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第六十五話:ヷルトの悩み※

今回はヷルト目線で話が進みます。


九月二十五日、ヷルトの台詞を修正しました。

俺は今、空を飛んで居る。

箒に跨ってやや姿勢を低くしながら大気を泳いで居るのだ。


地面に目線を移してじろじろと見て居ると、

探して居た人達を見付けた。


「おいおーい、其処のお前等ー!」

俺は手を振って大きな荷物を持って居る集団に話し掛けた。


「な、なんだ!?」

一人が其う言って此方を向くと釣られて他の人も此方を向いた。

箒の高度をどんどんと下げて彼等の前に着地をした。


「何ってもう村が安全に成ったから呼びに来たんだ。」

俺は箒を持ち首に手を当てて彼等を右からじろっと眺めた。


「……倒されたのか?」

何やら大きい荷物を持って居る男性が一歩足を出して其う訊く。


「うーん……はは……うーん、何て言うかなぁ……。」

俺は言葉を濁らせて曖昧な返事を返す事しか出来なかった。


「大丈夫なのね?」

赤ちゃんを抱いて居る女性が男性依りも足を出して訊いて来た。


「そうだな。うん。」

一応、安全は安全だ。

……いや、安全と云うか……平和と言うべきか?


「……ねぇちょっとお願い! 此の子足怪我してるの!」

するとジャガーっぽい獣人の子がヅィー族の子を肩を組んだ儘言った。


「あぁ分かった。何んな感じだ?」

もしかしたら治せるかも知れないし、

万が一命に関わる様な何かだったら危ない。


俺は奴等に近付いて其の場にしゃがんで見てみる。


「あぁ此れか……。」

見ると傷は付いて居るものの平気そうだったが、

触ると足がぶらぶらとして居た。


中の骨が折れて了って居るのだろうか。


「うぅっ……。」

彼女は痛そうにして自分の傷をいやいやと見る。


「あーこれは……治した方が良いな……ほいっと。」

俺は其処に手を当てて魔法を発動させた。

手を離すと、もう傷跡は綺麗さっぱり無く成って居た。


そして念の為触ってみると、

しっかりと脚は曲がり大丈夫そうだった。


「大丈夫か? 痛く無いか?」

俺は脚を曲げたまんま見上げる様にして問うてみた。


「う、うん……。」


「あ、ありがと……。」

彼女は聞こえ無い様な小さな声で言った。

俺が怖かったのだろうか。


「良いって事よ。」

立ち上がって彼女の頭をわしゃわしゃとした。


「一応コイツは村に連れてくから、

 お前さん達も戻れよ。」

村の人達に向かって其う言うと頷いた者も居たが、

大半がざわついて居た。


「いや、此の子は……!」

其の集団からお母さんらしき茶色い髪の毛の女性が出て来る。


「けど怪我人歩かせる訳にも行か無いだろ?

 又骨折したら治せるか?」


「そもそも何で放置してたんだ、

 出来無いからじゃないのか?」

只でさえ子供なんだ。お前は我が子の責任を取る事なんて出来るのか、

治癒したと言ってももしかしたら又外れる可能性は有るのだ。


「う、けど……。」

其れでも彼女は引き下がら無い。

確かに他の人に預けるのは不安……。


……いや、俺だったら如何するんだろうな。


「……心配すんな、別に何かする訳じゃ無い。

 本当に届けるだけだ。」

俺はちょっと下を向いた後、顔を其方に戻して冷静に言った。

そもそも俺は此んなガキに微塵も興味は無い。


「はい……。」

彼女は渋々、と云った感じで引き下がって行った。


「……行っちゃうの?」

「うん……みたい。じゃあねモネルーちゃん……。」

彼女等は彼女等の会話に俺は少し驚いた。


(……え、那の子女の子なのか?)


