第百六十五話:紅いライトが光る時※
二月七日、マリルの話を追加しました。忘れて居ました。すいません。
村に着くと、彼は僕の手を引き事情聴取の様に根掘り葉掘り剰え土壌も掘り有った事を洗いざらい吐かされた。口から出ては行けない物が出そうだ。
もう、本当。おまけに腹が減った。
「成る程ね……。」
僕は机の上に項垂れて居る。上目でチラッと彼を見ると、左手を下敷きに頬杖を突いて居る。
「なら此処に居なさい。」
「ええ、けど学会が……。」
顔を上げて彼を凝視する。僕が惑いながら息を吐く様に言うと、彼は真面目な顔で口を開いた。
「今は学会は後回しにしなさい。私が言っとくから。」
其の言葉に耳が反応する。
「……言っとく?」
「ええ。」
彼は頷く。目を閉じてゆっくりと。言っとく? 言って置くも何も、此の世界には電話など有る筈無いだろう……? ああ、いや、彼が銀狼だと云う事を忘れて居た。何か僕の想像の付かない方法で連絡するのだろう。
急に何か物言いたげ目で僕を見て来る。言わんとする事は何となく分かる。
一通り僕をじろじろと見ると、やはり指摘せねば為らぬかと思ったのか僕を指した。
「と云うか、其の姿は如何したのよ……ヷルト君が居たから辛うじて貴男だって分かったけど……。」
「戒めです。」
キッパリと其う言うと又頬杖を突く。そして何故かニヤニヤと笑って居る。
「ふ〜ん、ま。良いわ。ドャッズィㇷとか云う奴でしょ?」
「何ですか、ソレ。」
僕ははあと溜め息を吐いた。意味が分からない。
「あ、後お肉狩って来てくれて有り難うね。火も入れて有ったし。」
「いや、けど……。」
僕は其れを静止しようとする。那れは食えた物では無いだろうし、那の変な奴等が纏わり付いて居た、と言っただろう? 食べては行けない物だと思う。
「周りは確かに固いとは思うけれども、中は良い感じよ?」
彼は何も分かって無い様な顔をする。だから、其う云う事では無い。
「ですけど──」
「ねえ、生き物を食べる、って如何云う事だと思う?」
唐突に、彼は僕の言葉を遮って其んな事を言う。
「え、いや、そりゃ……生きる為……?」
「普通は……いや、ヒトは其う考えるでしょうね。」
僕の眼を見ると何処か含みの有る表現をする。其の物言いに妙にドキッとしてしまった。
「けれどね、私は生き物を食べる、のは命を頂く事、そして命に感謝する行為だと思うのよ。命を粗末にしちゃ行けないものね。」
「…………。」
「だから、良いの。」
僕は部屋にやって来た。装備を脱いでベッドの上を見ると、其処にはマリルが寝息を立ててスヤスヤと寝て居た。だが、時折「ううう……」と魘された様な声を上げる。
頭にポンと手を置くと、彼女はふふふと笑う。そして、
「……良かった…………」とだけ言葉を発した。寝言だろうが、其の言葉は僕に深く突き刺さった。
……ごめんな。
* * *
今日はやたらと良い天気だ。迷惑な程には。
キラキラと輝く陽射しが僕らを照り付けて居る。
お陰で尻尾の宝石が異常な迄に光を反射するのだ。
僕の膝の上にはマリルが居る。此の子、僕が戻って来たら泣き喚きながら僕に抱き着いて来たのだ。
其んなに僕の事が好きか、と思った。何故か僕の姿が変化して居ても特に驚く事も無く受け容れたのは喫驚するしかなかった。子供は純粋だ。
僕が頭を撫でてやると満足気に尻尾をぶんぶかと振る。……犬か?
其んな状況だけど僕はノートに文字を連ねて居る。
僕が顔を上げると、何時の間にか目の前にはヷルトが立って居た。
「……お前、変身魔法余り使えなかったんじゃ無いのか?」
彼は其の場に座り込んで其んな事を言う。如何やら疑問に思って居る様だ。
「うん? ぶっちゃけ今も調子悪いよ。」
「おい。」
僕は少し口角を上げふざけた調子で言ってみせる。
すると彼は眉を顰めてツッコミを入れて来る。そう、正直言って頭痛はするのだ。
ガンガンとする酷い頭痛では無いが、頭をやや締め付けられて居る頭痛はする。
十中八九変身魔法の所為だろう。
「でも此れ、調査と練習も兼ねて居るんだよ?
