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Rɹænↄɐɹƚↄɐtion/リンキャルケイション  作者: 鱗雲之
第四章『不穏、不穏、不穏』
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第百七十一話:無知が故に

 そうして、俺は転生した。目を開くと何かを持っている。凝視してみると(こて)の様な物を右手に持っている。左手には板に乗っかった何か白い物が見える。

 と、俺は此処で気付いた。視界から見える腕が明らかに人間の様相をしていない。

 黄色の様な毛皮の上に黒い斑点が付いている。


 ……つまり、俺は獣人に転生したのだろうか?

 其の事実を確認すると何故か酷く銷沈(しょうちん)とした。


 すると、後ろから声を掛けられる。


「ケ̏エン! グ'ザ̩ゲオェ‼︎ ケ̏エン ゲニテ'イ̻ ス̩オマ メキ̏ㇺ!」

 其方を振り向くと、水牛の様な獣人が其の大きな右手で俺の背中を叩いてくる。

 ソイツが何を話しているのか全く分からない。聞いた事の無い言語だ。


「パ'ダフ'……のかい!」

 段々と彼等の言葉が分かってくる様に為る。

 

「おい、聞いてるのかい⁉︎」

 俺の背中をもう一回叩く。

 如何やら俺等のやる事を監視しているみたいだ。


「あ、あ! はい‼︎」俺は反射神経的に頷く。

 ……けれど、何をすれば良いのだろうか? 目の前には家の壁なのだろうか、木の板が連なっているのが見える。


「……な、何をするんですか?」

 後ろを振り向いて訊いてみると、ヤツは眉を顰める。そしてはあと溜め息を吐く。


「壁を漆喰で塗る作業だよ、そんな事も忘れたのかい、トボけてんじゃないよ。」

 何故俺が此んな事をしているのか分からないが、俺は取り敢えず板の様な物から白の様な何かを(こて)で取る。其れを上から下にへと塗っていく。何故其うしたのかも分からない。

 俺では無い誰かが腕を動かしているみたいだ。(おおよ)そ俺がやっている事には思えない。

 初めてにしては余りにも腕利きが良いのだもの。


「そうそう、良いじゃないかい。やっぱりお前は塗り方が良いね。其の調子でやってくれよ。」

 ヤツは満足気に俺の肩を叩いて何処かに行って了った。

 俺は取り敢えず其の作業を進める事にした。何故此んな事をしているのか理解は出来ないけれども。


 * * *


 水牛に連れられて俺は家の前に立っている。


「ふう、終わったね。」

 と言ってヤツは額の汗を拭う。

 水牛に汗腺は有ったのだっけか。


「あ、あの……コレって……。」

 と恐々と尋ねると、ヤツは首を傾げる。


「あれ、言わなかったかい。お隣さんの家を改築してたんだよ。ココは小さな村だからね、助け合わなきゃあ生きてけないからさ。」

「へー…………。」

 其うなのか。俺はもう一回家を眺める。日本家屋の様に見える。中世と聞いていたが、那れは嘘だったのか?

