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第十八話:精神世界に入り込んで

「いたたたた……」頭を(さす)りながら腰を上げる。

 見遣ると、青い煉瓦造りの町に来たみたいだ。その家々はやたらに背が高く、明らかに物理法則を無視している。

 地面から生えているモノも有るが、殆どが二階の重量に耐えられそうには無く、其等(それら)以外は空中に浮いている。夜空は黒く星一つ在らぬ。


 一体、何が起きたんだと云うのだ? 分からぬ。分からないが、一つだけ、僕の心にぽつんと思い浮かんだ。


 ──もしかしたら、彼の精神世界に迷い込んだのではないか?

 馬鹿馬鹿しいとは思うが僕にはそうだとしか思えぬのだ。

 とすると突然、町中に声が響き渡る。


『……出てけ』と。冷淡で心の籠っていない声だ。

 誰彼も寄せ付けない其んな声だ。僕は声を張り上げる。


「此処は何処(いづこ)だ? そして、君は誰だ?」

 だが、返事は来ない。僕の声だけが町に虚しく鳴き回る。


 だが、其の声は幽霊の声に似ている気がした。とすると、やはり此処は精神世界なのだろうか。

 分からないが、きっと足を進めていけば判るのだろう。


 僕は街を探索する事にした。ドアを開けたりしながら、僕は思考をずっと回していた。

 幽霊に成る、と云う事は現実に因縁を抱えていると云う事と謂れている。

 恨みでも、感謝だとしても。


 彼は様子を見るに前者だろう。きっと、妻か誰かに因縁が有ったのだろう。

 だから、僕を襲う迄に堕ちて了ったのだと思う。


 飽く迄自分の経験からのお話だが、自殺までに陥って了うのだから深海などと比べものに為らぬ程には闇は深いだろう。

 原因だけを知って彼の全部を知った気に成ってはいけないと思う。多分、傷付ける事に成るだろうから。




 那れから何十分か原因でも無いかと探しているのだが全く以って何も判らない。

 此の町の家の扉は、別の家の扉に繋がっているみたいなのだ。家の中にすら入れぬのだから困ったもんだ。


 うんうんと唸りながら中央の広場に在る椅子に座る。腰を付けると冷たい感触が臀部(でんぶ)から伝わった。


 なんとは無しに下を見るとハッチの様な物のが在るのに気付いた。

 ……もしかして。少なくとも此処は開けた覚えが無い。


 ハッチの持ち手を掴み上げてみるが、「うぬぬぬぬ」と唸り上げて了う。

 重い、見た目は木製に見えるものの金属の様な重さが有る。

 

 ゆっくりと上げると、下に続く梯子が現れた。

 恐々と足を掛け、其れを掴み、苔()した其処にへと下っていった。

 有る程度下りていくと地面に足が着いた。

 

 後ろを向くと、下水道の様な場所に広がっていた。

 赤い煉瓦造りの隧道(すいどう)の様だ。灯台下暗しやら秘事は(まつげ)やら何やら……。

 うだうだと言っていてもしょうがない。


 僕は先を進む事にした。

 通路の中央には水が流れていて、両端に蟹歩きでしか通れない様な狭い道が在った。

 ゆっくりと進んでいくと一つ判った事が有る。此の隧道は蔦や汚れが酷い。

 しかも、進んでいけば進んでいく程汚れ等はどんどんと酷くなっていく。

 壁に手を当てて進んでいるお陰で手を滑らせば何度も足を踏み外しそうに成る。

 

 何かぴちゃぴちゃと云う音が聞こえた。ゆっくりと流れを見ると其処から魚が飛び出してきた。

 一瞬しか見えなかったものの、奴はピラニアの様な銳い牙を光らせていた。


 ゾッとする。一旦足を止めて流れを良く見てみる。

 すると、其処にはさっきの魚がうじゃうじゃと泳いでいた。

 どんどんと顔が青褪めていくのが分かる。さっさとココを抜けなければ為らない。

 だが、徐々にだが光が射し込んできた。瞳孔が細まっていくのが分かる。


 ……出口だろうか? 慎重に、足を踏み外さない様に進んでいくと、終わりが見えて来た。

 光量はどんどんと大きく為っていき、僕の視界は真っ白な光に包まれた。


 出ると、遺跡の様な場所へと繋がっていた。

 後ろを見るとさっきの隧道は崖に空いた只の洞窟へと変貌して居た。

 一体、如何云う構造なんだろうか? 精神世界だから何でもアリなのだろうか?


