第六十六話:秘密
十二月七日、ソルブレイアをジュデバに直しました。
完全な誤字です。すいません。
「…………。」
僕は──剣を降ろした。
そして其の場に座ると彼の腹部を其の傷をなぞる様にして触って居た。
もぞもぞっとした感触が僕の手から伝わって行く。
「グワッ!」
奴は其れに驚いたのか全ての眼を此方にやって変な声を出した。
お腹をちょっと見ると傷は塞がって居るみたいだった
「ちょ、ちょっとあんた何してんの!?」
トントン、と肩を叩かれた。
彼女の声は枯れて居て、足はよろよろとして居た。
「……だって、煮るなり焼くなりしろって言ったから、
別に回復させたって良いでしょ?」
僕は彼女の方を向いて顔を下にやった。
涙は出さ無いが少し泣きそうだったのは言うまでも無い。
「そもそも……討伐対象でもないし……忠告して、
逃がして、で良いかな……って。言葉、分かるみたいだし。」
僕は弱々しい声を出して言った。
我ながら甘いと思う。もし反撃して来たら如何するんだと。
「……ヌルイ。」
奴が体を少し起き上がらせて唸る様に言った。
「え?」
「……ナサケノ、ツモリカ?」
奴はのそのそと歩いて行くと僕等の前へと座った。
「……うぅん、飽く迄……自己満かな?」
ちょっとぎこちない笑顔を作って奴に言った。
「……フン。」
奴は鼻息を態とらしく鳴らすとのっそりと犬みたいな座り方をした。
「はぁ……あぁ、もう、何でもいいわ。うん……。」
彼女は其の場にへたり込む様にして座り込んだ。
「……オクッテ、ヤロウ。」
其んな彼女の姿を見てか奴は其んな事を言った。
僕等の方を見ると不精巧に口角を上げ、
翼を畳んで背中に乗る様に誘導してくれて居るみたいだ。
直ぐに笑顔は無くなってそっぽを向いて了ったが。
「……大丈夫?」
僕は彼女の方を見ると彼女は頷いてゆっくりと立ち上がった。
そして一息吐いて奴に近寄り、そろりそろりと登って行く。
彼女が座ったのを見て僕も同じ様な感じで座った。
触ってみると奴の鱗はふわふわざらざらとして居て触れて居ると気持ち良い。
表面は見た目に反して冷たくてツルツルして居る。
「……ヤメロ。」
奴の言葉にちょっとビクッとして直ぐ手を離した。
逆鱗に触れなくて良かった。
「ノッタナ、イクゾ。」
彼は翼をブワッとはためかせるとどんどん高度は上昇して行き、
耳が圧でペタンコに成りそうだった。
僕等は大空を翔て居た。
彼女の頭がよく見える。
奴は其の儘物凄いスピードで進んで行く。
魔法とか、科学とか、其んな物じゃ比べ物に成ら無い速度だった。
視線を右にズラしてみると森や木々の原型は無い様に見えた。
「わあ……。」
彼女は興味津々で景色を眺めて居る。
左右に首を振って鼻をひくひくさせて居た。
そして後ろを向くとふふふんと歯を見せ無いで笑った。
「ねぇ、あのさ、何か名前とかって有るの?」
僕は唐突に奴に訊いてみた。
那の時と同じ様に、もし無かったら名付けてみようかと思ったのだ。
和解したのだし、何か其の儘なのも何処か気持ち悪い。
「……モーレス。」
奴はゆっくりとはっきりと名前を述べた。
「モーレス? 何処の言葉よ?」
彼女は首を傾げずいずいと彼の顔を見ようとする。
「サァ……?」
奴は大きな頭を彼女に向けてちょっと眼を瞑った。
「さぁって……知らないの? 名前の由来とか。」
僕は彼女の後ろから何とか顔を出して彼を見て訊いてみた。
「マァ、ソウ。シラナイ。」
僕を見て眼を開くと顔を戻して少しだけ高度を下げた。
「名付け親とかは居るの?」
「ウーン……。」
僕が訊くと奴は何故か考え込んで居る。
「ワカラナイ。」
「タダ、アニジャナイ。」
奴は随分口を閉じた後、はっきりと其う言った。
「そういやあんたの名前って何て言うの?」
彼女が思い付いた様に
「あ、僕? 僕はねぇ……。」
「クリングルス、苗字はカインドロフ。」
苗字の由来は分から無いが、
クリングルスって名前の元に成ったクリナグルは、
【誠実】【信実】【真摯】って意味だと思う。
……僕が本当に其の言葉をしっかりと実行して居るかは分から無いが。
名前だけ立派、には成りたく無い。
「ふーん、中々良い名前じゃない。」
彼女は其う褒めてくれたが、少し不満そうだった。
「……君は?」
僕は折角共闘してくれたのだし、
訊かれたのだし訊き返してみようと思った。
「あたしは……ユードグリフ。」
