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Rɹænↄɐɹƚↄɐtion/リンキャルケイション  作者: 鱗雲之
第四章『不穏、不穏、不穏』
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第百六十八話:はぐらかし煙を巻く

「え……と、ウルテ・ザ̣ンビ・ガイー?」

「違う違う、ヲ̇ゥル̈テ・ザ̌ンビ・ガヤィヰ゜。ヲ̇ゥル̈タェ・ザ̣ンビ・ガヤィヰ゜でも良いよ?

 こっちの方がジュデバ国出身者なら言い易いんじゃない?」

 今彼に呪文を教えているものの、中々覚えてはくれない。

 彼は首を傾げる。


()れも違いが分かんない……。」

 と僕を見て瞼を半ば留める。やや悔しそうな表情をしている。

 ……分からないのか。困ったな。一音でも間違えると別の魔法に為って了うのに。

 僕は唇を噛む。如何したものか。


「じゃあ、先ずはコレを完璧に読む事から始めよっか。」

 僕は腰を下ろし、彼にと目線を合わせて微笑む。

 魔法文字が総て書かれた紙を指す。

 実験は後回しにしよう。


「……うん…………。」


* * *


 其の後は一日の殆どを発音練習に使って了った。

 一般人には微かな発音の違いも分からないのか、其れとも発音の仕方が分からないのか。

 彼は耳は良いと思うのになあ。素質は有ると思うのに。


 僕は村長の家の扉を開けた。すると、村長が扉の前に立って居た。

「ただいま」と言うと「おかえりなさい」と返す。


「リングちゃん、ちょっとこっちおいでなさい。」

 其う言うと、何時(いつ)もの表情の儘僕の手を掴む。


「……如何したんですか?」

 僕は彼に質問を投げ掛けるものの、彼は「取り敢えず此方に来なさい」と言って強引に廊下を歩かせる。

 彼に着いて行くと、彼は薄昏い階段を上がる。そして二階の、自身の部屋に僕を招き入れた。


 彼は右手に眩い炎を宿しライトを点灯させる。()の時の散乱とした様子は何処へやら、杜撰に置かれていた資料等も机の上や床の上には見られない。那の時は偶々整理整頓をしていなかっただけなのだろうか。


 と思っていたが、本棚には本等が乱雑に押し込められた様に見える。

 注視すると机の上の棚からは紙がはみ出て居る。

 僕は目を薄くした。


「……本とかは大切に扱って下さいよ……。」

 本棚に近付いて其の汚らしい状態を直そうとする。

 彼は其れを指摘されると思ってなかったのだろうか、「へあっ」と横隔膜を震わせる。


「良いじゃないの、今は重要な事じゃあないでしょ」とかと言っている。

 良くはないだろう? 本だの資料だのは大切に扱わねば為らない。

 此の世界では前世依り貴重な物なのにも関わらず。


 一つ一つ、本を取ってもう一度入れ直す。

 神話の本だとか、村の歴史が書かれた本だとか、彼等なりに黒化に付いて解釈した本だとか、様々な本が並べられている。此れだけでも彼等の文明レヹルが窺える。


 其の中で一際目に付いた本が有った。

 豪華な装飾はされていないが、目に付いたのは題名だ。

コー(神様) カ゚ㇻ̈ティ(からの) ケㇻ̈セーッ̻゛( 伝言  )』と書いて有る。作者名は書いては無い。

 中々に面白そうな題名ではないか。小説だろうか。表紙を開いて中を確認してみる。


()の神様は悩んでおられた。将来に付いての事らしい。私には到底分からない事だが、きっと何かをお考えになっているのだろう。神様は如何するか、と仰ると私に一つの役目を渡して下さった。』と云う書き出しから始まり──然し、視界の中央に銀色の腕が伸ばされる。

 其の本は取り上げられた。


「ほら、本読んでないで、今から大事な話をするんだから止めて。」

 彼は本棚に本を入れ込む。見ると、眉根を寄せていた。


「せめて此れだけ直してからで良いですか?」

 本棚を指す。彼は僕から視線を逸らしたが、直ぐに目を見て「あーはいはい」とか言っている。

 僕は乱れている本棚に目を向けて、汚らしい所は位置を直し、エカルパル語アルファベット順での間違っている所も直した。


 全て直し終えて彼の方を向くと、彼は椅子を二つ対面に置き、片方に座っていた。

 彼は椅子を掌で指している。ゆっくりと向かい、座ると彼は「こほん」と息を整え、僕の眼をしっかりと捉え、真面目な顔をして口を開いた。


「今からバクダから聞いた事を今から話すから落ち着いて聞いてね。

 中々にえげつないから心してね。」

「……え、へ?」

 瞳孔を開いて、大きくのめって了う。喉から狂った裏声が出る。

 

「え、へ、ええ? 如何云う事ですか?」

 僕は成るべく冷静に訊き返すものの、どうも落ち着きが無い。

 体がそわそわとしている。


「あら? けれど全部は話してないでしょ? だって、彼が如何してボロボロに成ったかに付いては聞いて無いでしょ?」

 彼は首を傾げる。けれど何処か含みの有る様な笑みを浮かべている。


「……確かに。」

 腕を組んだ。そして、右上を見る。

 何で僕は其の事を聞かなかったのだろう。彼の言う通り全くだ。


「なんやかんやで彼は貴方を(あし)らうのが上手いわね。」

 と彼は口を押さえて笑う。遇らって居るつもりで遇らわれて居たのは自分だったのか。

 何時(いつ)の間にか僕の落ち着きの無さは何処かに消えていた。


 喉に空気を通すと「うっうん」と云う声が出る。

 そして彼の眼をしっかりと見詰める。


「えっと……で、()んな感じだったんです?」

 すると、彼から笑みが消える。そしてゆっくりと僕を見る。目を閉じた。

 そわそわする感じが無くなった代わりに心臓のビートが早まる。


「其うね。色々言ってても本題に入らないものね。」

「──じゃあ、言うわね。」

 僕は唾を飲み込んだ。

少し短いですがキリが良いのでココ迄で。次からはバクダ目線で色々と語っていこうかと思います。


* * *


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