 此の遺跡は塔の跡地の様だ。だが、塔と云うには余りにも大き過ぎる様な気がして為らない。

 塔の跡地を踏み歩き外周を見てみると果てしない濃霧で満ちて居る様だった。


 地面は深緑の植物に覆われている。うにょうにょと蠢いている様な気がした。

 気持ちが悪い。だが、少しだけ興味が湧いている。何故ならば此んな植物は見た事が無いからだ。

 遠くには城壁の様な物が見える。前を向き、奥を見た。

 

 すると、やはり城壁が広がっている。此処の様にボロボロには成っては有らぬ。

 跡地を眺めていると、真ん中に何かが有るのに気付いた。レバーの様な物が置いて在る。

 城壁を見遣ると入口なのだろうか、鉄格子の様な物が嵌め込んで在った。

 安直な考えでは有ると思うが、此れを倒せば城壁内に入れるのだろう。


 ならば進むしか方法はないのだろう。思いっ切り力を籠めて其の棒を倒した。

 が、門が開いている様子はない。


 然し前から何か異音が聞こえ、光が立ち上がった。

 其れが消え失せると、六足の犬の様な狐の様な、はたまたグルーネルの様な魔物が現れた。

 背中には大きな(ひだ)が付いている。奴は口を開いた。


「……我はココを護る者なり。貴様は何をしに来た。核を傷つけようとしに来たのか。」

「それならば我は許さぬ。許してはおけぬ。核を傷付けようとせぬと云うのならさっさと此処を立ち去れ。」

 僕の周りをウロウロと周りながら、時々「フシュルルル」と(ども)った声を出している。

 僕を精査している様だ。


「……いえ、如何云うコトです?」

 と丁寧に訊き返すも奴は「フルルル」と声を上げ、僕を冷笑する様な眼で見詰めた。


「主の核に近付くなと言っておるのだ。分からぬのか? 獣人だから、其の程度の知能しか持ってあらぬのか。」


「今なら何もせずに帰してやろう。さあ、帰れ。」


「帰れ、帰れと言っておるのだ。帰らぬと言うのなら──」




「今此処で貴様を葬り去ってやる‼︎」

 と空間に何度も跳ね返る声を発すると、僕を睨み付けながら「グオオオン‼︎」と咆哮を放った。

 耳が引き裂かれそうだ。奴はムクムクと体を鴻大(こうだい)化させる。


 何時の間にか僕は剣を握っていた。何処から現れたのかは分からない。

 だが、何とはなしにコイツを使って戦え、とでも言われている様な気がした。


 奴の口には爍々(しゃくしゃく)とした光が集まっていく。

 すると、僕に向かって閃光が放たれた。自慢の脚力で避けはするものの、頭の上ぎりぎりと掠める。

 本気で僕を殺しに掛かっている。


 転がり、奴の股下に潜り込んで剣を振るうものの、奴には傷一つ付いていない様に思える。

 嘘だろう? それだけ奴の毛皮が硬いのだろうか。何とかして奴に攻撃を加えねば埒が明かない。


 奴は油断したのか分からないが、唐突に僕に向かって突っ込んでくる。 


「ヅ̌ェㇽガヲゥーラ̈・ナ‼︎」

 右手を突き出すと、掌から半透明の青い魔力の刃が出現する。

 頭を狙ったつもりが、外れて奴の肩の辺りに当たって了う。


 奴の右肩から紅の血が噴き出す。余りにも生々しい。

 此処は精神世界では無かったのだろうか?


