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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第2章 港湾都市
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22話 無駄な買い物

「レーテ、僕は相当額を君に渡しはしたが、なんでこんなに減ってるんだ? 何に使った?」

「ゴーヴァンの購入と、ここまでの旅支度と道中の旅費」

「だとしても使いすぎだ。たかだか奴隷一人買うのにどれだけ使ったんだ、君は!」

 たかだかだ?

「私の条件に合うのがこの、ゴーヴァンしかいなかったんだ。仕方ないだろう」

「仕方ないわけあるか! この出費額、相場の十倍以上は払ってるぞ。金銭感覚がないのは分かってはいたが、酷すぎる! どう見ても、その男にそれだけの価値などないだろうが」

 価値がないだ?

「オイ、テメエ。人のこと物みたいに言ってんじゃねえぞ」

「奴隷は商品だ物だ。大体なんだ、口答えのようなことを口にして。奴隷印の効果が薄いのか? だとしたら、あの街で雇っている魔術師の程度が知れるというものだな。ただでさえ品質不良の奴隷なんて商材を扱っておきながら、こんな不良品を相場の十倍? 商売を舐めてるのか」

「オレぁ物じゃねえ! ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」

「止めておきな、ゴーヴァン。レオナルドは口が悪いんだ、腹を立てていたら気が持たないさね」

 立ち上がりそうになったオレに、レーテの手が塞ぐ。

「レオナルド、分かっているだろう。私の条件に合うヒトを探すのは難しいんだ」

「ならレーテ、君も僕が無駄な出費と買い物が嫌いなのは知っているだろう」

「ああ、そのせいで親戚中に敵を作ってることもね」

 オレが甘くしすぎた薬湯をレーテが一口飲む。

「レオナルドに仕える騎士たちの中には、条件に合うものもいるかも知れない。けれど」

「吸血鬼の食事になれ、だなどと言えたものではないからな。変に話が広がれば教導会が五月蝿そうだ」

「教導会とは過去に問題を起こしたことがあるからね。また面倒になるのは避けたいのさね」

 男が大きなため息を一つ吐く。

「だからって相場の十倍は……そいつを一体どこでどういう経緯で買ったんだ」

「反抗的で良いから強い者を、ということで闘技場で戦っていたゴーヴァンを紹介されたんだよ」

「闘技場? 剣闘奴で青い鱗の竜種……まさか、噂に聞いた狂竜を買ったのか?」

 二人の視線がオレに集まる。

「知らねえよ、何だその狂竜ってのは?」

「そう言えば、ゴーヴァンのことをそう呼んだ輩がいたような」

「はは、あーはっはっはっは! そうかそうか、連中やっぱり失敗していたか。いい気味だ!」

 何だコイツ、急に笑いだして。

「いいじゃないかレーテ、これは相場の十倍の価値はある。だから僕は常々言ってたんだ、鞭だけで縛ることなんて無理だと。飴も与えなければ意味がないってね」

「なあコイツ大丈夫か」

「レオナルドはいつもこうだから、気にすることはないさね。しかし、そんなに面白い話をした気はないんだがね」

 男は大きく首を横に振ると、オレを指差すし、低い笑いを漏らしながら口を開く。

「連中が鞭だけで仕上げようとした結果がコレだ。隷属印で隷属意識を高めるにも限度がある。なら飴で縛り付けて鞭で修正すれば良いものを、あの街の連中、鞭を振るうしか能がない。それで自分達が噛みつかれてたんだ、これ以上に笑えることはないとも」

「そう言えば、あの街とこの街は仲違いしているんだったけね」

「仲違いと言うより、僕が、商品を独占されていることが我慢できないんだよ。しかしレーテの今回の買い物のお陰で、次の定例商会議で僕の案を通しやすくなった」

「レオナルドが納得してくれたのなら、それで良かったさね」

「ああ、無駄な買い物じゃなかった。それが分かったから十分だ」

「オレのことを物みたいに言うんじゃねえ」

 なんなんだコイツは本当に! オレのことを物か何かだとでも思ってんのか。

 オレのことを買った奴らみたいに、殴ってでもやったほうが良いやつかコレ?

「ゴーヴァン、レオナルドは口が悪いと言っただろう。腹を立てるだけ損というものさね」

「しばらくこの街にいるのだろう。いつものように僕の屋敷に来ると良い、連絡はしておく」

 男は一呼吸つくと、レーテを見る。

「で、他に僕に知らせることはあるのかい?」

「ゴーヴァンの胸の印を消せる魔術師を消化して欲しいんだがね」

「魔術師を紹介、か」

 猫種の男のヒゲが何回か動く。

「隷属印の解呪なんてしてどうする。奴隷を買ったんだ、その印はあって然るべきだと思うが」

「そういう約束、でね。ゴーヴァンを自由にするのが、私の当面のやることなのさね」

 お、ちゃんと覚えてんのなコイツ。

 男の方はふうんと、特に関心なさげな返事を返す。

「君がそうしたいならそうすれば良い。まあ学術都市へ行く前に、この街の魔術協会に依頼を出しておく。それでいいかな」

「おお! さっさと消せるんなら消してくれ!」

「おや、この街で済むのかね」

「僕は魔術師の技云々はわからないから、やれるかどうかはわからんがね。まあ駄目だったら駄目で、学術都市の知人宛の紹介状を書くさ」

 男が立ち上がり、机の方へ戻っていく。

「さて僕は仕事に戻るとしよう。四方山話は夕食のときにでもお願いするよ」

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