第三話:家族喧嘩※
家族喧嘩と云うとやや語弊が或るかも知れませんが、ガルジェが只々可哀想な回です。
十月十三日、物語を修正しました。
一月三日、上記と同じです。
一月八日、細かな事を修正しました。
そんなこんなで三年程過ぎた。
如何やら此処は本当に異世界で、僕は転生したみたいだ。
幻覚とか其んな物じゃ無かった。
転生したのも、今生きてるのも申し訳無く成って来る。
其れだから勿論精神状態は不安定で、自殺を試みたり変な事口走ったり、幻聴や幻覚が見えたりなんなりかなりの頻度で自殺する時の事が夢として現れてまともに寝れなかったりと色々在った。
其れでも僕を捨てずにしっかり育ててくれて居る彼には尊敬の念しか湧かない。
何をしたかと具体的に言うと羞恥心と後悔と吐き気がするので言わ無いで置く。
特に最初の一年が酷かった、とだけは言って置こう。
そんな中でも魔法の勉強だけは止めなかった。
現実を忘れたかったのかも知れない。其れ位しかやる事も無いしな。
吐いたりしたり食事もしなかったりしても其ればっかりやってたからかなり心配もさせた。
ごめん。何か今後親孝行として何かプレゼントでも送ってやろう。
とまぁ、此んな感じに彼と僕は結構仲良く為って来て居る。少なくとも上っ面は。
親子の其れだとは思うが。
那んな途轍も無く恐ろしい見た目の割に心は優しい様だ。
……其うだったら僕を保護何てする訳無いか。
さて、僕等は今勉強をして居る。魔法は勿論、歴史、国語、数学……と云う依りかは算数? をやっていたりする。
けど其れは午前中だけで、午後は遊んだりしたりして居る。
うん、やっぱ子供は此う有るべきだな。
高校の時何かはあんまり馬鹿やれなかったしな。
「おーい、リング。どうした?ボーッとして。」
僕がそんな事をポケーっと考えて居ると、彼が話しかけてきた。
「え、あ、うん。大丈夫。」
僕の意識は現実世界へと戻り、何も考えて無い頭で適当に返事をした。
不味い不味い、別の事を考えて居たのがバレてしまう。
此んな感覚、味わうのは何時ぶりだろうか。少し嬉しい様な、気不味い様な。
「……で、お前らみたいな獣人と云うのは、元々只の動物だったんだ。
人間はその時にもう二足歩行していたと云う。」
今彼はやや黄ばんだホワイトボードの様な物に、青い棒みたいな物で濃い紺の文字を連ねていく。
僕は其れをノートに取って行く。
ノートとは言ったけれど前世とは違ってかなりザラザラとして居た。
パルプ紙とかなのだろうか?
「で、其の後だ。突然変異か何かで魔物が生まれたんだ。
強大な魔力を持ち、魔石を心臓と脳代わりにする彼等、其奴等にたちまち先祖はやられてしまった。
今の様になったのはそれに対抗する為に進化した、って事らしい。」
なるほど、大体は理解出来る。よく絶滅しなかったな。
「でー、あー、リングは理解してるだろうけど、ガル、お前はどうだ? 駄目だったら駄目って言って良いぞ。」
彼が後ろをくるっと振り返って横に居るガルジェの方に目線を向ける。
隠さずとも分かるだろうがガルも一緒に学んでいる。
これは僕が色々学びたい、と要望した事に対して彼も学びたいと言って来た為だ。
其んな焦燥する事も無い。未だ未だ子供なのに。
何だか僕の背中を追って行って居る様に感じる。
「え、おれ? えーっと……。」
とちょっと上を見上げる様な仕草をする。
「分からないっす。」
彼は頬っぺたを掻いて恥ずかしげに言った。
うん……だろうな。
幾ら何でもこいつの理解力は悪い。馬鹿だ。
七歳だからとか、転生してないからとか、其う云う事関係無しに。
「うーんとな、だから、お前らの先祖が居て、そいつらは魔物が突然現れた事に依って、食べられたり住む場所を無くしたりして死んでいったんだ。」
「でー、えー、それで生き残る為に、かね。
二足歩行へと進化していったって事だな。」
其れに文字を連ねると振り向いて彼を見た。
「……全然分かんない。」
本当に分かってない顔で其う言う。
難しい話だしそりゃあ分からんでも無い。
自分が異常なだけで。
「こりゃ駄目だ……。」
彼も頭を抱えてしまって居る。
* * *
「あー、取り敢えず今日はこれで終わりだ、終わり!」
僕はノートを開いて重要そうな所に線を引いて居る。
ガルがガルで分からなかった所を纏めたりヷールに聞いたりして居る。
彼は色々と馬鹿だけど努力家だ。多分将来的に途轍も無く賢く為るだろう。
地頭は悪く無いし。
ぼそぼそと言って居て微かに聞こえるものの何を言ってるか迄は分から無い。
「うーん……。」
机に戻って来るなり頭を抱え込んで居る。
「どうしたの?」
僕は立ち上がろうとしたけれども、もう一回座り直した。
彼の成長が早いのか、それとも僕が遅いのか、もう身長が同じ位に成ってしまった。
種族の違いとかも有るのだろうか。
「ここがさー……。」
多分さっきの所だろうか。
「うーん、なんて云うかねー……。」
子供にも分かり易くもうちょっと噛み砕いて説明してやろう。
「僕らの親の前の前の人が居てね……。」
と言った所で彼が話を遮ってきた。
「だっておれらの親って言ったらヷールじゃん。
骸骨じゃん。そうしたら母だって骸骨とかなんでしょ?
