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第八十五話:と或る食処の悪唄

 ガルジェが良いお店を見付けたと言うので僕等は夜の街へと繰り出して来た。

 灯りは暗いが辺りは思った依り見える。


 此う見ると、此の街はかなり綺麗だ。

 煉瓦造りのがっしりとした建物が並び統一感が有る。

 中には昔の名残りなのだろう、明らかに不釣り合いで大袈裟な塔が在る。


 元々は砲台や魔導砲を置いて居たと聞く。

 要塞都市だから。当然と言えば当然かも知れない。


「……てか、ファルダ何処行ったんだ?」

 ヷルトが当然の事を訊く。


「う〜ん、何か、途中で村に戻るとか言って帰っちゃった。

 一応、引き留めはしたんだけど悪い予感がするとか何とか。」

 彼が呆れるみたいに苦笑をした。自由奔放だ、と思った。

 やはり魔物だからなのだろうか。


「ま、そういう感って、意外と当たったりするからな、或る意味正解かも知れないぞ?」

 ヷルトが彼の肩に手を置いてまるで子供を見守るみたいに微笑んで居る。


「んまぁ……。」


「あ、着いたぜ!! ココ!! ココココ!!」

 彼は『カインドロフ・ミュッゴ̊レㇰ̊゛』と書かれた看板が掲げられた店にやって来た。

 中からがやがやと声が聞こえて来る。那処みたいな店では無さそうだ。

 客亭、と言うとお店の雰囲気に合わなさそうだから、〜のお店、と言った所だろうか。


 ……又、カインドロフだ。


 多分、前世で云う田中、佐藤、位一般的な名字何だろうが、何故かむず痒い……まるで、自分の事を言われて居るみたいだ。

 僕は左腕をぽりぽりと掻いた。


「ねぇ、もしかして……?」


「いやぁ、まぁ、最初は兄貴と一緒の名前だなー、とは思ったけど。」

 思ったのか、やっぱり、と言うべきか。」


「けれど、案外美味しかったからな!

 幾ら兄貴の名字を冠してるとは言え不味かったら来ねぇぜ。」


「……本当?」

 僕はちょっとにやつきながら話し掛けた。


「ほーんーと。」

 漫画みたいに頬を膨らませて言っている。

 本当に分かり易い。悪い意味で言っている訳では無い。

 寧ろ、好意だ。


 だけどふふふと笑って下を向いた彼は視線を扉へと向けてドアノブを勢いよく捻った。


「おーっす! 大将ー!」

 彼が店の中へ入ったのを確認して僕等も中へと入って行く。

 中は思った依りがやがやとして居た。


 丸いテーブルが幾つか在って其処に椅子が四つ在る。勿論、カウンター席も存在して居る。

 奥に在る少し段差に成って居る所では楽器を演奏して居るみたいだ。


 ゆったりとした、でも何処か不思議な音楽が流れて来る。

 音色も其うなのだが、聞いた事も無い音階と言えば良いのだろうか。

 

 人々がぺちゃくちゃとは話して居る。中には豪快にお酒を煽って居る人も居た。

 ランヷーズらしき人も見掛ける。比較的庶民的な食処みたいだ。

 

「おうお前又来たのか、其処の悪魔みたいな人はお仲間さんか?」

 カウンター席に居るヅィー族の男性がビールジョッキみたいなのを持ちながらはははと笑って居る。


「もうセニョールさん兄貴は悪魔じゃねー!!

 此う見えても凄いんだぜ!!」

 ガルジェは半分怒った様な半分笑った様な表情に成って居る。

 

