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Rɹænↄɐɹƚↄɐtion/リンキャルケイション  作者: 鱗雲之
第四章『不穏、不穏、不穏』
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第百八十一話:葬斂/継承

「フォードネイク⁉︎」

「おっす、助けに来たぞ。」

 驚いて彼を見上げる。彼は自信満々に、憎たらしい迄に口角を上げていた。

 彼は彼女に目線を動かして背中をぽんぽんと叩く。


「ほらほら、止めろって。全員死ぬぞ? マジで。」

 だが、彼女は首を振る。息をふーふーと鳴らして彼の話を聞こうとしまい。

 彼は大きく溜め息を吐いた。そして、彼女の頭を鷲掴みにすると、


「……ごめんな。」

 と言った。一瞬、バチっと激しい音が()こえた。彼女は目をゆっくりと閉じ其の場に仰向けに倒れ込む。


「マリル⁉︎」駆け寄り、彼女の抱きかかえる。彼女はまるで眠った様にすーすーと息を上げている。

 何をしたんだ? まさか、コイツはマリルを殺したのか? 殺してないにしろ、何をやりやがったんだ?

 彼をじっと睨み付けると、彼は当惑した様に眉を八の字にする。


「あー、寝てるだけだから。平気だ。」

 まるで僕を宥める様にじっくりと僕を見る。半ば呆れている様にも見える。

 もう一回彼女を見てみた。そして、彼女の胸に耳をそっと当てる。

 ドクンドクンと心臓が鼓動を刻んでいる。息を吐いた。ほっとした。彼女は本当に只眠っているだけみたいだ。


 彼を見る。目を凝らす。すると奴の背後から轟々とした、それも燃え盛る猛火の様な異様な炎が視えた。

 異常だ。


 集団を見ると、もったりと起き上がっていた。大半が首に手を当てながら僕等を見詰める。

 勿論、例の狼の男性も。

 

 全身をブルブルと震わせながら彼は立ち上がる。そして、フォードネイクを蔑視する様に睨み、怨み節の籠った声で怒号を浴びせた。


「クソ! お前……裏切るつもりか‼︎」

 すると、フォードネイクはケタケタと嗤い始めた。


「ああそうだよ。何か(わり)いか?」

 余程面白いのか、奴をにやついた笑みで睨み返した。

 奴は歯軋りをする。


「この‼︎ 忘恩(ぼうおん)の徒って言葉を知らないのか‼︎ 畜生にも劣る‼︎」

 棒を地面に突き、益々大きい声で彼を罵る。

 だが、奴が彼を罵れば罵るほど、より彼はケタケタと奴を嗤う。


「おめえらに感謝したコト、って一度もねえんだけど? 恩って受けたかよ?」

「ああ言えばこう言う‼︎ お前の此う云う所が嫌いなんだ‼︎」

 奴は彼に近付いて胸倉を掴み上げようとする。だが、其の手はガリルナに依って静止される。

「……仲間に手え出すんじゃねえよ」と小さく、奴を威圧する様に言った。

 奴は眉を(ひそ)める。


「お前、もしかして、使ったのか⁉︎ ()()を‼︎」

 

