎをお願いしたくて来ました。この地図に関して話したいことがあります」

「あ、オレの地図」

 オレが街で買った地図をダネルが広げて見せる。

 実はあの地図、結局ルクレツィアに売った。代わりに同じ地図を用意してもらって、ダネルが描かれてた内容を全部写してくれた。

 だから村へ帰る時は新しく手に入れた地図を使ってきたんだが、ダネルの手にしているのは古びた感じの、最初にオレが買ってルクレツィアに売った方の地図だった。

「この地図は人攫いが使っていたかもしれない物です。八年前にゴーヴァンとその義兄が攫われたことにも関係するかも知れません。

 明日の昼以降で構わないので村の長と話をさせてください」

 姉さんがオレを見る。

「姉さん、アズはオレがみてる。行って来てくれ」

「帰ってきたばかりなのに、ごめんなさいゴーヴァン。帰ったらすぐ食事の支度をするから、それまでアズのことをお願い」

 姉さんは慌てて外へと飛び出していった。

「オメェな、来るにしたってもうちょっと後でもよかったんじゃねえか?」

「仕方ないだろう。あまり後に回しすぎるといつ話しをしてくれるかも分からないんだ。ここは黒の氏族の村じゃない青の村なんだぞ。僕ら家族の話しなんて一番後回しだからな

 それでも悪いことはしたと少しは思ってる。本当に久しぶりなんだろう家族と会うのは。

 だから何だ……負けるんじゃないぞ。少なくとも僕はお前が首を斬られるのをみたって面白くも何ともない。そうなるにしても僕の前に膝を折ってからにしろ。そうでなくとも自分は強い戦士だと証明してみせろ。弱いやつの膝を折ったって僕には何の名誉にもならない。だから十分強い戦士になってから僕の前にヒザを折れ。いいな!」

 俺の胸に指を突き当て、一気にまくし立ててくる。

 義兄さん、何だかんだ言ってるけどコイツもオレに生きろって言ってくれてる。

「おじさん、つよいんだもんね。まけないよね」

「おう、オレは強いぞ。明日、それをアズにも見せてやる」

 アズを抱き上げ、額と額をこすり合わせる。

 小さな手がオレの頭に触れ、キャッキャと明るい笑い声を響かせる。

 義兄さん、オレまだ生きていてもいいのかな。

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