「ははは冗談だ冗談。」

 彼は其う言ってジョッキに入って居る黄金色の物体を喉に流し込むみたいに呑み干した。

 空に成った其れをカウンターにドンと置いた。


「大将ー! もういっちょー!」


「……はい。」

 コヨーテみたいな男性は其れを受け取ると裏へと行った。

 僕等はガルジェに連れられる儘席を探し始めた。


「あちゃ〜……今日カウンター席しか無いみたいだな。

 四人分空いてるし座っちゃおうぜ。」

 と言って彼はヷルトの手を取って座った。

 彼は席を確認するみたいにゆっくりと着席した。

 丁度、セニョールとか呼ばれた男性とガルジェが隣に座る形に成って居る。

 隣にはヷルトが居る。


「いや、ソイツ裏では悪魔って呼ばれて居るらしいぜ?」

 セニョールとか呼ばれた男性の隣に居る男性が余計な事を言った。


「え、本当か?」

 大将からジョッキを受け取ると僕の方をくるっと向いて訊いて来た。


「まぁ……みたいです。自分でもよく分から無いんですが……。」


「へぇ、其うなのか。」


「はっはっは本当に悪魔とは傑作だぜ!!!」

 唐突に後ろから声が聞こえた。誰だろうと振り向くと細身のヅィー族の男性がお酒を呑みながら言って居た。軽装を着て居るからランヷーズか?


 周りは又か、みたいにやや蔑んだ様に其奴を見て居た。


「止めろ!! 那あ云う優しそうな奴に限って怒った時ヤバいんだぞ!? 悪魔だ悪魔!! お前の首何て一発で斬れるぞ!?」

 隣に居る男性が必死に彼を鎮めようとして居るのが見えた。


「……アイツは気にし無い方が良い。」

 セニョールが僕に其う言って来た。


「其う……ですね。」

 僕は気にしない様に彼の方を向くのを止めて前を向いた。


「取り敢えず、何か頼もうか?」

 ヷルトが状況を汲んで僕に笑顔で其う言った。


「お! なら兄貴那れが良いぜ那れ!!」

 ガルジェが上の方向を指す。

 其方の方を見ると掛け軸みたいな物に『モルガニレ』と書いて有った。


 値段は二百五十ベリル。お求め易い価格だ。


「おーい反応しろよ其処の悪魔ー!!」

 未だ煽って来るのか、心底其う思った。

 僕が正直面倒臭いなと思った時奴は途んでも無い言葉を発した。


「腰抜けー! クソ猫ー! ヒャッガ!!」

 其の言葉が発せられた途端、目線が彼の方向を向いた。彼は人差し指と小指を立てて居た。空気が凍り付く。音楽もピタリと止まった。

 多分、ヒャッガって言葉を獣人言うのは、前世で言う黒人にニガーと言うとか、黄色人種にイエローモンキーと言うのに近いと思う。


 と或る虎の獣人が口からぐるぐると声を洩らしながら彼を睨み付けて居る。

 其んな状況なのに、彼はへらへらとしてお酒を呑んで居るみたいだった。気にも止めて無いみたいだ。


 うわ、なんだコイツ。


 僕は引いた。引いたと言うか、心の底から蔑んだ。

 初対面だが、此奴とはもう話したく無い。


 幾ら酔ってるとは云え、人に其う云う事を平気で言う人は嫌いだ。


 酒は人の写し鏡だと思う。つまり本音が出る。心の中で其う思ってる、って事じゃないか。


「お、お前……!!」

 ガルジェが立ち上がって彼を睨み付ける。


「ガルジェ、止めて。那んな奴に関わるだけ無駄だよ。」

 口論に成って疲弊でもしたら僕は其れこそ嫌だ。


「け、けど……!」


 すると、何処かへ料理でも運んで居た店主が僕の目の前へ戻って来た。


「すいません、此方で何かサービスしますので……

 彼は出禁にします。私のお客様がご迷惑をお掛けして本当にすいませんでした。」


「あ、いえいえ……大将さんが謝る様な事では……。」

 出禁にするのには僕も同意だけれども、別に大将の人が謝る事じゃ無い。

 ヷルトがはぁ、と溜め息を吐いた。


 カウンターにドンと手を突き椅子を後ろに下げると彼の方向をくるっと向いた。

 ドスドスと物凄い音を立てて彼に近づいた。彼は其の行動み驚いて居るみたいだった。


「……なぁ。」

 何時も聞いた事の無い様なドスの効いた声を発する。

 其の物凄い形相に僕も息を呑んで了う。


「な、何だよ?」

 言葉は困惑して居る。

 

