23話 味のない料理
「むぐっ、あんの野郎、あむっ、人のこと、んぐっ、なんだと」
「口の中のものが飛ぶから、食べながら喋らないでおくれよ」
口の中の食い物を飲み込み、言われた言葉を思い出す。
「君が昼食? 食事をする必要もないのに? は? 奴隷に昼食? また無駄な出費を」
あの野郎、オレのことを石像か何かだとでも思ってんのか? オレが飯食うのがムダだと? ふざけんな!
「だからレオナルドの言葉に腹を立てるな、と言ってるだろう。レオナルドはね、金勘定でしかモノが測れないんだよ」
呆れ顔のレーテを、こっちも呆れ顔で見る。
「テメエの方こそ、よくあんなのと友達なんてやってられるな」
「人の世を渡っていくには、何かと金がかかってね。友達とは言っている、私とレオナルドは利害関係が一致している、それだけの関係さね」
「それ、友達とは違うと思うぞ」
何ていうか、コイツ、マシな友達ってのはいないのか?
オレなんてあの猫野郎、五回は殴ってやりたくなってたぞ。
「ゴーヴァンは何度か飛びかかりかけていたからね。でも我慢してくれて助かったよ。レオナルドに傷を負わせたなんて事になったら、生きてこの街から出られないからね」
「どういうことだよ、あむっ」
「どうもこうも、この街は自由交易を謳ってはいるけど、その実はレオナルドの家の独裁国家のようなものさね。下手なことをしたら、捕らえられて首を刎ねられかねないよ。本当に容赦や恩赦というものがないからね」
飯を食う手が止まる。マジか?
「次会う時に気をつければいいだけさね。それにしても、さっきから魚ばかり食べてるね。そんなに魚好きだったのかい?」
「ここの魚、マジで美味いんだって。海の魚ってのは、川や湖の魚と味がぜんぜん違うのな」
塩をつけて焼いただけのやつなんて、特にそうだ。噛むと肉みたいに油が口の中に広がった後に、海の匂いが味に変わって口と鼻を満たす。
魚焼いただけでこれだけ美味いなんてな、海の傍に住んでるやつが羨ましくならあ。
「ゴーヴァンがそんなに気に入ったなら、食事はなるべく外で食べたほうが良いかもしれないね」
「どういうこった」
「レオナルドの屋敷で食事するということは、顔を合わせることも多くなるからね」
あー、確かにアイツと一緒にい続けたら殴るの我慢できるかって言うと……無理だな。
「レオナルドの判断基準は金だし、人を見るときは能力の要不要で見ている。人も物も等しく金を生むための道具でしか無いんだ」
話を聞きながら、料理を口に運ぶ。
「ゴーヴァンは自分が人であるという強い意思がある。だからレオナルドの言葉には反感を覚えるだろうし、怒りを感じることもあるだろうね」
「オレぁ義兄さんに生き方を教えられたからな。曲がってねえ自信はあるよ。まあアイツは、金のこと以外教えてくれるやつが周りにいなかったんだろ」
「おや、ゴーヴァンには兄弟がいたのかい? どんな人なんだい、話を聞かせておくれよ」
なんだよその、聞かせてくれって顔は。
「オレの、自慢の義兄さんだ。強くて、優しくて、村一番の戦士だった。オレがあのクソッタレな場所で生きていられたのは、義兄さんがいてくれたからだ」
でもオレが殺した。
口の中に残っていた食い物の味が、一瞬でなくなったような気がする。
義兄さん、あの時オレが生き残って良かったのか? 本当は義兄さんが生きているべきじゃなかったのか? 姉さんだって、義兄さんが帰ってくれば、きっと。
「どうしたのだね、黙ってしまって」
「ウルセェ、なんでもねえ」
ダメだ、何を食っても味がしねえ。




