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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第3章 学術都市
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56話 学院大乱闘

 外に逃げたはいいものの、その光景になんて言ったらいいのか分からなかった。

 部屋を壊して入ってきたデカブツと同じやつが何体もいる。

 それと闘っているダネルと似たような服を着たヤツラがいる。

 向かい側の建物に目をやると、やはり穴が空いていて、そこから時折デカブツの姿が見えた。

 あちこちから破壊音とそれとは違う音が聞こえてくる。

 ここは戦場か何かか?

「馬鹿じっとしてるな! 来るぞ!」

 ヤベェ、オレも追われてたんだった。

 他のデカブツのいない場所に向かって走り出す。

 後ろで壁を破壊する音が響く。あのデカブツ、オレたちのこと追ってやがるのか?

 ダネルとカルロはオレの前を走ってる。ダネルが一緒なら、カルロは安全だ。

 レーテとルクレツィアは……ああ、日陰に隠れてるのか。レーテは日の当たる場所に出すわけに行かないから、見つからないことを祈るっきゃねえな。

 いや、逃げるよりオレが囮になったほうがいいな。

 足を止め振り返り、気合を入れるため尾で地面を強く叩く。

「っしゃ来いやデカブツ! テメェの相手はこっちだ!」

 ルクレツィアに片腕を壊されたデカブツが、オレへ向かって真っ直ぐに突進してくる。

 腕を振り上げオレを叩き潰そうと、腕を全力で振り下ろしてくる。

 それを横に跳んでかわし、腕に一撃斬りつける。

「たしかに硬ぇなコリャ」

 弾かれこそしなかったが、表面を削る程度にエグレはしたが切り落とすのは到底無理だ。

 クソッ、何で作ったらこんな頑丈になるんだ?

「何で相手をしてるんだ! 逃げろ!」

 ダネルがこちらへ戻り、

「オイ、コイツ何とかする方法はねえのか?」

「僕には魔力がもう殆ど残ってないから無理だ。正直どこかで横になって休みたいくらいだ」

 鱗の色のせいで顔色は分からねえが、確かに視線がハッキリとしていない。

 ヤベッ、次の攻撃が来る。

「ぐべっ!」

 横殴りの一撃をダネルを突き倒し、オレは身を低くかがめてよける。

 コイツ、動きはそこまで早くはないな。攻撃をよけるのはそこまで辛くない。

「お、ま、え、は、僕を、何だと、思ってるんだ!」

「アイツにぶん殴られるよりゃマシだろ。それよりどうにかする手はねえのか?」

「無い訳じゃないがもう僕がげんか、逃げろ!」

 振り返るとデカブツが腕を振り上げ、オレたちを潰そうとしているところだった。

 オレはダネルの首筋を掴み、デカブツの拳から逃げる。

 引っ張られながらダネルが尾を腹の方に丸めると、さっきまで尾のあった場所に拳が突き刺さる。

「どうにか出来るんなら、さっさとやれ!」

「無理だ! もう一回術を使ったら歩くことすら危くなる。動けなくなって叩き潰されるのはゴメンだ!」

「動けなくなったらオレが運んでやる。やり方があるならなんとかしろ!」

 次の一撃が来る前にダネルを立ち上がらせ、腕の届かない場所まで一度離れる。

 周りを見ると動きを止めたデカブツが何体かいた。

 それを相手してたヤツラは、近くの別のデカブツに向かっている。こっちにも一人や二人来て欲しいんだけどな。

 カルロは……ぅげっ!

「ゴメン、オッサン! ニイちゃん! 隠れてたら見つかった!」

 デカブツを一体連れてこっちに逃げてくるところだった。

「カルロ、追いつかれんな! こっちだ、こっち来い!」

 ルクレツィアの部屋から追ってきたやつから離れながら、カルロと合流しデカブツ共から少しでも距離を取る。

「剣で切れないんじゃ、逃げ回るしかねえってのか」

「そんなことしてたら、おれそのうち倒れるって」

「仕方がない僕のことをちゃんと運ぶんだぞ。目覚めよ剛力! 与えよ守護鎧!」

 これだけか?

