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第七十話:謎が謎を呼ぶ

其の夜。

ノルマは一人用ベッドで、

僕達は一人用ベッドに小さいベッドをくっ付けて寝て居る。


彼は普通のベッドに居て、

僕が小さいベッドに居る感じだ。


照明を消してからは如何も此うも二人共寝れて無い。


「あの……さ。」

僕はひそひそ声で話し掛けた。


「ん? 如何した?」

同じ様にひそひそ声で返して来た。


「ヷルトは……転移してから如何してたの?」

此れは戦闘中は其処迄だったが、

今思い返すと結構気に成る。


「……あー……那の後か。」

彼は何処か悲哀感の有る笑顔で話し始めた。


◇ ◇ ◇


「……う痛たたたたた…………。」

如何した、何が有った。やたら背中が痛い。

上を見上げると那の怪物は居無いみたいだった。


何だ? 俺が見て居たのは幻覚だったのか?


すると後ろから話し掛けられた。


「え、如何したの? てかめっちゃ背中に雪付いてんじゃん、

 どして此処に居んの?」

彼が俺の背中をパンパンと払いながら尋ねて来る。


「……あ、いや……俺にも分からん。

 白い霧に包まれたかと思ったら……なんか。

 アイツ消えたのか?」

立ち上がり彼を見付めた。彼はやたら冷静に見える。


……何も分から無いどころか今の状況すら分から無い。


「今村の人達が本当にちょっとだけだけど戻って来てねー、

 村の外に転移したっぽいよ? 僕は取り敢えず村の人達を呼び戻しに行く。」

何故かへらへらとした口調で全く不安そうには見え無い。


「何だって!? おい、もしかしてアイツ等一緒に転移しちゃったのか!?」

俺は一気に不安に成る。

心の中から何も謂れも無い様な変な気持ちがぶわっと湧き出てくる。


「多分。」

其う言って頷く。


(おいおいおいおいちょっと待てよ!)

少しパニックに成って那奴を助けないとと云う感情が芽生える。


「ちょ、だったら行かなきゃ……。」

俺が黄色い魔法陣から箒を出すと肩から大きい音が成り、

ドッと叩かれた感触がする。


「へーきだよー、グリフがんな簡単に死ぬわきゃねぇじゃん。

 だから僕達は村の人達を呼びに行こうよお兄さん。」

彼は宥めてくれては居るがやや論点のおかしな事を言う。


「いや、俺は……。」

違う、俺はリングが気に成るんだ。

アイツはしっかりして居る様で意外と間抜けな所が有るんだ。

死んでたら如何する。


奴の制止を振り払ってでも無理矢理行こうとする。


「多分如何にか成るって。

 村の人巻き込んだら其れこそ危ねぇべよ。」

茶化してるのか、おちょくっとるのか、其れ共本当に其う思って居るのか。

分から無い。


へらへらと笑う彼にはリングの面影が見えた様に感じた。


「そりゃ……其うだが…………。」

言ってる事は分から無いでも無い。

納得出来無い儘首に手を当てた。


「じゃ、僕は行って来るかんね、じゃーねー。」

奴は体をびょんびょんと弾ませて何処かへ行って了った。


「はぁ。」

俺は大きな溜め息を吐く。

けれど、何故か其の行動は途轍も無い説得力が有った。


……まぁいいか。村の人達を呼ぶ序でに那奴等も探して来ようか。





「おーい、お前等ー。」

俺は集団に向かって大声で話し掛ける。

此れで確か三個目の集団だ。


一回目、二回目ではリングや、那のチーターの彼女や、

氷の怪物の情報すら得られ無かった。


俺は地面に降り、箒を魔法陣の中へと了った。


「あ、え!? な、何!? 狐の神様!?」

其の集団の一人、多分カ-レ族の女性が俺を見上げて頓珍漢な事を言った。


「……いや、違う、俺は其んな神聖なもんじゃない、

 雪が酷く成るからちょっと一泊しに来た只のランヷーズだ。」

俺は呆れて其の言葉をきっぱりと否定する。

一回自殺した様な奴が神聖な物な訳が有るか。

磔にされた訳でも無いんだぞ。


「……なんなんでしょうか。」

緑色の長髪を揺らして足を出したアリーク族の男性が訊く。


「あー、取り敢えず村に帰ってくれないか?」

俺は首を触りながら煙たげに言った。


「な、何で!? 危ない所に帰らないと行けないんだ!?」

其の中の若者が集団の中を掻き分けて叫び喚く。

狼狽えて居るみたいだった。

……当然の反応だ。


「いや、其れがな……。」

俺は不本意ながらも大まかに経緯を話し始めた。




「……で、今は居無く成っちゃったから危なく無いと云う事?」

カ-レ族の女性がちょっと引っ掛かる点が有るのか訊いて来る。

するとほあーんと気の抜ける声をあげて納得したみたいだった。


半分以上は理解してくれただろうか?


