第百七十五話:信仰? 妄想?
久々の更新です。すっぽかしてすいませんでした。
代わりに改稿をやっていたので、終わったら改稿した話を上書き投稿します。
さあ、紅目や黒化に付いての謎は解けた。次は此れを上手く言語化しなければ為らない。
……つまりは、此れからは地味な実験を重ねていくしか方法はない。
と其の前に、一つだけやる事が有る。僕は村長をとっ捕まえて対面に座っている。
「……あの、すいません、コレ、お返しします。」
「え? どうしてよ。」
彼は首を傾げる。
「自分の実力不足を感じたんです。長剣を扱ってばかりじゃあ、多分此れ以上の成長は望めないな、って。」
そう、那の時、石の様な魔物と戦った時、那の武器を扱えなかった。ヷルトの助けが有って何とか倒す事は出来たものの、自分一人じゃあ逃げ出す事も叶わなかっただろう。村長には申し訳無いが、僕が扱う物では無い。
「ふーん。」
「なんの武器を使おうとしてるの?」
村長は納得の行かない表情で僕の眼を見る。
「此れです。」
僕は魔法陣からバルグ̏レーㇲ゙̂を取り出す。すると、村長の目付きが変わった様な気がした。
其れを取り、まじまじと細部迄見詰めている。何処か楽しげだ。
「はー、変な武器ねえ。ちょっと待ってなさい。」
「借りるね」とだけ言うと、村長は席を離れた。
部屋の中はしんとしている。此の部屋には僕の他に誰も居ない様だ。
紅茶を啜る。もう、其の琥珀色の液体は冷め切っていた。
すると、ガチャ、と云う音とともにトタトタとした足音が聞こえる。
耳がピクリと動く。扉を凝視していると、村長がやってきた。
右手には水晶の様に透明なバルグ̏レーㇲ゙̂が握られている。
僕が買ってきた物依りか一回り位大きいだろうか。
「はい。ちょっと使ってみなさいな。」
村長は其れを机に置く。其の隣には黒いバルグ̏レーㇲ゙̂が置いて有る。
透明の其れを握ってみると、元の物依りは軽くて扱い易い。
只やはり先端が重いのは変わりは無い。独特の癖は抜けないみたいだ。
「……何をしたんです?」
僕は村長に目線を合わせた。村長は和やかに微笑んでいる。
僕が握っている上を掴み、口角を上げて言った。
「此れはね、貴方が使うべき武器なの。形状が駄目なら勿論合わせるわ。」
照明の光に反射する其れを眺める。もう一回、村長に目線を合わせた。
どうして、村長は其処迄して僕に此れを使って欲しいのだろうかと。
「一つだけ理由を言うなら、神様のお告げ……かしらね?」
村長は其れから手を離すと、机の上で指を絡め合わせる。
僕は思わず失笑をして了う。口角を上げ、はははと笑って了う。
瞼の上に僅かながらの涙を浮かべながら彼を見た。
「何です、ソレ。」
「その代わり大事に使って頂戴ね。」
大きく頷いた。
* * *
広場に出た僕は自身の体で実験をしている。
変身魔法を解いて、何とか自身で自身の体を黒化状態から戻せないかと試行錯誤している。
体全体に暖かい魔力を流すと、満身が妙に火照ってくる。此処から──此処から如何すれば良いのだろう?
後ろを振り向いた。後ろにはヷルトが不安気な表情で見詰めてくる。
前を向く。何となく、生命の危機を感じる。すると、視界に入っていた右手が赤褐色の色に戻る。
野生的な色だ。妙な火照りは消え失せていた。
「あ。」
「……何か上手く行っちゃった。」
もう一回後ろを向く。ヷルトはゆっくりと拍手を奏でていた。
さっきの感覚を思い出しながら何回も何回も解いて戻してを繰り返す。
すると、脳内を鈍痛が駆け巡る。酷い痛みだ。両掌でこめかみ辺りを押さえる。
声も出ない。其の場で蹲っていると、肩を叩かれた。見遣ると、後ろにはヷルトが金属の水筒を差し出してきた。
「ほら。」
取ろうか取るまいかと惑っていると、彼は其れをくるっと回転させながら渡してくる。
膝を曲げながら地面スレスレで其れを取る。
蓋を開けると「キュコッ」と云う間抜けな音がする。咽頭が液体を渇望している。
水筒の口を近付け半透明で空色の液体を飲むと、ゴクンと喉仏が音を発した。
すると、尾を引いていた頭痛はシュンと消え失せる。
だが、此れは一時的な物。数時間は魔法を使わない様にしよう。
僕は村長の家に戻って来た。村長の家の机でガリガリと筆を走らせている。
取り敢えずは、此の魔法は黒化魔法と名付けた。此の魔法は特殊だと思う。
後天的では有るものの、誰彼無しに使える魔法では無い。
そして、解放させる魔法と封ずる魔法でニコイチだ。
此れも珍しいが、此の魔法だけに特定するワケでも無い。
例えば、雷雲を発生させる魔法。勿論雷属性だ。此れは準備段階の魔法と、発動させる魔法と二つ有る。
もし前提魔法を行わずに発動させると、体が内部から破裂する。大袈裟に言っているのでは無い。
無詠唱だと此んな必要は無い。
取り敢えず完全詠唱の魔法は作る事が出来た。
嫌々ながらも村長に手伝って貰ったお陰だ。
「……詠唱何て、作る必要有るの?」
村長は頬杖を突きながら僕を見てくる。
「有りますよ! 無詠唱は安定しないんです!
