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第三十五話:天獄

天国から地獄へ。

「……見つけた!!」

僕等はまるで子供の様に遊んで居る。

今はロ̇ㇷ゛リ̈カって遊びだ。


正直名前が違うだけでかくれんぼと大差無い。

唯一違う点をあげるとするならばコㇻ̇ゴ()が交代する点だろうか。

もし見つかってしまったらその場で二十ヸㇻ̈ド待たなければいけない。


「うそ!!!!如何やって?」

彼女は僕を見れ目を開いて居る。


「耳を使えば一発で見つけられるよ。」

右耳を触ってべこべことさせた。


壁の後ろに居ても大体は分かる。


只其れが上に在るが為に

顔を其方にじっと見つめる形に成ってしまうのだが。


……其れをフル活用してさっさと見つけてしまった僕は中々に大人気無いだろう。


「えぇ!?聞こえるの??」

彼女は自分の両耳を触って其の眼を細めて居る。


「よーく聞けばね。」

流石に何時も何時も後ろからの音が聞こえるとかそう云う事は無い。


僕がそう云うと耳をくるくるしたり顔を那方此方に向けたりして居た。

そして此方を向いてこう言った。


「うぅ……よく分から無い……。」

明らかに耳が垂れて居る。


「ははは、ま、そんなもんだろうね……。」

そりゃあものの四十分程度で分かる訳が無い。

産まれて、そして感覚で身に付けて行くモノだ。


「じゃ、次はマリルちゃんね!!!」

「むぅ……。」

僕がはしゃぎながら彼女を指すと、

ぷうっと頬を膨らませて其の場で二十ヸㇻ̈ド数え始めた。


* * *


其の儘一時間位遊んだ僕等は、

流石に疲れただろうから家に帰って来た。


……只、彼女は未だ人間には戻って居ない。

彼が捧げた魔力が多かったのだろうか。


「疲れたああ!!!」

「疲れた!!!」

「はは、そうだねえ。」

家に帰って来ると、二人はその場に突っ伏す様に倒れ込んで居る。


「なんでリングは平気なんだ?」

彼が上半身を上げやや不服そうな顔をして僕に訊いて来る。


「あぁ、僕は体力も無いし、持久力なんて無いけど、

 回復だけは早いんだよ。」

所謂スポーツ心臓とか云う物なのだろうか。


「……へー。」

そう言っては居るものの、

其の眼は信じて無い様に感じた。


「まぁ、ほら、あの、ね?

