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第五十三話:喪聞

タイトルは『もぶん』とでもお読み下さい。

「え…………あれ?」

俺は自分の半透明な姿を見てびっくりして居た。

けれど一瞬で理解した。


俺が幽霊と成ってしまった事に。


……未練は無かった筈なのに、何故。




いや、未練たらたらだった。

特に……彼女の事に。


正直……如何でも良いかと思って居たけれども、

心の底で何かが突っかかって居る。


幽霊って飛べるのだろうか。


足を宙から離すと此の大地に縛られ無い様で、

ふわふわと浮けた。


だったら、此の儘浮いて彼女の元に行け無いだろうか。


……けれど、現実は残酷だった。


「いでででででで!!!!!!」

玄関から出る事が出来無い。


「うっそだろ…………。」

つまり地縛霊と云う奴だろうか。

なら……やる事は一つ。


(誰かがもし俺の家に来た時に、俺は彼女を待って居ると言って貰おう。)

償いをさせたい訳では無い。

俺がもう一回彼女に会いたいだけだ。


そうしたら……今度こそちゃんと死ねるかもな。


けれど──


「うわーーーー!!!!!」

「来るな!!!!!!」

「此んな所に来るんじゃ無かった!!!!」

「やだやだやだやだ!!!!!!」


……もし仮に人が来て家に入って来て貰っても、

俺が声を掛けるなり逃げ出してしまった。


其んな事をして居ると、忽ち(たちまち)俺の家が心霊スポットと化してしまったみたいだ。

……何故、此うもおかしい方向に進んでしまうのだろうか。


其れからもずっと来る人来る人に話し掛けて行った。


其うすると或る一人の男性が俺の話を聞いてくれた。

其の男は幽霊退治を生業にして居るらしく、

余りにも話題に成った為に俺の家に来たみたいだった。


「はぁ〜〜〜〜良かった、一人も話を聞いてくれなかったら如何しようかと思ったよ。」

俺は座って居る心地の無い棚の上に座って彼と話をして居た。


「……成る程、そうなのですか。」

何やら怪しい白装束みたいな恰好をした彼が俺の話を聞いて居る。


「やってくれるか? 多分俺は其れで成仏出来ると思うからさ。」

俺は棚から降りて、俺の話を真剣に聞いて居たらしい彼に其う言った。


「……はい、分かりました。じゃあ私は……行ってきますね。」

彼は祈る様なポーズをすると、

ちょっと背をへこっと倒れさせると玄関迄行った。


「おう、伝えてくれよ〜〜。」

俺は玄関の前迄に行って彼を見送ろうとした。

彼は何かごそごそと音を立てると俺の方をにっこりと見て来た。


(……ん?)

俺は首を傾げる。

如何したのだろうか。


すると突然彼が右手を上げ、

流暢に大きな声を出した。


「カ̏チーヤロ̈ㇻ̈・ヲ゜リ̇ー!!!!!!!!」

俺の体が何か下半身から謎の光に包まれて行き、

手首を掴んで掴まれた方の右手を此方に差し出して来て居る。


かなり渋い顔をして居る。


「おい、お前!!!!! 約束は如何した!!!!!

 なぁ!!!!! おい!!!! 答えろ!!!!!」

俺が動け無い儘拘束され、大きな声で彼に尋ねる。


けれど彼は俺の事に気が付いて居無いのか其れとも無視して居るのか、

かなり渋い顔の儘表情を変え無い。


「ぐぬぬぬぬ……強いですね……。」

とかぼやきながらどんどん顔を顰めて居る。


「おい!!!!おい!!!!此の野郎!!!!!!」

俺は力を込めて其の光に対応しようとする。

ずっと雄叫びをあげながら力を込めて居る。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁクソがあああああああああああ!!!!!!!!!」

