第四話:在りし日の大事件※
今度はリングさんが只々可哀想な目に遭う回です。
七月十五日、七月十八日、鱗雲之式日本語表記が間違って居たので直しました。
十月十三日、物語を修正しました。
十二月二十三日、上記と同じです。
一月八日、細かな修正をしました。
一月十日、上記と同じです。
一月十八日、上記と同じです。
……あの、言い訳なんですが、多分此の時未だ日本語表記を如何するか定まって無かったんだと思います。
「師匠、リングが熱魔法使えないってよ〜。」
「ねぇ師匠如何にかして〜〜〜〜‼︎」
あの事件以来、僕等は彼を師匠と呼ぶ様に成って居た。
けれど、此れは決して距離を取りたいからでは無い。
寧ろ、愛称みたいな物だ。
「あぁはいはい、ちょっと待ってな。」
彼は何かの文献みたいなのを書きながら言って居る。
* * *
「……で、なんだっけ? 熱魔法が使えないって?」
と訝しむ様な感じで聞いて来る。
「ほら、見てよ! チェヰ̇ㇰ゛・ゲ̊ヹ̇セェ̇ジー‼︎
チェヰ̇ㇰ゛・ペイ‼︎…………。」
チェヰ̇ㇰ゛・ゲ̊ヹ̇セェ̇ジー‼︎ 発動しろ‼︎
僕が言葉にしても、心の中で念じても何も起きない。
目の前に在る凍った池が溶かせない。完全詠唱も短縮詠唱も無詠唱も効かない。
本当はドロドロに溶けて行く筈なのに。おかしい。
「あぁ、本当だ……発音が間違っている訳じゃ無さそうだな……。」
顎に手をあてて考え込んでいる。
魔法言語は発音が難しい。きっと日本語に、そして英語にも無い発音が沢山出てくる。
けれど其れは昔から何度も発声練習をしている。
そして昔は使えた。此処数日で急に使えなく成ったのだ。
「うーん、全ての属性が駄目か?」
「ううん、基本四属性は駄目だけど派生三属性の内のゲード属性は……まぁ……。」
さっき何度も試してみたが、ゲード属性だけしか使えないのだ。
此処迄努力して来たのに諦めろと言わん許りに。
「そうか……無属性は?」
僕は口をあんぐりと開けた。其れは気付かなかった。見落として居た。
そうか、属性が無い無属性魔法なら使えるかもな。
早速僕は試してみる。
「ヸ̇スィー・ク‼︎」
僕の右肩上辺りから黄色い魔法陣が出て来た。
その中に手を突っ込んでみると何時の日にか了っていた矢鱈綺麗な人形が出てきた。
あぁ、確か此れ、昔に買って貰って何処かに行った奴だ。
「〈よっしゃあ‼︎〉」
ガッツポーズを作って叫ぶ。
やった、やったぞ。此れなら可能性が広がる。
「あ、あぁ……良かった……な……?」
師匠が困惑した様に言って居る。
「なんか兄貴って稀に良く分からない言語発するよな……。」
ガルがかなり失礼な事を言って居る気がするが興奮して居る僕にとっては些細な問題だ。
「あぁ、本当にな……。」
彼も何だか愛想を尽かして居るみたいだ。
師匠、あんたもか。
けれど此れで目標が出来た。無属性魔法を極めてやる。
他の魔法が使えないなら使える魔法を極めれば良いだけだ。
よし、なら練習して練習して練習してやる。
* * *
僕は外で魔法を練習して居る。
「ヅ̌ェㇻ̇ガヲ̇ゥーラ̈・コ̊ン̊コ̊ラ̊ーチャ‼︎」
僕が魔法を放つと目の前に青白い刃が現れる。
そして其れは先に有る木偶人形に刺さる。
頭痛がする。もうちょっと改良したいな。
何本か出たけれど一本程度しか刺さらなかった。
でも、何を改良すれば良いのだろう。多分、此れが将来のメインヱポンに為るのに。
獣人の本能かは分から無いけれども、正直、魔物と戦いたい。けれど、魔法も極めたい。
其の目的に適して居る職も有るみたいだから。
「ねぇ兄貴ー、そろそろ食べるぞー。」
ガルが玄関の扉から僕を見て言って来る。
いや、未だ平気だろ。全然時間も有るし全く以って平気な筈……。
だから僕は後ろを向いて彼に頼み込む。
「え〜、ちょっと待って〜〜後ちょっとだけ〜〜後ちょっとだけだから‼︎」
もう少し練習して使える様に成りたい。後もうちょっと、もうちょっと……。
「其う言ったってもう四十フ̇ェーㇻ̇経ってんだぞ。冷めてんだから早くしてよ。」
彼は呆れた様子で其う言う。僕は其の言葉に凍り付いた。え、嘘でしょ?
