第百七十四話:表裏一体
二月十九日、台詞抜けを修正しました。
「……で、其の後は悪魔からの攻撃を避けつつ此方にやって来たみたいね。」
彼は所々端折りながらバクダが体験した事をを話してくれた。僕は俯きながら話を聞いていた。
ゆっくりと顔を上げる。
「だから、那んなボロボロに成って帰って来たんですか?」
声が震えている。其んな壮絶な事を体験してきたなんて信じられやしない。
又、僕の所為で誰かの人生を滅茶苦茶にして了ったと思った。
父親に続き、自分は友人迄の人生すらも毀って了ったのだろうか。
此の蒼い体や自分の思想、そして魂総てが憎い。
いや、いや、だが……違うな。僕は頭を掻き毟る。
「……あのね、きっと大丈夫よ。」
彼は僕の肩をトントンと叩く。僕は又顔を上げる。
彼の表情は穏やかだ。
「…………何がです?」
「此れは彼が選んだ事なの。彼、言ってたのよ。」
彼は顔を突き出して僕の鼻を指で触る。
僕は耳をピクリと動かす。
「──『自分が選んだ事で有るからリングの所為では無い』ってね。」
そうなのか? 本当に其うなのだろうか? と疑いを向けて了う。
だが、彼が言うなら、きっと──其う云う事なのだろう。大丈夫だ。
彼は鼻から指を離す。僕は心臓の辺りを右手で押さえた。
だが、
「……其うだとしたら話してくれても良いのに……。」
眉を下げて呟く様ぼそっと言う。すると、彼は溜め息を吐いた。
「でも其うしたら貴方、暴走するでしょう? 貴方無駄に正義感と責任感強いのだから。」
「……はい……其うですね…………はは。」
ゆっくりと頭を掻いた。乾いた笑いを発する。完全に其の言葉は正鵠を得ている。那んな事、打忘れまい。
「正義感が強いのは良い事だけれど、其れを振り回さないでね?」
「其れは周知して居るつもりです。」
彼は合わせた両手を膝に置く。僕は頷いた。
此のクセは如何にかしなければいけない。僕の今後の課題だ。
「コの後は、如何するつもりですか?」
彼の目を見詰める。彼の翠の眼は落ち着いている様に思える。
更に、何とも無い様に口を開く。
「取り敢えずバクダは此の村に居させるわ。保護に近い形に為るね。」
「此処に居れば安全だと思うからね。」
らしい。何故、此処に居れば安全なのだろうか。
此んな辺境に在るから大丈夫だと言うのだろうか。
「……僕は何をすれば?」
「取り敢えずは研究を続けて頂戴ね。」
僕は只頷くしかなかった。
* * *
「あ! リング‼︎ ほら、見てみてくれよ!」
彼は如何してか、僕の事をリングと呼ぶ様に成っている。
本を右手に持ちながら呪文を唱えている。
「ヲ̇ゥル̈テ・ザ̌ンビ・ガヤィヰ゜」と一語一句丁寧に唱えると、掌から炎が噴き出た。何だか魔術師らしい。
「おお」と拍手を送ると「へへへ」と鼻を掻く。「もう一回出来る?」「……無理。頭痛く成ってきちゃった。」らしい。彼は自身の頭に手を置いた。そうか、ならば又時間を置いてからやらねばならないな。
昼食を食べて、彼にもう一回呪文を唱える様に言う。すると、何回かは失敗したものの、さっき依りも大きな炎を掌に浮かせている。
僕は石を眺めた。石は赤色に光っている。此の魔法は熱属性だからココは間違っては無い。
彼の腕に付いている腕輪を取る。腕輪の水晶は黄緑色に成っている。
僕はノートを眺める。ノートには彼の魔力量は緑色で有る事を示していた。
減っている事は確認出来る。僕が立ち上がった……と、足がふらつく。酷い頭痛がする。
其んな僕を彼は抱える。「おい! 大丈夫か?」と彼の口が動く。
大丈夫だと一言言っても「いや大丈夫じゃないだろ」と言って聞きやしない。
平気なのに。只々変身魔法の所為で此んな事に成っているだけだ。特に平気だ。
彼は無理矢理に僕の右手に腕輪を巻き付ける。
「……やっぱりマズいじゃないか。」
彼は呆れる。何故なら、腕輪は真っ赤に光っていたからだ。
彼は僕を介抱して医療所に連れてきた。僕はベッドの上で座っている。
布団の上にノートを開いてうんうんと唸る。
今日も倒れて了った……だけれど、日に日に倒れる迄の時間が長く成っているな。
初めて使った時は一瞬発動させるだけでも難しかったのに今日は昼迄発動する事が出来ている。
大きな進歩と言えるのではないだろうか? 自分も上手くコツが掴めてきたのだろう。
問題は此れを上手く言語化出来ないコトだ。
……ソレは一旦置いておこうか。紅目と黒化の事に付いて次のページに書こう。
色々な実験を重ねて何となく分かった。紅目も然り、黒化している人は元々黒化しているのが本当の姿なのだろう。
其れを魔法で封じ込めて居るのだ。つまり、魔力の放出する量にリミッターを掛けている。
