第五十二話:回想録
やっとヷルトの過去に付いて触れます。
此処迄放置してしまって申し訳無い……。
「今日マール来無いな。」
彼が椅子に座って足を組みながら其う言った。
マールってのはマリルちゃんに対して彼が付けたあだ名みたいな物だ。
「……んまぁ、何時も何時も来る訳じゃ無いからね、
一日二日は来無い日は有るよ。」
僕は紅茶を二つ入れて居る。
良い感じの濃さに成ったから彼に一つ差し出した。
彼女だって子供ながらに色々と理由が有るのだろう。
但し凄い時は一日に二回三回と来る日も有るけれども。
「ふーん……そっか…………。」
彼は残念そうに肩を下げて耳も垂れ下がって居る。
「俺は別に来無くて良いけどな、居るだけ邪魔だ。」
紅茶を啜りかなり冷たい目で其んな言葉を吐いた。
「えー、其んな冷たい事言わ無いでよ〜〜。」
僕は冗談っぽくちょっと顔をニコニコさせて彼に言ってみる。
「お前等が特別子供が好き過ぎるんだよ……。」
何とも言え無い様な困った様な顔をし、
紅茶を飲むのを止めた。
「えー普通じゃんだってねーガルジェ?」
僕は彼の方を見て首を傾げて訊いてみる。
「おうおう、子供だからな、そりゃ相手してやらねーと。」
彼はしっかりと頷いて腕を組んで同調して居る。
「……はぁ。」
大きく溜め息を吐いた。
「お前等騙されても知ら無いからな。」
彼はちょっと時間を置いて紅茶を飲むと吐き捨てる様に言った。
流石に子供に騙される何て有る訳無いだろう。
「はぁ〜〜〜??? 子供を悪く言うのは無しだぜ。」
ガルはテーブルにかなり乗り上げて彼を睨み付ける様に言った。
牙は剥き出しで完全に威嚇して居る。
「いや其うじゃ無くてよ……入れ込み過ぎて周り見え無く成るな、
って言ってるんだよ。村の奴等はリング悪魔だの何だの言って嫌ってるんだろ、
しょうも無い理由でよ、子供でも使って何するか分から無ぇからな、
人間って思ったより汚ねぇんだぞ。」
彼が何を思ったのかかなり声を荒らげて言った。
……其う云えば、結局彼に付いて余り詳しく聞いて居無い気がする。
断片的に知って居る事は精々借金塗れで如何しようも無く亡く成ってしまった事位だ。
……今日、時間が有ったら聞いてみようかな。
* * *
「あぁ〜〜〜やっべ俺めっちゃ眠いわ……寝るわ、ごめ。」
其の夜、ガルは僕の思考を読み取ったのか、
其れとも唯単に気紛れだったのか分から無いけれども、
ふわあと大きく欠伸をして二階へドスドスと音を立てて行った。
……訊くなら今しか無いか。
「……ねぇ……あのさ……。」
僕はチラッと彼を見るけれども直ぐ顔を逸らしてしまう。
「ん? なんだ?」
彼はお酒を呑んで居る。
「……何で……其の……如何して……自殺する事に成っちゃったの?