「グルルルルル……。」

 奴は唸りながらゆっくりと後退りをする。何をしているのだろうか。

 だが、背後からは大きい炎の様な物が浮かび上がる。きっと魔法の準備をしているに違いない。


「グオオオングガアアア‼︎」

 耳が劈く様な咆哮。思わず耳を塞いで了う。だが、何か嫌な予感を感じ取った。

 僕は宙返りをして奥に避ける。すると地面から先の尖った氷柱(ひょうちゅう)が生えて来る。


 ゾッとした。背筋が凍る。もし避けなかったらきっとあの氷に八つ裂きにされていたのか。

 然し避けたのも束の間、其の氷柱は僕の後を追ってくる。

 全速力で走っても走っても追い掛けてくる。


「グオオオオン‼︎」

 追い討ちを掛けるかの如く、奴は氷の吐息の様な物を放ってくる。

 間一髪で避けようとするものの耳だけに其れが掛かって了う。妙にひんやりとする。

 触ると、耳の先だけが氷の冷寒に包まれていた。


 此の儘避けられるなぞ浅い考えは希望的観測にしか過ぎないだろう。

 今に判っている事は、奴は冷属性の魔法をよく使って来ている。奴は冷属性が得意なのだろう。

 生憎僕は此の状況を一変に逆転させる様なワイルドカードは持ってはない。


 ──いや、一つだけ有るのかもしれない。


 奴は空は飛べない様に思える。対し、自分は如何だろう。

 空は飛ぶまいが、壁や樹木なら登る事なら出来る。


 と此うして思考を巡らせている間も、奴は何度も何度も執拗に魔法を放ってくる。

 空からは雨の様に氷の棘が降ってきている。

 上からも下からも攻撃を加えられて躱すので精一杯だ。


 が、僕は遂に追い詰められる。塔の端に追いやられ、対面には奴が見える。

 奴は魔法を使う迄も無いと思ったのだろうか、さっきの攻撃を止め、じりじりと僕に近付いて来ている。

 口角を上げている。理由は判らない、然し僕には如何しても下賎な笑みの様にしか見えなかったのだ。


 すると、奴は腕を振り下ろしてくる。一瞬、死を覚悟した。だが、目を見開く。

 奴の攻撃は鈍重にしか見えない。きっと此れは好機だ。口角をにやりと上げた。逃すまい。


「ヲ̇ーヅ̌ェㇺ・リ̈‼︎」と大声を上げる。奴はきっと何をされたのか解らないだろう。

 小さい図体を活かして股下を通り、反対側へ抜けていく。

 そして瓦礫に纏わり付いている蔦を掴み、スルスルと上へ上へと登っていく。


 頂上に着いた僕ははあはあと息を荒らげながらも然りと奴を見詰めた。

 

 奴はおどおどとしていたがハッとした様に僕を見上げた。 


 だが、奴は戸惑っている様に見える。それもそうだ。さっき、魔法を妨害する魔法を放ったのだから。

 きっと頂上に登ったとて魔法を放てば良いのだろうと思ったのだろう。


 魔法の放てない奴は此方に走ってくる。だが、其れも思惑通り。


「ヅ̌ェㇻ̇ガヲゥーラ̈・カ̊ン̊カ̊ラ̊ーチャ‼︎」すると、何故か右手に持っている剣の刀身が異様に長く成る。

 然し攻撃を加えられるのなら何方でも良いか。


 脚に最大限力を込め、僕は飛び上がる。剣先を下に向けながら重力に従って落ちていく。

 奴は此方に眼を合わせた。驚いた奴の眼が脳裏に焼き付いた。

 

 剣を引き戻し、精一杯の力を込めて差し出す。




 ──すると、奴の首は掻っ切られた。血を噴き出しながら頭部だけが転がる。

 僕は血を全身に、それも諸に受ける。声を上げる暇も無く(たお)されて行った。


 だが、頭部は僕を睨みつける様に目玉を動かすと、体は地面に伏せ込んだ。


 脚の筋肉を使ってゆったりと着地する。僕の脚には何の傷痕も無い。

 奴を見る。()らば足元から粒子のかけらに成ってふわりふわりと空に上がっていく。

 奴は跡形も無く消えた。


 その光景を魂が抜かれた様に見詰めていた。

 突然、ガラガラガラ、と後ろから音がした。はっとして後ろを見ると如何やら例の鉄格子が開いた様だ。

 此奴を倒す事が鉄格子が開くトリガーだったのだろうか。


 ならば、僕は先に進もう。と足と一歩進めると、


「うっ……あがっ……‼︎」音に為らない呻き声を上げ、両手で頭を押さえ込んだ。

 其の場に座り込んで了う。


 後頭部を鈍器で殴られた様な痛みを感じた。

 吐き気はしないが、此れは宜しくない。此の症状は完全に魔力が無くなってきた時のソレだ。

 魔力を使い過ぎると最悪死に至る──と脳内に自分の声がほわんほわんと反響する。


 だが幾らか額を(さす)ると、痛みは最初から無かった様に消え失せて了った。

 うん、大丈夫だ。ゆっくりと立ち上がり、先を進んでいく事にした。

精神世界、でこうならば現実世界のリングさん達はどうなってるの?

などという野暮なことはツッコんではいけません。


* * *


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