第六十八話:大雪前
僕等は今奴の背中に乗って宙を仰いで居る。
只、
「あー!! ま、ちょっ、まっ、あぁ!!!」
ヷルトがかなり顔を歪ませて奴の氷柱みたいなのを握って居る。
其れだからか、奴は少しスピードを落として飛行して居るみたいだ。
……彼、自分で飛ぶ事は得意な筈なのに一体何故。
「ちょ、お前ぇ!! 怖いじゃないか! あああああ!!!!」
ぶらぶらと揺さぶられながら大声を出して了って居る、
「……そう?」
現代日本で色んな乗り物に乗って居たからか、
其れ共高い所には慣れて居るからだろうか。
正直其処迄怖くは無い。
しっかりバランスさえ取って居れば平気な気がする。
「ムラニツクゾ。」
奴は僕等をちらっと見るとどんどんと急降下を始めた。
と、下から何かざわざわとした声が聞こえる、
「あぁ、なーにやってんの?」
「……ブルラ、あんたこそ何やってたのよ。」
「僕ぁ村の人達を呼び戻しに行ってたもんね。」
「てかアイツどしたの? あの氷のばけもん……。」
ユードグリフと那のセーブルアンテロープの彼が話して居るみたいだった。
木や家々の風景や彼女等の姿がどんどんと近付いて来る。
奴はすっと着地した。
僕は其処からさっと降りる。
そしてヷルトの手を取って地面に降ろした。
ジャンプはしたものの少しバランスを崩して居た。
危うい着地の仕方だ。
「アァ、ナンダ?」
と彼の後ろ姿を見て居る。
彼はゆっくりと恐ろしげに後ろを向こうとした。
まるで幽霊の気配に気付いたみたいに。
「ふぇああぁ!!??」
そして奴と目線が合うと腕を背中にやって尻餅を付いた。
「おーい、乗るー?」
僕は手を振って成るべく成ら無い様に言った。
「い、いや……だいじょぶ、だいじょぶ……。
だから止めて止めてこっち来ねぇでいやホント止めて!!」
両手を突き出し掌を見せて後ろへと下がって行く。
「ムゥ……。」
奴は不服そうにずりずりと戻って行った。
「あ〜〜〜……こっえぇ……。」
心臓の辺りを擦りながら彼は少し後ろを向いた。
「本当にビビリね。」
彼女は彼を向いて肩で小衝いた。
「う。」
自分の肩を触りぱっぱと払って居る。
「何で其んなに怖いの?」
僕は如何して其んなにも恐怖して居るのかを訊いた。
そりゃあ、攻撃して来るから当たり前っちゃあ当たり前だろうが。
「だ、だってぇ……こえぇんだもんしゃーねーじゃんよ本当にぃ……。」
胸の前で両腕を掴んで奴から目線を逸らした。
「ヌゥ……。」
奴は何故か僕を見て来た。
「あぁ!!! 貴方達ですか!!! ツェルバを手懐けたのは!!!」
村の人々が大きな荷物を背負って此方にやって来る。
其の集団の中の一番前に居る少し小太りなヅィー族の男性が僕の手を握って来る。
「いや、あの…………。」
僕は彼の顔を見て否定しようとする。
別に、手懐けた訳では無い。
自分でもよく分から無いが何故か上手く行っちゃってるのだ。
「本当に……本当に……有難う御座います……村を救ってくれて……。」
何度も何度も感謝を言って来る。何故か圧を感じて了う。
「…………いや……。」
僕は正直、人に褒められるのに慣れて居無い。
何故だろう、昔から余り褒められた事が無いからだろうか。
だから曖昧な表現しか出来無い。
僕の手を一通り握り倒すと、
ヷルトにも似た様な事をし始めた。
ヷルトはヷルトで何処か気不味そうな顔をして居る。
「ちょ、僕は!?」
自分自身を指して少し前に出て来る。
「……え、何かしてたっけ?」
彼を指してからかって居る。
「酷い!! 仕事したのに!!!」
彼女の方を見て腕をバッと下にやって少し怒って居る。
ヷルトは苦笑いをする。
「彼は村の人達を避難させてくれた。
其れとリング達が倒した後呼び戻しにも行ってくれた。」
彼は真面目な顔で其う言った。
すると小太りな体を大きく動かして彼は驚いた。
「おぉ!? ちゃんと仕事したのか!!
