第五十八話:出発前
「んん……あぁ……。」
テントから漏れる光で僕は目覚めた。
普段目覚めは良くは無いと思う自分だけれども、
今日はしっかり起きれた様な気がする。
「うぅぅぅ……。」
出して了った上半身が異常に寒い。
「……ヷルトヷルトー、起きてー。」
僕は寝袋で気持ち良さそうに寝て居る彼を揺すり起こす。
「……ん、んん……あー……。」
其うするとボケーッとした表情で彼は体を上げた。
僕はおはようを言おうとするも彼が話し掛けて来た。
やっぱり眼は赤い。
「あ、俺って狐か。狼じゃ無いよな。」
何やら変な事を言って居る。
「……起きて早々如何したの。」
僕だって起きたばっかりだが、
頭はしっかりと回って居る。
「あぁ、うん、其うだな。」
全く以って返答に成って無い。
此れは寝ぼけて居そうだ。
其う言うと彼は立ち上がってテントから出て行く。
昨日作った防御魔法はもう解けて居り、
魔法陣にはカスだけに成った魔石が在った。
「あ、ちょ……。」
僕はコートを取って着て、
追い駆ける様にして同じ様にテントから出て行った。
「う……うぅぅぅぅぅん…………あぁぁぁぁぁ……。」
大きく欠伸をしながら腕を伸ばして居る。
手からはポキっポキっと音がする。
「……おはよ。」
僕が後ろから其う言うと此方を向き、
未だ完全に覚醒してる訳では無さそうだけれども返事を返して来る。
「あぁ、おはよ。」
「あ〜〜そうだ、朝飯如何する?」
彼は腕を下ろして其う言った後、
又ふわぁぁっと大きく欠伸をした。
……彼の牙とか口内が諸に見える。
特に大きな犬歯が恐ろしく見えた。
「うーん、昨日の余りで何か作れ無い?
パンとかも無いからねぇ……。」
其れを見てぎょっとしたけれども、
直ぐに何時もの感じに戻って言った。
……と云うか、何故此奴は冬の寒空の元寝間着一枚で平然として居られるんだ?
「そうだなぁ……あ。」
彼が何か良い事を思い付いたかの様にして右手を上げ其れを見て居る。
やたらにやにやして彼っぽく無い、
「朝からステーキ食っちまうか?」
彼は拳を作った手を右頬辺りにやって悪戯するみたいに言った。
「お、其れ良いね! 良い……けど……。」
僕も其れに同調したけれども、
少し疑念する点が有る。
「如何したんだ?」
「いや、獣人何かは朝っぱらから肉食っても胃もたれ何かし無いけれども、
那の人、平気かなぁ、って。」
飽く迄那の人は多分壮年位の普遍的なヅィー族だ。
口数が少無い事を除けば。
「あー……。」
確かにとするみたいに腕を君で居る。
「訊いてみるか?」
もう一個の方のテントを指して僕の顔を見る。
「だね。」
僕は頷いた。
「おい……えーっと……なんだっけ……リング。」
最初は声も張って居たのに後半に成るに連れて声が小さく成り、
ついには僕に訊いて来た。
「ノルマさん。」
僕が其う言うと顔を戻してテントの扉をばさっと開けて顔を突っ込んで居る。
「ノルマさん?
