第五十話:夕食
「ごめん!!!!アイツ等家に帰してたら時間掛かっちゃった!!!」
彼がわざとらしく舌を出して手を祈る様に咬ませて謝って来る。
彼は其の儘滑り込む様にして席に座った。
「あぁ…………。」
ヷルトはヷルトでかなりやつれた顔でげんなりとして居る。
「……お疲れ。」
僕は彼等をねぎらう様にお酒の瓶を出した。
「お?酒?珍しいな。」
彼が其れを見てちょっとびっくりして居る。
多分普段お酒何か呑まないからだろう。
「まぁね……久々に、ね。」
一応僕も彼も法律的に成人して居るし、
別に呑んでも平気だろうと思ったのだ。
其れと一度彼等とお酒を呑んでみたかったのだ。
「おぉ〜〜? 此れウㇷ゛ナンの青か?
良いよな〜〜ちょっと苦いけど美味いよな〜〜。」
彼が其の瓶の細い口の辺りを持ち
印刷されて居るロゴみたいなのを見て言った。
「あ、そうだそうだ!!!!」
彼が何か思い出した様にして酒瓶を置いて魔法陣を出し、
其処から何かの瓶を取った。
「へへ〜〜ん、此れリングとヷルトにあげようと思ってた奴!!!!
せっかくだし此の場で呑もうぜ!!!!!」
鼻の下を中指で擦り、ちょっと恥ずかしそうに其れを見せて来た。
ヷルトが目を開いて驚いて居る。
……モドㇻ̇ルヷ̇の
ル̈ーンフ̇ェァーキーじゃないか。
自分もそこそこ良いのを買って来たつもりだが、
本当に高いのを買って来た。
何で其んな物を忘れて居たんだ。
ガルジェらしいけれども。
「序でに飲み比べしようぜ〜〜。」
彼は瓶をドンと机に置いた。
「……其うだな、リング、栓抜き有るか?」
彼がちょっと微笑み。
手をちょちょいと動かして首を此方に向けて僕を見た。
「あ、うん。有るよ。」
僕は近くに置いて在った栓抜きを彼に渡した。
「おっす、ありがと。」
彼は其う言うなりテキパキと二つの瓶を開けて行く。
シュポ、と那の炭酸が抜ける様な音が聞こえると彼はコルクを二つ机に置いた。
「あ、もう一個グラス要る?」
僕は立ち上がって彼等に訊いた。
「あー、有った方が良いな。」
「んじゃおっねが〜〜い!!」
……らしい。
じゃあ、取って来るか。
僕は棚に行って三つグラスを取り、
机の上に在る其の隣にそっと置いた。
「へへ〜〜ん、入れるぞ〜〜!!!」
其う言ってトトトトト……とお酒を注いで行く。
三つのグラスに半分位注ぐと、
僕が買って来たお酒を入れた。
「んじゃ……。」
僕がグラスを持ち上げて彼等を見る。
「へい。」
「…………ほい。」
すると彼等も次々に持ち上げる。
「「「神様の涙と共に食事を頂きます。」」」
僕等はグラスをカンカン、と合わせた。
此の国は乾杯、とか、チーズ、とかじゃ無いのが不思議だ。
「え、てか気に成ってたんだけど、
此れリング一人で作ったのか?」
ヷルトが奇異そうに料理を見つめ、
サラダを取ってフォークを突いて食べ始めた。
「ふふん、そーだぜ、兄貴料理得意なんだぜ!!」
ガルは手羽を其の犬歯で引き裂く様にガッ、と食べ、
彼に向かって其う言った、
「……まぁ、うん……大体肉ばっか何だけど……。」
ぼやく様に言うとお酒をちょびっと呑んだ。
「あ、やっぱすげぇな。喉ごしも良いし、
味も良いわ、甘ったるく無いし呑みやすいわ。」
透明な液体の入って居るグラスを置いて口周りを手の甲で拭いた。
そしてもう一つのグラスをかなり豪快に呑む。
「えーだってさー、肉の鮮度落ちちゃうし全部使おうと思ったら此うなっちゃうもん。」
僕はお酒をちょびっと呑んだ。
……確かに所謂高級品、みたいな喉当たりの良い感じと、
甘さと辛さのバランスが絶妙だ。
……味わった事が無い。流石高級品と言ったとことだ。
「あぁ、まぁ、確かにな……入れるとしても収納魔法はな…………。
入れるのに適して無いし…………俺も結構悩むよ。」
ガルはサラダを食べるのを止め、
ボㇻ̈ヅェヤィンを取り皿に取って青い方のお酒を呑んだ。
「ね、何か其う云うもんでも有れば良いのにね。」
前世は冷蔵庫が有った。確か明治とかだろうか、
其の時は氷を利用した冷蔵庫が有ったらしい。
でも僕が冷属性を扱える無いし、
其んな技術も無い。
魔術に対しての知識は有るかも知れないが、
魔道具の知識はからっきし無い。
「???」
ガルは不思議そうに僕等の話をぼけっと聞いて居た。
しかし、食事の手を止める事は無い。
「あ〜〜、其れ考えた事無かった。
確かに何か有れば良いな。」
ヷルトが感心した様に口を開け、
背もたれに寄り掛かって僕の方を見、
親指と中指で持って居るグラスを持って居る。
そして少しだけ含んだ。
「あ、待って、俺にはちょっと強いかも。」
彼はちょっと頭を触ると、
何かを悟った様に輪っかを作った様に見える指を顔をやや下げて言った。
「へへへへ〜〜〜〜ん、
ヷルト君はお酒弱いな〜〜〜、
ほら俺何て全然、全然酔って無いしな!!」
にやにやとした顔で透明な方のがっしりとグラスを持ちながら彼を指した。
何時ものにこにことした笑顔、
と云うより何か気持ちの悪い感じの顔だ。
其れも何か此う、其の感情が異常に増幅されて出て居る様な。
「……お前、もう酔ってるぞ。」
彼が眉を下げ、ちょっと溜め息を吐いてゼㇻ̈ディーンを食べた。
「いやぁ別に酔ってねーだろなぁ?
