第五十七話:次の日
今日はガルジェが帰る日だ。
彼は荷物を纏めて玄関で靴を履いて居る。
「んじゃあね〜〜〜。」
彼は其う言って小指を突き出すとあっさりと帰って行った。
僕等も小指を出して彼を見送る。
僕等は椅子に腰かけてるものの会話が何も無い。
「…………。」
「…………。」
彼の居無く成った此の空間が恐ろしい程に静かだ。
「……あのさ。」
「ん?」
僕は何か此の空気を如何にかしようと彼に話しかけた。
「取り敢えずさ……あの……学会へ行くためにさ、
馬車を予約したいんだよね…………で…………。」
僕がちょっとずつ言葉を絞り出す様に彼に言った。
「あぁ、隣街に行くから俺も着いてけ、って?」
彼は察しが良いのか頷いてお茶を飲んだ。
「うんうん、そ。」
彼の顔を見て大きく頷いた。
「……今日じゃなきゃ駄目なのか?」
ヷルトが面倒臭そうに訊いて来る。
「うーん、駄目じゃ無いけれど……予約で埋まりそうかなぁ…………
って思ってて…………此処等辺、鉄道通って無いみたいだしさ…………。」
僕はちょっと耳の後ろを掻きながらちょっと困った顔をする。
「鉄道? 何だ其れは?」
彼が其の単語を初めて聞いた様なぽかんとした顔をする。
「あー……人を運ぶ箱みたいなもんだよ、
魔法で動いてるんだってさ。」
鉄道とは云うけれども此の世界の鉄道は那の世界とは違って、
屋根の付いたトロッコみたいなのが何個か連結したのが空中を走って居るみたいだ。
「はー……時代の流れってすげぇなぁ……。」
彼が腕を組んでまるで年老いた男性かの様に僕の話を聞いて居た。
「……あれ? じゃあガルは如何やって帰ったんだ?」
其う言ってちょっとボケーっとしてた彼だったけれど、
突然僕の顔を見て其う言って来た。
「うーん……分かんないけど普通に馬車を予約してたか、
其れか転移魔法で帰ったんじゃない?」
僕は首を傾げてかなりあやふやな返事をする。
「じゃあ尚更馬車で行く意味無いんじゃ……。」
彼は其の言葉を聞いて訝しげに其う言う。
「ううん、転移魔法って場所と場所を繋げる必要が有ってさ、
つまり僕とかが一回現地に赴かなきゃ行けないんだよね。」
僕は頬杖を突きちょっと怠そうに言った。
そう、転移魔法は何処にでも行ける訳でも無いのだ。
其の名前から自分が想像した所へ行けると思われがちだと思うのだけれど、
実際は其んなゲームの様な事は無く、魔法陣と魔法陣で繋がれた場所しか行けないのだ。
「いや、其れだったら一回行ってんだろ?
行けるんじゃないか?」
けれど彼は納得行かない様子で僕に質問を投げ掛けてくる。
「いやぁ……其れもねぇ……多分魔法陣書いても撤去されるんだよねぇ……
只政府が魔導士達と協力して転移魔法を使った仕組みを考えて居るみたいなんだけど
前途多難っぽくさぁ……。」
僕は右耳を掻いて結構困った顔を見せた。
もし出来たらかなり便利な交通手段に成るだろう。
「其うなのか……知ら無かった……。」
彼は目をひん剥いて本当に驚いて居る。
「んまぁ……僕みたいに魔法をしつこく追ってる人じゃ無い限り普通知ら無いと思うから無理も無いよ。」
僕は掻くのを止めてははは、と笑う様に難しい笑顔をした。
「さ、取り敢えず行こ、準備してね〜〜。」
僕は其う言って椅子をズズズと音を立てて立ち上がった。
* * *
「よし、出来た?」
彼はカバンを肩に掛け、うんと頷いた。
「んじゃ行こっか。」
僕は其う言って扉を開けた。
僕等が此れから行くのは隣街のゲンフォーグドだ。
此処とは違って其れなりに栄えて居る街で、
僕が此の村に来る前に一泊した場所でも有る。
