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月に吠える。

ゲーム筐体をかき分けて声の方に進むとやっとそれらしい事が聞こえてきた。

「んだとコラァあああああ!」

店の中央に広がっている所謂UFOキャッチャー辺りで揉めているらしい。

ちなみに商品はぬいぐるみとかカワイイものではなく大人のジョークグッズがメインである。

「だからやめろと言っただろう!」

もう声だけでわかる。良いとこのぼっちゃんか青年だ。

自分は初めて遭遇するけれど、時折一般人が入ってきて常連と揉めることがあるらしい。

怖いもの見たさや高校デビューがイキッて入ってきては入口にいたようなビーバップと揉めて二度と来なくなる。

前項で

「店内ではおイタご法度」

と書いたけれど、あくまで「木刀や鉄パイプや刃物を使った乱闘レベル」がご法度なだけでカツアゲもトイレに連れ込みも小銭チェックジャンプも普通に行われている。

ので、この程度のもめ事では店員は基本的には出てこないし干渉もしないし何故か警察も来ない。

数々の灰皿トラップとゲーム筐体トラップ(接触するとプレイしているビーバップとエンカウントする)を潜り抜けて、やっと声の主が見えた。

おぉ・・・もう・・・

バッチバチにリーゼントと変形学生服というレッドゴブリンにおける正装に身を包んだ三人組。

対するは左手を水平にあげて女性を背に庇うブレザーのセンター分けイケメン(身長180くらい)

こんなの例えイケメンが悪くてもビーバップが悪者に見えちゃう恐ろしい構図。

「・・・ん?」

今にも飛びかかろうとしている狂犬みたいな男になんとまぁ見覚えがあった。

見覚えどころかちょっと大げさに言うと命の恩人だった。

「りーち君?」

恐る恐る声をかけると狂犬は急に人間に戻った。

「・・・・つづりか!?おーぃマジかよ!つづりじゃんかよー!」

お前変わってねーなー!ってすんごい笑顔で飛びついてきた。いや、比喩ではなくマジに飛びついてきた。

ひとしきりハグして背中をバンバン叩かれてグッと顔を覗き込まれた。

アサミヤ リーチ。

彼は中学で3年間同じクラスだった。所謂不良と呼ばれる生徒で素行や口や行動は悪かったけれど、3年間絶対にいじめを見過ごさず、他クラスのいじめっ子を文字通りぶっとばしていじめられていた不登校児と友達になった。

教師からも「彼を不良とは呼ばない。勉強嫌いの元気な子」と言われていて、評価は悪くなかった。

誰から見ても地味でついいじめたくなると言われる自分が3年間いじめに合わなかったのは常にリーチが目を光らせていたからであり、学校生活が楽しかったのはリーチが面白おかしくクラスを盛り上げてくれていたからだ。

そんな彼とも高校受験で分かれる事になった。彼は勉強嫌いが祟って県内でも最も荒れている「ヤの付く自営業の人が高卒までモラトリアムを楽しむために通う学校」に行くことになった。

「つづり、おめぇはこんな所来ちゃいけねぇ。夜になる前に帰りな」

笑っていた顔を引き締めてさっそく人の心配をする。彼には本当に頭が上がらない。

けれど、だからこそこの事態を放置できない。

自分には彼が相対している相手が誰か分かっていた。おそらく彼は知らずに揉めていると思う。

アラガキ ジン。

この「町」で一番偏差値の高い高校に通うイッコ上の先輩でこの「町」の有名人。

祖父、父親が議員を長年務めて花形である漁業の組合長もほかにもいっぱい兼ねている家の次男坊。

この「町」で一番のセレブと言っても過言ではない。

対してリーチの家は代々漁師で将来リーチも漁師になる。ここでアラガキ家と揉めるのは絶対にダメだ。

「リーチ君、どうしたの?なんで揉めてるの?」

彼は短気だが所謂因縁を付けて喧嘩をすることはない。何か理由があっての事だと思う。

「どうもこうもねぇよ!おれぁあの嬢ちゃんがUFOキャッチャー覗いてっから”そんな見るもんじゃねぇよ”って声かけただけだぜ」

リーチはそう言ってアラガキ ジンの後ろに立つ女性を指さしてそう吠えた。

その時に見た彼女の顔は今でも忘れられない。

うっすらと、笑っていたように見えた。

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