第百七十七話:然れども平和は続かない
「ヷルトさ、」
対面に居る彼に僕は話し掛ける。
彼は唐突に話し掛けられたのに驚いたのか、僕の紅い目をじっと見る。
「なんだ?」
「これ、黒化魔法の完全詠唱さ、やってみてくれない?」
彼に一枚の紙を渡す。受け取ると、其れをしげしげと見る。顔を上げ首を傾げた。
「俺がやって何か意味が有るのか?」「良いからさ。」
彼は紅目の自分がやったとて意味が有らぬだろうと疑っているみたいだ。
そんな彼に僕は目的も明かさずに其の紙を押し付ける。
彼は溜め息を吐くと嫌々ながらも呪文を読み上げた。
「ヰ̇ツァロ̉ヤ̩ィ・ラ̈ロ̈ヤィーゼ̌ェ̇。」
すると、彼の毛皮は呂色の美しい黒に染まっていく。彼は自分の腕を見て目を丸くする。
「……あー、やっぱり。」
僕はノートに追記をする。
けれど、彼は僕の腕を掴み疑懼な目を此方に向けてくる。
「お、おいおい……何だよ、此れ。」
「君も紅目なんだから特に驚くものでも無いんじゃない?」
ふふふと笑うと、彼は腕を掴むのを止める。
納得は行かない表情をしている。自身の首を掴みながら僅かながら頷いた。
「…………まあ。」
「短縮詠唱ってね、多分不完全な詠唱なの。簡略化を目指した魔法だから当然っちゃあ当然かもね。」
「別に其れが炎魔法とか氷魔法みたいな魔法なら特に問題は無いんだけど……。」
「此れが此んな感じの直接物質だの何だのに関する魔法だと顕著に出ちゃうみたいね。」
「で、多分今迄のヷルトの状態は短縮詠唱を使った状態なのね。」
僕は自身の腕を見せる。すると、彼は溜め息を吐いた。
分かった様に頷く。そして僕の目だけを指しながら言った。
「……だからお前、今日目だけが紅かったんだな。」
「だね。」
にっこりと笑った。今日の僕は野生的な赤褐色の毛皮を纏っている。
彼の言う通り、目だけが紅い。
「じゃあそしたら、黒化魔法で云う短縮詠唱の完全では無い部分、って何なんだ?」
「手伝ってくれる?」
「……何をだよ。」
「勿論何が出来て何が出来ないかとか。」
「ああ、分かったよ。」
* * *
ヷルトに手伝って貰いながらでは有るが、黒化魔法の短縮詠唱に付いて色々と分かってきた。
先ずは、さっきもやった通り黒化せず、紅目だけで有ると云う点が挙げられる。
黒化魔法と云う名を冠しているのにも関わらず。
名を改めるべきかもしれない。然れども他に良い名前は思い付かない。精々紅目魔法、位だ。
何か良い名前が思い付いたら変更するべきだろう。
又、本来の力を完全に発揮出来る様では無いみたいだ。
変身魔法や源刃魔法……僕が使っている例の刃を放つ魔法等、一部の魔力を多く使う魔法は使えなく為っている。只、前の検証で僕と同じ程度の量の魔力を持っている筈だ。すると、魔力を総て放たれていない、と考える依りも、魔力は総て解放出来ているものの何かしらの制限が掛かっているとした方が良いだろう。
すると、黒化する原因は何なのかとより気に為って了う。
だが然し、其れを判別する方法は無い。何故ならば魔素の量を判断する器具は有りはしても魔素を判別する器具は無いからだ。予想している事を検証出来ない事程苦しいものは有らぬに決まっている。其のお陰で僕の靄々は消えない。消える訳無かろう? いち研究者として。
と、僕が立ち上がろうとした瞬間、唐突に村ががやがやと騒がしく為った。
何処から途もなく銀狼達の騒めきが聞こえてくる。何が有ったのだろう?
又、バクダの様に誰かがやってきたのだろうか? と思うと、肩を叩かれた。
「リング! ちょっと手伝ってくれないかしら?」
「如何したんですか。」
後ろを向くと、其処には村長が居た。真面目な表情で僕の腕をがっしりと掴む。
気が逸っているのだろうか、言葉遣いが荒い。
「今は話す時間が無いわ! 来て!」
彼は其れだけ言うと僕を引き摺る様に走っていった。
* * *
「ガリルナ⁉︎」
僕は医務室に来ている。ベッドの上にはボロボロに成ったガリルナが寝転んでいた。
包帯をしていて、応急処理はしたみたいだが、其れでもまだ傷が残っている。
「……治せば大丈夫ですか?」
「ええ。」
布団を捲ってみた。すると、右の膝関節の辺りから先が無くなっている。
包帯を外し、先ずは膝関節の辺りに集中して魔力を流し込む。
すると、「いがっ‼︎ あっ‼︎」とか言葉に為らない声で叫ぶ。
意識は有るみたいだ。良かった。
然し、彼の膝関節に魔力を流しても一向に腕が生える兆しが無い。
僕は掌に依り魔力を集中させて体の中から絞り出す様一気に流し込む。
すると、彼の右手は蔦が生える様に一気に再生する。彼は「ああああっ‼︎」と声を上げていた。
だが、僕の頭は掻き回された様に酷い頭痛を発する。此れ以上魔法で再生させるのは難しそうだ。
「歩ける?」と言うと、彼は「……まあ。」と頷く。
軟膏を塗る前に彼の全身に付いた汚れを取ろう。
「村長、外で水張っといて!」
と言うと、彼は頷いて扉を開ける。僕はガリルナの肩を持ち、ゆっくりと扉を出ていった。
僕は外に出た。見ると、村長が桶に水を張ってくれていた。彼を桶に誘導し、隣に在る小さい桶で水を掬う。
彼はか細い声を出しながらぶるぶると体を震わす。毛皮の奥に付いている砂利なんかを取っていく。
すると、彼の全身はびっしょりと濡れ全身が細くなっている。別人かの様だ。
彼を桶から出し、「村長、乾かせる?」と言いながら後ろを向いた。彼は「大丈夫よ」と言う。
すると、彼の耳を持ち上げながら魔法を放つ。彼の毛は爆発した様に膨らむ。
毛皮を捲り上げるとピンク色の皮膚が明らかに成る。僕は軟膏を塗り込みながら彼に尋ねる。
「一体何が有ったの?」すると、後ろから村長が代わりに言う。
「あのね、何か分からない人物から追いかけられたみたいなの。」
「……誰か分からない人物?」
後ろを振り向く。彼は眉を曲げ、不安気な顔で深く頷いた。
「ええ。」
前を向いて彼に尋ねる。
「全くの他人、って事?」
「……ああ。」
「種族とかは分かるの?」
「いや……確か、ヅィー族だった様な。」
彼は唇を噛み締めながら言葉を絞り出す。其れだけ、か。情報が余りにも少ない。
取り敢えずは彼を医療室に送り戻そうと僕は又彼の肩を掴みながら歩き出す。
すると、卒然と村内に劈くような声が響き渡る。
「お前が此処の村長か!」
「バクダを出せ!」
後ろを向くと、首に剣を突き付けられている村長の姿が有った。
久々の投稿です。如何やらリングさんとバクダの悪い予感は当たって了った様で……。
* * *
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