「まぁ、だな。

 寧ろ何処に居るか分から無いから村の方が安全かな。」

俺は渋い引き攣った笑いをして了う。


「いや、いやいやいや!!!! だって其んなの分かんないじゃん!!!!」

さっき迄静かだったのに急に男性が叫び出す。

又か。


「……まぁな。そりゃそうだけど。

 だがな、村に居無い事だけは確実何だ。

 だから戻ってくれ、な?」

ちょっと圧を掛けて無理矢理にでも説き伏せる。

只言葉を言い換えただけなのだけれど。


「う、うん……うん? うん……。」

すると声が小さく成る。

納得してくれたなら良いか。


俺は箒を取り出して跨ろうとする。


「あぁ、そうだ、一つだけ質問なんだが。」

けれど其の動作を止めて後ろを向いた。


「……何?」

黄色い(まなこ)を開いて、

羽をブワッとさせて居る。警戒して居るのだろうか。


「チーターの娘とカラカルの小柄な男性見なかったか?」

俺が言うと集団がざわざわと波の様に声が波紋する。


「うーん……見無かったわ……。」

彼女がポッと言うとざわざわした声は止み、

集団は彼女をザッと見た。


「あぁ、すまんな、ありがと。」

俺はもう一回其れに跨り手を振って空に上がった。


* * *


「……取り敢えず一旦帰って来た。

 今何人居るんだ?」

地面に降りて箒は右手に持ち彼に訊いてみる。


「あぁ、多分半数位? 未だ未だだね。」

彼は点がを頭の後ろにやりちょっと上を向いた。


「……そうか。」

なら、未だ頑張らないと行けないな。


「あー、そうそう。

 村の人からのお話だから確定では無いけどさー、

 如何やらグリフ達、那れ、手懐けたらしいよー。」

のほほんとした様子で()んでもない事を言った。


「……は?」

俺は卒爾(そつじ)して体を少し前にやった。

手懐けた? 其んな事出来るのか?


「いや、うん。僕にもよぐ分がんねぇや……。」

彼は急速に方言が出て了う。

一応何となくは分かるけど抑揚何かは標準語とは遠い。


「だろうな。」

自分自身が予測出来無いのを慰めるみたいに言った。


「にしてもすげーね良ぐ手懐けたねぇいってぇどしたんじゃんねぇ。」

目を瞑ってニコニコしてポニーテールみたいな髪を巻き上げながら言って居る。


「はぁ……。」

どうせ、アイツの仕業だろ。

多分、又何か飛んでも無い事したな。


けれど、俺は何故か微笑んで了って居た。

……なら、箒に跨って次の集団を呼び戻しに行こう。


* * *


「ってな事が有ってな……。」

彼は其の紅い眼を輝かせて聴いて居た。

心亡しかキラキラして居る様な。

照明だって切って居るのに。


「……ふふふ。」

彼は布団をちょっと寄せて恥ずかしそうにして笑う。


「ふーん、其うしてあぁ成ったのね。」

布団から顔を出したけれど顔はニヤついて居る。


「あぁ。」


「……けど、手懐けた訳じゃ無いんだよ?」


「其うなのか?」

彼が急に真剣な面持ちに成るので其んな言葉が口から出て居た。


「何かさー。」

彼は事の概略(あらまし)をゆっくりと話す。




……成る程? つまり那の炎の奴を(たお)したから恨みで、

って事なのか。だからリングに対して過剰反応して居たのか。


リングに(たお)されると思ったけれど、

其れを善意で救ったから、なのか。敵視し無く成ったのは。


「けどねぇ……何で敵視しなく成ったか分から無いんだよねぇ……。」

なのに彼は布団に潜って其んな事をほざいて居る。


「そりゃあ、お前、お前の善意が伝わったんだろ。」

包まって居る奴の盛り上がって居る所をポンと叩いて言った。

普通、此れしかないだろう。


「……其うなのかなぁ。」

其の声は何処となくくぐもって居て、

かなり迷いが有る様に聞こえた。

後日談:


リング「ねぇさ、一体如何して僕の事敵視し無く成ったの?」


モーレス「イワナイ。」


リング「なんで!?」


モーレス「ヤ〜ダ。」

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