第六十四話:対戦モーレス③※
やっとの事でモーレスとの戦いが終わります。
……え? モーレスって誰だって?
…………次話で分かるので明日迄お待ちを……。
「逃げて!!! あたしも何故此う成ったか分から無いけど兎に角逃げて!!!!」
彼女が口に両手を当てて、
村の人達に対して警告する様に言った。
僕は奴を憎む様により強く睨んだ。
元はと言えば僕の判断ミスだけれども。
奴は空中から僕等を見下ろす様に見て居る。
けれど僕は其の姿がやたら忌まわしく見えた。
何故か無性に苦しく成って下を見ると、
ぼんやりと光って居る何かが見えた。
……もしかして此の下に魔法陣が埋まって居たのではないだろうか。
「グヴオォォォォン!!!!!」
奴は大きな咆哮をすると背中の其れを此方に放って来た。
さっき依り勢いが増して居る気がする。
僕は其れを間一髪で避けた。
シュッと云う音が聞こえたかと思うと、
バリンと大きな音が近くでした。
取り敢えず一旦態勢を直して、
又誘導を再開しようとする。
「……あれ!? てかヷルトは!?」
略々直線状に居る彼女に向かって大声で言った。
何故気配は兎も角、音すらも感じ取れ無かったのだろうか。
「あの狐の事? なら確かに居無いわ!!!!」
彼女は僕依りも大きい声量で其う返して来た。
コートみたいな上着のずれを直して居た。
もしかして彼は此処に召喚された時に逸れて了ったのだろうか。
一体何故。
其んな事を考えて居ると奴は違う攻撃を繰り出して来た。
背中の氷柱を削ったみたいな薄い氷の刃みたいなのを放って来た。
(ほ、ホントにヤベぇじゃねぇか!!!)
那れに当たったらもう如何成るのかは想像し無くても分かる。
「ああっ!!」
何か絶望した様な、失望したみたいな悲痛な声が聞こえた。
彼女の方向を見ると自分の方を押さえて居た。
其の下にはころんと転がって居る右手が有る。
なのに。剣を持って居る状態が維持されて居た。
斬られた右肩からは大量の血が流れ出て居た。
「ヘレ̈メリ̇ㇰ・トベオン!!」
攻撃を防御壁を何個も作って避ける。
バキ、とか、バゴ、とか氷からはとても考えられ無い、
有り得無い様な音がした。
彼女の元へと急ぐ。
「大丈夫?」
僕は後ろの防御壁は消さずに彼女の肩に手を当てた。
みるみる内に、まるでにょきにょきと生える植物みたいに、
彼女の腕が復活して行く。
其の様子を見てか其れ共感覚が気持ち悪かったのか背中をぶるっと振るわせた。
「ブゲジィィィィィィィ!!!!!」
するとやや距離を取って奴がやって来て、
前から那の氷の刃を放って来た。
「ヘレ̈メリ̇ㇰ・トベオン!!!!!」
僕は避ける方法も無いので前に壁を作って防いだ。
其れ等は全て其の場へと溜まって行く。
「う、うん……てかあんた回復魔法使えたのね。」
彼女は落ちて居る剣を取って僕を恨めしそうに見て来た。
片方の
「うん。」
「……はぁ、あたしが此んな事に成るなんて……。」
何か彼女がボヤいて居るのを聞いたけれども、
僕は其れを聞か無い様にした。
其れを消して奴を見る。
奴は其れが消える迄待って居たみたいだ。
「ヷグジィィィィィィィィィ!!!!」
十分に時間を与えて了った為か。
雪崩の様に氷柱や雪のみたいな物が降って来る。
おまけに霧みたいな物が吹き始めて了った。
視界が悪く攻撃が見辛く成る。
ひょうひょうと吹き荒れる雪霧に薄い青い何かが見える感じだ。
耳を頼りにしてないとやってられない。
「……何かヷルトも居無いし……!
作戦変えた方が良いね……!!!」
攻撃を避けつつ時には彼女の前にも壁を作りつつ、
反撃のタイミングを伺う。
「一応、他の属性も使えるから使う?
