第七話:アㇻ̇バㇺ村へ来た※
はい、此処から本編スタートです。
リングさんのはちゃめちゃな半生を体験して頂きますからね。
七月十四日、鱗雲之式日本語表記が間違って居たので直しました。
九月四日、本文をちょっとだけ修正しました。
十月十六日、色々と改稿しました。
一月九日、本編を改稿しました。今思うと辻褄が合って無かったのですよね。
何で此んな酷いガバを放置して居たのでしょう。
一月十六日、微細な修正をしました。
一月十八日、上記と同じです。
厭らしいほどに照らす秋空の中、僕は或る場所に向かって居た。
草を踏むと、コオロギみたいな昆虫がぴょんと飛び出して来る。
秋らしい景色だ。
僕は今村に向かって居る。確かアㇻ̇バㇺ村とか言ったっけ。
歩いて居ると村の門と思わしき古臭い石の何かが出て来た。蔦等の植物が幾つも絡みついてて、おまけにボロボロ。
僕がちょっとでも触れたら崩れ落ちてしまいそうだ。
少し触れてみる。すると、予想通り門の一部が崩れてしまった。
──やべっ。
其処迄脆いのか。
気を付けつつ通ると目の前に広場らしき広い空間が現れた。家は遠くの方に見えた。
成る程、此処が村の広場なのか。なら、村の人達は此処で何かイベントをするのだろうか。
と思って居ると何故か広場には何十人かの人が集まってざわざわして居る。
基本的にヅィー族が多い……と云う依りヅィー族しか居ないのだろうか? 男も女も皆其うだ。
獣人は人っ子一人居ない。だからだろうか、皆怪訝な眼で僕の事を見ている。
獣人は此の国の半数は占める結構人数の多い人種の筈なのに。
僕の体感だが、此の国の人口の内訳は何となくヅィー族四割、獣人四割、ファール族一割、アリーク族一割、だろう。
だから此の村で獣人が一人も居ないのははっきり言って異常なのだ。
恣意的に避けて居るとしか思えないのだ。
此の国で獣人に対する偏見は余り無い筈なのに。
けれども、一部の地域では未だ有るらしい。
其うは言っても、本当に極一部の地域だけだが。
僕が聞いた話では東側のヰ̇ㇻ̇ライヤ県には有るらしい。
此処は其処じゃ無いから平気な筈なのだが……嫌な予感がするな。
彼等は集団で何かぶつぶつと呟いて居て感じが悪い。生憎此の耳ですら拾えない様な小さい声だ。
でも、挨拶位はして置かないとな。
此れからお世話に為るのだろうし。僕は挨拶と軽い自己紹介をする。
僕はその集団へ向かって胸の辺りで利き手を下にし、反対の手で利き手じゃない手首を掴むポーズをした。
此れは此の国の標準的な挨拶だ。
「こんにちは、今日からこの村に移住してきた、カインドロフ・クリングルスです。
一応此れでも魔道士でランヷーズです。此れから厄介に成るのでどうか宜しくお願いします。」
僕が笑顔で話しかけたのに相手はかなり怪しい目付きと云えば良いのだろうか、怪物でも見るかの様な怪訝な目を向けて来る。
僕が悪魔みたい、なのは認めるが、一応人権の保障されている只の一般的な獣人なのだぞ。
其んな訝ら無くても良かろうに。
転生してから早数十年、第一印象が此んなに悪かったのは経験した事が無い。
信頼関係、築けるだろうか? 不安に為って来る。
取り敢えずは良いか、先ずは不動産屋のところに行こう。右側の武器屋を進んで、次の目的に為る場所に進む。
何処だっけ。
上着の隠しから簡易的な地図を取り見てみると、其処には特徴的な赤に近しい色をした壁の家が在ると描かれて居る。
地図から目線を逸らし見付けたのは、煉瓦造りで小さいものの少しファンタジーちっくな可愛らしい家だった。童話とかに出て来そうだ。
……那れだろうか?
