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その口吻は毒より甘く  作者: 門音日月
第4章 青い竜の村
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100話 青い竜の村

 祭りの音色が聞こえる。

 広場で音楽に合わせ、みんなが踊っている。

 踊ってない奴らもいるが、そう言う奴らは料理を食ったり、酒を飲んだりしてた。

 村の祭りを見るのは子供以来、八年ぶりになるのか。

「ゴーヴァン、お前も飲め!」

「お、おう。義兄さん、結構飲んでねえか?」

「何言ってるんだ。祭りなんだ、少しは羽目を外したっていいだろう」

「おとうさん、もう、おさけのんじゃダメ! おさけのんでるおとうさん、かっこわるい!」

「う、かっこわるい、か?」

 お、義兄さん飲むの止めるのか?

「あら、ワタシが言っても聞いてくれないのに、アズが言うと聞いてくれるのね。

 今度からアズに言ってもらおうかしら」

 料理を盛った皿を持った姉さんが、皿をオレに渡しながら、義兄さんに笑いかける。

「シアラ、そういうことは言わないでくれ。俺が悪いことをしてるみたいだろ」

 義兄さんの見せる情けない表情に、思わず笑い小声が出る。

 家族全員で過ごせるようになって、義兄さんの、姉さんの、アズの色んな顔を見れるのが楽しくて、嬉しくて仕方ない。

 けれど、オレたちは村に帰れたわけじゃない。

 ルクレツィアから、いろいろあったから休みがてら旅行でも行ったらどうだ、と言われたから村へ一時ではあるが、戻って来てる。

 時期が良かったのか、ちょうど村の祭りの時に戻って来れた。

 しばらくこっちで過ごしたら、また街へ戻る。

 カルロとレーテも連れてこようかと思ったんだけど、カルロはルクレツィアに泣きつかれて街で仕事、レーテはユリウスのことでいろいろあるから街を離れられないらしい。

 ユリウスはあの後、偉そうなヤツが兵隊連れて来て、どこかへ連れて行った。

 気になってルクレツィアに聞いても、何も教えちゃくれなかった。

「祭りは楽しんでるか?」

「おう、ダネル」

 ダネルが後ろに黒い鱗の小さな女の子を連れて、こちらへ来る。

 ダネルは村までの案内で、一緒に来てもらった。

 授業に遅れがーだの、単位がーだの、出席日数がーだの言ってたが、ルクレツィアがどうにかすると言うことで、今回ついて来てもらった。

 と言うか、村まで連れて来てもらった。

 正直、オレと姉さんの記憶だけじゃ不安があったってのもある。

「オメェこそ、踊ったりしねえのか?」

「僕達家族はこの村の人間じゃないからな、祭りだろうが何だろうが、基本は家で粛々と過ごすだけだ」

「なんだそりゃ、ずっと家ってツマンネエだろうが」

 ダネルがため息を吐く。

「詰まる詰まらないの問題じゃないだろ、こういうのは」

 そう言うもんなのか?