 其れとも日本史で云う中世なのだろうか。

 何となくヤツの顔を見ると、ヤツは怪しげに額に皺を寄せた。


「お前、何時(いつ)もやってるだろ? ソの位知ってるだろ?」

 と発言する。

 ……もしかして、現地の人に乗り移ったか、俺が此処迄生きていた、と神様がしてくれたのだろうか。

 其れだったら怪しまれない様に上手くやり過ごさなければ為らない。


「あ、はは……いや、作業中に頭ぶつけて了って……記憶が飛んじゃって…………。」

 苦し紛れに言った言葉だが、ヤツは瞳を細める。驚いている様に見える。

 そして腰を下げると俺の肩を掴んだ。


「……大丈夫かい? もう今日は家に帰りな。」

 と心配そうな顔で俺の瞳を見詰めてくる。瞳は吸い込まれそうな黒色だ。

 何故か無性に心がゾワゾワとした。変な動悸も起こっている。其の様子を見て、ヤツは「ああ、コレはダメだね。家に連れてやるからね」と言った。


 * * *


 俺は家に帰ってきた。ヤツが布団を敷いて俺に毛布を掛けてくれた。

 毛布と云うよりかは……掛け布団の様な。


 此の国は昭和や明治等の古典的な日本に近い文化を有しているのだろうか。

 梁にはランタンの様な物が掛けられている。さっき水牛が点けてくれた。

 まるで超能力みたいにパッと付いた。ソレは何か、と訊くと「魔法だよ」と言ってくれた。

 ……魔法。神様にも云われた。魔法、と。神様の言葉に嘘偽りは無かったのか。


 魔法か。魔法が有るのなら使ってみたいと思うのが人間の(さが)だろう。

 何とかして使えないモノだろうか。……けれど、何を如何すれば良いのだろうか全く分からない。


 さっき水牛のヤツがやっていた様に、ランタンを点灯させようとする。

 腕を突き出してランタンに視線を向ける。


 魔法を発動する時には如何すれば良いのだろうか。此う云うのはイメージが大事なのだろうか?

 ランタンを点灯させるイメージ。何故か、俺の脳裏には部屋のスイッチのイメージが浮かんでいた。


 すると、(てのひら)に何か暖かい物が流れる。

 其れが俺の手から離れて、ランタンに移動した。ランタンは灯りをパッと消す。

 もう一度同じ事をやってみる。すると、ランタンは灯りを取り戻す。

 嬉しくて何回も何回もやって了う。


 ……案外、簡単に発動出来るのか……‼︎ 俺は少し許り喜んだ。布団の中でガッツポーズをする。

 すると、耳がピクピクと動いている。勝手に耳が動かされている。

 耳の付け根がムズムズとする。此んな奇怪しい体験は初めてだ。


 もう、寝よう。不貞寝を決め込もう──と思ったが、急に脳の中から外に向かってくる激しい頭痛と、腹がギュルギュルと鳴る。

 魔法を使い過ぎた所為なのだろうか? 


「いだだだだ‼︎」

 頭を抱え込んで布団の中で転げ回る。腹も減っているし頭痛も酷い。

 此んな地獄が有ろう事か……けれど、そうして転げ回っていると頭痛の方は少しだけだが引いてくる。

 俺は布団を捲り部屋の引き戸を開けた。


 部屋の中を見回してみる、何か無いか、とキョロキョロと探してみるものの冷蔵庫も何も見当たらない。

 ……ああ、そうか。中世か……そりゃあ、無いのも頷ける。当たり前か。


 俺は其の場に寝っ転がった。俺の腕を見てみる。細い。折れて了いそうな迄に細い。

 掌も、蹠球(しょきゅう)が付いていたり毛皮に覆われている事以外は子供の手の様に見える。

 俺は()の位の年齢なのだろうか。


 すると、ガチャ、と扉が開けられた。其処には俺依りも背の高い獣が立っていた。

 誰だ? 誰何だ? と訝しげに全身を眺める。薄い生地を纏っている。

 動きやすそうだが、其の実貧相に見える。


 多分、種族はサーバルキャットだろうか? 黄色い毛皮に黒い斑点が有るのが見て取れ、そして耳は楕円形だ。間違いないだろう。


「あら、バクダ、もう帰ってきてたのね?」

 声からしてきっと女の人だろう。


「う、うん……。」

 バクダ? バクダと云われたな? 其れが俺の名前なのだろうか。

 俺は納得はしては居ないが、ゆっくりと頷いた。


「……え、えと、母さん?」

 とぎこちなく尋ねると、彼女は此方を向いた。


「…………どうしたの?」

「あ、えっとね、あの、魔法って……どう使うのかな、って……。」

 すると、彼女は「何を言っているの」でも言うのだろうか、額に皺を寄せている。


「ソレは無理よ。魔法は選ばれた人しか使えないのだもの。」

「えっ、ええっ?」

 俺は声を出して驚いた。だって、さっき俺は魔法の様な物を扱えた筈なのだ。


「神様の寵愛を受けた人しか使えないのだから、普通の人は無理よ。諦めなさい。」

 もし、其の話が正しいのなら、俺は神様の寵愛を受けている事になる。

 俺は転生をしている。なら、寵愛を受けていてもおかしくはない。


 ……なら、言って了ったら転生した事がバレるのではないか?