バキンバキンと鎖が千切れる様な音がし、

俺の体は拘束から解けた。


「な、何!? こ、此れは……マズい!!!!!!」

と言って逃げ出そうとする彼の体を俺は完全に静止させて居た。

ちがう、只時間がとてもゆっくりに成って居るだけだ。


何時の間にか右手に持って居た大斧を使い、

俺は彼を其の儘殺して居た。


首がちょんぎられ、其処から血がだらだらと出て居る。




あれから何日の月日が経っただろうか。

俺はもう来る人を信用し無く成って居た。


家に来る人来る人を殺して居た。


或る時は俺を見ようとする一般人を、

或る時は俺を唆そうとする偽善者を、

或る時は俺を倒そうとする冒険者を。


皆もう死んでしまえば良いと迄思って居た。


……今思えば、何故那んな事をしたのか分から無い。


◇ ◇ ◇


「……ってまぁ……カンジだ。うん。」

彼は自分が体験した事を全て話すと、

苦笑いをしてお酒を呑んだ。


「…………壮絶……だね。」

僕は思った事を率直に言った。

すると彼はふふふふ、と笑い出した。


「ははははは、お前に言われたかねぇよ。

 己の為に努力して、母親も亡く成って、

 結局自殺しちゃったんだろ? 俺以上に壮絶じゃないか。」

ちょっと酔って居るのか冗談っぽく笑って僕を見た。


「其うかなぁ……。」

僕は耳を下げて首を傾げる。


もしかしたら人は自分が体験した事の無い方向の壮絶な話を聴くと、

例えベクトルが一緒でも霞んで見えてしまうのだろうか。


よく分から無い。


「あぁ、ちょっとお酒くれない?」

僕は其の思考を止めさせる様にコップを差し出して彼からお酒を貰う。

酔えば如何にか成るんじゃないか。其う思った。


コップにとくとくとく……と三分の二位迄入れて貰った。


僕がお酒を呑み始めると、

途端にドアから何か音がした。


「「うわっ!!!!!!」」

ガタッ、の様なゴトッの様な音が何かが倒れる音がドアからした。


僕等は思わず駆け出してドアの前に向かうと、

ガラス越しに黒い影が見えた。


僕等は顔を見合わせ、固唾を飲むと二人同時にドアを開けた。


「あ、あぁ…………へへへ…………。」

其処にはガルジェが居た。立った儘怯えた様にして、

鼻の下を擦り笑顔では有るけれども固い表情をして何かを誤魔す様に目をぎょろ付かせて居る。


「…………取り敢えず……こっち来な。」

ヷルトが彼を見て手招く様な動作をして腕を伸ばした。


「えぇ!? いやいやいや!!!! 俺は偶々此処に居ただけだから!!!

 別に何かお前等のやっべー話を聞いた訳じゃ無ぇから!!! な!!!」

僕は彼の襟元を無理矢理掴んで此方に引き寄せた。


「ほら、こっち来て。」


* * *


「……で、如何まで聞いたの?」

僕は彼にお酒を差しだして訊く。

けれど彼は其れに口を付けようとし無い。


「…………兄貴がお酒が欲しいって言った所迄。」

彼は僕が幾ら目を合わせようとしても一切合切合わせてくれ無い。


(……殆ど全部聞いて居るじゃないか。)


「……なぁ、言っても良いよな。」

ヷルトが僕を見てちょっと首を傾げ膝小僧の辺りに手を当てて訊いて来た。


「…………うん、そう……だね。」

僕はやや右上を見て頷いた。

もう其処迄聞かれたら誤魔化す事なんで出来る訳無いだろう。

言ってしまっても良いだろう。


僕等は自分が転生した事と、

そして前世の事を順序立てて話した。


彼は僕等の話を聞いて居る。

かなり興味深そうに、そしてかなり驚いて、

身を弥立つかせて時折毛を逆立てながら僕等の話を聞いて居た。


「え……え??? つまり……兄貴は別の世界から転生して来て……

 で、ヷルトは其れに助けられた形に成るのか?」

彼は腕を組んで口を大きく開け椅子の上で足を組んで居る。


「まぁ、そうだな。」

彼は特に何も思って居無いのか、

其う言うとお酒をちょびっと呑んだ。


「いや、え? 待って?? 仮にでも自殺したんでしょ?

 何で?? 何で其んな冷静なの?」

彼は顔をやや下に向けて右手で顔を押さえながら左手を此方に突き出して明らかに困惑して居る。


「さぁ……? 前世は飽く迄前世だし……別物だし……

 何だろうね、何か……妙に冷静に成っちゃうんだよね。」

僕はちょっと引き攣る様なはにかむ様な笑顔を見せた。

今の自分は今の自分。もう過去の自分では無い。

だからだろうか、何か誰かの記憶を遡る様に見てしまうのだ。


但し現実味が無い訳では無く勿論自分の事として捉えては居るけれども、

自分の中で線引きをして居るだからだろうか、

何処か冷静に分析してしまうのだ。


「え? 其の……何か…………思い出したりとかして……何か……成らない?」

彼が未だ未だ納得しない様で姿勢を変えず僕に訊いて来る。


「あぁうん、確かに昔は成ってた、ちっちゃい頃ね。

 あ、ほら、何かさ、結構おかしい行為してたじゃん?