 いや、確かに黒がこの場にいるってのは浮いてるのはわかる。

 それでも、こんな子供が祭りの日に家で踊りも踊らずに、ガマンしてろってのは……

「なあ、その子、何ていう名前なんだ」

「妹の名前か? レイラ、レイラだ」

 そうか、レイラか。

 レイラに目の高さを合わせて、牙が見えるくらいの笑顔で話しかける。

「なあ、レイラ。一緒に踊るか?」

 レイラは一瞬怯えた顔をしてダネルの後ろに隠れるが、すぐにオレとダネルの顔を交互に見てきた。

「オイ。僕の妹をどうするつもりだ」

「別にどうもしねえさ。

 ただ、こんな子供が祭りの日に何もしないで、ガマンさせてるが嫌なだけだ」

 レイラの方へ手を差し出す。

 オレの手を見てレイラは一瞬、手を伸ばそうとするが、すぐに難しい顔をしているダネルを見て手を引っ込めてしまった。

 どうしたらと思って、義兄さんたちの方を見ると、笑って頷いてくれた。

「じゃあ、仕方ねえな……ぃよっと!」

「え? あ、ぉわぁっ!」

「きゃっ!」

 ダネルの足元にしゃがんで、ダネルとレイラを抱き上げる。

「ちょ、ちょっと待て! 何をするつもりなんだ!」

 オレの頭に、角にしがみつく二人を抱き上げたまま、踊りの輪へ向かっていく。

「何って、踊りに行くんだ」

「よせ。止めろ。僕達が行ったって浮くだけだ。居づらいだけだ」

「ダイジョウブだって、オレが一緒に踊ってやるから」

「そう言う問題じゃない!」

 ダネルの言うとおりっちゃ言うとおりだ。

 二人を抱きかかえたオレが近づくと、村のヤツラは距離を取るし、音楽も小さくなっている気がする。

「ほら見てみろ。来ない方がいいんだ」

「気にする必要なんざねえだろ!

 オメェたちの家族だってこの村で暮らして、この村のヤツラのために働いてんだ!

 そんなすみっこで暮らすようなこと、させなくたっていいだろうが!

 文句言うやつがいたら、オレが戦ってケリつけてやる!」

 周りのヤツラに聞こえるよう、わざと大きな声で言ってやる。

 周りがザワついてるのがわかる。

 文句あるヤツがいるなら、何人だってやってやらあ!

 何人かがオレの方へ近づいてくる。

 ダネルの体か固くなるのが、レイラがオレの角を強く掴んでくるのが伝わってきた。

 そんな中、大きな笑い声が響く。

 周りの静かなザワつきを黙らせるように、義兄さんの笑い声が響いた。

「そうだな、確かに彼らは、彼らの父はオレにとって、赤子の頃の息子を助けてくれた恩人だ。

 それを無碍に扱うのは礼に反することだな。

 恩人とその家族を祭りに招いた所で、文句はないだろう。

 それとも青の氏族は恩も礼も忘れるような者ばかりだったのか。

 もし文句あるというなら、ゴーヴァンだけじゃない、俺も相手になろうじゃないか」

 義兄さんの最後の言葉に、周りが一気に静かになる。

 義兄さんの強さはみんな知っていた。

 村に戻って義兄さんが長たちに望んだのは、村の戦士たちと戦うことだった。

 どの戦士も十数えられるまで、立っていられなかった。

 オレも義兄さんに挑んだが、ろくに剣を交えないまま、首に剣を当てられて終わりだった。

「誰も何も言わないということは、問題ないということだな。

 ゴーヴァン、続けていいぞ」

 誰も動かなくなった輪の真ん中で二人を下ろして、手を取って、体を揺らす。

「ほら、踊ろうぜ」

「お前……この雰囲気でよくそう言うことが言えるな」

「そんなもん気にしてたら、なにも楽しくねえだろ。

 ほら、ドンチャッキャドンドチャッケャ」

 なんだ? なんでコイツら変な目で俺のこと見てんだ?

「それは何だ? 呪いの言葉か何かか?」

「なにが呪いの言葉だ、さっきまで聴いてた曲と同じだろうが」

 誰かが笑うのが聞こえた。

「なんだ? オレ、笑うようなことしたか?」

「忘れてた。ゴーヴァンお前、酷い音痴だったな」

「何であの曲を聞いてその歌になるんだ」

「もういい、歌わないでくれ。

 オイ、楽器持ち! 早く演奏してくれ!」

 演奏が始まり、周りのヤツらが踊り始める。

 ダネルはどこか、恥ずかしそうな顔をして体を揺らしていた。

 レイラはオレの手を握って、周りのヤツらの踊りをマネて踊っていた。

 ただ二人共、笑ってくれていた。

 二人の笑顔が見れたのが、何より嬉しかった。

 祭りの音楽が聞こえる。

 踊りを踊る足踏みが、地面を揺らす。

 またいつか、この場所に帰ってきたときまで忘れないように、体に、心に刻みつける。

 オレたちは後なん日かを村で過ごしたら、街へ戻る。

 この祭りの音楽も踊りも、今度はいつ聞いて、踊れるんだろうな。

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