 だったら言わないでおいた方が絶対に良いに決まっている。


「ただいまー。」

 父さんは帰ってきた。全身が泥だらけで


「はい、お疲れ。」

 と、母さんは濡れたタオルを渡す。

 父さんは其れで毛皮に付いた

 

 父さんは其処迄筋骨隆々では無い。何方かと云われると細マッチョ、みたいなのに近いだろう。

 背は母さんよりも低いのが驚きだ。


「ああ、バクダ。お前帰ってきてたのか。」

 一通り体を拭くと、俺の方を眺めた。タオルには血の様なモノが付いていた。

 俺の顔は一瞬青褪める。


「う、うん。おかえり。」

「じゃ、夕食にするから手伝ってね。」

「あ、うん! 分かった‼︎」



 * * *

 

 いただきます、の挨拶は無かった。けれど、囲炉裏の様なモノの前で俺達は家族団欒を囲んでいる。

 生肉? を金属の箸で摘み上げる。どうやら牛か何かの動物を刺身にしたみたいだ。

 母さんに大丈夫かと訊くと「新鮮だから平気よ」と云う。抵抗が有る。生肉を食べた経験なんてないからだ。

 なのに、口の中には溢れん許りの涎が出ている。俺は我慢出来ずに其れを頬張った。

 ……美味しい。甘くて、柔らかくて。何故俺其う感じるのかは分からない。


 俺は、やっと()()()()()()家族の愛を感じた。

 何故なら、俺は前世では父親しかいなかったからだ。

 母親は俺を産んでから直ぐに亡くなって了った。確か、脳梗塞とかだっけな。


 其れからは父の手一つで俺を育ててくれたのだ。

 けれど、父はそこそこの有名企業に勤めていた為か中々帰ってこない、おまけに俺とも余り顔を合わさない。

 しかも、俺は一人っ子だ。妹も弟も、姉も兄も居ない。かなり淋しい日々を送っていただろう。


 だから、嬉しい。此うやって家族でご飯を囲める事自体が嬉しいのだ。

 余り裕福な家庭には見えないが、ソレでも良い。家族で一緒に飯を食べられる事自体が幸せなのだから。


 実は皓と仲良く成ったのもソコが要因の一つとして挙げられる。

 小学校の時、校庭の裏にいたんだ。アイツは。

 俺と同じ様な何処か光の無い虚ろな目をしていたのを覚えている。

 其んな皓に親近感が湧いて、確か俺から話し掛けた筈だ。


 其処で分かったのだ。皓も母親しか居ない事。やっぱり、と思った。

 小学校で片親しかいなかったのは俺と皓位だ。だから、仲良く成った。腐れ縁、親友と呼べる位には。

 

 ……けれど、一つだけ驚いた事が有る。


「……ルア。」

「何?」

「お前、お酒其んなに呑むなよ……。」

「良いじゃな〜い、明日休みなんだし!」

「ねー、呑みたくないの? ザグト父さんは〜。」

「高いだろ、そんなカブカブと呑むなよ……。」


 母さんの方がお酒を呑むのは意外だった。見た目はお淑やかに見えるのに。

 其んなおちゃらけた母さんは俺に「ね〜、呑まない?」とか言って瓶を近付けて来る。

 

 キツいお酒の臭いが鼻を突き通る。前世でも今世でも、俺は酒が苦手みたいだ。

 其う云えば、皓は結構お酒を呑む方だったよな。皓のお母さんもお酒を呑んでいた様に思える。

 其の姿を今の母さんに重ね合わせて了う。


 ……余り良くないな。此れは。


 食事を終えた後も特に挨拶はしない。けれど、一応皆が食べ終える迄は待つみたいだ。

 其の後は布団を出し、家族川の字で寝た。然し俺は妙に心臓がバクバクとしていて上手く眠る事が出来なかった。

 明日は、()んな日々が待っているのだろうか。不安も有り、期待感も有った。

すいません、前回前々回と今回含めて五話位に成りそうです……ひえー、マズいなあ。

やっぱり私はお話を短く纏める能力が無いのですね。


* * *


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モチベに成りますので、宜しければ。


其れと感想も気兼ね無くどうぞ。お待ちして居ります。

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