第百八十六話:只のエゴだけれども
実はタイトルは三通りに捉えられる事ができます。リングさん、フォードネイク、もう一人は言いません。
正解すると少しだけ満足することでしょう。
「──ってなとこかなあ、後はまあ、知ってるだろ?」
「うん……。」
少しの合間目を逸らし、僕は怖じ怖じと肯んずる。
後部に両手を充てがいながらはははと笑う。其の眼は仄かに憂愁を纏っている様に見えた。
「俺の産まれてから転生する迄話そうかと思ったけど、色々と余計なことまで話しちまったな。」
心哀しげに口角と頬の筋肉を上げ、まるで哀傷を覆い隠す様に舌を出す。
「う、ううん。大丈夫。」
僕は吐き気を抑え込む為、勢いよく首を振った。逆効果な気もする。
彼の話を聞いていると時々無性に気持ち悪く成った。彼がした行いも勿論そうだが、彼がされた事も、だ。
そして彼の性格も少々は悪いのだろうなと思った。けれど、ソレが同時に羨ましくも有る。
僕は何か法を犯して迄自分の道を進む勇気など在らぬからだ。無理だ。
出来る事ならば法は犯したくは無い。自分も十二分に卑劣なのだな。
だが、如何して僕に執着するのか、其の理由は余り理解出来なかった。
救けられたから、とでも言いたいのだろうが、僕は救けた覚えはさらさら無い。
只々、僕のエゴで、自己満足の為、そして只単に彼が気に為っただけに過ぎない。
救おうなど身の程知らずな事はしていない。
「さ、じゃあ話したし、あんたらは此処からさっさと帰りな。」
ゆっくりと立ち上がり手をパンパンと払い除けると、僕の眼を純粋に見詰める。
「え、如何して?」
腕を解き首を傾げる。すると彼は不承不承に眉根を寄せた。
「アイツらはしつけえんだよ。多分一週間もすりゃあ此処を襲ってくると思うぜ?」
「け、けど、ソレなら僕も戦うよ。」
僕は立ち上がった。此処に敵が攻めてくると云うのならば僕は放ってはおけない。
勾りなりだと思うが御世話に成ったのだ。礼を返すのが礼儀、そしてもう誰かが死ぬ所は金輪際見たくない。
「駄目だ。絶対にダメ。」
だが彼は僕をギロリと見詰めながら強硬に言い張る。
「……なんでさ。」
「お前は絶対に生きなければいけない人間だからだ。」
何故か根拠でも有るのだろうか、口を窄める事も無く淡々と言う。
「別に、僕は只の獣人にしか過ぎないよ。」
目を閉じて首を振る。コレは及び腰だの自己不信だのでは無い。歴とした事実だ。
だが然し、彼は肩を強く掴んだ。
「いいや違うね、あんたには世界を拯う力が有ると思う。だから生きなければ為らないんだ。
あんたが生きているコトで世界に佳い影響が与えられる、と思うからだ。」
吊り上がった其の目で僕を見ている。荒んだ眼は何故か銀礫の様にキラキラと輝いていた。
まるで希望を見出しているかの様に。
「無いよ。僕には絶対に。」
「殺人犯の言う事が聞けない、ってか? そりゃあ頂けねえなあ。」
彼は悪戯な笑みを浮かべる。口を噤んだ。
「俺が入れ込む位にはあんたが凄いってコト。さ、解ったら帰りな。」
もう、何も言えなく為って了った。
「……そしたら、君は如何するの?」
顔を上げた。逆光に照らされているからか彼は何故か凛々しく見える。
「此処を護ってやるさ。其の為に那れを飲んだのだから。」
彼の眼に目線を向けた。大丈夫なのだろうかと不安がって了う。
すると、目を閉じながら微笑んで、彼は幼児を扱う様にわしゃわしゃと頭を撫でる。
無性に落ち着いた。一通り撫でると腕を組み口角を上げた。
「安心しろ。俺だって戦えねえワケじゃねえ。もう前の俺とは違うからな。」
「護る為なら幾人も殺してやる。」
* * *
僕は銀狼の村を回っている。今日が此処に居る最後の日だからだ。
本当に、色々な事が有った。そうそう簡単に割り切らまい。
今此うやって未練たらたらに村内を歩いているのだから。
「リングー‼︎」
と云う声と共に肩に手を当てられた。
みると、バクダがにこにこと和やかな笑顔を浮かべている。
彼の穏やかな顔付きにはその目の傷は合わない。
「あ、バクダ。」
