第百七十八話:救済前日
「村長⁉︎」
と僕が声を発すると、其の男は此方をギロリを睨む。そして、僕の顔をじとじろと眺める。
三白眼のキツい目付きで確かめる様に見ている。僕は何故か心臓がバクバクと動いていた。
彼から得体の知れぬモノを感じ取ったからだ。一通り見ると、彼は僕から目線を外した。
僕は安堵する。すると、ガリルナがぼそっと声を発した。
「……アイツだ。俺を追っ掛けてきたの。」
僕はもう一度彼を見る。そして、目を凝らしてみる。すると、彼からわっと大きな炎が浮かび上がった。
思わず蹌踉けそうに為る。異常な迄に大きい炎だ。つまり彼には途轍も無い魔力が宿っている事に為る。
然し、如何してバクダを求めているのだろうか。……悪魔に操られていたから?
裏切られたから、だから彼を探しているのだろうか? 何時もの僕の妄想だとは言えない。
村長は彼を宥めようとしている。
「まあまあ……取り敢えず落ち着かないかしら? ほら……。」
「ふざけてんのかお前は‼︎」
再び彼に剣を突き付ける。村長はちらっと此方を見てくる。
「……居ないと言うなら此の村を滅茶苦茶にしてやる‼︎」
彼は大声で、威圧する様に声を張り上げる。すると、銀狼達が広場にわらわらとやってくる。
何事かと思ってきたみたいだが、彼の誰彼も寄せ付けぬ威圧感からか遠くから眺める事しか出来ない様だ。
「さあ、バクダは何処だ! 何処だって言ってるんだ!」
「……ごめんなさいね、バクダなんて云う人は知らないの。」
村長は彼の威圧にも負けずに、丁寧に断る。
「嘘付け! 知ってるんだ! 此処に居るなんて事位はなあ‼︎」
だが、彼は剣を握り締め、彼をジリジリと追い詰める。
「……本当に知らないのよ……誰かと間違えてるんじゃないかしら?」
「お前、お前、なら、拷問して吐かせるしかないな!」
すると、奴はバヂバヂっと耳が切り裂かれる様な音を鳴らす。
村長は其の場に倒れ込む。何とか這い蹲っているが、起き上がる事は出来ないみたいだ。
ガリルナが走り出そうとするので、僕は彼の腹に手を回して静止させる。
君は其んな状態では確実に負けて了うぞ。
「ははははは‼︎ お前等の村長を滅茶苦茶にしてやる!」
彼は此方に陋劣な笑みを向けてくる。僕等を嗤笑している様だ。
「村長‼︎」
集団の中から一人走り出すが、彼は彼女にも魔法を放った。黄色い稲妻が彼女に直撃した。
彼女は膝から崩れ落ちる。けれど、何とか立ち上がり彼を睨み付ける。
奴は村長の頭を足で踏み付ける。集団にはどよめきが走る。
「……大丈夫。大丈夫よ……絶対に戻ってくるから。」
と言うと、彼は村長を持ち上げて何処かに行って了った。
* * *
僕は医務室に来ている。村長の居ない村長の家で、彼は苦しそうに声を上げていた。
「……ああ、ああ。俺が此んなじゃなければ……で無ければ村長を助けられたのに……。」
と、彼は両手で自分の顔を覆いながらベッドの上でぼそぼそとか細い声を出していた。
僕は言う。
「…………大丈夫だよ。生きて帰ってきたんだから。」
「けど……けど! でも…………。」
両手を外して、彼は悔しそうにベッドを蹴る。だが、目線を外して僕を見まい。
自分の右手を眺めている。悔しそうに唇を噛み締める。
「……君が良く成ったら、行く?」
「行くって何だよ?」
「助けに、だよ。」
彼は僕の眼をじっと見た。そしてゆっくり目を閉じると、緩々と頷いた。
もし、奴等が過剰な拷問をしていたら、もし、村長がバクダの事を吐いてなかったら。
そうしたら……死ぬに決まっている。きっと、殺されていない。村長は其んな事で死ぬ様な人では無い。
何時もの僕の妄想だと信じよう。
* * *
「バクダ。」
彼は村の端っこで蹲っている。
頭を両手で押さえながらぶるぶると、ソレも小動物の様に縮こまっている。
「リング……なあ、マズいよ……俺如何すれば良いんだよ……。」
彼は僕の腕を掴んで震えた声を発する。
「行くよ。」「何処にだよ。」「勿論、助けにだよ。」「……うん。」
僕が助くと彼はぎこちなく頷いた。小鹿の様にぶるぶると震える脚を押さえて、何とか立ち上がる。
彼は「大丈夫だ。大丈夫だ」と自分で自分を扶くと僕の眼を見た。彼の眼には煌々とした炎が浮かび上がっている。決意を固めた様だ。
「アイツ、見た事有るんだよ。俺を追い掛けてきたヤツだ。アイツ、生きてたのかよ。」
彼は拳を握り締めてシューシューと声を漏らしている。尖り声を吐露する。
「……だから、此れは俺の責任かも知れない。俺が殺さなかったから。」
彼の瞳から光輝が消える。責任を感じている様だ。だが、
「けれど、バクダの話を聞く限りは掘っ立て小屋ごと燃やしたんでしょ?
なら、仮に鉄の鎧を被っていようともぢりぢりに焼かれそうなものだけれど。」
「けど、でも、もしかしたら扉から逃げたかも知れないじゃないか。」
「……まあ、確かに。」
僕は頭を掻いた。其う言われると其うかも知れない。だが、僕の心は何処か靄々としている。
そんな彼の手を引いて、僕は広場に向かう。
すると、其処にはヷルトとガリルナと、女性の銀狼の剣士が居た。名前はプロシェと云うみたいだ。
ガリルナはもうしっかりと体が動かせる迄に恢復したみたいだ。僕は彼等を眺めると、彼等は一斉に首を頷かせた。
後ろには彼達を応援する銀狼達が居る。
「ねえ!」「私も連れてって!」
僕の足元で彼女は飛び跳ねる。僕は腰を下げて、彼女の肩を掴んだ。
「……駄目だよ。此れから僕達が行く所は危ない所だから。」
「やだ! 絶対にやだ! 連れてかないと絶対にやだ‼︎」
彼女は顔をくしゃくしゃに歪ませて喚き首を大きく横に振る。如何したものか。
きっと、僕等が赴く場所は子供が行っても良い場所では無いだろうから。
然し、
「良いんじゃねえか、連れてっても。」
と言いガリルナは彼女を抱き上げた。
「え?」
「良い、つってんだよ。何となく、其う思う。」
彼女はキャッキャと喜んでいるが、僕の心は怒りで一杯だった。口を尖らせて彼を責め立てる。
「いや、子供を危険に晒す気なの⁉︎」
「子供として自分を守ん力が有んなら良いじゃねえかよ、行かしてやろうよ。」
彼に其う言われて、僕は何も言えなく成って了った。
「ガリルナ。」
集団から筋骨隆々の銀狼が出てき、彼の手を握った。
「絶対に助けてやれよ。」
「ああ、分かってる。ランドフ。」
彼は其の手を握り返した。
さてはて、リングさん達は村長を救えるのでしょうか。
* * *
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