「こっちも形振(なりふ)り構ってらんないからね。」

「お前、お前えええ‼︎」

 奴は目をひん剥き充血した眼で彼を殴り掛かろうとする。

 然し、もう一つの腕はヷルトに依って在らぬ方向に曲げられる。

「ああああ‼︎」と声を上げ、ヷルトの拘束を解こうとする。だが彼はソレを許さない。


「ちったあ頭冷やせよ。ほら。」

 彼は奴の頭を鷲掴みにした。また、バチっと云う音が聞こえる。

 何かの力に押し潰される様に、奴は地面に這い(つくば)る。

 だが、何とか顔を上げて、彼をギロリを睨み付けた。


「絶対に……絶対に許さんからな‼︎」

「許してもらわなくてけっこう。じゃ。」

 彼は指をパチンと鳴らす。僕等は淡い光に包まれた。


 * * *


「ほいっと。」

 淡い光が僕等の視界から掻き消えたかと思うと、何時(いつ)の間にか銀狼の村に着いていた。

 後ろには大きな崖が有る。前を向くと、大きな広場が広がっていた。


 僕の両手にはマリルが居る。揺すってみても起きやしない。


「お疲れさん。」

 フォードネイクは僕等を見、他意の無い、増してや屈託の無い笑顔でそう言った。


「え、あ。うん……」僕はぎこちなく頷く。だが、疑問が湧いて出て止まらない。「けど、なんで僕達を助けようと?」と尋ねると、彼は笑顔を崩さずにだが何処か恥ずかしそうに言葉を連ねた。


「ん? だってお前に助けられたから。

 ま、恩返しっつーと余りにも押し付けがましいけど、金を貸りたら返すだろ? そんなとこかな。」

 彼は後頭に手を置きまるで当たり前かのように微笑(わら)う。

 一体、彼に何云う心境の変化が在ろうか? 分からない。


「……おい‼︎ ソイツは誰だ‼︎」

 広場から耳を引き裂くような大声だ聞こえた。見遣ると、ランドフがフォードネイクを指しながら眉を傾け、今にも襲い掛かろうとドガドガと地面を踏み鳴らしていた。


「ん、あー……取り敢えず、敵意はねえみてえだべよ、でえじょぶだ。」

 ガリルナは困った様に頭を掻きながら頷く。


「……本当か?」

 彼は大きく牙を見せる。眼だけを彼にキッと見詰め、警戒しているのか、耳をピンと立てる。


「ん、保証はすんよ。」

 目を閉じ、深く頷いた。彼は納得はしない迄も理解はしたのかやれしょうがないとでも思っているのだろうか、頬に手を当てながら横を向いた。


 彼はゆっくりと彼に目線を戻す。


「村長は……如何だった?」

 さっきとは打って変わって柔らかい、そして怯えているかの様に声を絞り出す。

 ガリルナは顔を下げて首を振る。(くら)い、重苦しい雰囲気を抱えている。

 僕は背中をポンと叩いてやった。顔を上げると僕の頭をわしゃわしゃと、何度も何度も捏ねくり回した。


「…………そっか。」

 すると、彼は僕等を抱き締める。

 声は出まい。出るワケが無い。咽びている訳でも無く、欷泣(ききょ)する訳でも無く、只々悲しげな空気が流れるだけだった。

 まるで、僕等を宥めている様に。


 * * *

 

 僕等は洞窟の内部に来ている。鍾乳石はぶら下がり、僕が持っている松明が無ければ何も見えなく成るのではないかと思う程(くら)い。流石の僕でも灯りが無ければ暗闇に包まれるだろう。