僕は抑揚の無い声で返事を返す。
如何してかは判らないが彼は仕事を辞めてエカルパル国に来るみたいだ。
暫くは僕の家に居候をすると言っている。別に僕はソレには同意だ。
ネイクの話を正しいのならば転生させた人物は同じなのだろう。
ソレなら成るべく安全な所に居る方が吉いだろう。
色々とやらねば為らぬ事は有るが、其れは追々考えれば善い。
「へへへーん、リングの家、ってどーなの?」
彼は肩に腕を当てながらにやにやと笑顔を浮かべている。
「別に、特に何も変哲の無い家だよ。」
「うえー? だって二人住んでるんでしょ?」
彼は顔をすりすりと近付けてくる。お前は飼い猫かと言いたくなる。
「そりゃそうだけど。」
「エカルパル国って如何なのかなあ? 何んな国なのかなあ?」
にこにことした笑顔で楽しげに訊いてくる。
だが、僕は其んなに簡単に気持ちの切り替えが出来まい。
彼の顔をぎろりと見遣った。
「何でバクダは其んなに簡単に気持ちの切り替えができるの。だって、人が一人亡くなってるんだよ?」
鬱憤を当てて了う。此んな時の彼の無性な底抜けの明るさは如何にも受け付け難いと思って了う。
だか、彼の顔をはすんと真面目な表情に成る。
「いや、寧ろココでカラ元気でもいいから出さないとなーんにもできなくなっちゃうよ?」
確かに、彼の言う事は一理有る。僕は落ち込むとずんと闇く成り、好きな事すらも手が付かなく成ろう。管鮑の交わりだ。僕の事を解っていないワケは無い。
だからきっと、ソレは彼なりの気遣いなのだろう。
「……まあ。」
「ほれほれ、だからそんな顔しないのー! んね! 頑張ろ?」
「う、うん……だね。」
笑顔の儘首に手を回してくる彼に、僕はぎこちなく頷いた。
* * *
「皆さん、御世話に成りました! ありがとうございました!」
荷物を纏めた僕等はへこりへこりと腰を下げている。
余り腰を下げる習慣の無いヷルトを、バクダが無理矢理に押し曲げている。
「いだだだだだ」だのと普段の彼からは想像も出来ない声を出している。少しだけ面白い。
「ん、もう帰んのけ?」
何か作業していたのだろうか、スコップの様な物を右手に持ちながら此方にやってきた。
首を傾げながら僕を覗き込む様に見ている。
「うん。けどまた来るよ。」
「……だから、絶対生きててね。」
僕は彼の眼をじっと見詰めた。僕の意思が伝わったのか彼はふふふと笑う。
「へへへ、俺ゃンな簡単に死ぬわきゃあねえべよ。んだがら心配すんなって。」
鼻の下を掻きながら目を閉じた。自信満々に其うと言う。僕は口角を目一杯に上げた。
ゆっくりと頷くと、僕の頭をわしわしと豪快に掴む。
「止めてよ」と言うと「ははは」と勢いよく笑った。僕の憂鬱を総て吹き飛ばす様だ。
「そんならあんきだ、またなー。」
後ろを振り返り、顔だけを此方に向けると手を振った。
* * *
「うおー‼︎ すげー‼︎ やっぱ汽車良いなー‼︎ 」
彼は窓から顔を出して大声を発する。何故かマリル依りもわちゃわちゃとはしゃいでいる。
思えば、彼は汽車の様なレトロな物を好いていたと記憶している。
確かに格好良いとは思うが、ソコ迄はしゃぐ事だろうか?
証拠に、窓枠に額をぶつけている。
「あだっ⁉︎」
のめりすぎたのか、彼はガゴンと大きな音と共に顔を引き込むと、何度何度も額を摩っている。
「ほうら。」
「何だよ、ほうら、って。腹立たしい〜!」
「自業自得でしょ。」
「ああっ‼︎ 言ったなコノヤロ⁉︎」
「あー、やめてやめてごめんってば。」
「本当に心から謝ってる?」
「元はと云えば忠告したのにぶつけたバクダが悪いでしょ?」
「なんっにも反論できねえ……!」
と下らない茶番を繰り返していると、何時の間にか窓から見える空は小紫からグラデーションに変化して行き、右側は赤銅色に染まっていた。
綺麗な空だ。ぽつぽつと仄明るい星々も出始めている。
「そろそろ夕餉を取ろうか。」
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