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第七十二話:発す

題名は『はつす』と読みます。


十月八日、ミスが有ったので修正しました。

「じゃあ、さようなら! お世話に成りました!」

僕は群衆に手を振って馬車へと乗り込む。


「又来ていんだかんね〜!!」

ブルラが其の大きな手を此方に振ってニコニコした笑顔で言った。


「じゃあね、さようなら。」

ユードグリフは那のキツイ目で見て居るもの、

表情は何所か悲しそうだ。


「行くぞ。」

ノルマが勢いよく鞭を叩き、

パッカパッカと云う音と共に馬車がガラガラと進んで行った。


群衆の声がどんどんと遠ざかって行く。


「……良い村だったな。」

ヷルトが後ろを向いて其う言った。


「だね……。」

何やかんや言って、居心地は良かった。

此処迄(いが)み合って無い所は無いだろう。


「昔さ。」


「ん?」

彼が下を向いて追慕(ついぼく)するみたいにぽろぽろと話し始めた。


「アㇻ̇バㇺ村って……昔那んな村じゃ無かったんだと思うんだ。」


「……え?」

其の口から出た言葉は衝撃的な物だった。

てっきり昔から嫌って居て、其れが拗れに拗れた物かと思って居た。


「昔もうちょっと多種族にも寛容だった気がするんだが……。」

首を捻って枯れた声を出して居る。


「……そうなの?」

僕が彼の方に顔を向けて尋ねると顔を上げた。

少し笑って居る。けれど、何所か哀愁を感じる。


「あぁ、何かなぁ……勿論普通に喧嘩する事は有ったが、

 けど、那んなだったかなぁ……って

 那んな陳腐に見下す事って有ったかなぁ……って。」


「…………。」


「俺、結構好きだったんだよ、

 長閑(のどか)で……人付き合いも良くて……

 なのになぁ……。」

其れだけ言うと彼は顔を又下にやって了った。

はぁ、と大きく溜息を吐き、おまけに首の辺りを触って居る。


僕は何も言う事が出来なかった。

少し位、慰めてやれば良いのに。


……悪い癖だ。


そして車内は深い沈黙に包まれて了った。

けれども鳥達は其んな事も露知らず、

ぴよぴよ、キューキューと呑気な声をあげて居た。


「とと、此んな湿っぽい話は良く無いな。」

彼はやっと顔を上げて首を大きく振ると僕を見て来る。

真っ赤な眼で見詰められるとちょっとドキッとして了う。


「あの……其れ、其の……首飾り。

 如何したんだ?」

僕が着けて居る其れを指して言って来る。


「ん? あぁ、モーレスから貰った。

 綺麗だよね、()()()()。」

其れを彼に見せる様にして持って(にこや)かに言う。

けれど、彼は何故か驚いて居た。


「……え。」


「ん?」

如何したんだろう、

もしかして此れ、珍しい宝石だったのだろうか。


「お前……本当に光ってると思ってるのか……?」

一回顔を下にやるとゆっくりと顔を上げて重々しく言った。


「あ、うん……ほら、多分反射かな?

 かなり凄い綺麗に光って居るよね。」

僕は其れを持ち上げて陽の光に当てる。

照らされると依り眩しい位にぎらぎらと煌めく。


うん。やっぱり綺麗に光って居るな。


「……いや、発光して無くないか?

