第百六十八話:はぐらかし煙を巻く
「え……と、ウルテ・ザ̣ンビ・ガイー?」
「違う違う、ヲ̇ゥル̈テ・ザ̌ンビ・ガヤィヰ゜。ヲ̇ゥル̈タェ・ザ̣ンビ・ガヤィヰ゜でも良いよ?
こっちの方がジュデバ国出身者なら言い易いんじゃない?」
今彼に呪文を教えているものの、中々覚えてはくれない。
彼は首を傾げる。
「何れも違いが分かんない……。」
と僕を見て瞼を半ば留める。やや悔しそうな表情をしている。
……分からないのか。困ったな。一音でも間違えると別の魔法に為って了うのに。
僕は唇を噛む。如何したものか。
「じゃあ、先ずはコレを完璧に読む事から始めよっか。」
僕は腰を下ろし、彼にと目線を合わせて微笑む。
魔法文字が総て書かれた紙を指す。
実験は後回しにしよう。
「……うん…………。」
* * *
其の後は一日の殆どを発音練習に使って了った。
一般人には微かな発音の違いも分からないのか、其れとも発音の仕方が分からないのか。
彼は耳は良いと思うのになあ。素質は有ると思うのに。
僕は村長の家の扉を開けた。すると、村長が扉の前に立って居た。
「ただいま」と言うと「おかえりなさい」と返す。
「リングちゃん、ちょっとこっちおいでなさい。」
其う言うと、何時もの表情の儘僕の手を掴む。
「……如何したんですか?」
僕は彼に質問を投げ掛けるものの、彼は「取り敢えず此方に来なさい」と言って強引に廊下を歩かせる。
彼に着いて行くと、彼は薄昏い階段を上がる。そして二階の、自身の部屋に僕を招き入れた。
彼は右手に眩い炎を宿しライトを点灯させる。那の時の散乱とした様子は何処へやら、杜撰に置かれていた資料等も机の上や床の上には見られない。那の時は偶々整理整頓をしていなかっただけなのだろうか。
と思っていたが、本棚には本等が乱雑に押し込められた様に見える。
注視すると机の上の棚からは紙がはみ出て居る。
僕は目を薄くした。
「……本とかは大切に扱って下さいよ……。」
本棚に近付いて其の汚らしい状態を直そうとする。
彼は其れを指摘されると思ってなかったのだろうか、「へあっ」と横隔膜を震わせる。
「良いじゃないの、今は重要な事じゃあないでしょ」とかと言っている。
良くはないだろう? 本だの資料だのは大切に扱わねば為らない。
此の世界では前世依り貴重な物なのにも関わらず。
一つ一つ、本を取ってもう一度入れ直す。
神話の本だとか、村の歴史が書かれた本だとか、彼等なりに黒化に付いて解釈した本だとか、様々な本が並べられている。此れだけでも彼等の文明レヹルが窺える。
其の中で一際目に付いた本が有った。
豪華な装飾はされていないが、目に付いたのは題名だ。
『コー カ゚ㇻ̈ティ ケㇻ̈セーッ̻゛』と書いて有る。作者名は書いては無い。
中々に面白そうな題名ではないか。小説だろうか。表紙を開いて中を確認してみる。
『彼の神様は悩んでおられた。将来に付いての事らしい。私には到底分からない事だが、きっと何かをお考えになっているのだろう。神様は如何するか、と仰ると私に一つの役目を渡して下さった。』と云う書き出しから始まり──然し、視界の中央に銀色の腕が伸ばされる。
其の本は取り上げられた。
「ほら、本読んでないで、今から大事な話をするんだから止めて。」
彼は本棚に本を入れ込む。見ると、眉根を寄せていた。
「せめて此れだけ直してからで良いですか?」
本棚を指す。彼は僕から視線を逸らしたが、直ぐに目を見て「あーはいはい」とか言っている。
僕は乱れている本棚に目を向けて、汚らしい所は位置を直し、エカルパル語アルファベット順での間違っている所も直した。
全て直し終えて彼の方を向くと、彼は椅子を二つ対面に置き、片方に座っていた。
彼は椅子を掌で指している。ゆっくりと向かい、座ると彼は「こほん」と息を整え、僕の眼をしっかりと捉え、真面目な顔をして口を開いた。
「今からバクダから聞いた事を今から話すから落ち着いて聞いてね。
中々にえげつないから心してね。」
「……え、へ?」
瞳孔を開いて、大きくのめって了う。喉から狂った裏声が出る。
「え、へ、ええ? 如何云う事ですか?」
僕は成るべく冷静に訊き返すものの、どうも落ち着きが無い。
体がそわそわとしている。
「あら? けれど全部は話してないでしょ? だって、彼が如何してボロボロに成ったかに付いては聞いて無いでしょ?」
彼は首を傾げる。けれど何処か含みの有る様な笑みを浮かべている。
「……確かに。」
腕を組んだ。そして、右上を見る。
何で僕は其の事を聞かなかったのだろう。彼の言う通り全くだ。
「なんやかんやで彼は貴方を遇らうのが上手いわね。」
と彼は口を押さえて笑う。遇らって居るつもりで遇らわれて居たのは自分だったのか。
何時の間にか僕の落ち着きの無さは何処かに消えていた。
喉に空気を通すと「うっうん」と云う声が出る。
そして彼の眼をしっかりと見詰める。
「えっと……で、何んな感じだったんです?」
すると、彼から笑みが消える。そしてゆっくりと僕を見る。目を閉じた。
そわそわする感じが無くなった代わりに心臓のビートが早まる。
「其うね。色々言ってても本題に入らないものね。」
「──じゃあ、言うわね。」
僕は唾を飲み込んだ。
少し短いですがキリが良いのでココ迄で。次からはバクダ目線で色々と語っていこうかと思います。
* * *
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