「オイ、何も変わってねえぞ。 大丈夫なんだろうな」

「あ、やめ、ほんと、目が」

 思わずダネルの肩を揺すると、目が本当にヤバい感じになってた。

「オッサンやばいって、こっち来てる」

 あークソッ、とにかくダネルのヤツをどこかに預けるか隠すかしなきゃダメだ。

「ゴーヴァン、こっち! こっち!」

 この声、レーテか。

 とりあえずアイツにダネルを預けるしかねえか。

「ダネル、お前走れるか?」

「うん。あいつ足は遅いから、まだ走れるよ」

 よし、ならダネルは担いでやれば……妙に軽いな、コイツ。

「頼むから力を入れないでくれ。お前に剛力の魔術と硬化の魔術をかけたんだ。力を入れて骨でも折られたらたまったものじゃない」

「どういうことなんだよ、そりゃ」

「お前を強く固くした。多分お前の持ってる剣で自動人形を壊せるはずだ。いいか狙うなら胸の中心を狙え」

 ダネルを抱え、レーテが隠れている背の低い木のそばまで走る。

 あいつら本当に動くのだけは遅いんだな、逃げるだけならなんとかなりそうだ。

「ゴーヴァン、大丈夫かね」

「オレは大丈夫だ。コイツを頼む」

「ダネル、魔力が枯渇するまで術を行使したのか。よくやったもんだ」

 感心しているのか呆れているのわからない言い方をしながら、ルクレツィアがダネルを見る。

「しばらく休めば動けるようにはなる」

「三人でダネルを連れて逃げられるか?」

「わからないね。私とルクレツィアは日の当たる場所には出られないからね」

 そうか、まだ日が沈んじゃいないからな。

「ならオレがあの二匹を引き付け、いやぶっ壊す。ダネルが動けるようになったら引っ張ってでも逃げろ」

 こちらへ向かってくるデカブツ二匹を見る。

 ダネルがオレに術をかけたっていうのが本当なら、今ならやれる!

「カルロ、オメェはレーテたちといろ。何かあったらすぐに逃げるか、オレを呼べ」

 頷くカルロを見て、オレはデカブツに引きを見る。

 動きは遅い。硬さはダネルの魔術でなんとか、なってるはず。

 なら後は、ぶっ壊すだけだ。

 こちらへ向かってくるデカブツ二匹の前に走り出る。

 まずは壊しやすい方、ルクレツィアに腕をひしゃげさせられたヤツからだ。

 片腕がひしゃげた方の無事な方の腕の一撃を横に跳んでかわし、肘を狙って剣を振り押す。

「ぅおっ! 何だコリャ柔らけえ!」

 切り落とした腕が重い音を立てて落ちる。

 あまりにあっけなく切れたから、危うくバランスを崩しそうになる。

 なんとか踏みとどまり、相手との距離を一気に詰め、胸の中心へ剣を突き出す。

 まるで泥に手を突っ込むように、剣が相手の体に吸われていく。

 剣が根本近くまで刺さったと同時に、デカブツがオレの方へ向かって倒れてきた。

「うおぅっ!」

 慌てて剣を引き抜き後ろへ大きく飛ぶと、腕のひしゃげたデカブツが大きな音をたてて倒れる。

 スゲェ、本当に剣で切れるようになってやがる。

 これならやれる。

「テメェもかかってこいや!」

 聞こえてるのかどうかは知らねえが、二匹目を挑発する。

 二匹目が攻撃を仕掛け始めるが、切れるなら何の問題もない。

 こちらも距離を詰め胸を狙う。

 向こうもバカじゃないんだろう、近づいたオレを蹴りつけようとするが、蹴りにしちゃ遅すぎる。

 軸足のヒザを狙い横薙ぎの一撃。

「クソっ、危ねえな」

 片足をなくしたデカブツが体制を崩し倒れ込んでくるのに巻き込まれないよう、横に飛び、倒れてきた背中に飛び乗る。

 胸の中心てことは、背中のこの辺りだよね。

 人間なら肩後ろの骨の間辺りを狙い、剣を突き立てる。いや、コイツに骨があるかどうかは知らねえけど。

 よし、これで終わりか。

「オッサン、もう一匹そっちに来る!」

 マジでこっちに向かってやがる。

 けど体力は問題ねえ。まだまだ戦える!

 こっちに向かってくる新しいデカブツに何かさせる前に仕掛ける。

 狙うは胸の一点!

 一撃で終わらせてやる。

「はぁ?!」

 思わず変な声が出る。

 突き出した剣は切っ先が胸に刺さった所で止められる。

 いや、これ以上刺すことが出来なかった。

 まさかダネルの魔術、効果がなくなったってやつじゃねえだろうな。

 刺さった剣を慌てて引き距離を取ろうとするが、行動がおくれた。

 すでに振り下ろされた腕がオレに向かってくる瞬間だった。

「クソッ」

 コリャよけられねえな、そう思った時、矢のように何かがオレの横を射抜いていく。

「色々とすまなかったね」

 デカブツの胸にレーテの腕が深々と突き刺さっていた。

 引き抜くと同時にケリを入れ、デカブツを仰向けに倒す。

「さて、残りも壊しに行くとするかね」

 日はすでに沈んでいた。

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