変身魔法を何れだけ使えるか、練習したら時間が伸びるのか、とかね。」
「はあ……。」
彼は溜め息を吐く。首の辺りに手を置いて僕から目線を逸らす。
「ヷルトもやる? やってくれたら資料が増えるから嬉しいよ。」
「いや……ぶっ倒れる事を考慮したらちょっと……。」
ふふと笑って石筆で彼を指すものの、彼は手を小さく横に振って嫌がる素振りを見せる。
其うか。やってくれたら効率は良かったのにな。でも彼が嫌だと言うならしょうがない。
僕が実験をする際には一つポリシーが有る。成るべく許可を取る、と云う事だ。此の事を踏み外してしまうと、きっと僕は人の道から外れてしまう。今更何を言うのやらと云われるだろうな。
人じゃないヒトが人を語るなと。
「ん、分かった。ごめんね。」
「う〜ん。」
「如何したんだ?」
首を捻って考え込んで居ると横からヷルトが話し掛けて来た。
彼は其の後、何も言わず横に座って居たのだ。僕は資料から目を離して彼に顔を向ける。
マリルは彼の膝を枕にしながらぐーぐーと寝息を立てて居る。
「今取れた資料から変身魔法と紅目と黒化も同じじゃないかと考察して居るんだけど……。」
「其うしたら、変身魔法の目の色は変えられない、って性質に反するのよね。でも、黒く成ったからさ……うーん。」
頭をポリポリと掻くけれど掻いたとて何かが思い付く有るまい。
「別の魔法と考えるのが妥当じゃないか?」
「……んだね。今の所其う考えるのが妥当だろうね。」
冷淡に其う言われて、僕は変身魔法と紅目と黒化を同じと結び付けるのを諦めた。
此の説は資料が出る迄お預けだ。
僕はもう一回資料に目を通す。
……其う云えば彼に言い忘れて居た事が有ったな。又彼に目を合わせた。
「あ、でも紅目と黒化が同じ、って証拠は取れたよ。戦闘中に僕が黒から戻っちゃったしね。
後は再現性が無いと駄目だろうね。此れが再現出来る様ならしっかりとした証拠に為る。」
「如何して再現性が必要なんだ……?」
彼は首を傾げて居る。
其れには一つの、只しっかりとした理由が有る。
僕は彼に人差し指を向けて口角を上げる。
「──だって、僕は神の奇蹟を調査してる訳じゃないもの。
魔法と云う一つの法則を調べて居るだけだもの。」
「……否定してるのか?」
今迄に無い位強張って居て憤懣した様な目をして居る。
彼は気付いて居ないだろうが牙を思いっ切り僕に向けて来る。
勘違いされたか。神が居ない等と云う事に。
「ううん、其れは全然。又別のお話だよ。」
僕は其う言うと、彼はほっとした様な顔付きに為る。
其うか。彼にとって神様と云う存在は其処迄大事な物なのか。
然し、転生した事は神に対する叛逆ではないのだろうか。其処だけが気に為る所だ。
と、ふと周りを見ると、何だか銀狼達ががやがやとして居て囂しい。
挽っ切りなしに動いて大声で何かを叫んで居る様だ。悲鳴の様な、愕然とした絶叫の様な……。
僕は立ち上がった。
「……如何したの?」
其処等に居る銀狼達に訊いてみるものの僕の声は彼等には届かない。
担架を持った銀狼達が近付いて来る。担架の上に居る人物を見ると、其処には全身に傷を負った、見るからに満身創痍なバクダが乗っけられて居た。
「って、えぇっ⁉︎」
僕は大声を上げる。そして担架と横並びに歩く。
「ちょ、ちょっと、バクダ‼︎ 何が有ったの⁉︎」
声を掛けてみるものの彼は「ううん……」だの「うああ……」だのと生気の無い声を上げる許りだ。
「ねえ、彼何処に連れてくの?」
担架を持って居る一人に僕は話し掛けた。
彼女は煩わしそうに目を瞑ったが、ポツリと呟いた。
「医療所に連れてくって。」
「……なら僕も付き合わせて。お願い。」
「えっ。」
彼女は驚く。驚いて一瞬担架を落としそうに為る。あわあわとしつつも持ち直した。
僕は彼女の眼を見詰める。本当何だ。助けたいんだ。どうか其処に行かせてくれ。
「……分かった。良いよ。」
僕の思いが伝わったのか、彼女は少し微笑んで其う言った。
私はライトが光って居たら迷わず右に進むと思います。
* * *
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