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第五十九話:対面

「まぁまぁ、取り敢えずお茶でも飲んで、

 あ、敬語は良いからさ。」

彼が其う言うと彼女が紅茶を淹れた。

エプロンや其れっぽい服装はして居無いものの、

さながらカフェ店員みたいだった。


「あぁ、すいません……。」

僕はちょっと屈むと目の前に置かれたお茶を飲んだ。


只買い物をして居ただけの筈なのに何故此んな事に成って居るのだろうか。


* * *


「あぁ、有ったみたい。ほら。」

彼が彼女から其れを受け取って受付に置いた。


「有り難う御座います……!!!」

僕は指を重ね合わせて顔に近づけて言った。

彼は丁寧に緩衝材を入れて紙で其れを包んで居る。


「んじゃ、支払いは十万五千四百ベリルだ。」

彼が包み終えると僕に其れを差し出して来た。

(うーん、ちゃんと端数分有るかな……。)


僕は財布の貨幣を覗き見て居る。


(あ、有った有った。)

僕は赤っぽい硬貨を十枚、黄緑色の硬貨一枚と、

金色の硬貨を三枚出した。


「…………えーっと、うん。大丈夫だな。」

彼は硬貨をひぃ、ふぅ、みぃと数えると其の硬貨を箱の様な物に丁寧にしまって居るみたいだ。


「ねぇねぇ、せっかくなら私ん家でお茶しない?」

態々上半身を受付から乗り上げて其んな事を言った。


「あのさぁ……流石にお客様に其れは失礼だろ……。」

彼は彼女の方を向いて其の発言に呆れ返って居る。


「えーんだって〜〜〜。」

彼女は態とかは分から無いけれども、

体をぶらぶらとさせて居る。


「あー……良かったらお茶しますよ?」

僕は自然と口から其んな言葉が出て居た。


「ね!! ね!! ほら!!!!」

彼女は僕を指して興奮して居る。


「………いえ、本当に良いんですか?」

彼がおずおずともう一度確かめる様に訊いて来る。


「えぇ。」

僕は頷く。


「やったー!!!!」

彼女は受付から出て来ると飛び跳ねて喜んで居る。




……其んな事が有って今彼女の家に居る。


彼女の家……と云うか彼女と彼の家だけれども、

一階は魔導具店、二階、三階、は彼等の住処みたいだ。


「……にしても、うちの子が此処迄嬉しがって居るのは久々ですよ。」

其う言うとお茶を飲んでニコニコと口角を上げて居る。


「其うなんです?」

ヷルトが紅茶を掻き混ぜるのを止めた。


「はい……最近は何かつまんない顔をして居て……。」

彼は紅茶を飲むのを止めてほとほと疲れた様な顔をして居る。


「えー、だって最近はおべんきょばっかで楽しい事無かったんだもん。」

「フェローちゃんも引っ越しちゃったし……。」

彼女はずずずっとお茶を飲むと、

彼がこらっと言って其の行為を叱って居る。


「ははは……確かにお友達引っ越したら悲しいもんね。」

僕はちょっと微笑んでちょっと前のめりに成って言う。

彼女はゆっくりと大きく頷いた。


僕も高校生の頃に似た様な経験が有る。

確か小学校の事も有って交友関係が薄かった自分だったけれど、

初めて出来た友達だった。懐かしい。


もし……もう一度逢えたなら何れだけ嬉しい事だろうか。


「……でも大丈夫だよ、多分又逢える。きっとね。」

僕は那の記憶を思い返す様に其う言って居た。


「ほんと?」

其の言葉を確かめる様に訊いて来た。


「きっとね。」

彼女の顔を見て優しく言った。


「……うん。」

彼女はちょっと不安そうに僕の言葉を聞いて居る。


「あ、あの……ちょっと……良いですかい?

 失礼ですけど、あんたの外見にちょっと気になる所が有って……。」

彼が唐突に僕等の話を遮る様に尋ねて来た。


「あぁ、はい。何ですか?」

お茶を飲んで居た僕は彼の顔を見た。


「先ず……うちの娘が言って居るので間違いは無いと思うけど……本当に、カラカルなんです?」

怖る怖る、と言った感じで口を開けてゆっくり言葉を紡いで行く。


「あぁ、多分で……だけど黒変種とか言われる奴だと思ってて、

 元から此んな色で……虎とか……豹とかでも居ると思いますよ、

 其んなに数は多く無いと思うけど……ほら、黒豹とか、聞きません?」

僕は一回言い掛けた敬語を言い直してやや説明口調で答える。


昔に師匠に訊いた時はびっくりした。


「あぁ、てっきりべつもんなのかと……。」

彼は開いた口が塞がら無いのかぽかんと口を開けて居る。


「あ、えーっと、次に……其の眼……何故、其んな赤い眼をして居るんです?」

そしてちょっとお茶を飲むと僕の眼をゆっくりと指して来た。


「あ、ソレ私も気に成ってた!」

彼女は彼女で立ち上がり手を挙げて声を張り上げる。


(あ、此れ?)

