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第八十一話:今昔の感

「ねぇさ、ヷルト。」

 僕等はやる事をやって食事も食べて布団の上に座って居た。


 お節介だとは思うのだが、奥さんに会わせてあげたい。

 けれど、飽く迄善意だとはしても、彼が会いたく無かったら只の押し付けに成って了う。


 自然に、成るべく綺麗に彼が如何思って居るか訊きたい。

 だから無難な話から話を始めたい。


「……奥さんってさ……如何だったの?」


「急に如何したんだ?」

 彼は訝しげに、けれど何処か嬉しそうに話し掛けて来た。

 ……もしかして訊く話題を間違ったのだろうか。


「いやぁ……此う云う話、訊いて無かったなぁ〜、って。」

 僕は本当に只の興味本位なんだよ、とでも言う様に頭を掻いて笑った。

 実際は会いたいのか如何かなのだけれど、半分は本当だ。


「ふーん、そっか……まぁ確かに、彼女の事に付いては話して無かったか。」

 とぽつぽつと言葉を絞り出すみたいに喋り始めた。


「彼女はなぁ……とても良い女性だった。

 偶々村の外へ出て買い物をしてた時に出会ったんだが。」 


「もう、一目惚れして了ったな。あの美しい水色の瞳を見て居ると……

 なんだか、吸い込まれそうで……惹き込まれそうで。」

 彼はベッドの机に置いて有ったワイングラスを取って一口飲む。

 ……寝る前のお酒は良く無いと聞くのだが、平気なのだろうか?


 けれど、楽しそうに語る彼は何処か哀愁が漂って居た。

 まるで秋の日に葉も一つ無く成って棒立ちして居る樹木みたいに。


「もう俺は其処から猛烈に彼女にプロポーズをした。貴方が好きです、付き合って下さい! って。

 最初はしつこいと思われたと思う。だって、あしらわれて居たしな。」

 ははは、と乾いた様な笑いをすると、はぁ……と溜め息を吐いて僕から目線を逸らす。


「けれど、何時の日だったっけ、付き合いましょうって返事が返って来たんだ。

 もう俺は喜んだ、心の中ではうっきうきだった。きっと、余りにもしつこいから根負けしたんだろうけどな。

 彼は目線を戻すと又其のお酒をごくごくと呑み始めた。


「其処から……旅行したり、デートしたり……。」

 

「楽しかったなぁ、那の時は。」

 斜め上を見て昔を懐かしむ様に。懐旧するみたいに目を細める。

 彼のやや大袈裟な物言いは少し酔って居る様に見えた。


「そしてトントン拍子で結婚してさ……家も買ってさ……。」


「村の人達から冷やかな目で見られた事も有ったけれど……でも何やかんやで祝ってくれたり……。」


「ランヷーズ稼業も上手く行ってたんだ。」


「……なのに、なのになぁ……何故……。」

 顔を俯き加減で眼をごしごしと擦って居る。

 悔しいのか、純粋に悲しいのだろうか。


「多分、不満も有ったんだろうなぁ……彼女、借金を抱えて居たらしくて……。」

 成る程、其処でもう付き合い切れないと出て行って了った訳だ。

 ……でも、本当に其うなのか?


 何か、何処か、話が不明瞭に感じたのだ。裏に何か有りそうな気配がする。

 只々其う怪しいと疑り深く感じて居るだけか、僕が誰とも付き合った事すら無いから其んな戯言を言えるだけなのだろうか?


「おまけに彼女が蒸発してから分かったんだ。」

 彼のお酒を呑む手が止まら無い。


「もう、最後には俺は愛されて無かったのかも知れないな……担保人が俺に成ってて……。」

 顔を完全に真下へと向けると顔を掌で覆って居るのが見えた。


「……もし、もう一回会えるとしたら……会いたい?」

 もう彼の其の凄惨な出来事に同情をして居た。

 囁く様に、慰める様にゆっくりと話し掛けた。

 彼の傷口を深く抉る事に成って居無いだろうか?


「そりゃ……会いたい、けれど、無理だ……五十年も経ってるし。

 ……会いたいが会いたく無いな……だから、違う姿を選んだ……。」

 虚しそうに僕の顔を見る。視線はぶるぶると震えて居た。

 まるで嗚咽を漏らして居るみたいな様子だった。


「ま、純粋に他の種族に為りたいってのも有ったんだがな!」

 此の重苦しい雰囲気を取り除くみたいに無理矢理口角を上げてはははと乾ききった笑いをする。

 其んなに無理し無くて良いのにな。


(いづ)れにせよ後悔だけはして無いさ。

 ……気掛かりでは有るんだけどもな。

 幽霊に為ったのも、きっと其れが原因だ。」

 何時もの真面目な表情に戻って自分自身を客観視するみたいに冷静に言った。


「……そっ……かぁ。」

 僕は余り納得せずに頷いた。

 本当に大丈夫なのだろうか?


 本人が言うなら、其う信じるしか無い。

 彼はグラスを持って何処かへ行くと、其のグラスは無く成って居た。

 そしてベッドの上に在る明かりを消した。多分暖炉も消したのだろう。


「あ、ヷルトさ。」


「……何だ?」

 彼は不思議そうに僕の眼を覗き込む。

 彼の紅い目玉はビー玉みたいにぴかぴかして居る見えた。


 寝る前に、此れだけは言わなければ成らない。

 

「名字、分かったよ。」


「……ホントか!?」

 半身を布団へ潜り込ませて居たのだけれど、遅刻に気付いた学生みたいにガバッと起き上がり目を見開いた。


「うん、ギュベル・ドヷルト、らしい。

 昔有望な人物だったけど何時の日か失踪して了ったランヷーズとして有名らしい。」


「はー……俺其んな事に成ってたのか……ほんとに、違う姿選んどいて正解だったかもな。」

 首に手を当てると苦笑いをして少し視線を外した。

 全く同じ姿なのに昔依り若返ってランヷーズをやって居る何て周りを驚かせる事に成るだろう。

 もしかしたら、其れでは済まないのかも知れない。


「ま、ありがとな。」


「うん。」


「……じゃあ、おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

 彼は布団を布団を被ったのを確認して、僕は目を瞑った。

 今夜はぐっすりと眠れそうだ。

ヷルトの過去話は前にもしましたが、今回は妻に付いてのお話です。

なので一部少しながら被って居る所が有ります。

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