 俺には水色っぽい宝石にしか見えないんだが……?」

其れを指して不思議そうに見て居る。


「え。」

嘘だろ、明らかに、異常な迄に発光して居るだろう。

自分の眼がおかしいのだろうか。


「……ちょっと貸してみろ。絶対何か有るだろ?」


「う、うん……。」

僕は首飾りをゆっくりと外して彼に渡す。

其れをふっと掴むとじろじろと疑り深そうに見た。


「なんか魔法関連の物か?」


「メヺ̇ㇻ̇リ̇・ヺ̇ウ」

すると元々寒かった車内が急激にひんやりとうる。

少し体を震わせた。


「うーん……別に魔法の威力が増強する訳でも無いな……。」

彼は魔法を止めた。

暖かく成る……と言うと語弊が有るが、元の寒さへと戻った。


「うーん、如何だ?」

紐みたいな部分を持って僕に見せて来る。

けれど、其れには殆ど変化が無い様に見えた。

相変わらずギラギラと光って居る。


「別に……何とも。あ、少し光が強く成ったかも?」


「光が強く成った? 一体何なんだろうな、此れは。」

其れを目線に合わせる様にして持って行き、

十分に見詰めた後僕に返して来た。


「うーん……。」

掌に置いて見てみるものの(ひび)割れたりおかしくは成って無いみたいだ。




「……にしてもさ、昨日酷い積雪だったよね。」

僕は何となく其れを握りしめて彼と話して居る。

何となく安心する様な気がするのだ。


「ん? あぁ。其うだな。」

突然話題が逸れたからかぎこちない反応で此方を向く。


「魔法でも掛けられたみたいにぶわぁって……。」

目の前で上方向にくるっと腕をやると彼は納得はして居無い顔だった。

……流石に誇張し過ぎたか?


「……那の後さー、ちょっと村回ってみたんだけどさ、

 氷柱(つらら)って言うか……氷柱(ひょうちゅう)

 屋根の下に連なって居てさ。」

朝食を食べ、村を出る迄に少し見てみたら、

至る所に生えて居たのだ。植物みたいに。


もし、仮に那あやって魔法が使えたらと思うと、

気が滅入って了う。


確か氷柱(ひょうちゅう)を出す魔法は……。

メイヤヂ̇シㇻ̈・セトラザ̌・ダコ゚ン̊だった筈。

短縮詠唱だったらメイヤヂ̇シㇻ̈・フ̇ィ、だ。


「グゴッ!!」


「「え。」」

音のした方向を向くと大きな氷柱(ひょうちゅう)が木を貫く様に地面から生えて居た。

突然の出来事に頭が真っ白に成り何も考えられ無く成る。


「ブルルルアアアア!!!!!?????」

フ̇ォトフ̇ル̇ーが何故か驚いたみたいに雄叫びをあげて前へと物凄いスピードで走り始める。

車内がガッタガッタと揺れ始めて壁に打ち付けられそうに成った。


「ちょ、お前等!! 何した!?」

ノルマが鬼の様な形相で此方を睨み付けてくる。


「わ、分かん無い!!!!」

頭に言葉と云う言葉が無い僕は咄嗟に其う言って了った。


「止まれええええ!!!!」


* * *


「や、やっと……止まった……はぁ。」

陽は沈みかけ彼は(やつ)れたみたいな顔で後ろを振り向いた。


「取り敢えず……今日は此処迄な……。」


「う、うん……ヷルト、大丈夫?」

窓に顔を出してさっきから一言も喋ら無い彼の肩を叩く。


「無理……。」

毛皮に包まれて居るものの顔が青白く為って居る。




其の夜。


僕等はテントでひそひそと話して居た。

何だろう、此う云う場では声を細々とさせて話したく成って了う。


「ねぇ、もしかして何だけどさ……。」


「……何だ?」


「那れ、もしかしたら僕でも冷属性を使える様に成るんじゃない?」

飽く迄仮説だけれど、那の状況からして僕がやって了ったと考えるのが妥当だろう。


「……首飾りの事か?」


「うん。」

僕が言うとあー、と目線を上にやって頷いた。


「……あー、確かに、有りそうだな。」


「でしょ?」

其の後、彼と眠く成る迄喋り倒した僕等は、

やや太陽が登り薄明かりが照らして居た事に気付かなかった。


なんやかんやでリングさんが冷属性使える様に成りました。

第二章は冷属性を上手く使って行きたいですね。

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