第五十五話:全世
昼は彼女等の面倒を見、
夕食も食べ終えた僕等は他愛も無い話をして居た。
「……でさー、そんときガルがさー。」
「ちょ、ちょっと〜〜〜ねぇ〜〜〜〜止めてねぇ〜〜〜〜〜。」
彼が明らかに恥ずかしそうに顔を赤らめ、
机に両手を付いてちょっと立ち上がって言った。
「まさかのソイツを僕と勘違いしてんの。
黒豹の獣人なのにさ、ハイエナなら臭いで分かる筈なのにねぇ?」
僕はお酒をちょっと呑み少しニヤついて彼をからかう。
「だってさ〜〜〜鼻詰まってたんだもんしゃあねぇじゃん!」
自分の黒い其れを指しながら声を大きく上げながら言ってる。
「其んなで臭わ無く成るもんなのか?」
ヷルトが頬杖を突いて不思議そうに訊いて居る。
「成るぜ成るぜ。ぶっちゃけ兄貴ほぼ耳頼りだからどーせ分かんねぇだろうけど、
俺等みてぇな奴等は臭い頼りだぜ。おめぇも狐なんだから分かるだろ???」
彼は椅子に座り直し、ペラペラと舌を回すとお茶を飲んだ。
「いや、あの、すまん、多分俺も割と耳頼りだ。うん。」
彼は申し訳無さそうにして首を触り頭を下にやった、
「うっそおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
おめぇも兄貴側の人間じゃんか!!!!!!」
椅子がバキッと折れてしまうそうなのも省みず、
思いっきり背もたれに体重を掛けた。
「其う言われても……。」
彼は目を細めて苦い顔をして居る。
「っち、折角ならこっち側だったら良かったのに……。」
両腕を後ろにやり目は上を見ながらちょっと声をぼそぼそとさせて居る。
「まぁさ、ほら……元々ヅィー族だし…………。」
彼はガルを見てちょっと首を傾げて言った。
「あそっか…………ん?」
腕を組むのを止め口を半開きにして何か考えて居る。
「じゃあヅィー族って如何やって暮らしてんだ?」
彼は耳をピンと立てて腕を組むのを止めて手を膝に置いた様な動作をした。
「うーん、基本目じゃない?」
僕は自分の紅い眼を指して言った。
「え目?」
顔を前にやって余程奇怪しいのか眉を面白い程に曲げて居る。
「目。」
僕がもう一回那れをやって答えると又背もたれに体重を押し付けてはぁと溜め息を吐いた。
「そうかぁ…………目か……。」
ちょっと上を向きながら其んな事を言って居る。
「其んな目良いのか?」
顔を又此方へ向けると机で腕を組んで首を傾げ訊いて来た。
「多分今や虎とか依りかは。後色の識別能力も良かった気がする。」
僕は頷き、ちょっと頭を掻くとヷルトの方に目をやった、
ヷルトは僕の其の発言に余りピンと来て居無い様だった。
……え、もしかして狐って普通に目が良いの?
其れとも前世の彼の視力が悪かっただけなのだろうか。
「へー……」
彼は其の体勢の儘息を吐く様に言った。
「えてかさー、尻尾とか無いのに如何やって平行取ってんの?
