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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第3章 学術都市
55/103

55話 形勢逆転

 教授の魔術は僕達でなんとかする、だ?

「僕たちってまさか」

 オレがカルロを見ると、満面の笑顔で笑い返してくる。

 イヤイヤイヤ、流石にこの状況で子供に何かやらせるのは危ねえだろう。

「オッサン一人で大変な思いすることないんだぜ」

「そう言うことだ。やるぞ! 穿け氷槍!」

 五本のツララがオレたちの前に現れ、ユリウスに向け飛んでいく。

 クソッ、こうなりゃやってやるだけだ!

「射抜け流星」

「歌え奏鳥!」

 ダネルが飛ばしたツララを盾代わりに、ユリウスへ距離を詰める。

 ユリウスはすぐに大量の光弾を出してくるが、ダネルが何かしてくれたんだろう、一気のその数が減る。

 光弾はツララに向けて飛び壊し、残りがオレへ向かってくる。

 だがこの数なら、十分耐えられる!

 体中を殴られるような痛みが走るがそれを無視し、構えた剣を振り上げ一気に踏み込み、剣を振り下ろす。

「ちっ、爆ぜろ炎弾」

 熱と衝撃が体を覆うのと同時に、ダネルが何か叫ぶのが聞こえた。

 わずかに体制を崩されたが、このくらいなら問題ない。

 振り下ろした剣から肉を切る感触が伝わってくる。

「あ、ぐぁああああっ!」

 ユリウスが肩から血を流しながら、数歩後ずさる。

 クソッ、浅かったか。

「穿け氷槍!」

 剣を構え直し一点を狙い、突く。

「守れ硬盾っ!」

 突き出した剣が弾かれ、ユリウスの頭上から降り注いだツララが氷の粒になり降り注ぐ。

 剣を構え直し下から切り上げるが、ユリウスに触れる前に剣が弾かれる。

「ああ、ああ! せっかく綺麗な体を手に入れたのにぃ! 傷がぁ、痛い、痛いぃ!」

 ユリウスの表情が痛みに歪んでいる。

 いや、痛みだけじゃねえな。ありゃそうとう頭にきてる顔だ。ザマアみろ!

「まだあの体の修復が完全に終わっていないのに、この体を傷物にしてくれてぇ! 殺す、絶対に殺すぅ!」

「ウルセェ! 死ぬのはテメェ一人だ! 大人しくしてりゃ、オレが一撃で殺ってやるよ!」

「あああウルサイウルサイぃ! なあっ!?」

 オレの横をカルロが駆け抜け、ユリウスのワンドを持つ腕に飛びついていた。

「何だこのガキは! 離せ、離れろぉ!」

「ぐ……がはっ」

「カルロっ!」

 殴られ、蹴り飛ばされたカルロを抱き起こす。

「大丈夫かカルロ!」

「ヘヘ……言ったろ、オッサン一人で大変な思いすることないって」

 腕の中のカルロが片手をオレに突き出す。

 手の中には、ユリウスが持っていたワンドが握られていた。

「崩せ破城槌!」

 部屋の奥から女の声が聞こえた。

 瞬間、何か強い力が駆け抜け、ユリウスを壁に叩きつけていた。

「教授、無事だったんですね!」

 声がした方を見ると、レーテに体を支えられた血塗れのルクレツィアがいた。

「この状態が無事かどうかは何とも言えないがな」

「どうだね、死なずの体で痛みを与えられ続けられた感想は?」

「最悪だ、でも最高だ。おい、ユリウス」

 ルクレツィアが、肩を血で赤く染め壁に持たれ倒れているユリウスに、吐き捨てるように声をかける。

「どうせ対魔術用の護符の一つや二つ忍ばせてるんだろう。立て」

 癇に障る笑い声を出しながら、ユリウスがゆっくりと立ち上がる。

「ルクレツィア、君があの失敗術を自分で試すなんて思ってもいなかった。どうだい、不完全な死なずの体は?」

「最高の研究成果を上げられそうだ。お前こそどうなんだ、今の気持ちは?」

 ユリウスの顔が怒りに歪む。

「最低で最悪だぁ! この体は傷つけられるし、お前達は殺しそこねる。今のこの身分、この体を捨てなくちゃならないのが本当に腹立たしいぃ! 歌え奏鳥っ!」

 部屋の空気が変わった。

 怒りの表情のまま、ユリウスは俺達を見る。

「今は引かせてもらうよ。数でも力量でも、こちらが不利だからね。でもお前達の顔、覚えたぞぉ! 忘れんぞぉ!」

 ユリウスは懐に手を入れると、透明な塊をいくつか取り出す。

「竜種の口じゃ高位魔術の詠唱は出来ないからね。こういう手段も用意してるんだ、よぉ!」

 塊を壁に叩きつけ、粉々に砕く。

 遠い場所から、近くから何かを壊す音が響いた。

 次に悲鳴と破壊音が聞こえてくる。

「なんだなんだ?! テメェ、何しやがった!」

「あちこちに、仕込んでおいた大型自動人形を起動したんだよ」

「ちょいオッサン、こっちに近づいてくる音、聞こえねえ?」

 カルロの言うとおりドッスンバッタン音を響かせて、何かがこちらへ近づいてくる。

 あー、これ絶対に来てほしくない何かだ。

「それでは、いつか会おう」

 通路側の壁が轟音を立て、大穴が開く。

「コラぁっ! 人の研究室をこれ以上壊すなっ!」

「そういう問題じゃないでしょ教授!」

 穴の向こうから、顔のない頭がこちらを覗き込んでくる。穴の向こうにオレの倍以上はある巨大な人形が姿を覗かせていた。

 ユリウスはケタケタと耳障りな笑いを発しながら、穴の向こうへ行こうとする。

「崩せ破城槌っ!」

「射抜け流星!」

 ルクレツィアとダネルが術を仕掛けるが、人形の腕に邪魔され、腕を一本ひしゃげさせるだけに終わる。

「テメェ逃げんじゃねえ!」

「追いたいところだが追わなくていい! こんな部屋の中であれに襲われたら逃げ場がないぞ! 窓から外に逃げろ!」

 チクショウ!

 でもルクレツィアの言うとおりだ。こんな狭い部屋の中じゃ、あんなデカブツの相手はキツい。

 窓に一番近い場所にいたルクレツィアとレーテが外に出たのを見て、カルロを抱えてそばへ走る。

 カルロを外に出してやり、デカブツを見る。

 うげっ、やっぱり壁の穴大きくしてこっちに来ようとしてやがる。

「捕えろ茨!」

 デカブツの足元、穴の空いた壁の当たりから棘の生えた細い枝が生え、デカブツの体にまとわりついていく。

「よっしゃ、動けないうちにブッ壊してやる!」

「止めておけ。あの型式は壊れにくいように核を胴体の中心に埋めてあるんだ。核を壊す前に剣が折れかねないぞ」

 そう言いながらダネルも、窓から外へ逃げているところだった。

 だからって壊さねえと、どうにもならねえだろ。

 でも剣折られたら殴るしか方法がねえわけで、でもあれを殴り壊せるかって言うと……

「だー! 仕方ねえ!」

 オレも窓から外へと逃げる。

 逃げたが、目の前の風景に言葉を失うしか無かった。

 日は沈み始めていた。

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