……殆ど調整出来無いんだけど。」
ちょっと肩を竦め自虐するみたいに彼女は言った。
「う〜ん……。」
もし使えるなら使っても良いのだろうけど、
其れは最後の手段にして置きたい。
調整を失敗して彼女の身体に負担を掛けたくは無いし、
何か良い方法は無いからとローリングしながら考えた。
「……あ。」
「あのさ、縄を作る魔法が有るんだけど……。」
前に確か那の石みたいな奴を倒す為に使った魔法だ。
「其れで足でも何でも括り付けて地面に引き摺り下ろすから
攻撃してくれない?」
那の時と同じ様に縄を括り付けて何とか制御出来無いだろうか。
今回は腕じゃ無くて脚で或るが。
「……出来るの!? 其んな事。」
彼女が遠くから驚きの声をあげた。
「多分上手くジャンプ出来れば!」
くるっと後ろを向いて壁を作り氷柱をばりんと割った。
「じゃあ……うん、分かった。
其れに賭けてみるわ!」
彼女が了承してくれたので早速指示を出す。
「取り敢えず引っ掛け易い様に木の無い所に誘導して!!」
叫ぶ様に言うと彼女は頷いて雷の魔法をちょっと浴びせると其の素早い脚で誘導を始めた。
奴は其れに釣られて彼女を攻撃しようとする。
僕も同時に動く事にする。
するとどんどんと霧が濃く成って行く。
もう周りなんて上手く見え無い程には。
白い霧の中に青い何かが薄っすらと見える程度だ。
僕は其れに少し戸惑って了う。
いや、落ち着け、落ち着くんだ自分。
僕はもう人間じゃ無い、人間には無い、
しっかりとした二つの耳が有るじゃないか。
僕は耳に力を込めて音を聞き分ける事にした。
ぱりんぱりんと氷柱が割れる音、びゅうびゅうと吹く風の音、
自然の魔物達の鳴き声、悲鳴混じりの人々の声、
其の中にバサバサと翼を大きくはためかせる音が頭上からした。
(此処だ!)
僕は其の場から飛び上がり右手を奴の右脚に向けて放った。
「シュㇰ̊ヂ̇ャㇰ・コ̊ン̊コ̊ラ̊ーチャ!!」
其処からシュルシュルと透けた青色の縄が出て行く。
其れは奴の脚へと絡まり、僕は両手で縄を掴んだ。
奴は其れに気付いて脚を見た様だがもう遅い。
僕達は重力に引っ張られて地面へと落下して行く。
僕はスタッと着地したと同時にドサっと何かが落ちる音がした。
霧は段々晴れて行く。
目の前を見ると、彼女が途轍も無いスピードで此方へと向かって来て居た。
奴は氷柱や氷の刃を放つも彼女は其れをするっと避ける。
僕は飛び上がろうとする奴を抑え込む為に縄を思いっ切り引っ張った。
(頼む! 間に合ってくれ!)
そして、
彼女はジャンプをして奴の首を切り裂いた。
「ヴュジュアアアアアア!!!!????」
其処から血が溢れん許りに出て来る。
此う云うのも何だが、雪の反射と合わせて僕にはかなり美しく見えて了った。
まるで芸術作品みたいな。
そして剣を了い、両手を大きく広げて彼女は声を張り上げて叫ぶ様に魔法を放った。
「ヒューテ̣ンメㇻ̈!!! ヰ̇!!!!!」
ズドガンと耳を割る様な音がして稲妻が奴に直撃した。
まるで彼女の怒りを表して居る様だった。
奴は叫び声も上げる事も無く其の場に倒れ込んで了った。
「……もう大丈夫かしら。」
彼女は膝小僧に手を当てて前を向いて言った。
僕も安心して縄を消し、奴へと近付いて行った。
「平気そうだね……?」
「「うわっ!!??」」
僕が其う言った瞬間、
奴は起き上がって了った。
そして勢いを付けて其の場から立ち去って了った。
けれど……何か違和感が有る様な……。
「……ねぇ、もしかしてアイツ、
村の人達が逃げた方向に行ってない?」
僕が奴を指して言うと、彼女は目を見開いて其方を向いた。
「なら……ヒュー……。」
彼女が其処迄言った途端、
急に詠唱を止めて大いに困惑した表情で此方を見て来る。
「……魔法が使えない!」