かなり目立って居る。此れを目印にするのは分かり易いと思う。
と、僕がキョロキョロを首を左右に振って居ると誰かの声が耳に入って来た。
後ろから聞こえる様だ。
「この土地を不毛の大地にする気?」だの、
「あぁ呪われる‼︎」だの、
「誰かと思ったけど獣人かよ、あの忌々しい。」だの、
「きっと那れは悪魔の使いよ!」だのと言って居る。
有る事無い事ほざきやがって。いや違う、全部無い事だ。
謂れも無い誹謗中傷とは此の事を指すのだろう。
多分普通の人なら聞こえない距離に為っただろうから大きな声で陰口を叩いたのだと思う。
阿呆か、僕は獣人だ。僕は耳が良いんだ。其んな陰口を叩いて居ても直ぐ分かるぞ。
何故そんな嫌ってるのだろう。僕が何かしたのか? 検討も付かない。
只良く聞くと悪魔だの呪われるだの忌々しいだのと云う言葉がよく聞こえる気がする。
其んなに言わなくても良いじゃないか……流石の僕でも落ち込む。
取り敢えずは其等を無視して前へ進むと、例の家が近付いて来る。
隣にはエㇻ̇ㇰ゛ナェㇻ̇ㇳ・イコㇻ̇と書かれた看板を掲げた二階建ての建物が在った。
エルグネート不動産と云う意味だろう。
僕は其の扉に近付いてゆっくりと開けた。
「……すいませーん。」
ギギーっと云う耳にこびり付く音が聞こえ、其の中が明らかに為った。
外装とは打って変わって内装は綺麗だった。白い壁に、明るい色をした木材の床。清潔感を感じられる。
対話する為の椅子と机とエカルパル語で『蒼い雪』と謂われる、青色で鈴蘭のような花の観葉植物が在った。
然し、受付には誰も居ない。
休業日だったのだろうか?
いや、違う、タッタッタッタ、と靴と床を擦り合わせる音が聞こえる。
誰かが走って来る音が聞こえる。受付の人が走って来て居るのだろう。
「あ、ごめんなさーい!」
後ろに蝶みたいな羽を生やしたアリーク族の女性が来た。
「ご用件は何でしょうか?」
彼女はふわふわとした毛を揺らしながら僕の顔を見る。優しそうな笑顔を見せて居る。
「あ、はい。今回は買った契約した家の案内をお願いします。契約書は此れです。」
僕は黄色みたいな色をした紙に、赤い判の押された簡素な其れを取り出した。
「あ、ちょっと待っててくださいね……。」
と言い、両手で其れを受け取るとまじまじと見詰めて居る。
何だろうか、無性に心臓がバクバクとする。
「はい、確かに受け取りました。」
彼女は其れを台へとそっと置く。
そして彼女は棚から何か紙を一枚取り出すと、僕に軽いお辞儀をする。
「ではカインドロフ・クリングルス様、今回はこの家への経路の紹介、そして最終確認……と云う事でよろしいですね?」
「はい。」
「では家への経路をご紹介しますね。」
* * *
「……如何でしたか?」
「はい、満足です。大丈夫ですよ。」
経路の紹介、そして内装と外装を把握し終えた。
豪邸って訳じゃないが、思ったより家が大きかった。独りで住むのには淋しいくらいの大きさだ。
蔓が絡まって居るが、掃除すれば何とか成るだろう。
内も結構綺麗だった。黴だの茸だのも生えて無かった。
其れとお風呂も見て来た。木製の湯船で昔のお風呂みたいだった。
時代と習慣とを考えると此の家主は相当のお金持ちだったのだろう。
……其れは良いのだが。
「あぁ〜にしても気持ち良いですねぇ〜!
もうずうっとモフモフしていたいです〜!」
此の人が耳をずうっと触って来る。……其処、苦手な所何だが。
猫らしくシャーっと声を荒げてやろうか。
此奴、僕の背が此処の世界の住民依り低いからと、耳が丁度触り易い位置に在るからと、さっきからサワサワサワサワサワサワサワサワ、片時も触るのを止めてくれやしない。
内装を確認して居る時も、外装を確認して居る時も。
結構なストレスが掛かるから出来るなら止めて頂きたい。
「あの、」
「はい。」
「……耳を触るの止めてくれませんか?」
後ろに居る彼女に目線を配る。彼女は首を傾げて耳から手を離さない。
「だぁってぇ〜、気持ちいいんですもん!
