100話 青い竜の村
祭りの音色が聞こえる。
広場で音楽に合わせ、みんなが踊っている。
踊ってない奴らもいるが、そう言う奴らは料理を食ったり、酒を飲んだりしてた。
村の祭りを見るのは子供以来、八年ぶりになるのか。
「ゴーヴァン、お前も飲め!」
「お、おう。義兄さん、結構飲んでねえか?」
「何言ってるんだ。祭りなんだ、少しは羽目を外したっていいだろう」
「おとうさん、もう、おさけのんじゃダメ! おさけのんでるおとうさん、かっこわるい!」
「う、かっこわるい、か?」
お、義兄さん飲むの止めるのか?
「あら、ワタシが言っても聞いてくれないのに、アズが言うと聞いてくれるのね。
今度からアズに言ってもらおうかしら」
料理を盛った皿を持った姉さんが、皿をオレに渡しながら、義兄さんに笑いかける。
「シアラ、そういうことは言わないでくれ。俺が悪いことをしてるみたいだろ」
義兄さんの見せる情けない表情に、思わず笑い小声が出る。
家族全員で過ごせるようになって、義兄さんの、姉さんの、アズの色んな顔を見れるのが楽しくて、嬉しくて仕方ない。
けれど、オレたちは村に帰れたわけじゃない。
ルクレツィアから、いろいろあったから休みがてら旅行でも行ったらどうだ、と言われたから村へ一時ではあるが、戻って来てる。
時期が良かったのか、ちょうど村の祭りの時に戻って来れた。
しばらくこっちで過ごしたら、また街へ戻る。
カルロとレーテも連れてこようかと思ったんだけど、カルロはルクレツィアに泣きつかれて街で仕事、レーテはユリウスのことでいろいろあるから街を離れられないらしい。
ユリウスはあの後、偉そうなヤツが兵隊連れて来て、どこかへ連れて行った。
気になってルクレツィアに聞いても、何も教えちゃくれなかった。
「祭りは楽しんでるか?」
「おう、ダネル」
ダネルが後ろに黒い鱗の小さな女の子を連れて、こちらへ来る。
ダネルは村までの案内で、一緒に来てもらった。
授業に遅れがーだの、単位がーだの、出席日数がーだの言ってたが、ルクレツィアがどうにかすると言うことで、今回ついて来てもらった。
と言うか、村まで連れて来てもらった。
正直、オレと姉さんの記憶だけじゃ不安があったってのもある。
「オメェこそ、踊ったりしねえのか?」
「僕達家族はこの村の人間じゃないからな、祭りだろうが何だろうが、基本は家で粛々と過ごすだけだ」
「なんだそりゃ、ずっと家ってツマンネエだろうが」
ダネルがため息を吐く。
「詰まる詰まらないの問題じゃないだろ、こういうのは」
そう言うもんなのか?
いや、確かに黒がこの場にいるってのは浮いてるのはわかる。
それでも、こんな子供が祭りの日に家で踊りも踊らずに、ガマンしてろってのは……
「なあ、その子、何ていう名前なんだ」
「妹の名前か? レイラ、レイラだ」
そうか、レイラか。
レイラに目の高さを合わせて、牙が見えるくらいの笑顔で話しかける。
「なあ、レイラ。一緒に踊るか?」
レイラは一瞬怯えた顔をしてダネルの後ろに隠れるが、すぐにオレとダネルの顔を交互に見てきた。
「オイ。僕の妹をどうするつもりだ」
「別にどうもしねえさ。
ただ、こんな子供が祭りの日に何もしないで、ガマンさせてるが嫌なだけだ」
レイラの方へ手を差し出す。
オレの手を見てレイラは一瞬、手を伸ばそうとするが、すぐに難しい顔をしているダネルを見て手を引っ込めてしまった。
どうしたらと思って、義兄さんたちの方を見ると、笑って頷いてくれた。
「じゃあ、仕方ねえな……ぃよっと!」
「え? あ、ぉわぁっ!」
「きゃっ!」
ダネルの足元にしゃがんで、ダネルとレイラを抱き上げる。
「ちょ、ちょっと待て! 何をするつもりなんだ!」
オレの頭に、角にしがみつく二人を抱き上げたまま、踊りの輪へ向かっていく。
「何って、踊りに行くんだ」
「よせ。止めろ。僕達が行ったって浮くだけだ。居づらいだけだ」
「ダイジョウブだって、オレが一緒に踊ってやるから」
「そう言う問題じゃない!」
ダネルの言うとおりっちゃ言うとおりだ。
二人を抱きかかえたオレが近づくと、村のヤツラは距離を取るし、音楽も小さくなっている気がする。
「ほら見てみろ。来ない方がいいんだ」
「気にする必要なんざねえだろ!
