第四十八話:善いのか悪いのか
僕が彼の家から出ると心配してやって来た彼等が居て、
家に連れ戻される様にして自分の家に入れられ、
かなりこっぴどく叱られた。
精神年齢が成熟して居るのに此んな子供っぽい事をされるなんて、
かなり惨めだ。
「……で、そうして話して来たと。」
「うん。」
夕食の後、僕は彼に事の経緯を話した。
「其れ大丈夫なのか? 兄貴?」
ガルがかなり心配して来て居る。
「ううん、分から無い……けど、言わ無いで悪化する依りか良いかなって。」
多分那の儘が誤解された儘終わって居ただろうし。
「そうか…………。」
ヷルトはちょっと下を向いて不安そうな顔をした。
「……那の子の事、心配してるの?」
僕が笑顔を作って訊いてみる。
「別に……。」
顔を反対側に向けて冷たい言葉を吐いた。
此方に戻って来た時にはやはり不安は拭えて無いみたいだった。
多分此れ心配してるんだな。
何と無く其う思う。
「あ。やっべぇ!!!もう外真っ暗だぜ!!!!
早く寝ようぜ!!!!!!」
ガルが態とかは分から無いけれども、
唐突に、そしてかなり大きな声で窓を指して居る。
「そうだな。」
「……だね。」
そして次の日。
今日はやたらぐっすり眠れた。
疲れて居たのだろうか。
其の所為かかなり遅くに起きてしまったし。
変な悪夢も普通の夢さえも見なかった。
彼が作ってくれた朝食を食べて居ると、
扉がドンドンと叩かれ、ヷルトが対応をしに行った。
何か扉の前に面白い会話が聞こえる。
「まぁ!? 貴方は息子が言って居た那の狐さんですか?」
「えぇ……あぁ、はい……。」
「昨日のお菓子如何でしたか……?」
「あぁ、美味しく食べさせて貰いましたよ。」
「あぁ! 良かったです〜〜〜息子達も大好きなんですよアレ〜〜〜。」
「其うなんですね、毎日美味しいお菓子を食べられる息子さん達は幸せでしょうね。」
「いえいえ流石にアレを毎日は……健康に良く無いからですからね!」
「ははは…………。」
「あ、そうだ! 又作って来たんですよ! どうぞ!」
「あ、あぁ……有難く貰って置きますね。」
「後、悪魔さんって今日はいらっしゃらないのですか……?」
「……あぁ、リングの事ですか?」
「ちょ……ちょっと待って下さいね。」
彼がやや小走りで此方に来て言う。
右手には麻袋が握られて居た。
「リングリング、呼ばれてる。」
「あぁ、へいへい。」
僕は食べるのを止めて立ち上がり、
口周りをハンカチみたいなので拭くと玄関へと行った。
那の母親が目の前に立って居た。
「あ、悪魔さん!!」
僕を見て恐ろしい位に笑顔で僕を見てくる。
「あぁ、はい……。」
僕はやや嫌な顔をして対応する。
「今日はちょっと謝りたくて……。
私の次男がやらかしてたみたいで……。」
彼女はしゅんとすると手を祈る様なポーズをし始めた。
「えっと……何かされましたっけ?」
此処数日間特に覚えが無い。
何かされたっけ。
……あ、子供が怯える様な声と、
特有の臭いがする。嗅いだ事が有るかもしれ無い。
「確か悪魔さんが此方にやって来た辺りで、
此の子が何か魔法で邪魔をして何かとんでも無い事を……。」
彼女は其う言って何か下の方をチラチラと見たりして居る。
「ほら、謝りなさい!」
何か誰かを叩く様な音がして、
背の小さい誰かが彼女の後ろから現れた。
「あ、あ……えっと……。」
僕を見ると目が明らかに挙動不審な動きをして、
此方を見つめて来無い。
(あ、此の子って風呂の準備を邪魔して来た奴じゃないか?)
僕は座り込んで彼と目線を合わせる。
其の姿を見て彼はちょっとだけ後退りして居る。
「……ご、ごめんなさい……。」
僕は手を伸ばす。
彼は目を瞑ってちょっと怯んで居る。
僕は優しく彼の頭を撫でた。
困った様な顔をして顔をちょっと顰めて居る。
「……大丈夫、怒っては無いから。」
僕は成るべく優しく彼に言って、
目を細めて笑顔を作った。
けれど逆効果だったのか其の表情を見て、
僕の手を払う様に掴んでそっとズラした。
……其んなに恐怖してるのか。
「……あれ、リングさん何してるの?
此の人達はだあれ?」
何処からかマリルちゃんがやって来て、
彼女と彼の間からひょっこりと顔を出して来て居る。
「マリルちゃん!?」
僕は驚いて耳と尻尾をぴょんと立ててしまう。
臭いも音もしなかったし、一体何処から……??
彼は其れを見てちょっと笑って居る。
「いや……うーんとね……何と言うか……はは……。」
彼等の名前すら知ら無いから其んな返答をして
苦笑いの様にはにかむしか無い。
「ふーん…………ねぇ、貴方も一緒に遊ば無い?」
マリルが彼の両肩を掴んできらきらと目を輝かせて居る。
「え…………?」
彼は戸惑って居るみたいだ。
「ね、良いよね!!!」
隣に居る彼女を見て、其の小さい背で必死に上を見上げて居る。
「……じゃあ、悪魔さんの家なら……きっと良いんじゃ無い?」
何やら僕がよく分から無い儘に話が進んで行ってる。
「すいません、良いですか? ちょっと家の子を遊ばせてやってくれませんか?」
申し訳無さそうな顔をして首の辺りに手を置きながら其う言って居る。
……まぁ、別に子供は嫌いじゃ無いし、
別に良いんだけどさ。
「……まぁ、良いですよ。」
僕はちょっと悩んだ後笑顔を作って彼女に言った。
マリルが目を目一杯に開いて喜んだ表情をして居る。
「やったー!!!!!」
「あ、ちょ、お前!!!!」
マリルちゃんが彼の手を引いて僕の家に駆け足で入って行く。
「ガルー!!!ヷルトー!!!!こんにっちはーーー!!!!!!」
「あぁ、ちょ、此のクソガキ!!!!
靴位脱げ!!!!何の為に那れに置いてると思ってんだ!!!!」
彼等の騒がしい声が聞こえる。
「……おーい其処のちびっこ達ー。
此方においでー。」
ガルが玄関に来て彼等を手招きする。
ドタドタドタ、と音がして彼等が此方にやって来た。
「はい、ちゃんと履き替えて。」
彼がスリッパを二足反対側に向けて促す。
「……じゃあ、お願いしますね。」
彼女が小指を出して其う言って来た。
彼等の様子をぼうっと眺めて居た僕はくるっと其方を向く。
「はい……分かりました。」
今日一杯は彼等の世話をしよう。
やろうと思って居た論文は……後に回そうか。
結果的にマリルちゃんに何も危害は加わって無いですし、
結果オーライですね。