こんな等身大のモフモフがいたら誰でもモフりますよそりゃあ。」
笑顔は変わらないけれどももっともみくしゃにして来る。
腕に歯形付けてやろうか。犬歯で噛み付いてやろうか。一生痕が残るだろう。
「それでも嫌です、止めてください。」
「はぁ……仕方ないですね……。」
物凄い嫌そうに、悲しそうにゆっくり耳から手を離した。
いや、其んな顔したって触らせる訳が無い。
嫌な物は嫌だ。ほら見ろ、毛が逆立ってるだろう。
ストレスが溜まって居る証拠じゃないか。
「あ、忘れてました。えと、此れで宜しいでしょうか?」
彼女は思い出した様に僕に問い掛けた。
……今、「忘れてました」、って言ったよな……? 聞き間違いだと信じたい。
「……あぁ、はい。」
「不動産屋の私が言うことじゃないんですが、
本当に此処で良いんでしょうか? 幽霊が出るって噂ですよ?」
木の板を大事そうに抱えながら僕に目線を合わせて来る。
「あぁ、大丈夫ですよ。」
僕はキッパリと言った。
もし仮に出たとて、そう易々と其奴等に負ける事は無い。何故か其んな自信が有った。
其れでも心配だったのか、こんな事を言った。
「それに知ってるとは思いますが事故物件ですよ?
誰かが亡くなっているんですよ? 今なら返金は出来ますよ?」
念押しする様に彼女は僕の鼻をぎゅっと押して来る。
……何で人間共は此う、獣人の鼻を矢鱈触りたがるのだろう……?
然し、其の情報は行く前に知って居る。其の事も知ってて買って居る。
「大丈夫ですよ。そういうの気にしてませんし。」
鼻を押して居る彼女を手を払う。
特に床とかにシミも無かったし綺麗にして居たのだろう。
すると、溜息を吐き、
「しょうがないかな……」みたいな微妙な顔をして首を横に振った。
彼女も彼女で僕の答えを呑み込んだのか、下に向けて居た顔を上げる。
そして僕の肩を両手でぎゅっと掴んで来た。
「あ、なんかあったら言ってくださいね⁉︎ 言ってくださいね⁉︎」
と眉を上げて僕に忠告して来る。
「……はい……分かりました……。」
僕はぎこちなく頷いた。
一応、こんな成りでもアヲ̇センㇳのランヷーズだから、一通りの対処が出来る。
問題と云えば、非死の奴等と戦った事が無い、と云うだけ事だろうか。
「モフれなくなるなんて嫌ですからね!」
と僕の肩をぽんぽんと叩いて来た。
でも其方の心配なら要らない。
何故なら、もう二度と触らせる気なんて毛根無いからだ。
誰か触らせる物か。
* * *
「はぁ。」
僕は床に突っ伏して草臥れた声を上げた。
取り敢えず掃除だけは済ませた。
別に其処迄体力を使う事をした訳では無いのに途轍も無く疲れた。
然し、幽霊なんて本当に出るのだろうか。
十何年此方に住んで居るが見たことが無い。
他のアンデットは……や、師匠はアンデットと云って良いのだろうか?
分からない。骸骨なのは間違い無いが。
あぁ、其れと引っ越したからせめて身内や友人に伝えなきゃいけない。
其の前に家具を置かなければ行けないな。
さっさと終わらせてしまおう。
僕は箒を取り出し、床を掃き始めた其の瞬間。
『ガタッ!』「うわっ!」
僕は後ろを向いた。其処には、本棚が倒れて居た。あぁ、此の家、本棚だけは有ったのだよな。
良かった。棚が倒れただけか。ほっと胸を撫で下ろす。
──こうして、僕の新しい生活が始まるのだった。
今回はリングさんがわーわー言われる回でした。




