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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第3章 学術都市
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47話 ルクレツィア教授からの依頼−2

 今オレはダネルと二人、宿の部屋にいる。

 カルロは夕食になりそうなものを買いに出かけている。

 ダネルのヤツといても対して話すこともないからカルロについて行こうとしたら、オッサンが来ると余計に買いすぎるからここにいろ、と言ってカルロ一人で買い物に出かけた。

 レーテはルクレツィアが話があるということで、今夜はルクレツィアと二人であの散らかった部屋で過ごすらしい。

 血を飲まなくて平気なのかと聞いたら、今夜くらいなら大丈夫、とのことだ。

 ダネルは今、オレを見て何度目かわからないため息を吐いている。

「何でこんなことまでやる羽目になったんだ」

「知るか。文句あるならルクレツィアのヤツに言え」

「それで人の話を聞いてくれる人なら僕が苦労なんてしない」

 宿に入ってからというもの、溜め息と文句しか口から出してない。

 流石にこれ以上溜め息と文句を聞き続けるのも鬱陶しいから、俺から話を切り出してやる。

「で、オレは何をすりゃいいんだ?」

 正直、オレがダネルやルクレツィアを手伝う必要なんて無かった。

 けどルクレツィアの話しを聞いて気持ちが変わった。

「青い鱗の君が持ってる地図、十年くらい前に発行したやつだろ。竜種の奴隷が出回り始めたのもその頃からだ。案外その地図、人攫いか奴隷商の使っていたものだったりするかもな」

 オレと義兄さんを攫ったヤツとも関係あるかもしれないってことだ。

 ダネルはまた溜め息を吐くと、肩にかけたカバンから黒い板とオレと闘ったときに使っていたワンドとかいう短い杖を取り出し、手に持った板の上に何か模様を描いていく。するとぼんやりと板の表面に何か模様が浮かび上がった。

「ふむ。ある程度の場所は絞ってあるな。この数なら明日一日で調べきれそうだな。明日、学院の教室や研究室を調べていく。僕が怪しいと思った人物がいたらそいつを取り押さえろ。最悪、怪我の一つや二つさせても構わない」

「そりゃ楽でいい。怪しいヤツがいたら、ぶん殴ってでも捕まえろってことだな」

「ああ。見つかった緑は相当ひどい状態だったみたいだ。僕への注意事項で、怪しいものには一切容赦するな、とまで書かれている」

 板に浮かんだ模様を見ながら、ダネルは自分の口を抑える。

「しかしこれは、かなり危険じゃないのか。本当にカルロ君を連れて行くのか?」

「あいつもやる気だったからな。この街で仕事探すとか言ってたし、何かあったときは真っ先に逃して、ルクレツィアに連絡させりゃいいだろ」

 オレは戦えるし、何かあったときには盾になってやればいい。ダネルも弱いわけじゃねえ。最悪の場合でも、二人でかかればどうにかなるだろう。

 カルロには何かあったときのための連絡係、って仕事を与えてやればいい。やたら仕事をしたがるアイツだ、何か役割があったほうが大人しくしてくれるだろう。

「しかし教授もよくここまで怪しい場所を絞ったものだな……調べる場所にあの白の教授の研究室も入ってるな」

「白? 白って弱い白って呼んでる、あの白か?」

「ああ。学院の教授に一人、白がいる」

「へえ、どんなやつなんだよ」

「研究室を自宅代わりにしていて学院の外に出たという話を殆ど聞かない教授だ。専攻が全く関わりのない科目だからルクレツィア教授の手伝いで会った時くらいしか顔は見たことがないな」

 へえ、白なんて話にしか聞いたことがなかったから本当にいるなんて思わなかった。

 黒や緑とは狩り場の取り合いで小競り合いがあって、義兄さんや村の戦士が戦いに言ったのは覚えてる。けど白とは、そう言う話を一切聞いたことがなかった。

 白に関しては、弱い白って呼んでたくらいしか記憶にない。

「白って本当にいたんだな」

「僕も実際会うまで白なんていないと思っていた。両親が学院の卒業生だが白の話なんて聞いたこともなかったからな」

 コイツ、親もこの街に来たことあるのか。

「あの白の教授の専攻は曰く付きだからな。前任教授の失踪やら出自不明の現教授、生徒の行方不明も噂話であったりする」

「何だよ、そいつが一番怪しいんじゃねえのか?」

「だから調べる場所に入ってる」

 そりゃそうだ。怪しいから調べろってことなんだろうしな。

「オッサン、ニイちゃん戻ったぞー」

 部屋のドアを勢いよく開け、カルロが戻ってきた。両手にはパンやら何やら食い物をたくさん抱えてる。

「おう戻ったか、カルロ。随分買ってきたじゃねえか」

「どうせオッサンがいっぱい食うから、少しでも安いとこ探して、多めに買ってきたんだよ」

「お、わかってんじゃねえか」

 カルロからパンと塩漬け肉を受け取り、そのままかじりつく。

 料理した物の方が美味いが、明日のことを人に聞かれない場所で話したいってダネルが言うもんだから、今日はこれでガマンだ。

「まるで飢えた獣のような食べっぷりだな」

 ウルセェ、腹減ってんだ!

 口の中のものを飲み込み、カルロを見る。カルロもパンに食いついてるところだった。

「カルロ、お前明日オレたちについてくるんだろ?」

「え、そうだけど。何だよ急に」

 な、オレの言ったとおりだろ?

 ダネルのヤツは驚いた顔をしているが、オレはついて来るだろうなと思ってたから特に驚きはない。

「お前のやることだけどな、オレが指示したら全部無視してルクレツィアのところに行け。何があったかの説明くらい出来るだろ」

「え、そんなことでいいのかよ」

「怪しいやつがいたらオレが取っ捕まえるから、お前はどこでどんなヤツが何してたのかを知らせに行け。腕っぷしに自信あるわけじゃねえんだろ、報告役も大事な仕事だ」

 義兄さんと二人で狩りに行くとき、よく言われたことだ。自分に何かあったらすぐに村まで戻って何があったか知らせろ、お前にしか出来ない大事な仕事だぞ、ってな。

「わかった。明日仕事してる間、ネエちゃんはどうするのさ」

 レーテか。そういやアイツ、何してるんだ?

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