あの…………経緯って言うかさ…………詳しく聞いて無かったから……。」
僕はちょっと口をもご付かせながらやや下を向いて言った。
「あー…………そっか……うーん…………話すと長く成るんだけどさ…………。」
彼は首に手を当てながら顔を横に向けて、ゆっくりと言葉を綴って行った。
◇ ◇ ◇
此れは確かーー五十年前以上の話。
俺には一人の婚約者が居た。
名前はフェローと言う。
フェローは都会で出会って俺が一目惚れした女性だった。
俺が紅茶を啜って居ると、
不意に彼女が話し掛けて来た。
「ねーねー、ヷルトさー、今度旅行行かない?」
妻は其の澄んだ水色の瞳で此方を見て来る。
「あぁ、そうだな……行っても良いかもな。」
俺は首に手を当て、ちょっと右上を向いて言った。
俺等は一度も結婚旅行なんか行った事が無い。
理由は単純でランヷーズの依頼を受ける事が多い所為で中々時間が取れ無いからだ。
時偶に魔物が攻めて来る時も在るし。
「じゃあ何処行く?」
彼女がかなり嬉しそうな顔をして俺に尋ねて来る。
「そうだなー……。」
俺は妻の事を聞いて机に両腕を突いて訊いた。
「……ごめん。」
俺は玄関で戦闘用の軽装備に着替えて彼女に言った。
「…………ううん。頑張って来てね。」
かなり苦しい笑顔を作って僕に笑いかけて来て居る。
何を言おう、今日は彼女と出かける日だったのだ。
けれど、魔物の大暴走で村の防壁も壊れてしまうらしく、
急遽行か無ければ行けなく成った。
ごめんな、けれど此れを生業にして居る以上しょうが無い。
旅行は今度な。
「じゃあ…………行って来る。」
俺が後ろを見ずに彼女に言うと。
「…………死な無いでね。」
とぼそっと言った。
「……おう。」
俺が此の戦いで死ぬなんて事、有っては成ら無い。
只、其うやって彼女に迷惑を掛けて来て居たからか、
或る日俺が何時もの通り討伐へ行って帰って来た時。
「え。」
……妻が蒸発して居た。
家具とか、お金とか、殆ど何も無く成ってしまって居た。
有るのは机に有る手紙一つだけ。
此う書かれて居た。
『もう貴方との生活に疲れました。
ごめんなさい、私の我が儘なのは分かっています。
けれど、もう私の心は持ちません、御免なさい。
さようなら。探さ無いで下さい。』
けれど、此れだけだったら未だ良かった。
それから数日間は凹んで居たが取り敢えず彼女は諦めて、
何時も通りの生活をしようと思って居た頃に家に奴が来た。
「えぇっ!?」
「いや、其う言われましても……すいません、
貴方名義でかなりの借金を抱えて居るみたいです……。」
……那奴、俺に隠してかなりの借金を抱えて居たみたいだ。
しかも俺名義で。
(……嘘だろ。)
如何やら世帯に成った時に、
借金を俺名義に変えて居たみたいだ。
しかも十億ベリルも。
一体、何に使って居たのだろうか。
別に、もし仮に彼女に借金が有っても結婚したと思う。
只、言ってくれ無かった事に俺はそんなにも信用されて居無い事が分かってしまった。
那の甘い甘い甘美な生活は嘘だったのかと絶望した。
でも、其んな事は言ってられ無いと頑張るものの、
幾ら討伐しても、幾ら食費を削っても、如何にも成ら無かった。
家を売ってお金を稼ごうかと思ったけれど、
其れは俺のプライドが許さ無かった。
多分、此の家迄売ってしまったら俺の心が壊れてしまうからだったと思う。
結局、売る事に成ってしまうのだけれど。
其の時は他の事で如何にかしようと考えて居た。
……けれど、借金は減る所か膨らむ許り。
もう家には何も残っておらず、
洋服や装備もどんどん貧相な物に成って行った。
元々其れなりに身だしなみには気を付けて居た筈なのに、
一枚の服を洗って毎日使う様に成った。
討伐に行く装備も元々魔術式が書かれた其れなりに高価な物を使って居たが、
もう装備とは思え無い位薄い革の鎧の様な物を着る様に成って行った。
しかも、
「ねぇ、那の人、なんか気持ち悪く無い?」
「ですよね……奥さん。悪魔でも取り憑かれて居るんじゃ無いでしょうか……。」
村の人からは次第にどんどんと気持ち悪がられるし、
村八分みたいな状況に成って行った。
毎日ホルベに行こうと外に出ると、
「村から出て行け!!!」や「死ね!!!!」何て日常茶飯事。
酷い時は急に水魔法を掛けられた時も有った。
けれど一番辛かったのは俺が可愛がって居たヲールって名前の子供にも気持ち悪がられてしまった事だ。
代々八百屋を営んで居た親御さんとも元々上手くやって居たのに。
だからもう俺は、八百屋に家を売って自殺する事に決めた。
此れで借金の半分は返せそうだったからだ。
もう家を売ってしまったら俺に残って居る物は何も無い。
得に未練は無い……筈だった。
遺書を書いて居ると自然に涙が出て来て、
遺書がぐしゃぐしゃに濡れてしまった。
多分此れでは死ね無いと俺はそうそうに自殺を決める事にした。
毒瓶を二本飲んで、自殺を決行した。
……其の後は痛みとふらつきでよく覚えて無い。
けれど、本当の地獄は此処からだった。
二話に渡って話して行こうと思います。
明日も更新するのでご心配無く。
あ、其れと、もしかしたら更新が遅く成るかも知れません。
ストックが無くなって来てしまったので。
只でさえ筆が遅いのにです。