 やたら吐いたり奇声発したり自傷しようとしたり……。」

那の頃は本当に酷かった。

未だ前世の事を引き摺って居て、

もうちょっとした事で色々と考え込んでしまう位には精神を病んで居た。


……ちょっとやそっとじゃ、何も変わら無いのに、だ。

増してや家族だ。余程とんでも無い奴じゃ無い限り見捨てる事は無いだろう。


其う云う意味ではマリルちゃんがちょっと心配だ。

いや、正確には結構だ。前世の自分と勝手に重ね合わせて居るのかも知れない。


「あー……何か師匠に訊いてみたら『多分其う云う時期だよ』

 って言われたから勝手に納得しちゃったな……其れって、

 其の…………やっぱり、前世の事を思い出したり? とか?」

腕を交互にくるくると回転させて首を左右に傾げて居る。


「うん、そうだね。」

僕はあっさりと頷いた。


「今は?」

「殆ど無いね、時々夢に出て来るけど。」

正直言って見たくは無いが、

多分もう如何しようも無いのだろう。


根っこには其れがずっとへばり付いて居るのだ。


「はー…………ヷルトは?」

彼は彼の方を向いて訊く。


「俺も無いかなぁ……恨み……は無いし……。

 心残りは……うん、有るけどな。」

彼は何か物悲しい様な寂しい様な笑顔を作った。


「…………何だ?」

恐る恐る、と云った感じで彼がゆっくりと訊く。


「………………元妻の事だ。一度は会ってみたい。

 今生きて居るか……分から無いけど。五十年位前の事だろうしな……。」

かなり長い溜め息を吐き声は小さく、

顔は何処かやつれて居る様に見えた。


耳の後ろをぼりぼりと掻いた。


「……………………。」

其れを聞いてガルは下を向いて何か考え込んで居るみたいだ。


「……如何したの?」

何も喋ら無い彼に僕は少し前のめりに成って訊いてみた。


「………………。」

其の儘彼は黙りこくると、

ちょっとだけ上を向いて重そうな口を開いた。


「……いや…………何と云うか…………何か……………。」

彼は僕等を申し訳無さそうな眼で見つめて来る。


「何か…………何で…………何で俺は…………知る事すらし無かったんだろう…………って…………。」


「……だって…………だっ……て…………其んな…………其んな………………事……悲惨だし…………俺は…………何も……分かろうとも…………し無かった…………しようともし無かった………………。」


「上っ面だけ見て…………其れで判断してた…………本当に………………馬鹿だった…………。」

彼はどんどん顔を暗くし、最後の方は声が掠れてしまって居た。

重くどんよりとした空気が流れる。


僕は此の光景に対して如何して良いか分から無い。




其んな光景を見て、彼はお酒を一口呑んで態とらしい程に舌を出して此う言った。


「……ばーーーか。」

彼は酔った様な表情でニコニコして居る。


「え?」

ガルは大きく口を開けてぽかんと口を開けた。

何が何だかよく分から無いって表情だ。


「別にお前さんが気にしようと気にしまいと、

 俺等は言おうとし無かった。絶対。なぁ?」

ヷルトは一体如何したのか急にぺらぺらとふざけた調子で話し始めた。

そして話題は急に僕の方へ振られた。


「……うん……其うだね、余り人に聞かせる物でも無いし…………。」

僕はちょっと困惑しつつ、彼の話に応えた。


「ほらリングも此う言ってる。だからおめぇが気負う必要は無いって事だ。」

彼はやや後ろに居る僕を指して又お酒を一口呑んだ。


「え、え……えっと…………えぇ??」

首を左右に傾げて理解出来無い様子で居る。

耳がひゅんひゅんと動いて居る姿を僕は凝視してしまう。


「だって自殺何てホントは良く無いモノ。

 俺等も其れ重々は分かってるさ。別に生半可な覚悟でやった訳じゃあ無い。」

彼は完全に声を上げて面倒臭い親父の様にぺちゃくちゃと舌を回す。


「え、じゃあ……尚更何で……?」

彼は訝しげに僕等を見つめて居る。


「だって、其うしなきゃ逃げる方法が無かっただけさ。

 おめぇは其処迄でも無いだろ? なら普通は聞か無くて良い話だ。

 寧ろ聞くもんじゃ無ぇ。」

彼は矢継ぎ早やに話を進め


「……う、うん…………。」

ガルは納得して居なさそうだけど頷いた。


「さ、湿っぽい話は終わり終わり、

 酒でも呑んで忘れろ。」

彼はガルの前に置いて居たお酒を彼の口に近づける。


「え……でも…………。」

両手を上げて目はきょろきょろと何処に置いて良いか分から無いみたいだ。


「ほらほら呑めって〜〜〜。」

ヷルトは無理矢理口を開けてお酒を流し込んだ。

彼は完全にきょどって居る。


「あちょ!!!あががががが!!!!!」

彼は目を開いて彼の手をどけようとする。

しかし抵抗する間も無く流し込まれてしまった。




……其の日は其んな風にはしゃぎ合ってお酒を呑み一日を終えたのだった。

まるで全てを忘れさせるかの様に。

因みに何故此んな重苦しい雰囲気で泣くと云う表現を使わ無かったのかと言うと、

裏設定として獣人は泣く事が出来無いってのが有ります。


だから使って居ません。

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