第百六十二話:因縁リヷィヷル
其の後、村長はうだうだと銀狼達に何かが有ったら如何するのとか危ないのだから身に何が有ったら如何するのとかそもそも何を考えて居たのだのと言葉の機関銃が飛んで来た。諫める暇も無い。
そして一通り煩く咎め続けると口を酸っぱくして此う言った。
「……んで、今日の夕食如何するのよ……肉とかは狩らないと……備蓄も無いんだし。」
「責任取って自分が行くよ。」
席から立ち上がって其う言った。彼は頬杖を突くのを止めて僕の眼を見詰める。
彼の目は呆れている様な色だ。
「え?」
「そんくらいは出来るからさ。任せてよ。」
僕はニコッと笑顔を作って親指を出す。
自分の尻拭い位自分で出来る。
「いやいや…………。」
彼は顔を下に向け、僕に向かって制止させる様に右腕を突き出す。
「僕がやった事だから責任は取るって。」
「……いや、うーん……あー…………。」
彼は時折僕を見たりしながらうんうんと唸って居る。……何を其んなに悩む必要が有るのだろうか?
僕が狩って来てやる、自分で責任を取ると言って居るだけなのに。
「……はあ、行って頂戴。」
散々悩んだ挙句、何か諦めた様に溜め息を吐いた。
僕は飛び抜けた笑顔を作って言った。
「とびっきりの大物狩ってくるからね。待っててね。」
* * *
早速、僕は狩りに来て居る。今の人口は千人程度だから、巨大な魔物を一匹位狩ってくれば足りるだろうか。
ならさっさと狩ってさっさと帰ろう。時間を掛け過ぎるときっと闇い夜が訪れるだろうから。
後ろからヷルトも着いて来て居る。何やかんや云って彼は心配性だ。其れだけ僕を気に掛けてくれて居ると云う事だろう。此う云う所に少し嬉しさを感じてしまう僕はきっと卑怯なのだろう。
前世では心配してくれる人何て周りに居なかったから。扱き使われて終わり、身を尽くしても体を壊す許り。逃れようとしなかった僕も馬鹿だがな。だから卑怯なのだ。
もう其んな事はしない。危なかったら帰ろう。幾ら夜目が効くとは云えども夜の狩りは危険だ。
駄目だったら誠心誠意謝ろう。死ぬよかマシに決まって居る。
そして、夜の森は騒がしい。其処彼処から何かの鳴き声が聞こえて来る。
彼も其れを感じ取って居るのか、耳をピクピクと動かして居る。
嗚呼、最悪だ。此れは時間が掛かりそうだ。
犬科のヷルト依りは分かり良いだろうが、音に掻き消されて目的の魔物が分からなく成る。
彼はキョロキョロと周りを見て居る。耳が倒れて居る。
尻尾が上がって居る。警戒して居るのだろうか。
僕は丁度良い魔物を探す事にして彼には周りから敵が来て居ないか確認して貰おうか。
後ろを向き人差し指で線を描くと、彼は小指を出して来た。分かったみたいだ。
すると、彼は周りをキョロキョロと見始める。其れを確認すると僕は耳を使って獲物を探す。
今回はツェルバを倒そうと思う。一人では倒せないが二人なら倒せるだろう。
ツェルバの鳴き声はかなり特徴的だ。だから奴が一言でも鳴けば分かるのだが今の所奴の声はしない。
他の魔物の声が聞こえる。
ふと樹々の隙間に目線を移すと、其処から黄金の目がギラギラと光った。
……思わずギョッとした。驚いた。多分何かの魔物だろう。
目の位置から考えて其処迄大きい魔物では無さそうだ。
なら余り警戒する事でも無いな。
僕は気を取り直して奴を探す。耳を筋肉をぐりぐりと回して奴が居ないか如何か周りを探る。
すると、右斜め前の方から「ギュルルル」と云う声が聞こえた。那方の方に奴が居るのだろうか。
僕は後ろを向いて手をくいくいっと曲げて彼に指示を出す。
すると、中指を少し曲げたサインを取る。ファックサインでは無い。
主にランヷーズ内で使われるサインで、『本当か』とか『なんだ?』等と云う意味を表す。
僕はこめかみ辺りに親指を当て右斜め前を指すと、彼は小指を立てた。大丈夫みたいだ。
早速、僕は其方に向かう。後ろからヷルトが付いて来て居るのを感じる。
すると、唐突に肩を叩かれた。後ろを向くとヷルトが手を挙げて居た。
ああ、何かの敵が現れたサインか。
僕は背中から剣を引き抜く。剣は淡い青色に光る。僕とヷルトは其の場で背中合わせに成って居るだろう。