いや、封じ込めて居る、と言った方が正しいかも知れない。だから銀狼達の魔力を測った時に魔力の量が違って見えたのだろう。
そして、其れは魔法で制御している。
元々魔力が多く、其れを隠したり引き出したりしているだけなのなら魔力を使っている事にも説明が付く。
そして紅目に成る原因としては、魔素が起因している。紅目に成る原因迄は分からないが、ヰ̇ㇻ̈ㇲトゥーリ̇ャはコ̊ウとして考えて良いだろう。
つまり、結論としては紅目は後天性の物、そして魔力を引き出したり封じ込めたりするのには魔法を使っている。謎が解けてスッキリだ。
だが、前者は兎も角、後者に付いては疑問が湧き出るだろう。「其んな事をして意味が有るのかと」。
意味はしっかりと有る。先ずは、紅目は子供の時だと死んでしまい易いと言っただろう。此れを自由に切り替えられるのなら其のリスクを回避出来る。
又、仮に成長して安定したとて、魔素が多い地域へ行くと魔力暴走を起こしてしまう事が有る。魔力が多いなら殊更だ。
其処で魔力を封じ込める事で魔力暴走を防ぐ事が出来ると思う。一般人並みの魔力で有れば魔素の多い地域へ行っても魔力暴走が起きないと云われて居るのだ。
僕等紅目は一つの解決策が出来たとも云えるだろう。魔素が多い事は一般人に取って然程デメリットでは無い。が然し、紅目に取っては十二分にデメリットに成り得る。
其う云う意味では喜ばしい事なのかも知れない。
と、其んな事を考えているとガラガラガラと大きな音を立てて誰かが入ってきた。
顔を上げた。バクダとマリルだ。
「……って、まだやってんのかよ。」
彼は眉を八の字にさせる。マリルは走って僕の体に纏わり付いてくる。
飛び付かれる前にノートを横の机に退ける。「良かった! 良かった!」と咽びている。
其処迄心配する事だろうかと思って了うが彼女に取っては僕は命依リも大事なモノなのだろうか。
僕が大事なのは分かるが、
撫でてやると「くるくる」と声を上げる。甘えているような声だ。
もう、人間と云う事を忘れたのではないかと思って了う。
彼女の体を見る。やはり、彼女は異質だ。改めて其れをひしひしと感じる。
何故変身魔法をずっと発動させて置いて平然とした顔で居られるのだろうか。
やはり、悪魔の所為……? ──馬鹿馬鹿しいとは思うが、其れ以外に形容する言葉は思い付かない。
「良いでしょ、だって僕にはまだやる事が有るんだから。」
彼女を撫でながら僕は口を尖らす。此処位でしか出来ない事なのだから良いだろう?
「だからと云って、常時魔法を発動させるのは駄目だろ……。」
彼は眉を曲げて僕を見詰める。呆れ果てている。
其う云われると反論は出来ない。
また、ガラガラと扉が開く。見ると、ヷルトがポッドとカップを持ってきていた。勿論陶器製の。
「ほら、持ってきてやったぞ。」
と言うとヷルトは机に其等を置く。
カップにトトトと音を立て注ぐと、ヷルトは其れを差し出してきた。
「あ、ヷルト。ありがと。」
僕は其のカップを受け取る。一口飲むと、レモンの様な酸味を感じる。
ヷルトは僕が此んな事をするように成ってから、此うやって些細な事を気に掛けてくれている
「はあ、ほんっと、はあ。いつもの事だけどさあ。」
彼は首に手を当てた。
「マリルがまた心配してたぞ。」
すると、彼女はベッドから降りてヷルトの足元へと行く。
ヷルトは嫌々ながらも彼女を抱っこする。
「コイツが喚いて仕方無くてホント……。」
「ふ〜ん、じゃ、満更でもないんじゃないの?」
僕は口角を上げる。彼を少し小衝いてみる。すると、彼は顔をみるみる内に暗くさせる。
僕を見詰め無表情で言う。
「……ソレ以上言ったら口を縫い合わすぞ。」
「ごめんごめん。」
謝りはしたものの気に障ったのか彼は彼女を抱えて扉を出て行って了った。
其んな光景を見て、彼は僕の顔を不思議そうな表情で見てくる。
「お前、人を揶揄う事なんて有ったか?」
僕は首を傾げる。
「へ?」
「良いんだよ? じゃ。」
と言って、扉から外へ出て行って了った。一体、彼は何を言いたかったのだろうか。
表裏一体と言われると某柑橘系コンビの曲が思い付くと思うのですが、私はとあるボーカロイド曲が思い浮かびます。同作者の作品名を挙げて良いとするならば、ジャンキーナイトタウンオーケストラとか、ね。其の人の曲です。
* * *
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モチベに成りますので、宜しければ。
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