第七十五話:レ̈ヸ̇ア料理※
十月十一日。タイトルを修正しました。
十月十二日、段落を一つ下げ、誤字を修正しました。
中指突き出したら駄目でしょ!!!!
僕等はゆっくりと一階へと降りて来た。
「此処はねー、食堂みたいなのが併設されて居るんだよね。」
後ろの居る彼を見て階段の手摺りを持ちながらゆっくり歩いて居る。
「へー……。」
彼は尻尾を振って少し嬉しそうな顔をする。
「なぁ、合ってんのか? 」
那れから数十分だろうか。
訳の分から無い所へ歩き続けて居る所為で不信がって居るのだろう。
「合ってるよ、大丈夫。」
僕は彼の手を握って誘導する。
其の掌はふにふにして居て気持ち良い。
僕はソファーの上に有る絵画みたい物の前で立ち止まると、
其れをトントン、と叩いた。
絵画に描いて在った髭を生やした男性が目をギョロギョロさせ、
口を開いたのが分かった。
低く、そして唸る様な声で喋り掛けて来る。
「……暗号は?」
「ミラボス通りの喫茶店。
珈琲とフ̇ェㇻ̈ヹ̇ㇻ̈ナを一つ。」
僕は人差し指を立てて暗号を思い出す。
すると、絵画の人物は目を閉じて、
ギギギギと云う歯車が噛み合う様な音を立てると、
少し奥へと移動して内側へとパカっと開いた。
僕は其の中へと入って行く。
薄暗くて長い通路が続いて居る。
「此処の宿はね、元々軍事施設だったんだって。」
僕は後ろを振り向き、此の暗い所で怪しく光る彼の目を直視する。
「え。」
「そ、戦争も終わって買い取ったんだって。
だから此う云う機構が在るみたいよ。」
「けど、其したら何の為に?」
「うーん、防御機構と云う依りかは、
軍の官軍とか重要な人しか入れない様にする為じゃない?」
那の暗号は如何やら昔活躍した武人のルーロ大佐が生前好きだった食べ物と言われて居る。
もし其うだとしたらきっと甘党だったのだろう。
「……あー、成る程なー……有りそうだな。」
彼が段々と狭く成りつつ有る天井に身を屈めながら言った。
其んな話を繰り広げて居ると僕等は少しづつ明るい所へ踏み込んで行った。
まるで陽の光みたいな明るい白い光が差し込んで来る。
きっと、魔力か何かで照らされて居る人工灯なのだろうけど。
其れに伴い、何か美味そうな匂いが感じ取られる。
其処はレストランみたいな所だった。
黒っぽい黒檀みたいな木材で壁が造られて居る。
少しレトロちっくで御洒落だ。
床はさっきの木材と其れ依りも明るい材質でチェック柄が形成されて居る。
フルーティーで芳醇なお酒の香りと、
バターみたいな物が焦げた匂い、
小麦やら野菜やら茸やらと様々な匂いが鼻腔を通る。
此れを嗅いで居るだけでも満足して了いそうだ。
彼を見るとフレーメン反応みたいに鼻をひくひくとさせて驚いて了って居る。
此んな色々な匂いで鼻を殴られたら其う成るのも無理は無い。
僕は手を離して窓際の席へと座った。
何時もはカウンターに行くから、此処に座るのは初めてだ。
窓からは石造りのフランスみらいな道路と、
其処を歩く色々な人々が見えた。
パンの袋を大事そうに抱えて居る少年に、
きっとセレブだと思われる金属や宝石をじゃらじゃらと身に着けて居る女性。
そして、ボロボロの服を着て呆然と、ゆっくりと歩いて居る若者。
窓越しに見て居ると其んな光景さえ綺麗に写って了う。
僕達がぼーっと其んな光景を眺めて居ると、
若そうな茶色っぽい毛皮の、そしてタキシードを着た狼の男性がそっとメニュー表を置いた。
革で作られた正方形のケースに、
かなり頑丈そうな紙に綺麗なブロック体で文章が書かれて居た。
「何頼む?」
コース料理は如何やらイゥ゛レ̈ヸ̇ア、エキ゚ャレ̈ヸ̇ア、ウㇻ̇ラレ̈ヸ̇アと書かれて居た。
写真は載って居らず、内容だけ、だ。
何れにしよう。
ところで、イゥ゛、エキ゚ャ、ウㇻ̇ラは感覚的に、
英語のA、B、C、みたいに最初の三文字に当て嵌まる文字だ。
けど、音は違う。日本語でイ、エ、ウ、に当たると思う。
「……なぁ、コース料理の所、値段書かれて無いんだが……。」
ヷルトが其れを指してミスなのかと問いかけて来る。
「あぁ、此処、コース料理代は宿泊費に含まれて居るんだよ。」
「え、其れって……大丈夫なのか?