今日昨日の肉も余ってる所だしステーキにでもしちまおうとお……。」
其処迄言った途端、尻尾がびゅんと垂れ下がり、
ヷルトが此方に顔を突っ込むのを止めて驚愕した表情で言った。
「……居無い。」
「え。」
嘘だろ!? とは思ったものの、其れ依り驚きが勝って只ぽかんとする。
……確かにやたら静かだなとは思ったけれど……流石に居無い何て事は無いと思って居た。
「ん〜〜〜?? けど臭いはするな……直ぐさっき居無く成ったみたいだ……。」
又顔を突っ込んで臭いを嗅いて居るみたいだ。
「どう……する?」
馬車を引いてくれる人が居無く成ったら僕達は如何する事も出来無い。
「うーん……。」
僕が右耳の後ろを掻きながら考え込んで居ると、
くるりと回転した耳に微かにだが、音が聞こえる。
此のダダダダと音を立てて歩く感じは……多分人間だろうか。
「ねぇあっちから……なんか……何かが雪を踏む音が聞こえない?」
僕はヷルトに確認を求める様にして耳を触りながら訊いた。
「……うーん、俺には何とも……魔物じゃないのか?」
彼は聞こえて居るのか聞こえて居無いのか分から無いが、
耳を其方に向けて首を傾げて居る、
「いや、違うと思う。」
僕ははっきり断言した。
「……行ってみるか。」
「うん。」
僕等は其の音が聞こえた方面へ向かって走り出した。
朝はやはり寒く白い息がはぁはぁと吐いて出て来る。
空を見上げると今日は雲一つ無い冬の晴天だった。
「……ん?」
ヷルトが耳をくるくるさせて何かに気付いたみたいだ。
「どしたの?」
走りながらだから彼の顔は分から無い。
「いや、人間臭い臭いがするなって。
多分お前の言ってた事有ってるな多分。」
片手を顔の方に当てて右手だけが動いて居る。
どんどん進んで行くと僕にも感知出来る位人間の臭いがして来た。
(あれ?)
僕は何か人影が動いて居るのが見えた。
ズズーッとやや足が滑る。
「多分あっちに居ると思う!」
僕はヷルトに大声で言って其方に走り出す。
「えちょっと待って!!!」
ヷルトが僕を追い駆けて来る。
僕は雪をがっさがさと踏み歩いて人影が見えた方向に向かって直進した。
もうヷルトの事何か忘れてひたすらに奴を目指して居た。
「あ、居た!」
目の前には僕を驚いて見る彼の姿が有った。
* * *
其の後彼を引き連れてテントに戻って来た僕等は、
彼が持って来た茸を鑑定して居る。
如何やら流石に自分が何もして居無い事が嫌だったらしく、
茸とかを取って居たらしい。
昨日のミスを大いに引き摺って居たみたいだ。
……馬車引いてくれてるんだし、
其処迄して貰わ無くて良いのに。
「此れは駄目。」
「此れも駄目だな。」
「うん此れも駄目。」
「此れは猛毒だから駄目。」
「此れは……多分毒茸だな。」
けれど彼が持って来た奴は殆どが毒茸みたいだった。
……そりゃそうだ。其れなりに冒険者をやって居る筈の僕だって見分が付か無いもの。
にしても、ヷルト凄いな、
彼が持って来た茸をぱっぱと分けて居る。
「あ、此れ確か魔法的な事に使え無いっけ?
リング此れダズボヅフォアロだっけか?」
ふいに僕に確認をして来る。
魔術的な事には詳しく無いからだろうか。
「あー……。」
僕は其れを鼻に近づけて臭いを確認する。
確か臭い臭いじゃ無くてミントみたいな香りがした筈。
くんくんと臭いを嗅ぐと仄かに爽やかな匂いが鼻を通った。
「あぁ、此れ其うだね。ダスボヅフォアロだ。」
其う言って彼に手渡す。
彼はそっと其れを持って行った。
「へー…………売ったら?」
ぽつんと、気に成った事を口から吐いたみたいだ。
「うーん……状態も良いし……一個二千ベリル位?」
ちょっと上を見て考えた。
此の値段を出したのは軸の所とか裏の襞の所に何も損傷が無さそうだから。
飽く迄僕の主観的な云々でしか無いけれども。
「え……?? えぇ……????」
彼は何か恐ろしい物を聞いて了ったかの様に目を細めて居る、
「乾燥させたらもうちょっと高く成るかも。」
「……なんでだ?」
僕がぼやく様に言った其れを彼はずいずいとのめり込む様に訊いて来る。
「エキスが取り出し易く成るから。」
僕は其う言うと感心した様にへーっと言った。
此の世界では収納魔法と云う便利な魔法が有るからか、
乾燥させた食材の方が高かったりする。
「おぉっと? 何か珍しい奴発見したぞ。
コイツコイツ、此のでっかい傘の茸。」
ヷルトの声がやや上擦って下をベロンと出して見せて来る。
「うん?」
何だろう此れは。
僕は顔を近付けて目を細めて凝視して見る。
其れは白っぽくかなり厚みの有る茸だった。
襞に細かく毛が生えて居て、軸はちょっと曲がって居る。
僕が今迄に遭遇した事の無い物だ。
「……此れも高かったり?」
其の言い方は流石に其んな事は無いだろうと訊くみたいだった。
「いやぁ……多分珍し過ぎて値段付けられ無いんじゃないかな。」
茸の傘や襞を見ながら平田な口調であっさりと言った。
「……………………。」
口を目一杯開けて呆然として居る。
「なぁ、此れで料理作って良いか?