彼の其の毛量の多い尻尾が背中に当たって居る。背中がムズムズとする。すると。背中にゾワっとした感触が伝わった。何事かと彼を見ると又手を挙げて居た。
目の前からガサガサと云う音が聞こえる。音量がどんどんと大きく為って此方に近付いて来て居るのが分かる。僕は姿勢を低くした。目の前の草叢が大きく動く。
僕は彼の背中に尻尾を当てる。彼は此方を振り向いた。僕は目の前を人差し指で指す。
と、其の瞬間、草叢から何かが現れた。
僕は其の場で大きく跳び、奴目掛けて剣を振り下ろした。
先手必勝、と思ったが、当たった感触はするものの視界は真っ白だ。
……違う。何かの集合体だ。何かの集合体が僕を包み込もうとして居るんだ。
よくよく見ると一つ一つが丸い何かだ。
見覚えが有る。見覚えしかない。昔アㇻ̇バㇺ村で見た事が有る厄介な奴等だ。
マズい、マズい‼︎ 此の儘だときっと僕は死ぬ。後ろを見た。穴は空いて居るものの其れも直ぐに塞がってしまいそうだ。まるで傷口を塞ぐみたいに。
魔法を発動させようとするが、やっぱり此の中では魔法がどうも発動出来無い。
右手に暖かい何かが伝わるのは分かるが、其処から外に出ないのだ。押し付けられて居るみたいだ。
此れでは魔法を発動する事が出来無い。
剣を大きく振ろうとするものの、剣先は奴等にがっしりと覆って居る為に動かせない。
此れでは反撃は出来まい。
考えろ、考えろ! 此奴相手には焦慮するのが一番の敵だ。前も其うだったではないか。
何か反撃の手立ては有るだろう。
其う思考を手繰らせて居ると周りの時間を遅く為った様に思える。
けれど、じわりじわりと其奴等が僕に迫って来て居るのも分かる。
くそっ‼︎ 僕は其奴を掻き分けた。穴を掘る様に。
どんどん掘って居ると、其処から穴が現れた。僕は腕を目一杯伸ばす。
けれど、外には手だけしか出なかった。ああ、此れで気付いてくれ……‼︎
其う祈って居ると、誰かに手を掴まれた。其処から時間は早まる。
僕は口元を歪めた。剣を握り締めて其れに身を委ね、目を閉じた。
目を開けると、僕は何時の間にか外に出て居た。
空は闇い。
見遣るとヷルトが目の前に居て斧を振るって居たのが分かった。
僕は立ち上がる。何だか思考がふらふらとする。目眩の様な何かがして居る。何が起こった。
ヷルトは僕の手を掴んだ。
「大丈夫か⁉︎ 意識は有るか⁉︎」
彼は目を見開いて心配そうな顔を投げ掛けて来る。
「う、うん……。」
ゆっくりと頷く。すると、彼は僕を不思議そうに眺めた。
「……お前、何か黒く無くなって居るぞ?」
「えっ⁉︎」
右手を見た。確かに腕は赤茶色の野生的な色に成っている。
一体、本当に何が起こったんだ。
「……ホントだ。」愕然とした。けれど如何してか僕は何事も無いかの様に平然として居る。
「本当に大丈夫か? 逃げた方が良いんじゃないか?」
ヷルトが奴の攻撃を避けながら訊いて来る。
僕は手に頭を置いた。頭痛は引いて居る。目の前を見ると、石みたいな例の奴が人の様な形を組んで居た。
「大丈夫。今の所。」
と、僕は剣を握ろうとしたが、右手からは剣は消えて居る。
「剣は?」
「……奴を見てみろ。」
何故か彼は奴を指差す。見ると、奴の右手には透明な剣を握り締めて居た。
……おい、おい一寸待て、那れは村長から貰った大切な剣だ。お前が持って良い物では無い。
僕は収納魔法から武器を取り出した。例の街で買った、那の先が重い独特の武器だ。
斧の様に反り返った刃に、反対側には針の様に尖っている
先には槍の様な物が付いて居る那の武器だ。
両手で握り締めてみると思った依りも重かった。大剣と違って全体が重いのでは無く、先端だけに重さが集中して居る。鍔を返そうにも難しい。……此んな武器で、戦えるのか?
いや、やるしか無い。奴を倒すには、此の慣れない武器でも戦うしかない。
僕は其れを強く握り締めた。そして奴をギロッと睨んだ。奴は機械の様に無表情だ。うんともすんとも言わない。
其の姿に異様に腹が立った。
そんなこんなで奴が又現れました。
ちと後書きでネタバレをすると、奴は前のリングさんの予想通り魔物では無いのです。
* * *
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