僕は自分の眼を指してちょっと不思議に思う。


「あぁ、此れは紅眼、って言われる奴で、

 魔力がやたら高い人に現れる症状らしいよ。珍しいんだって。」

余り感情を出さずに端然として言う。


(よくよく考えたら僕、黒変種で紅眼とか珍しいにも程が有るんじゃ……?)


「へー……え、でもそしたら体内で魔力が暴発しちゃうんじゃ……人の構造的に。」

彼はかなり困惑した様子で下をちょっと向いて考え込んで居るみたいだ。


「うーん、何でだろうね。自分にもよく分かんないや。」

分からないけれど、だからこそ紅眼の症状が出て居るんだろうし、

何か存在出来る要素が有るのだと思うんだけれど。


「分からないのか……。」

何故か彼は渋い顔をして居る。


「え、お前って其んな珍しい奴だったの!?」

ヷルトが話の尻尾を伺って居た様で、

ちょっと時間を置いて驚いて居る。


「そうだよ?」

「マジか……教えてくれよ……。」

僕がさらっと言うとかなり落胆させてしまったみたいだ。


「ごめんごめん、質問して来無いからてっきり知ってるもんかな〜って。」

僕は態とらしくふざけて言った。


「……元ランヷーズとは言え、流石に其処迄知らねぇぞ。」

彼は冷静にツッコミを繰り出す。


「え!! ランヷーズなの!!??」

と、彼のツッコミに彼女が目を輝かせて居る。


「ん? あぁ、元、な。」

少し当惑して居たものの、直ぐに何時もの調子に成って喋った。


「え〜〜〜良いなランヷーズ!!!!

 私未だ出来る歳じゃ無いからさ〜〜……。」

彼女は左耳を弄りながら羨ましそうに言ってる。


「……そうか? 辛い事も多いぞ。魔物の剥いだ皮とか血とか見れるか?」

けれどヷルトは其れを聞いて彼女を確かめる様に訊いた。


「…………うーん…………無理かも。」

彼女はちょっと考え素直に否定した。


「……だろうね、けれど……言っちゃあ何だけど慣れ、だから成る様に成るよ。」

僕は彼女に希望を持たす様に目を見る。


「やっぱり、最初は見てられ無いの?」

「……だねー……最初は目も当てられ無いよ。」

僕の目を不安そうな眼で見つめ返して言って来たので、

ちょっと困った僕は正直に当時の様子を言う。


僕は何方かと言うと師匠の家に居た頃から其う云う事して居たから慣れては居る。


「……お前ランヷーズに成りたいのか?」

僕等の話をぼうっと聞いて居た彼が彼女を心配そうに見て居る。


「うん!!」

大きく、元気に頷く。


「前々から言ってるが、不安定だし危険も一杯の職業だ。」

彼は顔を強張らせて彼女に本心を尋ねて居るみたいだ。


……彼の言葉に付いては同意せざるを得ない。

僕のランクでやっと普通に生活出来る位だ。


「ふふふ〜〜ん、お父さんの仕事手伝いながらやれば良いだけだも〜〜ん。

 ソコは私なりに考えてますよーだ。」

彼女は鼻の下を長くして言うと、

お茶をゆっくりと飲んだ。


「あ、冷た……。」


「いや、勉強は?」

「勉強もちゃんとしますよー。」

本当に親子みたいに仲睦まじい話をして居る。


僕の幼少期も此うだったらな、とかなり羨ましく思った。


「ははは……そうだね、頑張ってね。」


* * *


結局彼女等と店を閉める迄話して居た。


「すいませんね、うちの子の我が儘に付き合って貰って……。」

「じゃーーねーー!!!!又来てねーー!!!!」

彼女等が手を振って居るので僕等も振り返す。


「……ごめんね、付き合わせちゃって……。」

僕が店を離れ歩きながらヷルトに申し訳無さそうに言った。


「うーん、別に……お前が其う云う奴って分かってるし、

 別に。後付き合わせたって言い方は娘さんに失礼だぞ。」

如何やらヷルトは気にして居無いだけで無く、

彼女を気遣う気持ち迄も持って居たみたいだった。


「うん……うん、ありがとね。」

「?」


其うして僕等は街を離れて家に戻って行った。

小説内で黒変種、と云う言葉が出てきましたが、

メラニズムとは違います。


メラニズムはメラニン色素がやたら多く出る先天的な疾患で、

黒変種は只の突然変異です、


白変種とアルビノも似た様な感じです。


つまりリングさんは見た目だけで内臓とかその他諸々には何も異常が無いって事です。


あ、因みに紅眼に付いては此の小説オリジナルの設定なので此方の世界には存在しません。

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