色々と……。」
其れを胸の辺りへと持って来て少し体を前のめりにさせ訊いて来た。
此れで四万ちょっとだから、其の意見は良く分かる。
「まぁ……此うやって経営出来て居る限り、
平気なんじゃない?」
飽く迄きっと、だが、窓の方へと視線をやって答えた。
もし赤字だったら申し訳無いが。
「そうか……? 取り敢えず、何れにする?
イゥ゛レ̈ヸ̇ア、エキ゚ャレ̈ヸ̇ア?」
珍しく迷って居る彼に僕は直感で決めた物を答えた。
「イゥ゛レ̈ヸ̇アにしよ?」
すると彼は大きく頷き、
「……うん、其うだな、すいませーん。」
と言って従業員を呼んだ。
「「……神様の涙と共に食事を頂きます。」」
僕等はグラスをカンと合わせて翡翠の様に煌びやかな白いワインを飲んだ。
パチパチと閃光みたいに弾ける様でフルーティーな味が広がる。
けれど其処迄甘くは無い。辛口か?
僕等は運ばれて来たフ̇ィーショッㇷ゚レ̇イㇳ゛を楽しみながらお酒を嗜む。
今回のフ̇ィーショッㇷ゚レ̇イㇳ゛はとカ̏ㇻ̇バグ̏ㇻ̇と云う魚に、
固体に為ったケ̊ㇻ̇ㇰレ̈イㇻ̇が乗せて在った。
まるで一種の芸術作品みたいなピンクと白の物体を口に運ぶ。
塩漬けのカ̏ㇻ̇バグ̏ㇻ̇に甘めのケ̊ㇻ̇ㇰレ̈イㇻ̇が良く合う。
此れはお酒が進むや。
「此方、前菜のダㇲボッ゛フォㇻ̇アロとヒャクッ̻̌のヒューッッです。」
さっきの狼の男性がサラダみたいな硝子の皿をコト、と二つ置いた。
にしても、何て言った? ダㇲボッ゛フォㇻ̇アロ?
此れ、確か香りは良いけどえぐみの凄い茸じゃなかったか?
恐る恐る、フォークで突き刺して口に運ぶ。
口内には爽やかな香りと其奴の旨味、
更にはヒャクッ̻̌のしっかりとした味が土台に成って、
ウィーズポォルのソースの、何処か癖の有る味わいが美味しい。
何だ此れ。個性が潰し合うと思ったら寧ろ相互作用で持ち上がって居る。
例えるなら凸凹トリオの勇者パーティーの様。
僕等は其れを食べて居ると、
次はスープが運ばれた。
見た所、クリーム色で余り見た事の無いスープだ。
やや瀞みの有る其れをスプーンで掬って飲んでみる。
ゲ̏ㇻ̇コ̊ゥ̻゛のスープと言って居たが、果たして。
一口飲んでみるとまるで陽の光みたいなまろやかさが口に広がる。
十分に旨みが口の中へと伝わる。
ふと、窓を見てみるとちょっとずつ雪が降って居るのが分かった。
「……凄いな。」
ヷルトがほろ酔い気分で片手にグラスを持ち、
少し笑顔で其う言った。
何だか、此方も嬉しく成って来る。
「此れだけじゃ無いよ。」
未だ、メインさえ来て居ないのに。
僕はちびちびとワインを飲んだ。
「此方、メインのベㇻ̇ㇺマェリ̈アッㇳです。」
其う此うして居ると彼が右腕を土台にして何かを持って来た。
多分此の魚は腹の大きいㇰロ̇ㇷ゚シャェンㇳ゛だろう。
彼が腹をナイフで割くと中からコ̊ㇻ̇ミーと野菜がもわもわと湯気を立てながら出て来た。
「……さっきから気に成って居たんだけどさ。」
魚を取り皿に移して其れを啄むと、
彼はワインを飲み干して弱い声で話し掛けて来る。
「何?」
「此処の従業員、獣人しか居なくないか?」
如何やら彼は此処から厨房が見えるらしくて、
もふもふとした毛皮か爬虫類系の鱗しか見えないみたいなのだ。
「あー……。」
僕は前に来た時に聞いては居るが、
従業員から聞いた方が面白いだろう。
「聞く? 凄いよ。すいませーん。」
僕は狼の男性を呼び止めた。
「はい、何で御座いましょうか。」
彼は銀色のお盆を脇に挟みながら此方にやって来た。
「すいません、お忙しい所、
此のレストランの歴史に付いてお話して頂きたいのですが……。」
「はい、かしこまりました。」
すると彼は深々と頭を下げると、
右手の人差し指を出してお盆が何処かへ飛んで行った。
「えー、当レストランは旧暦ですと3296年、
新暦ですと1360年に設立されました。」
旧暦、新暦、と云う言葉が出たが、
此れは日本で云う陰暦と太陽暦みたいな物だ。
今は新暦では1438年だから大体七十年前だ。
