第百六十三話:退っ引きならない※
二月五日、少し物語を修正しました。
僕は奴をギッと睨む。そして、其れを奴目掛けて振るってみるものの先端が重くて奴の腕近くをスッと掠る。くそっ、くそっ⁉︎ 何故僕の攻撃は届かないんだ。
「おいリング‼︎ 落ち着け‼︎」
彼は大声で叫ぶ。奴の腹辺りに攻撃を加えようとするもののやはり掠ってしまう。
僕は息をはあはあと切らして居る。何故此んなに息が切れて居るのかは自分でも分からない。
「分かる、慣れない武器で奴に自分の武器を取られて焦って居るは分かる。
分かるが、此奴相手に焦ったら其れ迄だ。お前には魔法が有るだろう。なら、武器を使わずに魔法を使え。な?」
……其うだ。其う。僕には魔法が有るじゃないか。昔から頑張って来た無属性魔法が有るじゃないか。
奴が図体に見合わず正確に剣を振り翳して来るが、僕は其れを躱す。何時も依りも素早く動いて居る様な気がする。
多分此れは気の所為だろう。
「ヅ̌ェㇻ̇ガヲ̇ゥーラ̈・ナ‼︎」
隙を見計らって魔力の刃を飛ばす。其れは奴に当たり、右腕が再起不能な迄に傷を負わせるが、
「あっ……がっ‼︎」
酷い頭痛が襲って来る。頭がかち割れそうな痛みだ。心臓が動悸を起こして居る。
群発頭痛を思い出す。思わず、奴に殺されてしまいたいと思ってしまう様な痛みだ。
僕は奴の攻撃を避けようとするものの奴は鍔の辺りを僕の腹に当てて来やがった。
腹も痛い、頭も痛い、おまけに思考も纏まらまい。何れだけ僕が魔法に依存して来たかが良く分かる。
ズガドンと云う腹に響く様な雷鳴がしたので其方を眺め遣ると、ヷルトが雷の壁を張って居た様だ。
奴は其の攻撃を諸に喰らったのか膝を突いて頭を垂れて居る。
ヷルトは僕の右手を握り締めた。彼の右手から暖かい物が流れて来る。すると頭痛はみるみる内に引いて行く。少し彼を羨ましく思ってしまった。
彼は後ろめたいのか責任を感じて居るのか流眄する様に瞳を合わせない。
「……すまん。」
僕は大きく首を横に振る。彼を責めるつもり何て有るまいか。
声を出せる程の体力は無いが、少しはマシに成って来た。
腹からはギリギリと痛みがするが、僕はゆっくりと立ち上がった。そして奴をギッと凝視する。
壁はもう無くなって居た。然し奴は形状を変えて居る。蟻が隊形を変える様に奴の体は自ら崩壊して行く。
何か別の生き物を模倣しようとして居るみたいだ。気味が悪い。
ヷルトは走り出して奴に攻撃を加えようとする。
其んな彼を遠目で眺めながら僕は思考をぐるぐると巡らす。
考えろ、考えろ。彼等は何と言って居た。彼等は其う、エネルギーみたいな物を外から取り込んで居ると言って居たでは無いか。だったら、だったら……‼︎ やってやる。一か八か。試してやる。
賭けだ。僕は空想チップを百枚置く。
僕は右手と左手を絡み合わせ心臓の辺りに神経を集中させる。
瞼の裏から何かが見える。黒い何かの塊が見える。僕は其れを掴み取った。
すると、奴は僕の体に絡み付く。耳元で何かを囁いた様な気がした。「解放してやる」、と。
僕は目を見開いた。何かのリミッターが外れる様な音がした。パカっと、脳内に響き渡る。
右手に力を込めて大きく右手を振りかぶった。
「オラァ‼︎」
右手の辺りから大きな氷柱が形成される。バギバギと云う音ともに樹すらも貫き通す。
奴の腹辺りに氷柱が突き刺さり、奴は其の儘形成された体を崩して行く。
又はあはあと息を切らして居るが頭痛も何も起こらない。きっと、怒りに依る物なのだろう。
僕は奴を睨むも奴に目や眼何て物は無い。其の事実に無性に苛立った。
走り出そうとするが、僕は空中の何かに気付いた。ヷルトが何かを言って居るのが分かる。
透明な何かが此方に向かってくるくると回転して来る。
狩猟本能か何かは分からないが僕は其れを取ろうと躍起に為った。
其れの方向を測って脚に力を入れて駆け出して居た。
僕はジャンプして其れを両手でキャッチした。其れは、其う、剣だ。村長から貰った那の剣だ。
安堵した。そして奴を見詰めた。奴はバラバラに成って那方此方に散らばる。
僕は彼に向かって大きく手を振る。
怒りが完全に収まったかと云えば其うでは無いが、少しは溜飲が晴れた。
其れと、少しの怒りは持って居た方が攻撃に転用出来るのだ。
僕は奴を追い払おうと走り出した。が、急に、又何かが吹き飛んで来る。僕は足を止めた。
人の様だ。暗くて色が分かり辛いが──茶色の様で──そして、額の辺りが紅い。
と、此処で僕はハッとした。マズい。マズい。那んな高さから落ちたら絶対に死ぬに決まって居る。
誰が、誰が僕の目の前で命を落とさせるものか。
僕は足に力を込めて又走り出した。成るべく姿勢を低くして空気の抵抗を減らす。
僕が此うして居る間にも其の人物は此方に向かって落ち続けて居る。