勿論ヅィー族の子は見た目で分かったが、

獣人の子は其うは見え無かったのだ。


俺はさっきとは違ってやや後ろの方へとずれて箒に(また)がり彼女の方に顔を向けた。


「ほら、さっさと乗れ。」

そして前の空いて居る方を軽く叩いた。


「うん…………。」

けれど奴は態々座る隙間も無い後ろの方へと無理くり座って了った。


「あー、いやいやそっちじゃない前に乗れ。危ないし。」

俺はもう一回前の空いて居る方を叩いて誘導する。

するとこっちが恐ろしく成る位不器用に降りて、

前の空いて居る空間にゆっくりゆっくりと座った。


(……大丈夫なのか? コイツ。)

もし仮に飛んで居る時に俺が少しでも目を離して了ったら地面に落下して了うんじゃないか。


「じゃあ、行くぞ。」

俺は箒に力を流し込む様にぎゅっと握り、

足をスッと離した。


すると箒は俺の思った通りに宙へと上がって行く。


「……うわぁ。」

奴は地面を見ながら其の光景を眺めて居た。

……もしかして、乗るのは初めてなのだろうか?


俺は直接訊いてみる事にした。


「お前……乗るの初めてなのか?」


「うん。未だ学園入学して無いし……。」

俺の顔を見て暗澹(あんたん)する顔色で言った。

どんだけだ、其処迄落ち込む事では無いだろうに。


ところで学園学園と那のガルジェも言って居たが、

一体何なんだろうか。


学園は……俺のイメージだとお金持ちが行く様な所で普通の子が行ける所では無い、

と云う認識なのだけれど。


明らかに貴族でも無い此の子は行けるのだろうか。

其れ共時代が変わって誰でも教育を受けられる様に成ったのだろうか。


分から無い。リングに訊くのも何だし。

那奴、あぁ見えて所々常識が欠如して居るからな。

良心は有る、知識も有る、なのに、だ。なのに。


(あー、ガルジェに訊いてみようかな。)

行ってた本人に訊けば間違い無いだろう。


「にしても……凄い……。」

唐突に彼女が少し体を前にやって言った。

さっきの表情から一変して楽しげな感じだ。


「あぁ、ちょっと、前のめりにし過ぎると落ちるぞ。」

俺はちょっと声を強張らせて注意した。


「あ、うん……。」

彼女は姿勢をスッと戻した。

其れと同時に亜麻色の髪がわさっと動く。


「……空を飛ぶのって凄いのね。

 本当に……将来、魔導師に成りたい……。」

其の純粋な、一点の曇りも無い水色の瞳で俺を見て来た。

けれど、俺は其の瞳が異常な迄に嫌らしく思えた。


死んだ俺に、一度幽霊に成って沢山の人を殺した俺に、

まるで夢と希望を俺に諭す様に見えたからだ。


俺はもう、那んな綺麗な瞳は出来無い。

沢山十字架を重ねて来た俺に、那んな瞳が出来るか。


此れだからガキは嫌いなんだ。


* * *


やっと村に着いた。かれこれ数分位飛んで居た。


「おーい、リングー……てお前さぁ……。」

箒から降りた俺は思わず大声を出したく成る光景を直視して了った。


「なんでお前ソイツに乗ってんだよお前さっさと降りろ手懐けようとすんな!!!!」

彼はばすっと座って居る奴の上に乗り何か干し肉みたいな物を手渡して居た。

何故敵だっただろう奴と其んなのほほんとしてられるんだか。


「えー……だって彼も了承したしさーヅェㇻ̇バに乗って飛ぶなんて中々無い機会だしもっかい……。」

ちょっと耳をペタンとさせて寂しそうに言った。

如何やら彼は奴に乗って飛ぼうなんて考えて居たみたいだ。

いや、いや、ちょっと待てよ、機会じゃ無いんだ何が起こるか分から無いから止めろって言って居るんだ。


「良いから降りろ!! もうそろそろ村の人達来ちまうぞ!!」

一体何をやって居るんだ此奴は、何で意味不明で奇天烈な行動をするんだ此奴は。


「あー、因みにさー、コイツの名前モーレスって言うらしいよ。」

リングは奴からゆっくりと降りて其う言った。


「……オウ。」

奴が大きな頭をゆっくりと動かして頷いた。


「ねぇ……如何成ってるの……?」

奴が俺の背後から恐る恐る覗く様にして言った。


「……俺にも分からない。」

せめて訊くならリングに訊いてくれ。

時々此うやって別の視点を入れて書くの、

楽しいですね。


只漫画じゃ無いのでやり過ぎると視点がころころ変わって読み辛い小説が完成するのですけれどね。

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