少し悲しそうに自身の名前を言った。
けれど、普通ではおかしい事に気付いて了った。
「……苗字は?」
「…………無いの。」
彼女は僕から顔を逸らしてそっぽを向いて了った。
「え。」
「元々あたしは幼い頃に親に売られたらしいの。
だから無い。記憶は……残って無いけど。」
「え……何で……?」
僕は動揺しながらも彼女に訊いてみた。
何故、何故と疑問が止まら無い、
何故親が売って了ったのか、何故記憶が残って無いのか。
「さぁ、分からない。親がお金に困ってたのかも知れないわね。」
「で……売られた先は確か研究所みたいな所だったわね。
那処の……ジュグランド共和国の、色々な獣人で実験してるみたいだった。」
心亡しか彼女の声が震えて居る気がする。
後ろから見ても耳は垂れて居るし、尻尾はゆっくり左へと振って居る。
「……人間至上主義国家だよね? 其処って……。」
僕は目をがん開いて訊いた。
何か嫌な予感がしたのだ。
獣人、実験、人間至上主義、
此の三つのキーワードを聞いたら誰だって嫌な予感はするだろう。
「そ、だからまぁ、中々に酷い扱いを受けたわよ。
お腹とか、見てみる?」
彼女は口角を上げて僕の方を振り向いた。
只無理に笑顔を作って居るみたいな気がする。
目が笑って居無い。
「い、いや……。」
「見て、だい……じょうぶ?」
見るのを止めようと思ったのだが、
何故か口から出て居たのは其の言葉だった。
好奇心か、同情心か、其れ共全く別の何かか。
「ほら、見なさい。」
彼女は躊躇無くコートも取り、
軽装をも取って見せて来た。
薄い鉄板の下に覆われて居たのは痛々しい傷の数々だった。
「うわあ……何此れ……多分此れ……隷属の魔法をお腹に掘ったの此れって……半ば人間のやる事じゃ無いよ……。」
勿論きっとランヷーズ稼業で付けただろう傷も有るが。
特に目立って居て酷いのが何か入れ墨みたいなのを取り除いた様な傷だった。
惨い、苛虐的、其んな言葉で表して良いのだろうか。
「後、あたしは此処の国出身じゃないわ。キラヸズって国……分かるかしら?」
彼女は服を戻すと俯き加減で訊ねて来た。
「あぁ、獣人国ジュデバの隣の……島国だったよね。」
ジュデバ国はさっきと違って獣人史上国家だ。
……けど、もし其処から売るのだったなら必ずジュデバ国を通らないと行けない。
一体、如何やって売ったのだろうか。
「そう、其処から売られて……で、何時の間にか研究所に居たの。」
「其処から出してくれたのは……確かアイツね、セーブルアンテロープのアイツ。
如何やったのかは知らないけど、国内の獣人解放団を味方に付けて研究所から脱出したの。」
さっきの歪な笑顔では無く、微妙では有るがしっかりと笑みを浮かべて居る。
彼女の壮絶な話を聞いて居ると此方も心臓がドキドキして来る。
バクバクして何時の間にか感情移入して了う。
「多分一番酷い扱いを受けてた私を助けようとでも思ったのかしらね。ふふ。」
彼女は其う言って口に手を当てて吹き出すみたいに笑った。
「そう……何だ。」
「獣人ってね、基本助けようとはし無いの。
生存本能からかしらね、見過ごす事が多いの。
だから珍しいのね、アイツは。しかも殆ど他人よ?」
「けど、那んなにビビリだとは思わ無かったわ!」
ははは、と笑って手を上下に振った。
少し悲しそうでも有った。
「だからあたしは……見過ごさ無いで助けよう、って思ったの。
結局、殆ど貴方に助けられちゃったけどね。」
「いや、でも……居無かったら無理だっ……。」
自虐的に言う彼女に僕は其んな事無い、と言おうとする。
此れは事実だ。僕は決して足は速く無い。もし彼女が居無かったら僕は殺されて居たかも知れない。
「……貴方も珍しいのよ?」
僕がキョドりながら言うと、言葉を遮って其う言って来た。
「え、えっ……まぁ……だって……見過ごす何て……。」
僕は確信を突かれたみたいで言葉が吃って了う。
「ふふふ……人間みたいね。」
彼女が僕の鼻をツンと触るとおかしいのか大きく笑った。
「……イチャイチャシテルトコアレダガ、
ツイタゾ、オマエラ。」
奴が顔をくるりと此方に向けて其う言った。
「ちょ、いちゃいちゃって何よ首噛み切るわよ此の!!!!」
彼女が物凄い形相で奴の襞みたいなのを引っ張った。
「アーアー、スマン。」
彼女が此れからの物語のキーパーソンです。