「其方に飾られて居ますのが初代シェフ長のヴャードン・フュルベシェフ長です。」
其処には金の額縁に絵画みたいな物が飾られて居た。
多分野猫とか其う云う奴だろうか、少なくとも猫科の様に見えた。
「元々、此処は獣人が働くレストランとして設計されて居ませんでした。
勿論差別……と云う面も有りましたが、
何方かと云うと衛生面からの問題なのでしょうがないのですが。」
「ですが、オープン当日、従業員が皆連絡も無しに止めて了い、
急遽、パン屋で非正規で働いていたヴャードン・フュルベシェフ長を雇い、
其の他は其処等辺で雇って来たらしいです。殆どが獣人でした。」
「しかし、やはりと云うべきでしょうか。
余り統率も取れず、最初は大変苦労したそうです。」
「おまけに、獣人許りと云う事も有り、
此処に来る人は殆ど居ませんでした。
寧ろ、誹謗中傷。時には、従業員には殺害予告。
此の頃は、差別も酷かったですから、宿に宿泊する人すら利用しませんでした。」
彼は何処か哀しげな目をする。元々濃い青の目が、
まるで深更の夜空みたいに依り濃く成った様に感じた。
「そして他の種族はみな辞めて行きました。
他の種族は、此の劣悪な環境依り、他に働き口が有りますからね。」
「けれども、獣人はヴャードン長を除き、
此処位しか働き口が無かったのです。」
「しかし、獣人は団結力だけは他の種族に負けません。
ヴァードン長が率先して皆を纏め上げ、
美味しい料理を作ろう、と其う成ったのです。」
「其処から、と記憶してます。
ドンドンと客が入る様に成ったのは。」
目を閉じて、人差し指を出してにこやかに笑う。
「ヴァードン長はレ̈ヸ̇ア料理、
と云う形式の料理を始めて作ったのです。」
此の話はビックリした。前世ではフランス、らしいのだが、
まさか此の国で、此の形式が産まれて居たとは。
ヴャードン長は転生者何じゃないだろうかと勘繰って了う。
「其うして、此のレストランは繁栄して行きました。
其のお陰なのか、何時の間にか獣人を差別する者は減って行ったのです。
正に奇跡と言いましょう!
「……と、此んな所でしょうか。
私自身、記憶がやや曖昧なので略筋しか説明出来無いのですが、
多分、此んな感じでしたね。」
彼は口に指を当てて何処か不敵な笑みを浮かべる。
「あの……。」
ヷルトが煙たい表情で彼に尋ねる。
「はい、何でしょう?」
キラキラした笑顔で彼にズズズイと近寄って行く。
彼は焦った様に言葉を紡ぎ出す。
「結構……其の断言した言い方は何故……何でしょう?」
普段割と誰にでも……と云うか此処の住民はタメ口で話す事が多いのだが、
其んな彼は尻込みして敬語でゆっくり質問して居た。
「あら、私銀狼なのですよ?
創立当初から此処で働いて居るのですよ。」
僕は椅子をガタンと音を立てて驚いて了った。
彼を見ると口をあんぐりと開けて驚愕して居た。
銀狼、は獣人族最強とも言われる種族だ。
魔力が多く、そして寿命も長く、きらきらとした銀の毛皮が特徴的だ。
何依り、僕の研究に関わって居る、いや、寧ろ僕の研究其のものだ。
けれど、彼には艶々とした、きらきらとしら銀の毛皮を纏って居ない。
狂言なのだろうか?
「……と、言っても純血では無いのですがね。」
ふふふと笑って彼から顔を逸らす。
何だ、其う云う事か。
心臓が飛び抜けるかと思った。
「私は母親が銀狼で父親がシンリンオオカミです。
だからなのですよ、私の毛皮が茶色いのはですね。」
流石に不味いと思ったのか、真剣な顔で右手を上げる。
……成る程、納得は出来た。
銀狼は一応他の種族とも子供を設けれるのか。
新たな発見だ。
「では、今後も御食事をお楽しみ下さいませ。」
ペコリとお辞儀をすると、
僕等に一言も言わせ無いで厨房へと戻って了った。
リングさんの研究して居る物が此処で分かりましたね。
……其れは其れとして、今回は良い感じに雰囲気が出て居るのではないでしょうか。
書いてて涎が出そうに成りましたもの。勿論誇張ですよ?




