54話 ユリウスの襲撃
「初めての人、初めまして。ボクはユリウス……本名は長いからユリウスで覚えてくれればいいや」
大げさな仕草で頭を下げる。
顔が笑ってはいるが、今すぐ殴りつけてやりたくなるような、見てて腹の立つ笑顔だ。
手に持ったワンドを指先で遊びながら、オレたち一人ひとりに視線を送る。
「一人は殺しようがないけど、三人ならやれるか。子供は材料用に欲しいけど、今回は仕方ないな。音を喰らえ静寂、閉ざせ城壁」
ダネルがやるように宙に模様を描くと、部屋の空気が変わったのが肌から伝わってくる。
コイツ、殺らなきゃヤバい! 何かされる前に殺る!
大きく踏み込めば五歩、いや三歩で突き殺せる。
剣を高く構え、刀身に片手を添える。狙うのは喉一点。
弓をひくように足に力を込め、一気に踏み出す。
「せっかくいい体を手に入れたから修復してたのに、色々と残念だよ。舞え風切鳥」
「っ?! 守れ硬盾!」
風が吹き抜けた。そう感じた瞬間、全身を切り裂かれる痛みが走る。
いや、切られていた。体中に傷が走り、血が流れ出ていた。
でもな、そんな程度で止められると思うな!
「爆ぜろ炎弾」
「ぐがっ!」
熱と衝撃、後ろに飛ばされる感覚。
本の瓦礫に突っ込んで、背中を打ち付けた痛みがある。ヨシ、意識はある。
腕も足も折れた痛みはない。
すぐに起き上がり、剣の切っ先をユリウスに向ける。
「はぁ、これだけ本やら紙があるんだから、まとめて焼けると楽なのに。流石に火事まで起こすとボクが巻き込まれるからな」
ユリウスの視線がダネルとその後ろにいるレーテ、カルロに向く。
「ルクレツィアの助手くんはその二人を守るのに精一杯、と言ったところかな。なら、青い君からが楽かな」
腹の立つ笑い顔でオレを見てくる。
ああクソッ、本当にぶん殴ってやりてえ。
「舞え風切鳥」
「っつ」
風邪が吹き抜ける感触を感じ、ダネルたちから離れるように横に飛ぶ。
瞬間、オレのいた辺りの本がバラバラに切り裂かれ、尾の先の方を切られ痛みが走る。
「刺し貫け氷槍」
頭の上から寒気を感じ体をよじると、天井から出てきたデカいツララが床に突き刺さる。
クソッ、魔術士ってのは正面からやり合う気がねえヤツしかいねえのか。
「大丈夫か!」
「テメェに心配されなくたって大丈夫だ! 部屋が狭いから動きにくいだけだ!」
部屋が狭いのは本当だ。下手に動けば、オレ以外が狙われかねない。
「潰せ石腕」
「守れ硬盾!」
ダネルたちの周りがぼんやりとした光の壁に包まれた瞬間、床から生えた石の腕が殴り掛かる。
石の腕は光の壁に当たり粉々に砕けるが、腹の奥を握りつぶされるような感覚がオレを襲う
「テメェ、オレ以外狙ってんじゃねえぞ!」
「あははっ、ゆっくりお喋りなんてしてると、みんなが潰されちゃうぞ。斬り伏せろ水刃」
ユリウスの前に弓を太くしたような水の塊が浮き上がり、オレに向け飛んでくる。
剣で受け流そうと構えるが、剣をすり抜け、体を深く斬られる。
「な、ぐっ!」
骨までは逝ってねえと思うが、間違いなく肉まで切られてる。
「射抜け流星」
間髪入れずにダネルが売ってきたのと同じ光弾が打ち出される。
ただ数が違った。ダネルは四つだったが、コイツは空の星の数ほど光弾を出してきた。
少しでも距離を縮めながら耐え抜くしかねえ!
空の星が一斉に降り注ぐように、ユリウスの周りに浮いていた光がオレに向かって飛んでくる。
「ぐがあぁぁあああっ!」
全身を一斉に殴られるような痛み。
目だ、目だけは潰されちゃたまんねえ。目を守りながら、摺り足ででも体を前に進める。
衝撃と眩しさでユリウスとの距離が縮まったのか、縮まっていないのかがわからない。
それでもヒザだけはついてたまるか!
襲いかかる衝撃がなくなり、視界が元に戻ってくる。ヨシ、ユリウスのヤツに近づいてる。
剣は手放しちゃいないし、目も見える。体中痛みはあるが、動けないわけじゃない。
大丈夫だ、まだ戦える!
「ああ、やっぱり竜種の体は良い。あれだけ傷を与えたのに、もう血は止まっているんだろう? 穿け氷槍」
「ちぃっ!」
飛んでくる二本のツララを切り落とすが、一本は完全に砕けず脇腹を浅く刺される。
「ほぉらほら、君が倒れたら他の皆が危ないぞ。頑張れ、頑張れ」
ユリウスが殴りつけてやりたくなるような笑い顔で、楽しそうに話しかけてくる。
そんなことはわかってるし、テメェに言われると腹が立つなんてもんじゃねえ。
せめて剣の届く範囲まで近づけりゃとは思うが、近づいたら近づいたでさっきの爆発が来る。
誰かが一瞬でいいから注意を引いてくれれば、なんて思うが、まだ夜になっていないからレーテは無理だろうし、子供のカルロに危ないマネはやらせたくねえ。ダネルにはあの二人を守ってもらうのに集中して欲しい。
ダメだ、ナニ弱気になってやがる!
オレ一人でアイツをなんとかすりゃいい、それだけだろうが!
「ああ、もう。そんなに怖い顔しないでくれよ、怖くて今すぐに殺したくなる。斬り伏せろ水刃」
避けるしかないやつか……ヤバいな、足重いぞ。
さっきの光弾、結構キイてんな、コリャ。
急所守れれば、死にはしねえ。剣が持てなくなったって、噛み付いてやることくらい出来る。
ユリウスを睨みつけるオレの前に、黒い影が躍り出る。
「守れ硬盾!」
「ダネル?!」
ダネルの前に光の壁が現れ、水の刃を砕き散らす。
「ダネル……テメェ、レーテとカルロは」
ダネルは視線を部屋の隅へ向ける。
レーテがルクレツィアが埋まっている当たりであろう、本の山を掘り、どかしている。
「オッサン、おれたちだって出来ることがあるんだから、一人でボロボロになってるなよ」
カルロがオレの腰を叩く。
「射抜け流星」
「守れ硬盾! お前がユリウス教授の相手をしている間、三人で話して決めた。格上の相手に勝つために手段は選ぶな! 僕達全員、何かしら出来ることがあるのを忘れるな」
「オッサン、これ飲んで」
カルロが小さな瓶をオレの差し出す。
「ニイちゃんが、傷を治す薬だから飲ませろって」
ダネルが、オレに薬?
「なんだその顔は! のんびりしてる時じゃないんだすぐ飲め!」
「わかってら……んっん、まっじぃい!」
なんっだこりゃぁ! 舌がバカになるぞ。
ん? でも体の痛みも、足の重さもなくなっていくような。
いや、体が楽になってる。
「舞え風斬り鳥」
「守れ硬盾! 大丈夫だな。なら今までと同じようにユリウス教授を攻撃し続けろ。教授の魔術は僕達でなんとかする」