「嘘でしょ……?」
僕は彼女と同じ様に魔法を放ってみるが確かに使え無い。
魔力の刃が一向に出て来無いのだ。
「なら……もう……。」
「ちょっと待って。」
今にも走り出しそうな彼女の肩を叩いた。
彼女は此方にくるっと体を向ける。
「な、何よ! 其うしたら村の人達が……!」
「ちょっと耳貸して。」
話を聞か無い彼女に強引に顔を此方に近付かせて其の丸まった耳に話し掛けた。
「……ふーん、あんた中々面白い事考え付くじゃない。
ならいいわ、やりましょ。」
彼女は其れを聞いて感心した様に腕を組んで言った。
そして其の場に座り込み背中を此方に見せて来る。
僕は靴を脱ぐと遠慮無く其の背中へ攀じ登った。
自分から提案したけれども何だかちょっと恥ずかしい。
周りの人が見て居無けれど良いんだけれど。
「うわ、意外と重いのね。」
「……流石に失礼過ぎない?」
其う言いつつもしっかりと乗せてくれた。
今は肩車みたいな感じに成って居る筈だ。
そして少し姿勢を傾けて走りだした。
……彼女のスピードは圧倒的だ。
周りの木々や景色が乱れて見える位には。
後ろを見ると、尻尾で上手くバランスを取って居るみたいだった。
僕は奴を見失わ無い様に首を目一杯上に上げて見て居た。
奴はどんどん近付いて来る。
そして腹が僕の視線の真上に入った時、
「よし、行って来る!」
と言って上手く立ち上がって思いっ切り力を込めて其処から飛んだ。
僕は奴の腹に剣を大きく振るって抉る様に傷を付けた。
さっき依りも多いだろう血が出て来る。
「ジュグァァァァァァァァァァァ!!!!!」
僕が剣を振るった反動か、
奴は思いっ切り地面へと叩き付けられた。
僕はスッと奴の隣に着地する。
何時も思うのだが、よく骨折する高度から落下しても平気だなと思う。
此の体は本当に凄い。
「………………。」
奴は未だ息の根は有る様だったが、
もう動く気力は無いみたいだった。
「……はぁ、はぁ…………。」
彼女は奴から少し離れた所で四肢を投げ出して了って居た。
「如何したの?」
僕は其処から彼女に話し掛けた。
すると彼女は下半身だけをむくりと上げて此方を見て来た。
「いや、うん、大丈夫……しょうがないわね、
私達って其んな最高時速をずーっと出せる訳じゃ無いから。
持久力は無いし……。」
「そうなの?」
……びっくりした。てっきり何時でも何処でも其のスピードを出せる物かと思って居た。
「……うん、だからアイツは凄い。本当に……
とんでもないヘタレ何だけどね。」
ちょっとはにかんで哀愁漂う感じで言った。
「ふうん。」
アイツが誰か全く分から無いが、
取り敢えず息の根を止めようと、奴の脳天に剣を突き刺そうとした。
「……オマエ。」
すると、急に奴が話し掛けて来る。
「…………アニヲ……コロシタンダナ?」
「……う、うん……。」
其の感情が全く分から無い声色にきょどりつつも頷いた。
「ナゼコロシタ?」
「そりゃあ……襲って来たし……
後其の儘放置すると村に被害出るし……
必死に頼み込まれたら誰だってするよ、きっと。」
しょうがない、いやしょうがなくは無いのかも知れない、
けれど、那の表情を見せられたらやるしかないだろう。普通は。
「……フクシュウシヨウトシタ、ケドムリダッタ。」
其の言葉を聞いて深く頷きながら繋ぎ合わせの言葉を紡ぐ。
「モウ、ワタシハニルナリヤクナリスキニシロ……
ケド…………。」
「……けど?」
けど、何だろうか。
「…………アニノコトハ、ワスレナイデクレ……。」
…………。
…………。
…………。
……僕はーー
此れ自画自賛に成って了うのですが、
今回の話結構面白いなーと。
其の理由として書いて居る自分が面白く楽しいんです。
又此の感覚がぶり返して来たので此処から面白い話を書けると良いなぁ。