軌道を測って、僕は思いっ切り跳び上がった。
背中から腕を回し、ぎゅっと強く抱き締める。
本当は仰向けに倒れて両手両足で着地した方が僕の脚に対するダメージは少ないだろうが此の状態では其れも出来無い。魔法も有るのだからきっと大丈夫だろう。
空中でくるっと回転して背中から落ちた。
ドサっと其の場に落ちた。背中がズキズキとする。感覚を纏って居るかも怪しい。
起き上がれなさそうだ。
ああ、此れはきっと背骨をやったな。暖かい魔力を何とかして背中に回し、僕はゆっくりと起き上がった。痛みは引かない。
僕のお腹の腕にはヷルトが横たわって居た。彼を僕から離して腹を見てみる。
僕は「ゔっ」と喉から絞り出す様な声を上げた。切り裂かれた様な酷い傷痕が残って居る。
普通服の中に仕込んで有る筈の鉄板すらも突き破って彼の腹には線状の傷痕が有った。
幸い骨と肉がやられて居るだけみたいで臓器系には影響して居ない様に見えた。
だが、見た目だけで内臓もやられて居るのかも知れない。
……治せるだろうか。
いや、治せるだろうか、では無い。治すんだ。
大切な親友を見過ごせる何て出来るわけ無かろう。
腹の辺りに手を当てて治療を始めてみる。奴の腹は酷くちょっとやそっと魔力を流し込んだだけでは如何にも為らない。更に沢山流す必要が有るみたいだ。
周りを見ると何故か敵は僕を攻撃して来ない。あからさまに弱って居て、狙うチャンスは沢山有るにも関わらず。おかしい。
何か敵には作戦が有るのかも知れない。だが、其うなら其の作戦に思いっ切り乗っかってやろう。
そして其の儘作戦をズタズタに壊してやろう。
手を除けると奴の腹は治って居る様に見えた。其れなりに頭痛がする。
もう一回手を当てて流してみると、暖かい物が流れる様子は無い。
治ったのだろうか。彼ははあはあと息を荒らげて目を閉じて居る。
悪夢に魘されて居るのに近い。
「此んな傷を負う何て何が有ったの?」
彼は重い瞼を開けて震える指で空虚を指した。其処には何も居ない。しんとして居る。
だが、音はする。ガサガサと云う音はする。ああ、きっと何か居るのだろうな。
其れと同時に異様な雰囲気も感じ取った。
僕は立ち上がって其方を眺める。
ギロギロと睨み付ける様に見て居ると其の中から何かが現れた。
白い……ツェルバだろうか? 白いツェルバなぞ居ただろうか。
何にせよ、此奴がヷルトを此んな事にした張本人か。
だが、同時に安堵もして居た。ツェルバなら最悪僕一人で戦っても勝てる兆しが有る。
けれど何かが違う。僕は目を細めた。
よくよくみると、さっきの奴が黴みたいにツェルバに貼り付いて居る様だ。
証拠に、所々黄色い鱗が見えて居る。元々は黄金の……稲妻のツェルバだったみたいだ。
僕の安堵は打ち消され、空いた心には怒りが詰め込まれた。
「ダャアアアアアアアアア‼︎」
奴は大声をあげる。だが、ツェルバの声とは似て非成る鳴き声だ。
ああ、ああ、其うか其うか。ははははと苦笑するしかない。
奴が此奴の体を操って必死に真似をして居るのか。
彼は僕を見て驚倒して居る。今迄に見た事の無い目の開きようだ。
ああ、分かる。分かるぞ。側からみたら異常者にしか見えないものな。
が、其れで怒りは収まるものか。前言撤回だ。
「……ぶっ潰す。」
「え。」
僕ははっきりと言った。はっきりと宣言布告をした。
彼は微かな声で僕を見詰める。
「ぶっ潰して魂すら此の世から消滅させてやる。」
「いや、あ、え?」
僕は体を置き上がらせたヷルトの方を見る。
「相手が幾ら魔物だろうと何だろうと潰す。種ごと潰してやるか。
魔物にも意思は絶対に有る。有って此んな事をして居るのなら潰すしかないだろ。」
「え、いや、其れは……。」
「やんないなら、僕がやって来る。大丈夫。死にはしないから。」
剣を担いで、そしてスタスタと歩いて行く。奴を葬るしか無かろう。
其う一人で歩いて居ると、後ろから肩を叩かれた。
後ろを向くとヷルトが立って居た。
「俺もやるよ。」
僕の目を見て其う言う。力強い目だ。決意は固そうだ。
「……うん。」
「お前に任せて居たら辺り一体が焼け野原に成りそうだしな。」
「何ソレ。」
其の目で其んな事を言うもんだから何だかおかしく成って口を手に当てクスクスと笑った。
其の様子に安堵したのか、彼は大きく溜め息を吐いた。
さあ、やってやろう。
寄生されたツェルバは可哀想だが此奴を葬り去ってやろう。
塵一つ残らない様に。
未だ無い程にリングさんが追い詰められて居ます。
さあ、如何為る事やら……。
* * *
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モチベに成りますので、宜しければ。
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