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prologue 知る少女の独白

ケータイから閲覧の方には少し長いかもしれません(^^;;


「北霜羽詩羅?」


きれーな名前だねと、他人を褒めない私が滅多にしない事をしたら、痛そうに笑われたから。









アイロボットアイムスパイ。─prologue




1990年2月25日、私は生まれた。そして今日14回目の誕生日を迎える。


「さや」

「なにー?」


後方を行く天人が避難めいた声で私を呼んだ。


返事は声だけで顔は向けない。


「疲れた!」

「もう?天人なっさけねぇー」


わざと卑下した言い方で言ってやれば、予想通り天人が歯を食いしばりまた足に力を入れた気配。全く持って扱いやすい我が弟。


思わず零れた笑いは、はたして天人に聞こえただろうか。


「天ー」

「………」


無反応。

それでも構わず、振り返らないで口を進めた。


「もうちょっとやけぇ」

「………」

「すっげー綺麗なの見しちゃげるけー」

「…昨日も言った」

「期待しちょきぃー」

「………」

「ね?」


天人は今日12になる弟。本人に言ったらそれはもう凄まじく怒るけど可愛くて頭もいい。度胸と耐え症が無いのが玉に瑕だけど。


「さや」

「んー?ん?」


ふいと、腕が軽くなった。


「天人?」

「…ん」


天人の短い返事。緩む顔の筋肉。そんな私の目に映るのは。


山道を行くために少ないけど、それでもピクニック気分を出す小道具にお菓子とかを二人分入れたリュック。


それをいつの間にか前方を行く天人の背が持っている光景だった。







今日12を迎える私の弟、訂正して義弟(おとうと)は、私が5つの時に突然現れた。


冬の寒い、それでも良く晴れたあの日、私はまだ名前の無かった義弟を"あまと"と名づけた。


今考えるとどうして3つになる子供に名前がなかったのか不思議だけどとりあえず名づけた。


雲一つ存在を許さないと言うほどに真っ青な空の色を移した目を持つ義弟を、それ故に心まで青く澄み渡った人に生るよう、願いを込めて。


5つの子供が考える事じゃ無いみたいに聞こえるけどこれは残念ながら事実であって。


人間というのはどうにも利口な生き物らしく、生まれ落ちた瞬間から大人だらけ、それも甘えを許されない環境で育てば大人びた風に育つのだ。


ちなみに"さや"という名前を私に付けてくれたのは今は無き兄。彼はその名をアカリという。


15歳差の兄は僅か18の時この世を去った。


明るい笑顔が唯一、ある言葉と共に今でも色濃く記憶に残っている。


『さや、お前の名前は兄ちゃんが付けたんだ。父さんと母さんが付けさせてくれたんだよ。お前はまだ小さいから分かんないだろうけど、今日を迎える兄ちゃんに対してのさ、きっと親としての最後の愛情だったんだよ。なぁさや?行く前に名前の意味、教えてやるよ』


そう言って、兄は幼い私を抱きしめてくれた。


『お前の名前の意味はな』


「さや?」


逸れていた意識が戻る。目の前で天人が手を揺らしていた。


私を覗き込んでいる青い目は、不思議そうに瞬いている。


「え、何?」

「まーたトリップしてたのかよ?」

「…どーしようそれ否定できねぇよ姉ちゃん」

「ま、いつものことだし」

「…面目にゃいです天人君」


てへ、とふざけて自分で頭を小突く。天人が呆れたため息をついて覗きこむ体制から姿勢を正した。


天人は12のクセに14の私より背が頭一つ以上大きい。別に私が小さいからというわけじゃ無くて天人がデカいのだ。


「さや」

「ん?」

「まだ?」


リュックが重いらしく天人が担ぎ直しながら聞いてきた。


それに対して私は前方を見て道の確認をする。


「おぉう、トリップしちょる間に随分進んだな」

「…はぁ」

「ため息いらねーよ!あのリンゴの木過ぎたらもぉ着く!」

「リンゴ…?」

「そ。あれあれ!あれあれ〜?お母さんお金がないよ!振り込んどくわね、ちょいと奥さんアンタそれあれよあれあれ!あれあれ詐欺!なんつって!」


まさにゴミ。いや、塵を見るような目で義姉を見下ろす我が義弟。いい根性だコノヤロウ。根性入れたるから覚悟しな!