取り辛く無い??」
自分の決して長くは無い尻尾を此方に見せて言った。
「いや人間だった頃は別に其処迄…………ヷルトは?」
僕は机に両手を重ねてかなり首を傾げて目をちょっと上にやって彼を見た。
「うんまぁ…………俺も別に……」
彼は頬杖を又突いて腰を猫背にして目は明後日の方向を向いて居る。
「あ、けど、今は有った方が良いかな。」
頬杖を突くのを止め彼を目を見て言う。
「あ〜、確かに、今無くなったら体の均衡崩しそう。」
僕は手を膝に戻しちょっと頷いた。
僕が此う云うのも理由が有って、
正直尻尾が無くなったら高いジャンプとか落下した時とか、
走る事さえ儘成ら無いかも知れ無い。
正直言って便利過ぎるのだ。
何故人間は失ってしまったのか不思議で成ら無い。
「はー……其うなのか……まぁ俺にゃ良く分かんねぇんだけどよ。」
彼は紅茶を一気飲みすると両手を
(おいこら。)
其処迄訊いといて分かんないのかい。
* * *
僕等は適当な時間で二階へと上がって、
寝る準備をして居た。
「んじゃ、おやすみ〜。」
ガルが其う言ってライトを魔法で消す。
何も明かりの無い此の部屋はやっぱり暗い。
「おやすみ。」
僕も其う言って布団に潜る。
目を瞑ると瞼の裏に光の様な物が奔って、
まるで目の中に光の螺旋が出来た様に感じる。
其の儘目を瞑り続けると僕は何時の間にか眠って居た。
* * *
「じゃあ、昭さん、答えて下さい。」
僕がボケッとして居ると其う呼ばれた。
如何やら此処は教室みたいだ。
周りの生徒を見るに小学校だろうか。
僕は尻尾に気を付けながら椅子から立ち上がり、
黒板へと向かう。
何故か周りの子がクスクスと笑い始める。
「……うん。正解。」
先生はチョークでくるっと円を描くと其う言った。
周りの子達は不満そうな顔をして居る。
何でなのだろうか。
僕はささっと答えを書くと椅子に座り直した。
えっと、今何処をやって居たんだっけ。
(あぁ、そっか。此処か。)
僕は先生の其の長ったらしい話を又聞き始める。
正直、塾とかで先にやってしまって居るから授業がつまらなくて仕方無い。
此んな事をやって居る暇が有るなら他の勉強でも進めたい。
僕は一応先生の話を聞いてノートに纏めて行く。
……分かり辛いし、纏めるのが辛い。
教科書見てた方がマシかも知れ無い。
『キーンコーンカーンコーン』
つまんない顔をして居たら授業が終わった。
今日は五時間目で木曜日、さっさと帰りの支度をしてしまおうか。
塾も有るし。
僕が立ち上がって後ろのロッカーからランドセルを取ろうとする。
(いたっ!!)
後ろから足を掛けられた。
けっ、またかよ。
僕はクスクスと笑って居るのを無視して席に座った。
机の中の教科書を取ってランドセルに詰めて、
日直が前に立つのを待つ。
かなりのろのろとして男女二人が日直に上がると、
帰りの会を始めた。
「明日の予定はーー。」
何か言って居る。
正直、僕はお昼休みの時間とかに予定表を書いて居るから此処で書かなくても良いと思うのだけれど、何故か先生に怒られるから日直表と筆箱を出して置く。
……そもそも、何時も予定の変わら無い此れを書く意味なんて有るのだろうか。
「今日はクラスで何が有りましたか?」
女の子が何かを言って居る。
するとやたらニヤついた笑顔をしながら女子が一人手を上げた。
「はい、中島さん。」
彼女は椅子から上がり確信でも突いたかの様な気持ちの悪い笑顔をしながら僕を見た。
「今日はー、流川さんがー、五時間目の算数の授業を聞いて居ませんでしたー、しかもー、私の悪口を言って居てー、ブスとかー、死ねとか言ってましたー。」
(は?)
最初の話は兎も角、僕は君に悪口なんか言って居無いのだけれど。
「え、ちょ、ちょ、待って下さい!」
僕は身の潔白を証明しようと立ち上がるけれども、
サイテー、とか、クズじゃん、とか其んな声が聞こえて来る。
「また流川さんですか、止めて下さいね。」
まるで先生は僕がやったかの様に決めつけ聞く耳を持た無い。
「いや、して無いです!!!」
僕は声を上げても何も反応し無い。
もう此れはしょうがないのかと思って渋々椅子に座った。
何が面白いのかクスクスと笑い声が聞こえた。
(……最悪。)
其の後も何事も無かったかの様に帰りの会は続いて行く。
「えー……今日はー…………えー…………。」
日直の男の子が口を言葉を詰まらせながら何か言って居る。
彼が何か家で起こった事を話すと、
先生は何かぐだぐたと喋り始めた。
「今日は何事も無くて良かったです。
…………流川さん以外。」
すると周りは僕を見つめて来る。
何で此うも嫌な事は連続するのだろうか。
「もう二度と此んな事をし無いで下さいね。」
僕をゴミでも見るかの様な目をして其う言った。
(僕の話も聞かずに何を偉そうに……。)
もう嫌だ。最悪だ。
此んな事、もう耐えられ無い。
* * *
「……………。」
僕はかなり嫌な気分で目覚めた。
今度は小学生の頃の記憶か。
正直最悪だったとしか言い様が無い。
まぁ、いいか。終わった事だ。
今は那奴等と別の世界に居るんだ。
もう関係も無いだろう。
其う思ってベッドから起き上がった。
今回は何と云うか余りにも内容が混在し過ぎて上手いタイトルが付けられ無かった様に思います。
皆様如何してるのでしょうね、気に成ります。
そもそも、小説家になろう内で一々サブタイトルを付けて居る人は珍しいとは思うのですがね……。