「お前ランヷーズだよな? 他のランヷーズを貶す、増してや差別用語を使うなんぞ規約違反だ。

 登録した時に見無かったのか?」


「其れが如何した。規約何て其んな守ってる奴居んのかよ。

 所詮建前にしか過ぎねぇだろ。」


「規約は皆が守るから意味が有るんだ。規則を作って物事を潤滑にする為、又他の人に迷惑掛け無い為、被害を受けた時に報告し易くする為……とか、色々な。」


「話が逸れたな。戻そう。」


「で……だ。規則が有るからには守らねば成らない、其れを違反した……って事は、分かるな?」


「規約には此う書いて有る。『規約十三条、ランヷーズは節度有る行動を守る亊。例として、他のランヷーズにヒャッガ(獣人への蔑称)ビュガㇻ̇ヂェ(ヅィー族への蔑称)ゴ̊メー(ファール族への蔑称)ロ̈ッヷ̇(アリーク族への蔑称)等と謂う差別用語を相手に使う事。』」

 彼は淡々と、けれど何処か怒って居る様に言った。勿論ランヷーズなら知っては居るのだが、良く細かい所迄覺えて居たな。と思った。


 彼は話を続ける。


「と、書いて有るんだ。」


「で? だから??」

 其れでも彼はへらへらとして居る。

 自分が置かれた状況を全く分かって無いみたいだった。


「ランヷーズには顔も住所も登録して有るんだ。お前の顔は分かるよな。緑色と水色の眼。かなり特徴的だから少し探せば分かるだろう。」


「でも言ったって証拠はねぇじゃねぇか。」

 へへと薄気味悪い笑いでジョッキのお酒を呑んで居る。


「此処の店の全員が聞いて居るだろう? 此れだけ居れば、証言としては信憑性が高いだろうな。」

 ヷルトが其う言うと周りの人も其うだ其うだと言ってざわざわとし始める。


「…………。」

 彼は其処迄言われて言葉に詰まった。

 さっきの威勢の良さは何処へやら。


「さ、如何する?」


「いや、いやだって俺は悪かねぇし……。」

 彼は焦りを隠すみたいにお酒を呑み干した。

 そしてジョッキを大将の方へ差し出して居る。


「なぁ! 大将! もう一杯!」

 大将は彼に向かって歩いて行くとジョッキを受け取り机に置いた。


「お、おい……!」


「もう貴方は来無いで下さい。」

 と言うと首根っこを掴みずるずると引き摺って扉の外へとひょいと投げた。

 そして扉をバタンと閉めるとスライド式の鍵をがちゃんと閉じて了った。


「ちょ、おい! コノ!!」

 彼は絶叫して居るみたいで金切りを上げると扉をドンドンと叩いて居る。

 段々、ギシギシと軋む音が聞こえる。


「此れだから獣人は!!!!」

 捨て台詞を吐いてドゴンと大きい音を立てると其の後は嘘みたいに静まり返った。

 何も音がし無い。


「……やるじゃん!」

 周りの人が立ち上がり彼に近寄る。

 ひゅーひゅーと口笛を吹く人も居る。

 音楽は彼を讃えるみたいにアップテンポで厳かな物へと変わった。


 けれど、僕は少し居心地が悪く、何か煮え切らない思いが有る様な一種の気持ち悪さを感じて居た。

此れです、前回休んだ原因コイツの所為です。

此う云うキャラクター書くの苦手何ですよね……勿論、キャラクター性も苦手です。


悪い事やってるけれど其れは飽く迄善意とか何か恨み辛みで、自覚はして居る、なら書き易いのですけれども、悪い事を悪い事と分からず尚且つ教えても分から無いってキャラクターは本当に……苦手です。


けれど偶には此う云うシーンも無いといけないかなぁ、と。

飽く迄リングさんの人生の一部を描くのですから、其うしたら嫌な事の一つや二つは必ず有りますからね。


此の作品が面白いと思ったら評価をお願いします。

モチベに成りますので、宜しければ。


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