オメェたちの家族だってこの村で暮らして、この村のヤツラのために働いてんだ!
そんなすみっこで暮らすようなこと、させなくたっていいだろうが!
文句言うやつがいたら、オレが戦ってケリつけてやる!」
周りのヤツラに聞こえるよう、わざと大きな声で言ってやる。
周りがザワついてるのがわかる。
文句あるヤツがいるなら、何人だってやってやらあ!
何人かがオレの方へ近づいてくる。
ダネルの体か固くなるのが、レイラがオレの角を強く掴んでくるのが伝わってきた。
そんな中、大きな笑い声が響く。
周りの静かなザワつきを黙らせるように、義兄さんの笑い声が響いた。
「そうだな、確かに彼らは、彼らの父はオレにとって、赤子の頃の息子を助けてくれた恩人だ。
それを無碍に扱うのは礼に反することだな。
恩人とその家族を祭りに招いた所で、文句はないだろう。
それとも青の氏族は恩も礼も忘れるような者ばかりだったのか。
もし文句あるというなら、ゴーヴァンだけじゃない、俺も相手になろうじゃないか」
義兄さんの最後の言葉に、周りが一気に静かになる。
義兄さんの強さはみんな知っていた。
村に戻って義兄さんが長たちに望んだのは、村の戦士たちと戦うことだった。
どの戦士も十数えられるまで、立っていられなかった。
オレも義兄さんに挑んだが、ろくに剣を交えないまま、首に剣を当てられて終わりだった。
「誰も何も言わないということは、問題ないということだな。
ゴーヴァン、続けていいぞ」
誰も動かなくなった輪の真ん中で二人を下ろして、手を取って、体を揺らす。
「ほら、踊ろうぜ」
「お前……この雰囲気でよくそう言うことが言えるな」
「そんなもん気にしてたら、なにも楽しくねえだろ。
ほら、ドンチャッキャドンドチャッケャ」
なんだ? なんでコイツら変な目で俺のこと見てんだ?
「それは何だ? 呪いの言葉か何かか?」
「なにが呪いの言葉だ、さっきまで聴いてた曲と同じだろうが」
誰かが笑うのが聞こえた。
「なんだ? オレ、笑うようなことしたか?」
「忘れてた。ゴーヴァンお前、酷い音痴だったな」
「何であの曲を聞いてその歌になるんだ」
「もういい、歌わないでくれ。
オイ、楽器持ち! 早く演奏してくれ!」
演奏が始まり、周りのヤツらが踊り始める。
ダネルはどこか、恥ずかしそうな顔をして体を揺らしていた。
レイラはオレの手を握って、周りのヤツらの踊りをマネて踊っていた。
ただ二人共、笑ってくれていた。
二人の笑顔が見れたのが、何より嬉しかった。
祭りの音楽が聞こえる。
踊りを踊る足踏みが、地面を揺らす。
またいつか、この場所に帰ってきたときまで忘れないように、体に、心に刻みつける。
オレたちは後なん日かを村で過ごしたら、街へ戻る。
この祭りの音楽も踊りも、今度はいつ聞いて、踊れるんだろうな。