あの前ってのがソーゾー出来ない……。
不死身なハズなのになんで絶滅するか分かんないし……。
なんで分かるの?兄貴は。」
僕を羨ましがるみたいな眼で見て来る。
其の純粋な眼で見られると穢れに穢れまくった僕には刺さる。
……そっちか。 理解するのに数秒掛かった。あぁ、其うか。
元々の根本が違うのだ。其処が違うからずうっと平行線の儘なのか。
如何しよう、言うべきだろうか。実父じゃ無い事、産んだ訳では無い事。
……あれ。そもそもなんで僕は捨てられたって事に気付いて居るのだろう。
だって、彼からの説明が有ったかと言われると転生前の記憶を探っても無い。
前世の記憶を持っているから?
けれどそれでは靄々が残る。
僕は深く思い出を遡ってみると何か黒い腕に抱っこされて居る様子と、女性? が何かを言って引き渡す様な光景が見られた。
あぁ、此れなのかな。
分かって居る理由って。
あ、けど捨てられた理由は聞いて無いな……何なのだろう?
いやいや、今は彼に説明しないと行けない。
「……兄貴?」
僕はあーだこーだと頭の中で考えて居ると彼はつぶらな瞳で僕を見て来た。
思わずドキッとしてしまった。純粋過ぎる。
「……うん、ちょ、ちょっと待ってね。」
さて、どう説明しようか。
もういっその事嘘塗れにさせてやろうかと思ったが流石に其れは自分の良心が痛む。
言ってしまうか? 言わ無いで置こうか?
…………。
しょうがないのだろうか。
僕は下を向いて大きい溜め息を吐いた。
そして顔を上げて、なるべく冷静に口を開いた。
「多分ね、多分なんだけど……。
此れは説明しないと駄目だと思うから……。」
僕はオドオドしつつも話してしまった。
多分産みの親じゃ無い事。
僕らは捨て子だと云う事。
つまりは他に親が居ると云う事。
「…………。」
目を右下にやってだんまりを決め込んで居る。
あぁ、だろうな。そりゃそんな反応に為るに決まって居る。確実に傷は付いただろうな。
「おーい、遊ばないか〜?」
最悪なタイミングでヷールが話しかけて来た。
ガルは彼の方をきっと鋭い目線で睨み付ける。
「…………。」
そして勉強道具を持ってドダドダと、怒りを含む様な大きな音を立てて二階へ行ってしまった。
「お、おい……。」
彼が引き留めようとも彼は其れを無視して居る。
「ありゃ〜……どうしたんだ?知ってるか?」
頭を掻いて苦い顔をして居る彼に僕は口を開いた。
「ねぇ。」
「ん?なんだ?」
いつもの通り微笑んだ顔で背を合わせて来る。
僕は彼に目一杯目線を向けて口を開く。
「ごめん、話の流れで捨て子だって事言っちゃった。」
「いやいや、俺はお前らの父だ。な?」
と、多分迷い言かなんかだと思って其う言っているのだろう。
僕の肩をポンと叩いて来た。
「僕は其れで良いし、別に何も思って無いけど、多分彼は傷ついちゃったと思うの。
そうじゃないって事、言った方が良いと思う……。」
此れだけは言わなければならない。
声を震わせながらもきっぱりと言ってしまった。
だって、彼の、彼の那の真面目に努力をする姿を見て居ると、其の儘放置する何て耐えられ無い。
けれど、怖い、上に所属する人に反発する事が未だ何処か怖いのだ。
彼を完全には信じ切って無いのだろう。
「…………。」
彼の目の炎が大きくなる。
「……どこから気づいていたんだ?」
やや震えた声で僕に訊いて来る。
「引き渡された時から。」
「覚えて居るのか?」
完全に瞳孔が揺れて居る。吃驚して居るみたいだ。
「……うん。勝手に言ってごめんなさい。」
「本当なのか……?」
「うん。」
一瞬迷ったけれども、深く、ゆっくりと頷いた。
「…………。」
彼は口をゆっくりと閉ざした。絶句、と言った感じだ。
◇ ◇ ◇
俺は吃驚して居た。何で、其んな事を知って居るんだ。
だって、引き渡されたのも彼が半年位の頃だぞ。
彼の顔を見て俺は思って居た。
ガルの事は事で言わなければいけないが、其れとは別に、この子は……異質だ。
紅目だから?
