第七十三話:翌日※
十月八日、居る、居る、許りで読み辛かったので修正しました。
次の日。
僕は何かがこんがりと焼かれたみたいな匂いで目覚めた。
収納魔法から首飾りを取りテントから出て確認してみる。
「おはよー。」
魔力竈でヴァルトが何か料理を作って居るみたいだった。
「あぁ、おはよう。」
彼は一旦手を止めて此方を振り向く。
挨拶をすると又顔を戻して料理を続けるみたいだ。
其んな彼に僕は近寄って横から眺める様に話し掛ける。
「ねぇ、何やってるの?」
「うん? あぁ、何か適当に朝ご飯作ってる。」
フライパンを手首のスナップでさっさと動かして居る。
中には半熟以上に成って居る卵が在った。
あれ、卵は腐り易いから持って来て無いのに何で其処に在るのだろう。
「……其の卵如何したの?」
僕は直接彼に訊いてみる事にした。
「うん? あぁ、ノルマが取って来てくれたから、
どうせなら使おうかな、って思って目玉焼きにしてる。」
一体、彼は何うやって取ったんだ。
其う思うけれども、今彼は何処に居るか分から無いから訊きようが無い。
「おーい!!」
噂話をして居ると彼が馬車を引いて此方に手を振って来る。
「あ、ノルマ。」
僕は後ろを向いて手を大きく振り返した。
フォトフルーがぶるぶると声を荒らげながら彼の後ろを歩調を合わせて歩いて居る。
「何してたの?」
彼の話を聞きながら机と椅子を用意する事にした。
「へー、で、ストレス溜まってそうだったから散歩してたの?」
僕等はテント等、出発に不必要な物を片付けたのだけれど、
其れも終わって了い彼と向かい合わせで喋って居る。
「まぁな……昨日色々有ったし。」
と言ってじろっと、半分怒った様な眼で見る。
其の茶色い眼で此れでもかと凝視して来るのだ。
「いや、あの、はい…………ごめんさい……。」
顔を下にやって本当にブチギレるのじゃないかと憂虞する。
其れに伴って声がだんだんと小さく成って行った。
普段優しい人が怒ると恐ろしく怖いが、
無表情な人が無表情の儘怒るのも十分怖い。
「……分かれば宜しい。」
其う言われ顔を上げると彼は紅茶を優雅に飲んで居た。
「ほいー、出来たぞー。」
其んな所にタイミング良く彼が料理を持って来た。
何やらプレートに色々な料理が乗って居るみたいだった。
目玉焼きに、フ̇ィㇻ̇レㇺボェㇻ̇ㇳ゛に、ゲ̏ㇻ̇コ̊ゥ̻とカイイェーㇻ̇ラッㇰの炒め物みたいな奴。
端の方にビョーマェㇻ̇がなだらかな台地みたいに乗っかって居る。
後ろを見ると、ヷルトが鍋で何かを装って居た。
「此れで全部だな。」
彼はお盆の上に三つ分木製の容器に入れられたスープを持って来てくれた。
傘の部分で無く、茸の軸を使ったみたいだ。
茶色い色で芳醇な香りがする。
「お、ありがと。」
僕が其う言うと少し嬉しそうな顔をして尻尾をゆっくりと降る。
「じゃあ。」
彼は椅子に座り自分の尻尾を気にしつつ、
手を祈る様なポーズで噛み合わせた。
僕等も其れに続き同じ様なポーズをする。
「「「日々の糧に感謝して、そして生き物に感謝し、神様がくれた食物を頂きます。」」」
僕は真ん中の茶筒みたいな物に入って居るスプーンとフォークを取り、
先ずはスープをゆっくりと口に運んでみる。
「あっぢっ!!!!」
其れは息を吹き掛け無かったとか其う云う次元の話じゃ無かった。
体感、熱湯位の温度が有るんじゃないだろうか。
「え。」
「如何した?」
「熱い……。」
昨日の彼みたいに僕は悶えて了う。
「え、其んなに?」
「…………。」
彼らが驚きながら同じ様にスープを飲んで居るけれど、
此処で一つ思った事が有る。
(……冷属性の魔法で冷やせば良いのか。)
よくよく考えれば其うだ。
使えるんだ、今。
僕は首に掛かって居る事を確認して呪文を思い出す。
確か……冷やす魔法、って何だっけか。
子供の時に使って以来、冷属性なんて使って無いから上手く思い出せるのだろうか。
「……えーと……ヅ̌ァㇻ̇ベチ……ゴ̊コ̊ーㇻ̈。」
ゆっくりと呪文を唱え、少し掌がひやっとする感覚を味わった。
飲んでみると、ややぬるい丁度良い温度に成って居た。
(もうちょっと熱くても良かったかな。)
「え、え?? お前冷属性使えたのか?」
片手にスープカップを持って困惑しながら僕を見詰めて来る。
「ううん。違うよ。
けど此れが有ると使える様に成るみたい。」
僕は首飾りを見せ付ける様に持ち、
耳がピンと立つ。
「へー……凄いな……。」
其う言って感心した後、
途んでも無い爆弾を僕に投げ掛けて来た。
「誰か、恋人でも出来たのかと思った。」
「……違う。」
ちょっと不機嫌に成ってきっぱり否定する。
確かに其う思うのも分から無いでも無い。
「てかお前彼女出来た事有るの?」
「え、あー……。」
ヷルトの其の言葉に思考が雑駁して居るとノルマが話に割り込んで来た。
「あー何となくだけど意外と多いんじゃないか?
優しいし。」
「おぉ、やっぱ? ホルベとかで声掛けられて付き合っちゃう的な?」
「そうそう、そして良い感じに成って其の儘……。」
何やら、彼等が有りもし無い様な事をペラペラと喋って居る。
途轍も無く下衆な話だと思う。
僕は余り此う云う話が好きじゃ無い。
「あの……。」
僕は其んな彼等に気不味いけれども口を開いた。
「彼女……居た事……無いんです……。」
そう、居た事が無い。もっと言うと、
告白された事すら無い。
前世から今世も併せて、だ。
「「…………。」」
二人とも口を開けて目を見開いて愕然とする。
「何か……ごめんな。」
「……すまん。」
彼等はさっき迄の勢いを無くし顔を下げて陰々滅々な雰囲気に成る。
「ちょ、え、ちょっ、あ、止めて?
其の顔止めて!?」
止めてくれ、其んな憐れんだ眼で僕を見無いでくれ。
謝ら無いでくれ、虚しく成るだろう。
本当に、だ。本当に!
* * *
「よし、行こうか。」
那の後気疎い空気の儘食事を食べ終え、
机も椅子も了った後馬車へと乗り込んだ。
「今日は又ヅォレ̈ッツァ街に寄る予定。
けれど、其んなに滞在する訳じゃ無い。
ちょっとしたら行くぞ。」
「うん。」
馬車がゆっくりと動き出しガダガダと荷物の揺れる音がする。
此の後、ちゃんと学会へと行けるのだろうか。
そもそも、仮に行けたとして論文を発表したとしても魔道士に成れるとも限ら無い。
僕は其んな一抹の不安を抱えて居た。
正直、昨日の話と纏めれば良かったと思います。
何故分けたのでしょうか。