ほらぜーんぜん、ほっぺも赤くねぇしよぉ!!!」
明らかに声が大きく成って居るし、
態度も大げさに成って居る。
此れで酔って無いと言うのは些か無理の或る話だろう。
「まぁ、お前が其う云うなら良いけどさ……。」
彼は「ダメだ此奴……。」と僕に向けて呟いた。
そして何か異音がした気がする。
ゴジュって云う感じの。
「へへへもっと呑むぞ食うぞ〜〜〜!!!!」
彼は其う言ってグラスに入ったお酒を飲み干した。
* * *
「…………。」
「…………。」
「あ、今日も神様のくれた食材で生きる事が出来ました。
有り難う御座います。」
僕はしっかりと祈る様なポーズをし、
目を閉じて其う言った。
「……あぁ其うか。今日も……えー……神様のくれた食材で生きる事が出来ました。
有り難う……御座います。」
ヷルトはちょっと考え込んでゆっくりと其の言葉を言った。
「あぁ駄目だ……俺酔ってる。」
彼は頭を押さえ目を閉じて深く後ろに倒れ込んだ。
椅子が倒れてしまいそうだ。
「……お酒弱いの? ガルジェは言わずもがなだけど。」
結構其れなりに呑んで居る姿を見かける事は有ったから意外だ。
「いや、弱くは無い筈なんだが……。」
彼はちょっと体を縮め両膝に手を置いて其う言った。
「へー、此のお酒何の位の度数だっけ?」
僕は彼の持って来た那の瓶を指して何となく彼に尋ねて居た。
理由は無いに等しい。強いて言うなら会話の繋ぎだろうか。
「……えっと確か……。」
彼が上を見て考え、ゆっくりと捻り出す様に言った。
「三十八……ノーンだっけ?」
「え。」
三十八ノーン。
パーセンテージに直すと二十パーセント位だろうか。
……かなり高いじゃないか。
ヲッカ程では無いとは云え。
(……そりゃあぁ成るわ……。)
僕は机に突っ伏して居る彼を見て其う思った。
「……リングは、如何なんだ?」
ヷルトが不安そうな顔をして僕に言って来た。
無意識的に耳が其方の方へ向く。
「あ、いや……全然。ちょびっと頭痛する位?」
僕は直ぐ様顔を其方に向けて軽い調子で彼に言った。
「……へ!!?」
「え?」
彼が珍しく大声を出して驚いて居る。
僕だって驚いて居るのに無理は無いか。
「いや、お酒……つよ……強過ぎないか……?」
普段感情を余り出す事の無い彼が諸に感情を出して驚いた。
「さぁ……??」
僕は首を傾げ、目は彼に合わせ無い。
けれど僕は其処迄強く無い体質の筈だ。
此の身体に成ってからか?
いや、猫とか犬はお酒が寧ろ弱いと聞いた事が有る。
一体何う云う事なのだろうか。
「いや、絶対お前強いって!!おかしいだろ俺酔ってんのに。」
彼が何度も指して力強く言って来る。
何だろう、普段の彼を見て居るからか人格が変わった様に感じる。
「まぁ……そうかな……?」
愛想笑いをして彼の其れを受け入れる事にした。
僕は何故か後ろを振り向いた。
(……あぁ……。)
思い出したく無い事実を見てしまった。
片付けられて無いお皿と突っ伏した彼が居るんだった。
「……ガル、片付けるから退いて。」
僕は椅子から降り、彼に近寄って肩をトントンと叩いた。
「むりぃ〜〜〜〜〜。」
たった此れだけしか言って居ないのにかなり呂律が回って居無い。
「……はぁ。」
駄目だこりゃ。
「神様の涙と共に食事を頂きます。」
ってのは日本語で乾杯、みたいな物です。
宗教的な事が那う云う事に響いて居るなら、
此う云う事にも響かないとおかしいかな、
と思いまして此んな感じにして居ます。
今回の教訓なのですが、
食べるシーンは料理をイメージしてしっかり描いた方が良いですね。
其方の方が此んな感じに描き易いですね……。
何か食事してる、って云うのが伝わり易い気がします。