珍しい!!!!」
大きな拍手をして彼の方を向いた。
「珍しいじゃないよ!! やる時はやるよ!!!!」
彼はプンプンと怒って彼を睨み付けた。
「……君も有難うな。」
彼女の方を向き優しくニコッと笑顔を作った。
彼女は少し驚く。
「当然でしょ。お礼言われる事じゃないわ。」
表面上は其う言うものの、尻尾を上げて喜んで居るみたいだ。
心亡しか目が柔らかく成って居る気がする。
* * *
「あ〜……やっぱり強く成って来ちゃったわね……。」
其の後、彼に案内されて僕達が泊る家迄やって来た。
「……なら、明日は出発するの無理かもな。」
ノルマが胡座を掻いて居る。
彼もフ̇ォトフ̇ル̇ーを何とか保護して村から逃げたみたいだ。
幸い馬車には損傷は何も無かったみたいで、
もし雪が降らなかったら明日には出発出来て居ただろう。
「あー、まぁしょうがないわな。」
ヷルトは難しい笑顔を作って首をちょっと傾げた。
「……村の人達は大丈夫なの? 皆居るの?」
僕は念には念を入れて一応、本当に全員帰って来たのか確認してみた。
「う〜ん……ねぇ、あんたさ、村の人達って皆平気?
戻って来た?」
彼女は彼を向いて疑り深く訊く。
「うん? あぁ、うん。大丈夫!!! 全員居るじゃんね!!!」
彼はかなり自信満々に自分の胸を叩いて言う。
「あの!!! 御免なさい!!!」
いきなりドアを勢いよく開かれた。
僕はくるっと後ろを向いて確認するとヅィー族の女性だった。
「……如何したんです?」
彼女に対して其う訊くと、
顔を上げかなり深刻そうな顔をして居た。
表情や言動から窶れて居る様に見えた。
「子供が……子供が居無いんです!!」
今にも泣きそうな顔でブロンド色の長い髪を揺らす。
「…………。」
彼女が彼をギッと睨んだ。
「そうなんですか……捜しに行って来ます。」
「私も! 私も行くわ!」
僕が立ち上がると後ろからダッと立ち上がる音が聞こえた。
「うん、ありがと、で……離れた場所は何処なんですか?」
後ろを向いて祈る様なポーズを取って少しお辞儀をして、
くるっと前を向いた。
「え、えっと……多分ブルー森の近くで……。」
ブルー森、僕は此処等辺の地理に強く無い。
けれど、彼女が居る。訊いてみよう。
「分かりました……えーと、ブルー森って何処?」
もう一度後ろを向いて彼女に尋ねる。
「確か……私達がヅェㇻ̇バと戦った所と反対方向に有る森よ。」
彼女は少し顔を上げて口をちょっと半開きにして言った。
鋭い犬歯が隙間から見える。
「うん、オッケー。じゃあ……。」
其う言いかけたところで隣から彼の声が聞こえた。
「……いや……僕も行く。」
「え?」
彼女がびっくり仰天した様で立ち上がった彼を大きく開いた目で見る。
「足を引っ張るかも知れないけど……
でも、全員居んと思い込んじゃったんだ、
だから、行く。責任は……取らなきゃ。」
彼は弱々しい声で其う言った。
……責任は、感じて居るのか。
只のビビりな訳では無いんだな。
「……ほら。」
ブルラに対して魔法陣から出した装備を渡した。
其れをあわあわと受け取る。
「此の夜で、魔物も居て、おまけにハダカなんて危ないわ、此れ着て行きなさい。」
相変わらず目は鋭いが、少しお母さんみたいな、
其んな優しさが垣間見えた。
「う、うん。」
彼は今着て居る服を全て脱ごうとする。
実際に、上着だけ脱がれて居る。
「あー、あっちの部屋でやって来なさい。
幾ら昔からの縁と言えども貴方の裸何か見たく無いわ。」
彼女は目を隠して恥ずかしいのか顔を下にやって居る。
すると彼は頷いて寝室の方へと行った。
と思うと一旦部屋から出て来て、
脱いだ上着を取った。
そして戻って行く。
「……俺は残っとく。俺も一緒に行って遭難したら駄目だしな。」
彼はやや右を向いて言った。
らしい。確かに其うだ。
もし遭難したら彼に頼ろう。狐だから、きっと雪も得意だろう。
「よーし!! おっけー!!! 行くぞ行くぞー!!!」
彼が大声を上げた。まるで遠足に行くみたいに軽いノリだ。
ファンタジーっぽい服達は背が高くスタイルも良い彼にかなり似合って居る。
「じゃあ、捜して来ます!!」
僕は其う言ってドアをがちゃっと開いた。
其んな此んなで子供を捜しに行くパートに成ります。
ところで、途轍も無く話は変わるのですが、
前の章に戦闘シーンが少なかったからか此の章は戦闘シーン盛り盛りに成ってますね。