捨て子だから?
やたら要領も良いし、かなり頭がキレる。
前の算数のテストをやった時は満点では無かったが、間違え方がおかしかった。
何て云うのだろう。態と間違えてる様な気がする。
……もしかして、この子は産まれた時から今までの記憶を持っているのだろうか。
要領の良さもその所為だろうか。
何故か精神を蝕んでしまった時が有ったのは其の時に記憶を取り戻した所為なのだろうか。
何にせよ、異質だ。前々から思って居たが性格がやたら大人っぽい。
なのに、何故か変にあどけなさが有る。
この子は色々とマズイかもしれない。紅目だし、利用しようとする大人は幾らでも居るだろう。
変な大人に目を付けられ無い様、精一杯守ってかねば為らない。
◇ ◇ ◇
「……うん、そうだな、言わなきゃ……ならないな。」
彼は頷き目を閉じる。覚悟を決めたみたいだ。
「今から?」
「……そうだな。」
「僕もついてって良い?」
「あぁ。」
其う言って彼は立ち上がった。多分、彼の部屋に行くのだろう。
この質問、大人の体だったら絶対怒られてた。
「ガルー……?」
彼が扉をドンドンと叩いて居る。
「開けて良いか……?」
彼はガルの部屋の扉をそっと開けた。
僕は彼の足元に居る。
彼は机で何をする訳でも無く、頬杖を付いて何か考え込んで居る。
「……あぁ、っとえー……。」
「……なんで言ってくんなかったの。」
ガルは彼の顔を見ず、悲しそうに声を震わせている。
「いや、もうちょっとしたら言うつもりだったんだ。」
とちょっと声を強張らせて言う。
多分焦っているのだろうけど、元々声が低い所為でちょっと怖い。
「ふうん。」
彼は此方を見る事も無く寧ろ顔を反対側に向けて居る。
表情は分から無いが耳はペタンとして居る。
「……すまん。」
ヷールは手を後ろにやって膝を曲げて顔を下げた。
「…………。」
ガルは顔を向けない。中々に微妙な雰囲気に為る。
そのまま時が流れてガルが顔を此方へ向けて来る。
「…………。」
凄く悲しそうな顔をして居た。目がうるうるとして居る様に思えた。
……そりゃ其うに決まって居る。
「取り敢えず、話してみようよ?」
僕は咄嗟にそんな事を言って居た。
この空気が嫌だったのかも知れない。
其の後、
「来ないな……。」
「来ないね。」
もうお昼過ぎだと言うのに来ない。
話して合ってみたのだけれどもどうも上手く行かずこれはもう彼自身で考えて貰った方が良いだろうと思い
ヷールを連れて一階に戻ってきた。
この選択が本当に正しいかどうか分からないけれども、でもなんとなく話しかけたら話しかけただけ傷つける気がしたのだ。
色々言われるより、放って置かれた方が良い場合も有る。
多分。
ドゴドゴと階段を降りる音がする。
さっきとは違って、ルンルンと明るい感じに聞こえた。
「腹減った〜〜〜、夕飯出来てる〜〜〜?」
と扉を開けた彼は余りに呑気すぎる事を言った。
……切り替えが早過ぎる。
もうちょっと引き摺ってるのかと思ったのけど。
「お、おう……あ……出来てるぞ……。」
ヷールが明らかに言葉を吃らせて居る。
それから夕飯の準備をして、ご飯を食べる挨拶をして、食べ終わったら終わりの挨拶をした。
食べて居る時に言って居たのだけど、
「もう捨て子ってのはしょうがないってかなって。
おれがヷール達の子じゃないってのはよーく分かったし。
そりゃそうだよな、見た目がめっちゃ違うんだもんな……」
「それが分かったからって別に何も関係が変わる訳では無いし、別に血が繋がって無くても家族だしな」
らしい。意外と割り切りが上手い。
しかも此れ、七歳の発言だ。
きっと転生した訳でも無いし自分で考え出したモノだろう。
自分の精神の未熟さが恥ずかしく為って来るレベルだ。
「あー、そうだ、さっきの、教えてくれよ。」
「え、あ、うん。」
そんな事を夢想していると彼は唐突に話し掛けて来た。
僕等はかなり長い手袋を付けて皿洗いをして居る。
毛が入ってしまうからしょうがない。
其の後、僕は皿洗いをしながら彼にさっきの事を教えた。
ちゃんと理解してくれた様だし馬鹿だけど賢いな、此奴。
「ありがとな!!兄貴!」
と顔をにっかぁと笑顔にして言った。
僕もこの位の精神的に強靭に成りたい物だ。……そしたら、死ぬこた無かったのに。
ガルジェ豆知識:かなりの無鉄砲で馬鹿で努力家。正直言って彼の方が主人公っぽい性格をして居る。