なんて思ってもかわいい義弟に根性なんて入れれるはずもない私は、氷点下まで下がった天人のテンションを上げるべく駆け出した。足に自信のある私の得意技の駿足だ。別名脱走ともいうけど。


ともかく走ってリンゴの木の前を通り過ぎた私は次の瞬間、声を上げ後ろをふりかえった。


「天人!」


早く早くと手招きする私にまたため息を落としつつ小走りに駆け寄ってくる天人。


「っとに無駄な体力使わすなよな」


可愛げのない義弟の言葉はガン無視の方向で、私は飛び跳ねて笑い思いっきり抱きつき目線をあわせた。


そんな私をぎょっとした目で見てくる天人に、今日1日ずっと言いたかった言葉を口にする。


「天人誕生日おめでとう!!」


にかっと効果音が付きそうなくらいそりゃあもう見事に笑えば、天人の腕が背中に回った。


本当に小学生かと疑うほどの腕に一瞬驚いたが義弟は義弟。すぐにその腕に身を委ねた。


───天人は父の愛人の子だった。それも北米の美人な金髪碧眼。良くある愛人の子だからと陰険な虐めや、それどころか母の色を移した天人の目を厭う者は私達家族には1人もいなかった。


私の母も天人を愛していたし、祖父母もそうだった。そしてもちろん、私も天人を愛す1人だ。


2つしか年の差は無いけれど、初めて会ったあの日から、なぜか私はすんなりと、無条件に天人に愛情を持つことが出来ていた。


「…天人」


だからかもしれない。


愛人の子でありながら実子の私より愛され可愛がられ大事にされてきた天人を嫉ましく思わ無かったのは。


「姉ちゃんからの誕生日プレゼントは山登りの達成感と、この景色だよ…」


だからかもしれない。


今から私がしようとする事に、僅かな戸惑いを感じてしまうのは。


「さや?」


私は天人から離れ、今目の前に広がる場所に足を進めた。


ここはいわば秘密基地のような物。兄が生前一度だけ連れて来てくれたここに、私は誰にも秘密で足を運んでいた。


山道を抜けるといきなり現れる、青々と茂る丈の短い草だけ生えているこの場所はやけに開放感を感じる。山の中腹辺りにあれど、最端なのか崖があり、その直ぐしたには私と天人の育った家があることを、私は一度だけ崖から身を乗り出して見下ろした経験から知っている。


余りに高いから怖くて二度とちかづかまいと考えたそこに、私は迷わず足を進めた。


「ね、天人。良いこと教えてあげよーか」

「…別にいい」

「即答!?なんで?」

「だってさやアホじゃん」


ガサガサと音を立てお菓子を取り出したらしい義弟からの痛いお言葉。小鳥のようなピュアハートが痛むじゃないか。


「…名前の意味だし!アホ関係ないし聞け!」

「天人の意味?んなこと知ってるよアホ」

「またアホって言ったー!!」


馬鹿みたいな会話をしながらも私が決して振り返っていないことに天人は気づかない。ボリボリお菓子を食べる音に思わず苦笑。身長は年に合わないのに、我が義弟は精神年齢が低い傾向にあるらしい。


「まぁ姉ちゃん大人やけ許しちゃげるか」


ボソッと言った言葉はバリバリ音にかき消されたらしい。


「ほんとーはミサヤやったそ」

「俺?」

「うんにゃ私」

「へー」

「でもアカリ兄ちゃんはギリギリんとこで止めた」

「アカリ…?俺等の兄ちゃんか!…なんで?ミサヤでも良かったのに」


私は、ははっと自棄に大きく笑った。天人にこんな話をするなんて、変な感じ。天人はアカリ兄ちゃんのことなんか知らないのに。


「"さや、お前の名前は兄ちゃんが付けたんだ。父さんと母さんが付けさせてくれたんだよ。お前はまだ小さいから分かんないだろうけど、今日を迎える兄ちゃんに対してのさ、きっと親としての最後の愛情だったんだよ。なぁさや?行く前に名前の意味、教えてやるよ"」

「あ?」

「アカリ兄ちゃんの言葉。私が三歳の誕生日の時に言ったそ、ここでね」

「ここって…ここ?」

「そー。その後に"お前はミサヤって名前になるはずだった、でも余りにも"…」


そこでいったん言葉を切った。果たして天人はこれを伝えるに値する人間なのだろうか。


「余りにも?」


先を促す天人。私にとっては弟であり義弟。でもアカリ兄ちゃんにとってみれば天人は、見ず知らずの…他人?


"他人には言うなよ?さや"


最後に言ったアカリ兄ちゃんの言いつけを破ることになる?


「さや…?さや姉ちゃん!」

「ぅわ!」

「ぅわ!じゃねーよ!…またトリップ?」

「トリップってか、考え事的な?」


うふっと小首を傾げると、おぇっとわざとらしい声。


気持ち悪がるもなにも私アンタのほう見てないんだから分かんねーだろ!なんて怒声は大人だから言わない。


「ね、天人。これから言うこと、私の知らない…将来きっと出来る大事な人にだけ教えてね」


私の知らない?将来大事な人?

ひゅっと喉が鳴った。


胸が痛むのは、きっと気のせいじゃない。





















「北霜羽詩羅?珍しい名前だね」


そう言えば、無理して作った痛い笑顔じゃない、本当の笑顔が見れましたか?

お疲れ様…でした;;次回は断然短いです!

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