一番覚え易い発動方式ですけれど安定はしないんですよ!
余程の才能が無ければ無詠唱だけを使って戦闘なんか出来ませんよ。」
万年筆の尻を突きながら僕は口を尖らせる。
確かにあんたらには関係無いかも知れないが、一般的な魔導師や魔術士はきっとやらざるを得ない。
──僕が言えた事でも無いが。
「ふーん。」
「……何です?」
彼はにやにやとした笑顔で僕を見る。
「何でも?」
半目で態とらしく舌を出す。にやにやは止まらない。
コイツは褒めると図に乗る。
日本語で図に乗るとか言ったら「製図にでも乗るって如何云う事なの?」とかほざきやがる。安易に想像が出来る。
机の下から除くと、彼は尻尾を千切れそうな迄にブンブンと降っていた。
「やだ! 変態!」「誰がだ。」
彼は自分で自分の両腕を掴む。僕の堪忍袋なら耐えられると思っているのだろうか。出来まい。
「あーー! ちょっと待て待て待て‼︎」
唐突に廊下の方からバクダの絶叫が響き渡る。
「あ、村長! コイツ風呂入れて良いですか?」
扉を開けると、小脇にマリルを抱えたバクダが居た。彼女は脚をバタバタとさせている。
然し、二人とも泥に塗れている。文字通り頭から尻尾までどろんこだ。
「あー、ちょっと待っててね。」
村長は席を離れるとバクダの横を通り抜け、マリルを彼から受け取ると、外へと向かう扉を開けて了った。
ガチャ、と音がする。
「ってアレ? リングお前元の姿に戻ってるじゃないか。」
「今日一日は魔法を使わない事に決めたからね。」
「え、那れって魔法で変身していたのか?」
彼は目をまあるくする。語気を強める。
其の大袈裟な反応に、僕は口に手を当てて咲った。
「そ。」
と言うと、彼は「まあ皓だしなあ」とボソッと言って顔を上げた。
「……お前ってほんと変な事するよなあ……廃墟行こうとか行ったの、お前からだし。」
「だって心霊スポットとか云われてるんのがさー、近くに有ったんだよ? 行くっきゃないじゃん。」
「其の後霊障が祟ってただろ。」「あんなの嘘々……。」
僕は隣でジュデバ語辞典を必死に捲っているヷルトを見た。
彼が僕の目を見たので、僕は慌てて彼から視線を逸らした。
「…………へへ。」
彼を向いて態とらしく舌を出す。すると、彼は怪訝な顔をする。
「お前、自分で自分で可愛い、って事、分かってるだろ。成人男性がやっても只々キツいだけだよ。」
「あ、可愛い、って言ったね! 言ったな⁉︎」
「……めんどっちー…………。」
彼は頭をぼりぼりと掻いた。
* * *
眠れない。さっきからベッドに潜っているが、布団の中でもぞもぞとするだけで眠気は全く無い。
心臓の鼓動は奇天烈なビートを放っている。ドクドクドクと妙に早い。
そう云えば、地震の前の鼠は列を為して一斉に逃げると云う。
つまりは、其う云う事なのだろうか。僕の何時もの妄想だと信じよう──たって、今回許りは其うも言ってられない。
本能と云う厄介な物が警鐘を鳴らしている。
「なあ、俺嫌な予感がするんだ。」
其んな事を考えていると、隣のベッドに居るバクダから話し掛けられた。
「何?」
ゆっくりと其方を向いて、話し掛ける。
彼の顔は月光に照らされている。綺麗な黄色の毛皮に反射している。
対して、僕の毛皮は月光すらも亡き者にする。
「分かんない。分かんないけど……妙に胸が苦しいんだよ。だから、嫌な予感がするんだ。」
彼は布団の上から心臓を押さえた。そして、目を閉じて首を横に振る。
「……そう。」
か細い声で言った。彼の顔は見えない。
すると、彼は僕依りも小さな声で、灯火が消えて了いそうなか細い声で言う。
「…………もう、俺は好きな人が目の前から消えるのは嫌だから……。」
彼の瞼からは少量の涙が出ている様に思えた。
キラキラとした月光に照らされている。其の顔は綺麗だ。
「……ごめん。」
目を閉じながら精一杯の謝罪を声に籠めた。
「ううん、けど……いや、所為に成っちゃうかな。」
彼は首を振ったが、布団の撓みを眺めながら言った。
彼の目線は僕に向けられる。何故か、力強く感じた。
「でも、だから、全力で守らなきゃいけない。」
「……分かるよ。其の気持ち。」
「ホント?」「うん。」
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