「え‼︎ 嘘‼︎ そんなに経ってたの⁉︎」
四十フ̇ェーㇻ̇は秒数に直すと六十四分位だと思う。
結構待たせてしまって居る。
「ホントだぞ。」
彼は念押しする様にもう一回言った。
「分かった‼︎ 戻る‼︎」
僕は魔術道具を収納魔法に入れ、慌てて崖に半分以上埋もれる家に戻って行く。
「ごめんごめん‼︎ 戻ったよ‼︎」
手を合わせながら彼らに謝る。
「リング……靴……。」
下を見ると、靴を脱いでしまって居た。
「あぁーーーーっ‼︎」
ドタドタした足音を立てて玄関で靴を履き戻す。
「はい、これで〈オッケー〉‼︎」
廊下を走って正座の姿勢で滑り込む様に座った。
「お、おう……。」
彼らは僕を変な目で見て来る。
どう接して良いか分から無いみたいだ。
「じゃあ……。」
「そうだな。」
僕等は例のあのポーズをする。
「「「日々の糧に感謝して、そして生き物に感謝し、神様がくれた食物を頂きます。」」」
今日のご飯はラ̇ㇻ̇ベッカ。
棊子麺の様なもので、カ゚ㇻ̇ㇺと云う植物を粉にし麺状にした物。
パスタみたいな物に近いだろう。
僕が其れを口に含んでみると意外と温かかった。
あぁ、独身時代を思い出すな。
パスタは簡単に茹でられ買って来たてソース掛ければ良いから良く食べて居たな。
休日等は請け負った仕事を片付ける為に。ノートパソコン片手で。
何だろう、物凄く虚しい。気分がズンと暗く為る。
其れだから自殺するんだぞ……自分を労ら無いから……。
いいや止めだ止め。僕は首を振って其の思考を振り切る。
良いだろう。美味しいんだし。
別の話をしよう。
あぁ、此れだ。此れが有った。
此の世界には魔力竈みたいなのが有って、名称はコ̊ㇻ̇ベリ̈ン。
其れには普通の竈としても、そして電子レンジみたいに温める機能も付いて居るのだ。
……基本四大属性が使えなくなった僕にとってもう不要の産物だが。
「今回はな〜〜ヰ̇ーㇲ゛ポォㇻ̇で作ったたれを掛けてみたんだ。」
其れを食べながら彼が笑顔で話す。右手で其れをくるくると巻いて居る。
へぇ、ヰ̇ーㇲ゛ポォㇻ̇か。珍しい。
ヰ̇ーㇲ゛ポォㇻ̇は蔓状植物に生える果物で、トゲトゲして赤く見た目は余り宜しく無いが、皮を剥がせば迚も美味しいのだ。
先日師匠と一緒に採りに行ったっけ。ガルが力加減を気にせず握り潰し悲しい顔をして居たのを思い出す。
うん、少々酸味が有って美味しい。けれど、酸味は抑えされて居る様な。
今回はそれに塩っけがある。ヰ̇ーㇲ゛ポォㇻ̇って結構酸っぱかった様な気がする。
「てか、兄貴が魔法殆ど使えなくなった理由って結局なんなの?」
どうやら軽く疑問に思った様で、余り深くは考えてない感じでそんな事を訊いて来た。
「さぁ……⁇」
結局使えなくなった理由は分かって居ない。僕は首を傾げた。
「俺も分からないが、多分魔力漏洩じゃなさそうだ。」
ヷ-ルは麺を一気に飲み込むと其う言い放った。
一体、彼が食べた物は何処に消えて行って居るのだろうか。虚空か? 異空間か?
気に為る。
「あー、あの、何だっけ、魔力が勝手に流れ出ちゃうって奴? 今も理由は不明だとか何だとか。」
ガルは一旦フォークを置いて彼の方を見る。
お、しっかり勉強の成果が日常生活でも出て居る。
寝る間も押しんで勉強していた甲斐が有ったね。
もしかして此奴、魔法関連ですらその内自分を抜かしてしまうのでは無いのだろうか?
「そうそう、其れだ。其れと此の様な症状は俺は見た事が無い。」
麺を何時もより太く巻いて口に運んでいる。何だか表情には焦せった様に瞳孔を開いて居る。
そうなんだ、ヷ-ルですら知らないのか。彼は異常な迄に魔法の事について詳しいのだけれど。
「そうなの?」
ガルが不安そうに訊いて居る。僕の事を心配してくれて居るのだろうか。
何だか少しムカついてしまった。良く無い。悪い所だ。
「そうだ、俺二千年以上生きてる筈なのだがな。」
「えぇ⁉︎」
僕は素っ頓狂な声をあげてしまう。
……途んでも無い爆弾をさらっと落としてきやがった。
「其んな驚く事か? あ、でも一旦文明が衰退した所とかも知ってるな。其の位。」
ガルが愕然とした表情で彼を見て居る。
二つ目が投下されてしまった。もう、此の世界は戦争をして無い。
今はやってないだけかも知れないけれど。
……其んなのも知って居るのか?
脳味噌も筋肉も無いのに?
「ど……何んなのなんだ……?」
ガルが恐る恐る、彼を確かめるみたいに言う。
「其れは言えないな、少なくとも飯が食え無く為るぞ。」
彼は目を細めて、キリッとした様な表情で黒い笑みを浮かべる。
彼の其の眼は怖い形をすると迫力が有る。
「…………‼︎」
ガルが明らかにビビって居る。
「まぁなーんてな、別に話したって良いんだが、うーん……何と言うかえげつないから今は駄目だな。」
へへへと両手を挙げてジョークだ、と言う様だ。
ガルはほっとした様で胸を撫で下ろす。……気に為る。気に為ってしょうがない。
結局僕等に話してはくれなかった。
ヷール豆知識:本人は頭部が外せる為、其れでリング達に悪戯をする事もしばしば。