幾ら収納魔法が有るとは言え、其んな日持ちし無いし……。」
ヷルトが其う言うと彼は其の顔のまんまうんうんと素早く頷いた。
顎でも外れたのだろうか。
* * *
「さっき俺が日持ちし無いって言ったのは。」
昨日の余りの植物をざくざくと素早く切って居る。
「此奴は収納魔法に入れたとて何故か数日で腐っちまうんだ。」
彼は先に肉に火を通すとジュージューと云うお腹が減る様な音が聞こえて来る。
「意気揚々と発見して、」
そしてやや火が通ったのを確認して其のお肉を違うお皿に移す。
「そして入れて持ち帰ったら腐ってた、
何て良く有る事だな。」
まな板に置いて在った植物を火の通り辛い根菜類から徐々に入れた。
「えーっと火加減は…………。」
魔力竈の調子を見て上に付いて居るボタンを押して居る。
「うんまぁ、此んなもんでいっか。」
彼は脇腹に手を添えて自信満々そうに言った。
「ほい。」
其の茸をタルトやパイみたいな生地代わりにした中に、
昨日採った植物たちが入って居る。勿論ワ̇ㇻ̇ギ̊ッチャも。
「うわぁぁぁぁ……。」
「おぉ……。」
出された其れを見て彼に拍手をする。
「いやいや……褒めても出て来るのは精々水位だぞ。」
ちょっと恥ずかしいのは分から無いが、
ふざけた調子で言うとちょこんと椅子に座った。
「「「日々の糧に感謝して、そして生き物に感謝し、神様がくれた食物を頂きます。」」」
僕等はナイフで其れを切り分けて取り皿に移す。
何も言わずに一口食べて見る。
油にさっぱりと通されたヅァガヂャゲが僕の舌を突いて来て、
次にワ̇ㇻ̇ギ̊ッチャがガツガツとやって来る。
よく噛まなければ成ら無い。
カイイェーㇻ̇ラッㇰは何時もと違う酸味の有る味だ。
そして傘の部分だ。
コイツは歯応え抜群だけれどもあっさりとした旨味が野菜に良く絡む。
傘迄しっかり美味しいのだ。
……違う、傘依り軸の部分の方が美味しい。
軸の部分の肉が歯ごたえも有って噛めば噛む程旨味が溢れ出して来る。
あんな貧弱そうな此んなポテンシャルが有ったのか。
「……フーッ。」
例の奴が恨めしそうに、此れを欲する様に見て居る。
「……流石に此れはあげられない。」
彼が其う言って厳しい目で奴を見る。
「…………。」
奴は不満そうに其処に座った。
「あー、あのさ──」
僕等は其の後、世間話何かをしながら朝食を食べて居た。
彼はやっぱり口数は少なかったが、
だんだんと距離が近付いて居る様に感じた。
やっぱり食事シーンの方が配分が大きく成って了いますね……何でだろ。




