第二十話:次の記憶へ
僕は次の部屋に来て居た。
寒かった部屋の反対側の通路に四つ扉が有ったのだが、
半分以上は奈落だった。
暗くて何も無い空間が在ったのだ。
最後の扉には空間が広がって居た。
今居る部屋が其れだ。
此処は……何だろう。
モノクロの世界だ。
殆どが立方体や直方体で形成されて居て、
サンドボックスゲームみたいだ。
もし僕がもうちょっと色の有る獣人だったら、
僕にも色が或るのか分かるのだが、
生憎殆どが黒い。
しかも色が或る所は頭部にしか無い。
こんな時に僕の体が不便に感じると思わなかった。
取り敢えず道っぽいのが在るみたいなので、
道なりに進んで行く事にした。
進んで行くと、
大きな大樹みたいな物が有った。
カクカクして居る所為で分かり辛いが。
大樹には下から坂みたいなのが生えていて、
幹の周りを通っている。
僕は其れを登って行く。
坂とは言ったものの、
四角で構成されて居るが故に段差が多く、
足が辛い。
一応幹に爪を立ててみたけれどつるっと滑って刺さらない。
樹木みたいなのは見た目だけで材質は違うのだろうか。
上迄行ってみると途中で床は途切れていて、
何か宝箱みたいな物が現れた。
其れを開けてみると中にフラスコみたいなのが数本有った。
緑色の液体が入って居る。
(……毒?)
其れを取り出してみると、
下に紙が在るのに気付いた。
言語は……エカルパル語か?これ。
ドット絵みたいに成って居る。
おまけに殆どの文字がぐるぐる入れ替わるので読めない。
……ゲームがバグって居るみたいだ。
僕は其れを見て居ると
さっき取り出したフラスコが無く成って居る事に気付いた。
(え?あれ??何処??)
後ろを見ると緑色の液体が流れて来て居た。
(マジかよ!?)
駆け下りる様にして坂を走って行く。
意外と液体が追って来るのは遅い様で、
坂を下りきった時には半分くらいしか来て居なかった。
遠い所からぼうっと其れを眺めて居ると、
毒みたいなのが根本に掛かった。
「うあああいあああああいいいいいいい!!!!」
「いやああああああああああああああああ!!!!!」
「があああああああああああああああ!!!!」
何故か樹木から絶叫が流れる。
その声は老若男女が同時に叫んで居る様な声だった。
顔を下げて腕を上げて耳を塞ぐ。
何分か絶叫を聞いた後、
バラバラと崩れて行った。
……結局此れはなんだったのだろう。
取り敢えず帰ろう……。
* * *
次に来たのは二階を上がった先の、
右側に在る二番目の扉だ。
他はやはり奈落が広がって居て、
行ける所が此処しか無かった。
「〈なんだこれ……??〉」
次の空間に来た僕はその光景にびっくりして居た。
余りにも暗い場所に来て居たからだ。
城外とは違い霧は無いけれども、
全く日光が当たって居ないみたいな其んな感じだ。
肉食の目が全く効かない。
と云うか、此の地形はアㇻ̇バㇺ村みたいだ。
暗すぎるって事以外は。
只、門は立派で蔓は絡まって居なかったし、
道もちゃんと整備されて居るみたいだった。
家々もかなり綺麗で新築同然だった。
……もしかして、だが、
この城って彼の記憶みたいな物なのだろうか。
けれど、そうしたら奈落で或った扉に説明が付か無い。
取り敢えずは僕の、もとい彼の家に行ってみよう。
村に入って来た時同様にほぼ同じ道を通って家に行く。
すると、あの家が現れた。
やっぱりこの家も綺麗だ。
時間が経ってレトロでカッコ良く成って無く、
新築……では無いけれども汚れも無いし木材も古く成って居ない。
扉を開けてみようとすると、
まるで僕が幽霊かの様に手が擦り抜けた。
「………………。」
手を見て、扉を見て驚いて居る。
僕が扉に向かって進んでみると身体全体が擦り抜けた。
痛みも無いし不思議な感覚だ。
如何やら僕の身体は此処では実体が無いみたいだ。
幽霊ってこんな感じなのだろうか。
もしそうだとしたら結構貴重な体験なのかもしれない。
其の儘内部に入って行くと、
内装も違った。
リビングにはテーブルが一つ、椅子が二脚、ダイニングみたいだ。
キッチンには魔力釜戸と水道とカウンターが有る。
此処は余り変わって居ないな。
今僕が書斎として使って居て、
又地下室の入り口が在る場所はリビングとして使って居るみたいだ。
僕は其のリビングを書斎にして
ダイニングをリビングダイニングとして使って居るから、
この感じはちょっと違和感が或る。
あれ、けれど僕が来た時にはキッチン以外に物は何も無かった様な。
不動産屋が片付けたのかな。
部屋には誰も居ないので二階に上がってみる事にした。
しかし、二階にも居ない。
部屋は二個在って、一個は僕が今物置として使って居る場所だ。
階段を上がった先に廊下が在って、
その伸びた両先に部屋が在るのだが、
右側は大きな鏡が有り、ベットも綺麗にされて居る。
左側は結構乱雑と云うか、
物がごちゃごちゃして居る。
僕の偏見かも知れないが、
右側は女性が、左側は男性が住んでいそうだ。
そして左側にちょっと気に成る物が有った。
綺麗な石が有った。
見た感じ、リルティㇺっぽいけれども、
黒の下地に白い斑点が有る。
へぇ、綺麗だな。
何処で入手したのだろう。
触れやしないので十分にじっと眺めて一階に戻った。
じゃあ多分地下室に居るだろと、
本棚を抜けて地下室に行く。
地下室ではあの茶髪の男性が何か作業をして居るみたいだった。
嗚咽している声が聞こえる。
背後から近づいて見ると手紙と指輪を眺めて居た。
「なんで……なんでなんだよ!!!」
其んな事を言いながら叫んで居る。
「………………。」
其の光景に自分を重ね合わせる。
大声で泣きながら電車で帰った日を思い出す。
其の時は……あぁ、上司のミスを押し付けられて、
反論も出来ずに人格否定と減給までされた日だな。
思い返すと悪寒が止まら無い。
気持ち悪い。吐き気がする。
「もう……もう俺は如何すりゃ良いんだよ……。
行きて居る意味なんてもうねぇよ……。」
僕はその光景を見て居られ無かった。
触ろうとしても触れられないし、
「……だいじょう……ぶ?」
声を掛けても返事が無い。
僕はそんな彼を只々見る事しか出来なかった。
奈落だった所は記憶を封じて居る、
又は記憶が抜け落ちて居る所、と云う感じです。
つまり嫌な記憶を全て封じて居るのです。