 陽の光が一つも無いのだ。水晶体に集まる光輝が何も無い。僕は闇で在れば何処でも見れるワケでも無いのだ。


 ガリルナは神主を思わせるの長い服装を纏い、動物か何かの骨に鈴を括り付けた物をシャンシャンと鳴らしている。

 如何やら、亡くなった人を追悼する儀式らしい。


 銀狼達が洞窟に集まり、指を絡め合わせて只黙祷をしている。僕もソレに倣い、手を絡め合わせている。

 せめて、彼が満足して天国に行けます様にと。

 隣に居るフォードネイクも指を此れでもかと指を絡め合わせ祈っている。


 僕は目を開いた。ゆっくりと顔を上げた。其処には背の高い墓石と、木製の棺桶が在った。

 墓石には村長の名前が刻まれてある。


「……魂が流れ、そして天国へ着くよう、スメェール神に祈り、然すればテルズメットは天国へ行く。もう一度、祈りを捧げよう。」

 僕達はもう一度指を絡め合わせた。


 カインドロフ・メルダ・アルスレド=ヅァレ・テルズメット、二百三十三歳永眠。

 彼は此んなにも長い名前を持っていたのか。亡くなってから初めて知った。

 アルスレド=ヅァレ、は如何やら村長の肩書きを持つ者が代々継承してきたらしい。

 彼が此の部分を言わなかったのは、もしかしたら僕と対等に接したかったからかも知れない。

 如何やって彼の亡骸を持ってきたか、は言わない事にする。

 強いて言うのならフォードネイクが頑張った、とでも言おう。


 此れからは一日に三回、墓石の前に有る水を取り換え、御供物を捧げ、週一回で此の儀式をするらしい。

 水は清らかで天国へ行く河に乗れるよう、笹のような「フㇻ̈ㇲㇳ゙」と云う植物は自然のエネルギーが詰まっており、行く迄の助けに為り、五つ「メㇻ̇ダ」の花を捧げるのは、メルダと云う花は花弁が五枚在り、河に在る五つの門を開ける手掛かりに成るからだそうだ。

 今は棺桶に入っているが、御供え物を捧げ終えたら外に埋めるらしい。木製で有る理由はそう云う事だ。そして、ボㇻ̇メㇻ̇の胞子が空に流るると儀式は終了と成る。


 僕は目を開けた。ガリルナは墓の前に行き、手を合わせていた。




 儀式を終えた僕等は洞窟内から出る為、一列に為って歩いている。

 足場が悪い所為か、さっきから足を踏み外している。


 ヷルトは何故平気で居られるのだろうか。僕の手を取って先導している。

 それにしても、此処はお墓が多い。大きな洞窟では有ると思うが、至る所に墓石らしきものが生えている。

 少しを恐怖を覚えるとともに、何故か美しいと思って了った。


 お墓の中でも、さっきの様な六角形のお墓は村長やそれに値する人のお墓らしい。

 勇猛に戦ったものの亡くなって了った戦士や、寿命で死んだ人など。

 寿命で亡くなるのは一番良い死に方とされているようだ。


 其れは僕にも分かる。だが、何故か中には自殺をした人も六角形の墓を建てられているみたいだ。

 理由は、「救えなかった」からだそうだ。ガリルナが悔しい顔をして言っていたのが脳裏に焚き付けられる。村全体が結び付き、仲間意識が強いからだろうか。

 ──勿論、他人に迷惑や災害を振り撒いたので在れば墓すら作られぬが。


 * * *


 僕等は村長の家に来ている。此の家は村長を務めてきた人が代々受け継いできたみたいだ。

 其んな家に、ガリルナが入ってきた。


 机の上で呆然としている僕を見付けると、椅子を引き、開口一幕、


「……俺が村長の代わりを務めんよ、そしたら。」

「え?」

「俺ぐれえしかいねえだろ? やれんのだってさ。」

「大丈夫、なんとかやってくさ。」

 彼はゆったり微笑んだ。


「平気なの?」

「ん、ああ。だから、おめえは研究を続けて欲しい。まだ、わがんねこといっぺー有んだろ? きっと。」

 彼はもったりと頷く。


「まあ、そうね。」

 僕は顔を下げた。そして、膝の上で拳を握り締める。

 村長が僕にくれた唯一の約束、ならば、裏切るワケには行かない。

 ぎゅっと決意を固めた。


 顔を上げて、ぎこちない笑顔を作りながら彼に尋ねる。


「……ところで、村長が()の年齢なら、ガリルナは何歳なの?」

 彼は「あー、」と云うと指を折りながら歳を数え始めた。

 銀狼族は寿命が長いと云うが、実際は如何程なのだろうか。


「俺は……ま、百五十四歳、ってとこかなあ。若えもんよ。」

「へっ⁉︎」

 背凭(せもた)れに自身の全体重を掛けた。ミシッと軋む音がする。

 彼は首を傾げ、眉を(ひそ)め当惑する許りだった。

彼はまだ幸せだと思います。

明らかに拷問をされ亡くなりましたが、彼はしっかりと覚えてくれる人が大勢居て、信頼される人もおり、お墓も建てられて未来永劫彼が居たと云う事実は半永久的に受け継がれますからね。

世の中には、葬儀すらして貰えない人が大勢居ますから──結局、リングさんも葬儀はされずじまいですから……。

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