「にしてもゲンフォーグドか……俺余り行った事無いんだよな、」
彼が背面から話し掛けて来る。
「あ、其うなの?」
僕は顔を後ろに向けて言った。
「あぁ、大体家具とか雑貨とか買いに行くのは逆方向のフォロブレスだったからさ。」
彼が親指を入り口とは反対側に指して言った。
「あそっちにも街在るの!?」
僕は尻尾をぶわっと上げて漫画みたいに驚く。
はっきり言って僕は此所等辺の地理に詳しく無いのだ。
「あ、あぁ、在るぞ。」
彼は腕を戻してちょっとびっくりした感じで言う。
今度家具とか買いに行くんだったら其方に行っても良いのかも知れないな。
「……てかさ、ゲンフォーグドって何の位だったっけ?」
僕が顔を前にやろうとしたら又話し掛けて来た。
「うーん、不動産がくれた地図に依ると大体四十八フェール位らしいよ?」
ちょっと首を傾げはにかんで答える。
因みに地図は今は僕の収納魔法の中に入って居る。
ポケットだと失くしそうで怖いから。
「あ、其んなもんだっけ?」
彼は素っ頓狂な顔をして其う言った。
「らしいよ?」
本当に其処迄掛かるのかは分から無いけれど。
「意外と掛かるんだな……あ。そうだ。」
彼はちょっと顔を斜め上にすると、
直ぐに此方に向いて何か考え付いた様な満足げな顔をした。
「ん?」
如何したのだろうか。
「へへへ、そもそも俺等魔法使えるんだから別に地面を歩かなくて良いだろ?」
鼻の下を擦り口角を上げて何を思ったのか足を止めた。
「あ……そっか。」
其れを見て僕も歩みを止める。
そうか、其の方法が有ったか。
何故其の方法を思い付かなかったのか自分には分から無い。
今なら出来るのに。
「ほっほーい!!!!!」
風の切る音が気持ち良い。
僕等は二人一組で箒に乗って居る。
正に魔法使いと云った感じだ。
箒に乗るのは風魔法が成せる技だから僕が使えなくてもおかしくは無い。
「いや……凄いね…………。」
始めて此んな行為を体験した僕は何とも言え無い顔をして下の森や村を眺めて居た。
「……あれ、やった事無いのか?」
彼は僕を見る為か後ろに顔を向けて頭に疑問符を浮かべて居る。
「うん。だって僕、殆どの属性使え無いもん、
無属性と、後ゲード属性が少し。」
僕は淡々と今の状況を説明する。
「……使え無い?」
頭の疑問符がより濃く成って居る。
「うん。幾らやってもね。」
僕はちゃら付いて疑問を解消する様に言う。
「そうか……其んな話、聞いた事無いな。」
後ろを向くのを止めて彼は下を向いた。
「……うん、まぁ……だろうね。」
唇を噛んで微妙な顔をする。
此の世界の魔法は或る程度努力で如何にか成る筈なのだけれど、
僕の此の症状は僕以外に聞いた事も見た事も無い。
「……お?」
黙り込んで居た彼はちょっと声を大きくする。
「どうしたの?」
僕が彼を見上げる様に言うと彼は此方に
「ほらほら、見てみろよ、もう街が見えて来たぜ。」
彼が地面を指して其う言った。
僕が下を覗く様にして見ると確かに煉瓦造りのちょっとこぢんまりとした街が見えて来た。
「あ、ほんとだ。」
へぇ、此んな感じなのか。
「さ〜て、降りるぞ〜〜。」
彼は其う言うと箒を急降下させて、
僕のお尻がちょっと浮く。
僕は箒を掴んで何とか飛ばされ無い様にする。
彼は何とも無い様な感じだ。
何故其んなに平然として居られるのだろうか。
彼が道へと降り立つと其の浮遊感は無く成った。
けれど、周りで歩いて居た人々が驚いて居る様に見える。
彼は僕が箒から降りると其れをしまって此う言った。
「さ、さっさとやっちゃおうぜ。」
てことで馬車の予約序でに買い物に行くみたいです。
一応、そこそこ繁栄してる普通の街です。




