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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第3章 学術都市
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39話 道標

「で、どうしてこうなってんだ」

「それはこっちの言葉だ」

 狭い部屋、隣り合うベッド、背中合わせで座るオレと黒。

 宿についた時、二人用の部屋が二つ空いていると言われた。まあ、レーテかカルロと同じ部屋でいいかと思っていたら、黒が余計なことを言ってくれやがった。

「いくら種が違うとはいえ、女性が自分達のような男と同室はよろしく無いでしょう。そちらの少年と同じ部屋を使ってください」

 レーテもカルロもそう言うものなのかとその言葉に納得したから、誰と誰が同じ部屋になるか、あっけなく決まってしまった。

「余計なこと言いやがって」

「うるさい、最低限の礼儀作法を守ったらこうなったんだ」

 舌打ちが聞こえた。

「青が一緒だとわってれば、教授の依頼でもない限り寮に帰ってた」

「じゃあ帰れ帰れ。こっちだって黒と一緒になんざ、いたかねえよ」

「今帰ったら教授に何と言われるか……大体その薄らでかい図体で、こんな狭い部屋にいられると邪魔なんだよ」

「そんなに邪魔なら、外で寝りゃあいいだろうが。その方がオレも部屋が広くなって、清々すらあ」

 我ながら背中合わせで、顔も見ずよく言い合えるもんだ。

 正直コイツが、というか黒の連中がどうこうって気持ちはあまりない。ガキの頃から周りの大人が他の鱗の連中は、なんて話を聞いてはいたから、そう言う印象がどうしても強い。

 だからといって仲良くしたいかと言うと、それも特に無い。

 お互い静かにしてればいいんだろうが、どうもどちらかが口を開くと何か言い合っちまう。

「これなら大人しい分、緑のほうが余程マシだ。街暮らしが多いから、変に偏った考えがないからな。青は考えが偏りすぎてるから嫌いなんだ」

「まるで他の青の氏族に会ったみたいな言い方しやがって」

「何を言ってるんだ。五年前から黒の氏族からは薬師を、青からは戦士を、互いの村に送っているだろう」

「初めて聞いたぞ、そんな話」

「お前、青の氏族の村の生まれじゃないのか?」

 オレと義兄さんが人攫いにあってから、正直どのくらいの月日が経ったのかなんて、数えてすらいなかった。村にいなかった間に、色々とあったようだ。

「青の氏族の村の生まれだよ。色々会って、村から離れてたけどな」

「青が村から離れるなんて珍しいな。何か村の禁則でも破ったか」

「そんなんじゃねえよ。テメェはオレの村に行ったことはあんのか?」

 村の場所がわかるかも知れない。そう考えると、胸が大きく鼓動を打つ。

「行ったことはある。というより、三年前までいた」

「本当か! じゃあ村までの道がわかるんだな!」

「な、何なんだ、自分が住んでた村なんだ、帰り方くらいわかるだろう」

 思わず振り返り、コイツの肩を掴んでいた。

「ウルセェ、青の氏族の村への行き方はわかるんだな!」

 急に黒が意地悪そうな顔をする。

 なんだ、なんでそんなにニヤけてやがる?

「教えてやってもいいが、その代わり教えろ」

「は? 何言ってやがる」

「どうして自分の村への帰り方を知りたいのか教えろ、そうすれば教えてやる」

 んなっ?!

「どうした、教えてほしいんだろ? だったら、どうしてそんなことを効くのか話せ」

 だぁあ、クソッ! ニヤニヤニヤニヤ笑いやがって、腹の立つ!

 でも、でもだぞ。村への道を他に知ってるやつがいなかったら? コイツからしか、聞けないとしたら?

「あー……クソッ、話せばいいんだな」

 なんだよ、コイツの勝ち誇ったような顔は!

「人攫い、だよ」

「なんだ、はっきり言えよ」

「ガキの頃人攫いにあったんだよ! だぁあ、なんだよその顔っ!」

 何だよ本当、なんでそんな得意げな顔してんだコイツは!

 ああクソッ、やっぱり話すんじゃなかったか。

「青で人攫いに? なんだか、あの人の話みたいなことを言うんだな」

「誰だよ、そいつ。村長か長老あたりか?」

「シアラという女性だ。青の村で僕ら家族の世話役をしている人だ」

 マジか、それ。

「姉さんだ」

 胸にこみ上げるものが湧いてくる。

「オレの姉さんだ、その人。シアラって名前の女は、村に他にいない。なあ、おい、姉さんは、オレと義兄さんのことをなんて言っていた」

「痛い、痛いだろそんなに強く肩を掴むな揺らすな! 青の村で十年近く前に義兄弟が行方不明になったから、魔獣に襲われたか、人攫いにあったって話だ。あのシアラって人は、今も二人は生きてるって思ってるよ。いい加減肩を離せ!」

 今も二人は生きてる、か。

 ごめん姉さん。オレ一人生きていて。ありがとう姉さん、まだ待っていてくれて。

 本当は、義兄さんに帰ってほしかった。義兄さんと帰りたかった。なのに出来なくて、本当にごめん。

「そうか姉さん、今も。おい、ところで世話役ってのはどういうことだ」

「どういうことも何も、言葉のとおりだよ。薬師として来た僕ら家族の、身の回りの世話をしてもらってるんだ。世話と言っても、食料の用意だったり、村の連中との仲介だったりだけどな」

「何だって姉さんがそんなコト」

「さあ。しかし黒の氏族でも人攫いなんて噂だと思ってたのに、青が攫われてたとはな」

 嫌な顔で人のこと見やがるな、コイツは。レーテの毒蛇みたいな笑い顔の方が、まだ可愛げがあるように見えるぞ。

「何が言いてえのか何となく分かるが、言ったら殴る」

 ちょっと睨んだだけで体が引けるなら、言う言葉には気をつけろってんだ。

「後だ」

 肩を掴む力を強くする。

「ちゃんと、村までの道、教えろよ。嘘だったら、殴る。」

 片方の手で拳を作り、黒の目の前に突きつける。

 顔が引きつってるな。本当に分かりやすいヤツだ。

 肩に触ってわかったが、コイツ体の方はあんまり鍛えてねえな。体が薄すぎる。何かあったときは、ゲンコツ一発でどうにかなりそうだ、こりゃ。

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