 狼系獣人は体力が有るから……。

 長距離走なら僕が負けるよ、ね?」

彼を慰める様に捲し立てて話した。

其れでも不満そうな顔をして居る。


「え、リングさんそうなの?」

彼女も半身を上げ此方を向いてそう言って居る。


「うん、無理だね、ずっと走ってると直ぐにバテるね。」

冗談っぽく言ったが、実際にホントに体力が無い。

猫科なんてこんなもん。


チーターが時速三百キロメートルと言われて居るけれども、

其れは飽く迄瞬間最高時速の場合。


もし実際にチーターとシマウマが千メートル走をしようもんなら、

シマウマの圧勝らしい。


「えぇ、そうなの??」

此の反応は多分獣人は誰でも素早くて体力が有ると思って居た反応だろう。


まぁ、そう思うのも無理は無い。

僕が匂いで物を当てられなかったとしたら、

絶対に驚くだろう。


……匂いはするけど物は余りいまいち分から無いのだ。


「ねぇ、其れとさ──」

彼女がそう言った所で扉がドンドンと叩かれた。

何処か焦って居る様なそんな感じだ。


何か嗅いだ事の無い臭いがする。

誰かは分から無いけど……嫌な予感がする。


「……行って来る。」

覚悟を決めて扉の前に向かう。


ゆっくりと深呼吸をし、

ドアノブを押して開いた。


相手は僕を見るなり首根っこを掴んで来た。

体が空中に浮く。


「マリルを家に連れ込んで何してる!!!!」

眉間に皺を寄せとてつもない形相で怒号を放って来た。


「……いや、その……。」

こう云う事をされる那の上司を思い出す。

……と云うかやっぱり此奴がお父さんだったのか。


「ちょちょちょちょ、ヲール!?リングに何してるんですか!?」

彼は僕の間にやって来て男性の腕を掴んで僕から引き剥がそうとする。


「……お父さん?」

後ろから彼女が不安そうに声を掛けて来る。


「マリル!?お前……其の姿……!!」

彼女の姿を見るとより顔を強張らせて僕を睨んで来る。


「このっ……!!!!」

彼は其の台詞と共に首をどんどん締めて来る。


僕は抵抗出来る術は或るけれども、

もうその威圧感と記憶の混濁で抵抗出来なく成って居る。


おまけに息も苦しい。


「此れ以上やったら死んじゃいますって!!!!」

必死に男性の腕を離そうとするも、

彼の力は強い様で中々剥がせ無いみたいだ。


「何言ってるんだ!!!!此奴は死んでも良い奴だ!!!!」

怒りをより膨らませ彼に向かって大声で怒鳴り散らした。


「いやいやいや、馬鹿なの!?」

其の余りの物言いに目を開かせ眉が寄せて居る。


「と、取り敢えず離して下さいね!?話し合えば分かる筈……。」

彼が何とか仲を取り持とうとして居る間にも僕の息は苦しく成って来る。


あぁ、そうか、死んでも良い奴か。


「……はははは。」

掠れた声でそう言って居た。




「……もう止めて!!!!」

僕の意識も薄れかけて来た頃、

彼女が大粒の涙をぽろぽろと流しながら叫んだ。


其れに驚いた彼は僕の首根っこを離した。

まるで物を落としたかの様にドサッと落とされてしまう。


「えほっえほっ!!!」

長時間首根っこを掴まれて居た所為で上手く呼吸が出来無い。


「大丈夫か!?」

彼は駆け寄ると僕の腰を持ち上げて何とか立たせようとする。


「お、お前……悪魔に魅せられて……。」

本気でそう思って居る様で、

彼女を驚愕した目で見て居る。


「違う!!!」

彼女は力強く声を張り上げて否定した。


「お父さんはいっつもそう!!!

 決めつけて、絶対にこうだと思って、

 違う行動すると誰かに当たるでしょ!!!!!」

鼻に皺を寄せて唸る様に前歯を見せて居る。


「いや、違うんだ、お父さんはお前の事を心配して……。」

何か弁解する様な感じで前に進み、

手を動かして冷や汗の様な物が出て居る。


「くそ、遅かったか……。」

独り言の様にぼやいて居る。


「そもそも獣人はそんなに悪い人じゃ無い!!!

 触れ合ってみて分かったの!!!!」

僕の耳にまで擘く(つんざく)声量で必死に反論して居る。


「ふざけた事を言うんじゃない!!!!」

其の大きな手で彼女を平手打ちする音がした。


呼吸が落ち着いた僕が其方を見てみると、

彼女は獣の様な目をし、怒りに満ちた表情をして居た。


「取り敢えず帰るぞ!!こんな醜穢(しゅうわい)な所、

 居る必要無いだろ!!!」

彼は彼女の手を無理矢理掴み、

引き摺る様にして連れて行く。


「やだ!!帰らないもん!!!」

本当に帰りたく無いのか目がかなり鋭い。


「うっ……うんうん……あー……。」

喉の調子を確かめてヷルがヲールと呼んだ男性に話しかける。


「お父さん、落ち着いて話し合いませんか?

 何故僕がこんな事をしたか、何故娘さんがこんな事に成ったのか、

 一つずつ話しますので……。」

僕は成るべく冷静に言ったつもりなのだが

其れが彼の逆鱗に触れてしまったらしく、

味方を殺した極悪将軍を見る様な目付きで此方をばっと見て来た。


「黙れ!!!畜生塚に帰れ!!!」

耳が割れそうな声量で言って来た。


彼女は引き摺られるが儘に家に強制的に帰らされてしまった。

……僕は何も出来なかった。

実際、リングさんは勝手に彼女を連れ込んでしまって居ますし、

ましてや魔法で体を変えてしまってます。勿論、事件経過で戻りますが……。


其んな光景を見たので或れば心配するのも無理は無いと思います。

彼も彼で、話を聞かないとか、リングさんを殺そうとするとか、

余り宜しく無い行動をして居ますけれども。

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