第二十四話:弔共鳴
弔共鳴は造語です。
実際には無い言葉ですので御注意を。
其れから彼は何事も無かったかの様に自分の席に戻って行った。
男性が着席すると、その奇妙な仕事場から別の場所に変わった。
此処も何処なのだろう、やたら狭い空間の両端に長い椅子が有る。
皆其れに座って居るらしく、何故かこの建物自体が揺れて居る。
取り敢えず俺も其処に座ってみる事にした。
椅子の背面には窓が在るらしく、
其処から外を覗いてみた。
(え……嘘!?)
建物は揺れては居なかった。
建物が移動して居たのだ。
窓から其の奇妙な街を眺める事が出来た。
ずっと見て居ると急に暗く成って行き、
街は夜に包まれてしまった。
そうすると、誰か男性が俺の隣にドサっと座った。
(……あれ?)
俺は其の顔に見覚えが或った。
(……もしかして胸ぐらを掴まれて居た男性か?)
高身長で痩せ型で、そしてちょっと気弱そうな其の顔、
多分同一人物だろう。
「…………っ!!!!!!」
何か歯を食いしばって居る。
そして彼は其の儘泣き始めた。
「え、如何したんですか……??」
俺が声を掛けても反応しない。
もしかして俺は透明人間なのだろうか。
その男性は人目も気にせず啼泣して居る。
まるで子供みたいにわんわんと泣いて居る。
……何が或ったのだろう。
いや、もしかして……だけど、
此の男性、毎日あんな扱いを受けて居るんじゃ無いか?
そうでもなきゃ、こんなに悲壮感に満ち溢れた顔をする訳無い。
男性は涙を拭う事もせずにひたすらに泣き続けて居た。
涙が枯れる迄ずっとだ。
周りの人でも奇妙な目で見て居る人も居るが、
けれど、殆どが謎の板を弄って居るのだ。
写真立てと云い板と云い、
何故此の人達はそんな物を必死に凝視するのだろうか。
中には板に線を刺して線を耳に入れて居る人も居る。
泣き喚く男性を皆気にもして居ない様だった。
……此れだけ大声で咽いで居たら、
普通嫌でも気付くだろうに。
そうして目頭を赤くする迄泣いた彼は、
魂が抜けた様にぼうっとして居た。
もう何もかもが如何でも良い様に見えた。
すると又場面が変わった。
次は何処かの部屋みたいだ。
白い壁の部屋で、中央に机が一つ有る。
其れと長いふわふわして居る椅子が一脚有った。
机には透明な容器が散乱して居て、
金属の缶が一つ有った。
其れはぐしゃりと潰されて居る。
食べ散らかって居る其の跡は、
ヤケクソで食べた様に感じた。
此の奇妙な光景には慣れて来たけど、
一体此の部屋は誰の部屋なのだろう。
如何やら此の部屋以外にも部屋が或るらしい。
俺の背面に扉が見える。
其れを開けてみる事にした。
扉の開けた奥に又扉が見える。
其れも開けてみる事にした。
中には絨毯と真っ白な奇天烈な形をした椅子みたいなのが在った。
……なんだ此れ。
さっきの椅子と云い此れと云い、
此の世界の住人は椅子を置き過ぎなんじゃないか?
まぁ、良いか。人の趣味にとやかく言うもんじゃないな。
其処から廊下をちょっと行った反対側にも扉が有ったので開けてみた。
此れも興味本位だった。
……興味本位だったのだけど、
其処で見た光景は驚きを通り越して只々驚愕するしかない光景だった。
男性が首を吊って死んで居た。
顔は、那の男性に見える。
………………。
まるで、まるで安らかに死んで居る。
嬉しそうに死んで居る。
何一つ悔いは無さそうに見える。
決して、もうしょうがなく死んだんじゃ無さそうだ。
………………。
ずっと顔を見て居ると突然目が開いた。
只其の顔は、一瞬那の猫みたいに見えた。
……え、もしかして……。
* * *
突然彼が攻撃を止めた。
項垂れる様にしてその場に倒れ込んだのだ。
何故か涙を流して居る。
「……本当だったんだな。」
僕の方に顔を向けてそう言った。
「……うん、そうだよ。
死んだ事も或るし、君を救いたいってのも本当だよ。」
大概は僕の同情から来て居る節は或るのだが。
「でも俺は霊だ。怨念が無くなったら冥府に行ってしまう。」
彼は俯いて悲しそうに言った。
「其の所は大丈夫。逝く前に何か依代に取り憑けば如何にか成る。
猶予期間みたいなのが或るから其れ迄に出れば多分大丈夫。」
僕がそう言って立ち上がろうとした時、
視界が眩んだ。
彼が三重に見える。
ぐわんぐわんと頭が波打つ。
僕は立つ力も無くしその場にへたり込んでしまった。
「おい!!おい!!!!!」
彼の呼ぶ声が聞こえる。
けれど其れも虚しく僕は呼び掛けに反応出来ずに意思を失った。
此処でやっと分かり会えましたね。
後は脱出するだけですが……。
リングさん、ぶっ倒れましたね。
此れは魔力を使い切ってしまった証拠です。
と云うか、半分死にかけてます。




