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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第3章 学術都市
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54話 ユリウスの襲撃

「初めての人、初めまして。ボクはユリウス……本名は長いからユリウスで覚えてくれればいいや」

 大げさな仕草で頭を下げる。

 顔が笑ってはいるが、今すぐ殴りつけてやりたくなるような、見てて腹の立つ笑顔だ。

 手に持ったワンドを指先で遊びながら、オレたち一人ひとりに視線を送る。

「一人は殺しようがないけど、三人ならやれるか。子供は材料用に欲しいけど、今回は仕方ないな。音を喰らえ静寂、閉ざせ城壁」

 ダネルがやるように宙に模様を描くと、部屋の空気が変わったのが肌から伝わってくる。

 コイツ、殺らなきゃヤバい! 何かされる前に殺る!

 大きく踏み込めば五歩、いや三歩で突き殺せる。

 剣を高く構え、刀身に片手を添える。狙うのは喉一点。

 弓をひくように足に力を込め、一気に踏み出す。

「せっかくいい体を手に入れたから修復してたのに、色々と残念だよ。舞え風切鳥」

「っ?! 守れ硬盾!」

 風が吹き抜けた。そう感じた瞬間、全身を切り裂かれる痛みが走る。

 いや、切られていた。体中に傷が走り、血が流れ出ていた。

 でもな、そんな程度で止められると思うな!

「爆ぜろ炎弾」

「ぐがっ!」

 熱と衝撃、後ろに飛ばされる感覚。

 本の瓦礫に突っ込んで、背中を打ち付けた痛みがある。ヨシ、意識はある。

 腕も足も折れた痛みはない。

 すぐに起き上がり、剣の切っ先をユリウスに向ける。

「はぁ、これだけ本やら紙があるんだから、まとめて焼けると楽なのに。流石に火事まで起こすとボクが巻き込まれるからな」

 ユリウスの視線がダネルとその後ろにいるレーテ、カルロに向く。

「ルクレツィアの助手くんはその二人を守るのに精一杯、と言ったところかな。なら、青い君からが楽かな」

 腹の立つ笑い顔でオレを見てくる。

 ああクソッ、本当にぶん殴ってやりてえ。

「舞え風切鳥」

「っつ」

 風邪が吹き抜ける感触を感じ、ダネルたちから離れるように横に飛ぶ。

 瞬間、オレのいた辺りの本がバラバラに切り裂かれ、尾の先の方を切られ痛みが走る。

「刺し貫け氷槍」

 頭の上から寒気を感じ体をよじると、天井から出てきたデカいツララが床に突き刺さる。

 クソッ、魔術士ってのは正面からやり合う気がねえヤツしかいねえのか。

「大丈夫か!」

「テメェに心配されなくたって大丈夫だ! 部屋が狭いから動きにくいだけだ!」

 部屋が狭いのは本当だ。下手に動けば、オレ以外が狙われかねない。

「潰せ石腕」

「守れ硬盾!」

 ダネルたちの周りがぼんやりとした光の壁に包まれた瞬間、床から生えた石の腕が殴り掛かる。

 石の腕は光の壁に当たり粉々に砕けるが、腹の奥を握りつぶされるような感覚がオレを襲う

「テメェ、オレ以外狙ってんじゃねえぞ!」

「あははっ、ゆっくりお喋りなんてしてると、みんなが潰されちゃうぞ。斬り伏せろ水刃」

 ユリウスの前に弓を太くしたような水の塊が浮き上がり、オレに向け飛んでくる。

 剣で受け流そうと構えるが、剣をすり抜け、体を深く斬られる。

「な、ぐっ!」

 骨までは逝ってねえと思うが、間違いなく肉まで切られてる。

「射抜け流星」

 間髪入れずにダネルが売ってきたのと同じ光弾が打ち出される。

 ただ数が違った。ダネルは四つだったが、コイツは空の星の数ほど光弾を出してきた。

 少しでも距離を縮めながら耐え抜くしかねえ!

 空の星が一斉に降り注ぐように、ユリウスの周りに浮いていた光がオレに向かって飛んでくる。

「ぐがあぁぁあああっ!」

 全身を一斉に殴られるような痛み。

 目だ、目だけは潰されちゃたまんねえ。目を守りながら、摺り足ででも体を前に進める。

 衝撃と眩しさでユリウスとの距離が縮まったのか、縮まっていないのかがわからない。

 それでもヒザだけはついてたまるか!

 襲いかかる衝撃がなくなり、視界が元に戻ってくる。ヨシ、ユリウスのヤツに近づいてる。

 剣は手放しちゃいないし、目も見える。体中痛みはあるが、動けないわけじゃない。

 大丈夫だ、まだ戦える!

「ああ、やっぱり竜種の体は良い。あれだけ傷を与えたのに、もう血は止まっているんだろう? 穿け氷槍」

「ちぃっ!」

 飛んでくる二本のツララを切り落とすが、一本は完全に砕けず脇腹を浅く刺される。

「ほぉらほら、君が倒れたら他の皆が危ないぞ。頑張れ、頑張れ」

 ユリウスが殴りつけてやりたくなるような笑い顔で、楽しそうに話しかけてくる。

 そんなことはわかってるし、テメェに言われると腹が立つなんてもんじゃねえ。

 せめて剣の届く範囲まで近づけりゃとは思うが、近づいたら近づいたでさっきの爆発が来る。

 誰かが一瞬でいいから注意を引いてくれれば、なんて思うが、まだ夜になっていないからレーテは無理だろうし、子供のカルロに危ないマネはやらせたくねえ。ダネルにはあの二人を守ってもらうのに集中して欲しい。

 ダメだ、ナニ弱気になってやがる!

 オレ一人でアイツをなんとかすりゃいい、それだけだろうが!

「ああ、もう。そんなに怖い顔しないでくれよ、怖くて今すぐに殺したくなる。斬り伏せろ水刃」

 避けるしかないやつか……ヤバいな、足重いぞ。

 さっきの光弾、結構キイてんな、コリャ。

 急所守れれば、死にはしねえ。剣が持てなくなったって、噛み付いてやることくらい出来る。

 ユリウスを睨みつけるオレの前に、黒い影が躍り出る。

「守れ硬盾!」

「ダネル?!」

 ダネルの前に光の壁が現れ、水の刃を砕き散らす。

「ダネル……テメェ、レーテとカルロは」

 ダネルは視線を部屋の隅へ向ける。

 レーテがルクレツィアが埋まっている当たりであろう、本の山を掘り、どかしている。

「オッサン、おれたちだって出来ることがあるんだから、一人でボロボロになってるなよ」

 カルロがオレの腰を叩く。

「射抜け流星」

「守れ硬盾! お前がユリウス教授の相手をしている間、三人で話して決めた。格上の相手に勝つために手段は選ぶな! 僕達全員、何かしら出来ることがあるのを忘れるな」

「オッサン、これ飲んで」

 カルロが小さな瓶をオレの差し出す。

「ニイちゃんが、傷を治す薬だから飲ませろって」

 ダネルが、オレに薬?

「なんだその顔は! のんびりしてる時じゃないんだすぐ飲め!」

「わかってら……んっん、まっじぃい!」

 なんっだこりゃぁ! 舌がバカになるぞ。

 ん? でも体の痛みも、足の重さもなくなっていくような。

 いや、体が楽になってる。

「舞え風斬り鳥」

「守れ硬盾! 大丈夫だな。なら今までと同じようにユリウス教授を攻撃し続けろ。教授の魔術は僕達でなんとかする」

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